
マネジメントレビューの「インテグリティ(完全性)」とは
品質マネジメントシステム(QMS)の運用において、「インテグリティ(integrity)」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。日常的には「誠実さ」「高潔さ」と訳されることが多いこの言葉は、ISO 9001:2015やISO 13485:2016の文脈では「整合性」を意味する専門用語として使われている。本稿では、このインテグリティが規格のどの場面で求められるのか、そしてマネジメントレビューとどのような関係にあるのかを整理する。
「インテグリティ」とは何か
QMSにおけるインテグリティとは、システムが「一体として整合している状態」を指す。単に手順書や規程が存在するというだけでなく、以下の状態が保たれていることを意味する。
- 矛盾がないこと:手順と手順の間で内容が食い違っていない
- 欠落がないこと:必要なプロセスや管理項目が抜け漏れなく網羅されている
訳語に注意
- 「インテグリティ(完全性)」と表記されることがあるが、情報セキュリティの分野でも「完全性(機密性・完全性・可用性のCIA三要素のひとつ)」という訳語が使われており、混同を招きやすい。
- また、GxP領域では「データインテグリティ(データの信頼性・完全性)」という別概念も広く使われている。
- QMS・ISO 9001/ISO 13485の文脈では、「整合性」と理解するのが適切である。
インテグリティは規格のどこで登場するか
インテグリティという概念が規格上で明示されているのは、主に次の条項である。医療機器企業にとっては、ISO 13485:2016の5.4.2が最も直接的な根拠条項となる。
| 規格・条項 | 条項名 | インテグリティに関する要求 |
|---|---|---|
| ISO 13485:2016 5.4.2 |
品質マネジメント システムの計画 |
QMSへの変更が計画され実施される際に、QMSのインテグリティが維持されることを、経営者が確実にする。 |
| ISO 9001:2015 5.3 |
組織の役割、責任 及び権限 |
QMSへの変更が計画され実施される際に、インテグリティが維持されるよう、トップマネジメントが責任と権限を適切な人物に割り当てる。 |
| ISO 9001:2015 6.3 |
変更の計画 | QMSに変更を加える際の考慮事項のひとつとして、インテグリティの維持が明記されている。 |
これらの条項が示すとおり、インテグリティが最も問われる場面は、QMSを変更するときである。
QMS変更時にインテグリティが問われる理由
QMSは一度構築したら終わりではない。組織の成長、法規制の改正、製品ラインの追加、基幹システムの導入、M&Aや組織再編、外部委託の開始など、さまざまな契機で変更が生じる。
このとき、変更した部分だけを見ていると、次のような不整合が生じる。
- ある手順書を改訂したが、それを引用している別の手順書が旧版のまま残っている
- 組織再編で部門名が変わったが、規程の中の責任者名称が更新されていない
- 新しい製品ラインを追加したが、それに対応する検査手順が整備されていない
- 基幹システムを刷新したが、記録の保管方法に関する手順が現実と乖離している
インテグリティの維持とは、こうした不整合を生じさせないよう、変更の影響範囲を見極め、適切に管理することにほかならない。
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マネジメントレビューの役割:4つの評価視点
マネジメントレビュー(ISO 9001:2015 条項9.3、ISO 13485:2016 条項5.6)は、QMSが正しく機能しているかをトップマネジメントが定期的に評価・判断するプロセスである。ISO 9001:2015では、以下の4つの視点から評価を行うよう求めている。
| 評価視点 | 原語 | 問われる内容 |
|---|---|---|
| 適切性 | Suitability | QMSが組織の目的や状況に合っているか |
| 妥当性 | Adequacy | 要求事項を満たす仕組みが十分に備わっているか |
| 有効性 | Effectiveness | 意図した成果を実際に達成できているか |
| 戦略的方向性 との整合 |
Alignment | QMSが組織の戦略的方向性と一致しているか |
インテグリティとマネジメントレビューの関係
誤解しやすいポイント
- 「インテグリティ」という用語は、マネジメントレビューの条項(ISO 9001 9.3/ISO 13485 5.6)には登場しない。
- インテグリティは、ISO 13485 5.4.2、ISO 9001 5.3・6.3で扱われる変更管理の概念であり、マネジメントレビューの直接的な評価基準ではない。
- ただし、変更管理の結果としてインテグリティが適切に維持されているかどうかは、QMSの有効性や適切性を評価するマネジメントレビューにおいて実質的に問われる事項でもある。
両者は規格上は別の条項に位置づけられているが、実務的には密接に連関している。マネジメントレビューのインプットとして「QMSに影響を及ぼす可能性のある変更」が挙げられているのは、まさにこの連関を示している。
なお、2026年2月2日に施行されたFDAのQMSR(品質マネジメントシステム規制)により、米国でもISO 13485:2016が参照によって組み込まれた。さらに、新しい査察プログラムCP 7382.850では「変更管理」が6つのQMSエリアの筆頭に位置づけられている。変更時のインテグリティ維持は、査察上も重要度を増している。詳細は当社の別記事「QSITはこう変わった|FDAの新査察プログラム「CP 7382.850」とQMSR時代の査察対応」を参照されたい。
経営者が的確な判断を下すための「報告の工夫」
マネジメントレビューにおける報告の質が、経営者の判断の質を左右する。効果的な報告のポイントは2つである。
- 箇条書きによる要約詳細な説明を長文で並べるよりも、重要事項を箇条書きで整理することで、経営者は短時間で全体像を把握できる。「何が問題で、何を判断してほしいのか」が一目でわかる構成が求められる。
- 傾向分析のビジュアル化品質指標の推移や不適合件数の変化など、時系列のデータはグラフやチャートで示すことが効果的である。数字の羅列では見えにくいトレンドも、視覚的に表現することで経営者が直感的に状況を把握し、的確な指示を出しやすくなる。
なお、こうした報告で用いる品質指標そのものの設定については、当社の別記事「「品質目標」と「経営目標」の違いとは何か」を参照されたい。また、マネジメントレビュー記録は、QMSR施行後はFDA査察でも確認され得る記録となっている点にも留意が必要である。
まとめ
インテグリティ(整合性)とは、QMSが矛盾なく、欠落なく、一体として機能している状態を指す。
押さえるべき3点
- インテグリティは「変更管理」の概念であるISO 13485:2016 5.4.2、ISO 9001:2015 5.3・6.3が根拠条項。QMSを変更する際に、その整合性を維持することが求められる。
- マネジメントレビューの直接の評価基準ではないが、実質的に問われるマネジメントレビューは適切性・妥当性・有効性・戦略的方向性との整合の4視点で評価する。変更管理が適切に機能しているかは、この評価の中で実質的に問われる。
- 報告の工夫が経営判断の質を決める箇条書きによる要約と、傾向分析のビジュアル化。経営者が短時間で判断できる形に整えることが、管理責任者の役割である。
QMSの変更は避けられない。避けられないからこそ、変更のたびに整合性を確認し、その結果を経営者に伝わる形で報告する――この地道な積み重ねが、査察に耐える品質マネジメントシステムを支えている。
参考・出典(一次情報源)
- ISO「ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes」(5.4.2 品質マネジメントシステムの計画、5.6 マネジメントレビュー)
- ISO「ISO 9001:2015 Quality management systems — Requirements」(5.3 組織の役割・責任及び権限、6.3 変更の計画、9.3 マネジメントレビュー)
- ISO Online Browsing Platform「ISO 13485:2016(en) 全文」
- FDA「Quality Management System Regulation (QMSR)」
- FDA「Compliance Program 7382.850 – Inspection of Medical Device Manufacturers」(PDF/変更管理を含む6つのQMSエリア)
- 厚生労働省「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令)」