6つのステップ=CSAのフレームワーク

6つのステップ=CSAのフレームワーク

CSVからCSAへ。FDAの最新ガイダンスが描く「リスクベースの保証」を、実務に落とし込むための整理である。あらかじめ断っておくと、FDA最終ガイダンス本体が示すのは「4つのステップ」であり、本稿で示す「6つのステップ」は、それを自社の手順へ当てはめやすくするために筆者が横断的論点を加えて整理したものである。両者の関係を明確にしたうえで、CSAのフレームワークを解説する。

CSAとは何か ― CSVからの転換

医療機器の品質システムやソフトウェアの検証といえば、長らく「CSV(Computer System Validation)」が王道であった。膨大なテストスクリプトを書き、すべての機能を網羅的にテストし、分厚いドキュメントを積み上げる。しかしその実態は、いつしか「文書のための文書」を量産し、本来守るべき製品品質や患者安全への寄与が見えにくくなっていた。その背景は「なぜ「バリデーション」から「アシュアランス(保証)」へ変わったのか」で詳述している。

そこでFDAが打ち出したのが「CSA(Computer Software Assurance)」である。その対象は、医療機器の製造または品質マネジメントシステム(QMS)で使用されるソフトウェアの保証であり、製品に組み込まれるソフトウェアそのものとは区別される。

ガイダンスの発出経緯

年月日 できごと
2022年9月13日 CSAドラフトガイダンスを公表(Docket No. FDA-2022-D-0795)
2025年9月24日 最終ガイダンス「Computer Software Assurance for Production and Quality System Software」を発行(連邦官報 90 FR 45945)
2026年2月2日 QMSR(21 CFR Part 820にISO 13485:2016を引用組込み)が施行
2026年2月3日 QMSR整合のため「Production and Quality Management System Software」へ改題した改訂最終版を公表し、2025年9月版を置換(supersede)。これが現行・最新版である

詳しい経緯は「CSAガイダンス発出までの長い道のり」を参照されたい。

FDA最終ガイダンスが示す「4つのステップ」

CSAの肝はリスクベースの発想である。中核となるのは4つの要素、すなわち「意図する使用の特定 → リスクベースアプローチの決定 → 適切な保証活動の決定 → 適切な記録の確立」というフローである。

# ステップ(原語) 実務上の問い
1 ソフトウェアの意図した使用の特定
(Identify the intended use)
そのソフトウェアの機能・フィーチャ・オペレーションを何のために使うのか
2 リスクベースアプローチの決定
(Determine the risk-based approach)
その機能が失敗したとき、患者安全・製品品質・データ完全性にどう影響するか。プロセスリスクは「高い」か「高くない」か
3 適切な保証活動の決定
(Determine the appropriate assurance activities)
リスクに見合ったテスト手法・厳格度は何か
4 適切な記録の確立
(Establish the appropriate record)
その判断と結果を、後から追えるかたちでどう残すか

そして運用を貫く原則が「必要以上のことはしない(no more than necessary)」である。FDAはこれをleast burdensome(最小負担)のアプローチと表現している。守るべきものに資源を集中させ、寄与の薄い文書作業を削ぎ落とす――その思想が根底にある。

本記事タイトルの「6つのステップ」について:FDA最終ガイダンス本体の構成は、上表のとおり4ステップである。本稿でこのあと示す「6つのステップ」は、ドラフト版やCase for Qualityの枠組みを踏まえつつ、変更管理・追加考慮事項という横断的論点を明示するために筆者が整理した実務用の並べ方であり、FDA公式の見出し構成と一致するものではない。自社SOPや当局対応の文書で引用する際は、必ずFDA公式ガイダンスの4ステップを正とされたい。

実務に落とすための6ステップ

ここからは、筆者が実務上当てはめやすいよう整理した6つのステップを示す。

  1. 意図する使用の特定そのソフトウェアを何のために使うのか。すべての起点である。
  2. リスクベースアプローチの決定患者安全・製品品質・データ完全性への影響度を見極める。
  3. 変更管理ライフサイクル全体に関わる横断的論点(便宜上ここに配置)。
  4. 適切な保証活動の決定リスクに応じてテスト手法を柔軟に選ぶ。
  5. 追加考慮事項ベンダー活用・市販ソフトの扱いなど(筆者の整理上の括り)。
  6. 適切な記録の確立判断の根拠を後から追える記録を残す。
本稿の6ステップ FDA最終ガイダンスの4ステップとの対応
1. 意図する使用の特定 ステップ1に対応
2. リスクベースアプローチの決定 ステップ2に対応
3. 変更管理 4ステップのフローには含まれない横断的論点。ガイダンス本文でも扱われるが、番号付けは理解の便宜にすぎない
4. 適切な保証活動の決定 ステップ3に対応
5. 追加考慮事項 FDA公式の見出し名ではない。ベンダー活用・COTS/SaaS等を筆者がまとめた括り
6. 適切な記録の確立 ステップ4に対応

ステップ2 ― リスク判定の3つの軸

対象のソフトウェアが「患者安全・製品品質・データ完全性(data integrity)」に影響しうるかという観点で考える。現行版は、この三つの軸でリスクを整理している。判定の単位はシステム全体ではなく、機能・フィーチャ・オペレーション単位である点が重要である。ひとつのシステムの中に、高リスクの機能と低リスクの機能が同居することは珍しくない。

よくある誤り

  • システム単位で「このシステムは高リスク」と一括判定し、全機能に最も重い保証活動を課してしまう。
  • 逆に「このシステムは低リスク」と一括判定し、内部の重要機能を素通りさせてしまう。
  • いずれも、CSAが求める粒度の判断を放棄している点で同じ誤りである。

ステップ3 ― 変更管理は「第3の順番」ではない

変更管理は便宜上3番目に置いているが、実際にはソフトウェアのライフサイクル全体に関わる横断的な論点である。4要素のフロー(使用→リスク→保証活動→記録)に並ぶ「第3の順番」ではない点に注意したい。FDAガイダンス本文でも変更管理は扱われるが、ここでの番号付けは理解の便宜にすぎない。

実務上は、変更のたびにステップ1(意図する使用は変わったか)とステップ2(リスクは変わったか)へ戻り、そのうえで必要な保証活動を決め直す、というループとして捉えるのが正しい。

ステップ4 ― 保証活動は「高リスク=スクリプトのみ」ではない

ステップ4の保証活動は、よく「高リスクはスクリプトテスト、それ以外は探索的」と単純化されがちだが、これは正確ではない。プロセスリスクが「高い/高くない」かに応じて、スクリプトテスト・非スクリプト(探索的)テスト・両者のハイブリッドを柔軟に選択するのが本来の姿である。高リスクであってもハイブリッドが選ばれることはありうる。「高リスクならスクリプトのみ」と固定的に捉えてはならない。

保証活動の類型 内容 主な適用場面
アンスクリプトテスト
(unscripted testing)
アドホックテスト、エラー推測(error guessing)、探索的テスト(exploratory testing)。事前に逐語的な手順を書かず、目的と合否に焦点を当てる プロセスリスクが高くない機能。またはスクリプトテストの補完としてのカバレッジ確保
限定的スクリプトテスト
(limited scripted testing)
スクリプトとアンスクリプトを組み合わせるハイブリッド。重要部分のみ手順を定める リスクの高低が機能内で混在する場合
堅牢なスクリプトテスト
(robust scripted testing)
詳細な手順・期待結果を事前に定義し、逐一実行・記録する プロセスリスクが高く、追加の厳格度が必要と判断される機能

アンスクリプトテストの実務については「アンスクリプトテストという新概念」で詳しく解説している。

ステップ5 ― 追加考慮事項(ベンダー活用・COTS/SaaS・Part 11)

ステップ5の「追加考慮事項」は、ベンダー/サプライヤのエビデンス活用や、市販ソフト(COTS/SaaS)の扱いなどを含む。ただしこれはFDA公式の見出し名と一致するとは限らず、筆者が整理上まとめた括りである。

Part 11(電子記録・電子署名)への対応についても、predicate rule(根拠規制)が要求する記録を電子で維持・提出するかを起点に、FDAのScope and Applicationガイダンスの考え方で整理するのが実務上扱いやすい。紙と電子のどちらを正とするかという論点は「紙の記録と電子記録はどちらが優先されるのか」を、電子署名の表示要件は「電子署名の表示(manifestations)」を参照されたい。

ステップ6 ― 記録は「重い手順書」ではない

ステップ6の記録は、重い手順書を指すのではない。FDAが示す記録の構成要素は、次のとおりである。

  • 意図する使用
  • リスクベース分析(およびその根拠)
  • テストした目的
  • 実施したテスト
  • 発見した問題(および処置)
  • 結論
  • 実施者と日時

判断の根拠を後から追えること、それが要点である。記録を削れるという話ではない。削れるのは「形式を満たすためだけの文書」であって、証拠そのものではない。

適用範囲についての注意:本ガイダンスは医療機器の製造・QMSソフトウェアを主対象とするため、製品組込みソフトウェアやSaMD、医薬品GMP領域のCSV/CSA適用では、別途該当する規制・ガイダンスとの関係を確認する必要がある。なお、旧QSRの21 CFR 820.70(i)にあったソフトウェアバリデーション要求は、QMSRでは引用組込みされたISO 13485:2016の4.1.6・7.5.6へ移っている。

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フレームワークであるがゆえに

CSAはあくまでフレームワークであり、自社の手順レベルで「何を(WHAT)」「どこまで(HOW)」実施するかまでを一律に規定するものではない。それゆえ業界では「曖昧で、結局何をやればいいのか分からない」という声も少なくない。

だが、それは欠陥ではなく性質である。自社の製品・プロセス・リスクは各社で異なる以上、画一的な答えを与えないことにこそ意味がある。求められるのは、4要素という構造を正しく理解し、それを自社の文脈へ丁寧に当てはめる力である。

CSAを「楽にドキュメントを減らす方便」と誤解すれば足をすくわれる。リスクに見合った保証を、根拠をもって設計する――その思考こそがCSAの本質なのである。

まとめ――3つのポイント

  1. FDA最終ガイダンスの構成は4ステップである意図する使用の特定 → リスクベースアプローチの決定 → 適切な保証活動の決定 → 適切な記録の確立。本稿の「6ステップ」は、変更管理と追加考慮事項を明示するための実務用の整理である。
  2. リスク判定は機能単位、3つの軸で行う患者安全・製品品質・データ完全性への影響を、システム単位ではなく機能・フィーチャ・オペレーション単位で見極める。
  3. 「高リスク=スクリプトのみ」ではないアンスクリプト/限定的スクリプト/堅牢なスクリプトを、リスクに応じて柔軟に組み合わせる。記録は削らず、削るのは形式だけの文書である。

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