
QSITはこう変わった|FDAの新査察プログラム「CP 7382.850」とQMSR時代の査察対応

2026年2月2日、FDAの新しい品質システム規則QMSR(Quality Management System Regulation)が施行されました。これに伴い、20年以上にわたり医療機器査察の枠組みであったQSIT(Quality System Inspection Technique)は運用を終了し、新たな運用文書「CP 7382.850(Inspection of Medical Device Manufacturers)」のもとで査察が行われています。本記事では、QSITから何がどう変わったのか、日本の医療機器メーカーがいま押さえるべき要点を整理します。
QSITはなぜ廃止されたのか
QSITは、旧QSR(21 CFR Part 820)のサブシステム構造(CAPA/製造工程管理/設計管理/マネジメント管理)に沿った、チェックリスト志向の査察手法でした。しかし、FDA再授権法(FDARA 2017)が求めるリスクベースの査察スケジュール、総ライフサイクル思考、そしてISO 13485が基礎に置く「プロセス統合」の考え方とは、必ずしも整合していませんでした。
2024年2月2日に公布されたQMSR最終規則は、業界に2年間の移行期間を与えたうえで、ISO 13485:2016を21 CFR Part 820に参照組込みし、連邦法としての効力を持たせました。CP 7382.850は、この新しい規則に「どう査察するか」を査察官に示す運用マニュアルです。
CP 7382.850とは — 3文書を1つに統合
CP 7382.850は2026年1月30日に公表され、2月2日から運用が始まりました。従来のQSIT、CP 7382.845(医療機器製造業者の査察)、CP 7383.001(PMA関連査察)を1つに統合した文書です。査察の中心には常に「患者・使用者へのリスク」が置かれ、査察官はメーカーのリスクマネジメント文書を査察全体の道しるべとして、どの領域を優先し、どの記録を抽出し、どこまで深く評価するかを判断します。
6つのQMS Areasと4つのOAFRs
新プログラムでは、査察は6つのQMS Areasと4つのOAFRs(Other Applicable FDA Requirements)を軸に構成されます。
6つのQMS Areas
- Management Oversight(マネジメントの監督) — トップマネジメントによるQMSの計画・維持、資源の提供、リスクベースの意思決定
- Design and Development(設計・開発) — 設計インプット/アウトプット、検証・バリデーション、設計移管、変更管理
- Production and Service Provision(製造・サービス提供) — 工程バリデーション、滅菌、識別・トレーサビリティ、監視・測定機器
- Outsourcing and Purchasing(外部委託・購買) — 委託プロセスと購買プロセスの管理
- Change Control(変更管理) — 実施前のリスク・影響評価
- Measurement, Analysis, and Improvement(測定・分析・改善) — 苦情処理、内部監査、不適合管理、是正・予防措置(CAPA)
4つのOAFRs
- 医療機器報告(MDR) — 21 CFR 803
- 修理・回収の報告(Corrections and Removals) — 21 CFR 806
- 医療機器トラッキング — 21 CFR 821
- 固有機器識別(UDI) — 21 CFR 830
2つのInspection Modelと「サンプリング表の消失」
CP 7382.850は査察種別に応じた2つのモデルを定義します。Model 1(定期・フォローアップ・for-cause等)では各QMS Areaから最低1要素と4つのOAFRを評価。Model 2(ベースライン査察・PMA承認前査察)はより規範的で、非滅菌機器で22要素、滅菌機器で23要素の評価が求められます。
注目すべきは、QSITにあった記録のサンプリング表がなくなった点です。査察官は特定された製品リスクと専門的判断に基づき記録を選択します。FDAにとっては柔軟に、メーカーにとっては予測しにくくなったといえます。
見落とせない「大きな変化点」
実務上、特に影響が大きい変更は次の3点です。
- 内部監査・供給者監査・マネジメントレビュー記録が査察対象に。 FDAが長年維持してきた「これらの文書は要求しない」という方針が撤廃されました。査察官はこれらの文書そのものを閲覧・要求できます。査察対応者全員がこの変更を理解している必要があります。
- マネジメントの監督が独立した査察領域に。 マネジメントレビューや内部監査が「形式的な文書化」で済まなくなり、苦情トレンドやCAPAの滞留と矛盾があれば査察官はそれを見抜きます。
- CAPAの位置づけが変化。 CAPAはMeasurement, Analysis, and Improvement領域の一要素となり、Model 1では必須要素ではなくなりました。一方でリスクマネジメントの不備はOAI(Official Action Indicated)の明確なトリガーとして位置づけられています。
日本の医療機器メーカーがいま準備すべきこと
MDSAPやISO 13485での運用実績がある企業は移行しやすい一方、米国市場中心で自社QMSをISO 13485の条項構造にマッピングできていない企業は、より高い水準を求められます。査察後は15営業日以内に是正措置計画の提出が可能で、査察結果はNAI/VAI/OAIに分類されます。自社の「製品リスクがQMS活動をどう駆動しているか」を、査察官に対して明快に説明できるかが問われます。
📘 新刊のご案内|CP 7382.850を一冊で通読する
株式会社イーコンプライアンスより、本記事で解説したCP 7382.850を初学者でもやさしく通読できる実務書『新FDA医療機器査察・QMSR対応実務書 — CP 7382.850 徹底入門』を刊行します(2026年7月10日発売予定・B5判/税込55,000円)。米国規制の歴史からQSIT→リスクベース査察への転換、6つのQMS Areas、4つのOAFRs、Warning Letterの実例、査察当日から90日アクションプランまでを、架空事例を交えて体系的に整理しています。品質保証・薬事の担当者はもちろん、FDA対応に初めて触れる管理職・経営層にも最適な一冊です。
関連コンテンツ:【ビデオ・VOD】FDA QMSR発出のインパクト / 【ビデオ・VOD】FDA査察対応セミナー・入門編
🎓 関連セミナーのご案内|新CP時代の査察対応を一日で
本記事のテーマをさらに実務目線で深めたい方へ。代表・村山浩一が講師を務めるライブセミナー「FDA医療機器査察はここまで変わった — QSITから新CP 7382.850へ。Inspection ReadinessとeQMSで備えるQMSR時代の査察対応」を開催します。訪問前の資料精査、6つのQMS Areas・4つのOAFRsの重点確認、Warning Letterの指摘傾向、Inspection Readinessの日常化、eQMSの活用、査察後90日アクションプランまでを一日で体系的に解説します。ご都合の良い日程をお選びください。
- 【8月6日(木)開催】 10:30〜16:30/ライブ配信(税込77,000円〜) → お申し込み・詳細はこちら(イーコンプライアンス)
- 【9月4日(金)開催】 10:30〜16:30/Zoomオンライン・見逃し配信あり(税込77,000円〜、1社2名以上の同時申込割引あり) → お申し込み・詳細はこちら(情報機構主催)