
「教育訓練を徹底します」と言う経営者は、必ず再発させる
~根本的原因と、それらしく見える原因の混同~
不祥事の謝罪会見で必ず聞く「社員教育を徹底してまいります」という一言。だが、こう述べる企業ほど同じ事故を繰り返す。教育訓練不足は「原因」ではあっても「根本的原因」ではないからである。ISO 13485:2016 8.5.2 が是正処置に求めるのは「不適合の原因を除去する処置」と「とった処置の有効性の照査」であり、ISO 14971:2019 のリスクコントロール優先順位では、教育・警告といった「安全に関する情報」は最も弱い手段と位置づけられている。本稿では、なぜ「教育訓練の徹底」がCAPAとして機能しないのかを、規格の条文に立ち返って整理する。
謝罪会見の決まり文句が、再発を約束してしまう
不祥事の謝罪会見で、経営者が決まり文句のように口にする一言がある。「このような事故が二度と起きないよう、社員教育を徹底してまいります」――。だが、こう述べる企業ほど、同じ事故をまた繰り返す。
理由は明快である。
教育訓練不足は「原因」ではあっても「根本的原因」ではないからだ。
ここを取り違えたまま是正処置報告書を閉じてしまう組織は、驚くほど多い。査察官や審査員が「教育訓練を実施した」という是正処置に厳しい目を向けるのは、この一点を見抜いているからである。
是正処置の定義は「原因の除去」である――ISO 13485 8.5.2
ISO 13485 8.5.2 は是正処置を「再発防止のため、不適合の原因を除去する処置」と定義する。鍵は「除去」にある。除去されるべきは根本的原因であって、表層の原因ではない。
また、組織は次の事項に関する要求事項を規定した手順を文書化しなければならない――不適合の照査、原因の特定、再発防止処置の必要性の評価、必要な処置の計画・文書化・実施、その処置が規制要求事項への適合や医療機器の安全・性能に悪影響を及ぼさないことの検証、そしてとった是正処置の有効性の照査。
――ISO 13485:2016 8.5.2(是正処置)の要求事項の趣旨
条文が求めている6つの要素
| 手順に規定すべき事項 | 実務上の意味 | 「教育訓練の徹底」で満たせるか |
|---|---|---|
| 不適合(苦情を含む)の照査 | 何が起きたのかを事実として確定する | ―(前段のため関係なし) |
| 不適合の原因の特定 | 表層の原因ではなく根本的原因まで掘り下げる | 満たせない。「教育不足」は掘り下げの途中で止まった状態 |
| 再発防止処置の必要性の評価 | 影響度に見合う処置かを判断する | 判断の前提となる原因が誤っていれば成立しない |
| 必要な処置の計画・文書化・実施 | 文書の更新を含む。すなわちQMSの変更 | 満たせない。再教育は仕組みを変えていない |
| 規制要求事項・安全性能への悪影響がないことの検証 | 処置が別のリスクを生まないかを確かめる | ― |
| とった是正処置の有効性の照査 | 再発しなかったことを客観的証拠で示す | 極めて困難。「理解度テストの点数」は再発防止の証拠にならない |
なぜ「教育訓練」に飛びついてしまうのか
教育訓練を是正処置に据えてしまう誘惑は強い。
原因を個人の理解度や規律に押し付けるのは、何より楽だからだ。
ミスをした担当者を厳しく叱責し、再教育を施せば、その人は二度と間違わないかもしれない。
だが組織は人が変わる。新しい担当者が来れば、同じ間違いがまた起きる。組織として再発しているのに、個人を相手に決着をつけているから、いつまでも止まらない。
「教育訓練を徹底します」が破綻する3つの理由
- 人が入れ替わる。個人に施した処置は、その個人が異動・退職した瞬間に消える。組織の記憶にならない。
- 有効性を証明できない。ISO 13485 8.5.2 は有効性の照査を求めるが、「受講しました」「テストに合格しました」は再発しないことの証拠ではない。
- 仕組みが手つかずのまま残る。エラーを検知できなかったQMSは、次の担当者に対しても同じように無力である。
リスクコントロールの優先順位が示す答え――ISO 14971:2019
「教育訓練は弱い手段である」という直感は、規格の側からも裏づけられる。ISO 14971:2019(医療機器-リスクマネジメントの医療機器への適用)は、リスクコントロール手段の選択肢を検討する際、次の優先順位で用いることを求めている。
| 優先順位 | リスクコントロール手段 | 具体例 | 強さ |
|---|---|---|---|
| ① | 設計・製造による本質的な安全(inherently safe design and manufacture) | そもそも誤った操作ができない構造にする。誤入力を受け付けないシステムにする | 最も強い |
| ② | 医療機器自体または製造工程における保護手段(protective measures) | インターロック、アラーム、ダブルチェックの自動化、システムによる強制的な検証 | 中程度 |
| ③ | 安全に関する情報(information for safety)および必要な場合の使用者への教育訓練 | 手順書への注意書き、警告ラベル、注意喚起、再教育 | 最も弱い |
この序列は、リスクマネジメントの世界では常識に属する。教育訓練は、①と②を尽くしてなお残ったリスクに対して最後に適用する手段であって、最初に持ち出す手段ではない。ところがCAPAの現場では、この優先順位が正反対になっていることが少なくない。真っ先に③を選び、①②を検討した記録すら残っていない――そうした是正処置報告書が、いまも大量に流通している。
正しい問いを立てる
正しい問いはこうだ。
- なぜ、教育が不足している人にその仕事を任せたのか力量の評価と業務の割当てを結びつける仕組みが機能していない可能性がある。これはQMSの問題である。
- その人がエラーを起こした時に、なぜ社内の仕組みがそのエラーを検知できなかったのか検出手段の欠如、あるいは検出はしていたが誰も見ていなかったという運用の問題。これもQMSの問題である。
- 同じ性質のエラーは、他の工程・他の製品でも起こり得ないか水平展開の検討。ここを飛ばすと、隣の部署で同じ事故が起きる。
問いの矛先がQMSという仕組みに向いた瞬間、初めて根本的原因にたどり着く。
是正処置は必ずQMSの変更へと行き着くべきものだ。
仕組みの変更を伴わない是正処置は、是正処置の名に値しない。
この論点は「CAPAの根本原因を「教育不足」にしてはならない」でも詳しく論じている。なお、こうした「表層の原因で止まっている是正処置」を見抜けるかどうかは、内部監査員の比較軸に大きく依存する。この点は「転職経験のない人に、内部監査はできない」を参照されたい。また、リスクの大きさを二分法的に扱う際の落とし穴は「ハイリスク/ノンハイリスクの2分法」で整理している。あわせて、そもそも「教育」と「訓練」は何が違うのかを整理した「「教育」と「訓練」の違いとは何か」、教育訓練を機能させる要件を扱った「教育訓練の「三種の神器」とは何か」も参照されたい。
▲【動画】第160回 「ヒューマンエラー」で終わらせない製造――製造販売業者が担うCAPA監督の実際(株式会社イーコンプライアンス)
「修正」と「是正処置」を混同していないか
ちなみに、設計変更も「是正」ではなく「修正」である。
図面を変更しただけでは、なぜそのような設計をしてしまったかという根本原因が残ったままだ。次の機種で、また別の場所で、同じ性質の設計ミスが顔を出す。同じく、洗濯機のホースが破けた時にテープを巻くのは修正である。なぜ破けるのかを掘り下げ、設置角度・材質・温水使用などの根本原因を潰してこそ、是正処置と呼べる。
| 区分 | 定義(趣旨) | 洗濯機ホースの例 | 設計の例 |
|---|---|---|---|
| 修正 (correction) |
検出された不適合そのものを除去する処置。原因には手を触れない | 破けた箇所にテープを巻く/ホースを交換する | 図面を修正する。当該ロットを手直しする |
| 是正処置 (corrective action) |
不適合の原因を除去し、再発を防止する処置。有効性の照査まで含む | 設置角度・材質・温水使用といった原因を特定し、設置基準や部材選定の仕組みを変える | なぜその設計をしたのかを掘り下げ、設計レビュー・設計インプットの仕組みを変更する |
| 予防措置 (preventive action) |
まだ起きていない潜在的な不適合の原因を除去する処置 | 他の機種のホースにも同じ条件がないかを点検し、先に是正する | 類似の設計手法を採る他製品へ水平展開する |
CAPA報告書でよく見る「不合格答案」
- 根本原因欄に「作業者の理解不足」「確認漏れ」「教育訓練の不足」とだけ書かれている。
- 是正処置欄が「再教育を実施した」「注意喚起を周知した」で終わっており、変更された文書番号が一つも挙がっていない。
- 有効性の照査が「理解度テスト全員合格」で完結しており、再発の有無を追跡した記録がない。
- リスクコントロールの優先順位(設計→保護手段→情報提供)を検討した形跡がない。
謝罪会見で述べるべき、重い言葉
謝罪会見で正しく述べるなら、こうなる。
――本来あるべき是正処置の宣言
重い言葉である。だがCAPAの本質はこの重さにある。
教育訓練を「徹底」しても、人が入れ替われば組織は同じ間違いを繰り返す。仕組みを直してこそ、組織は学ぶのである。
なお、この議論は「失敗した個人を責めない」という品質文化の話とも表裏一体である。個人の責任追及に終始すれば、そもそも不適合が報告されなくなり、CAPAの入口が閉じてしまう。「失敗を報告した人ほど、なぜ褒めなければならないのか」「「Quality Culture」を読み違えていないか」もあわせて読まれたい。
まとめ――3つのポイント
- 是正処置とは「原因の除去」であるISO 13485 8.5.2 は、不適合の原因を除去する処置と、とった処置の有効性の照査を求める。教育訓練は原因を除去していないため、条文の要求を満たさない。
- 教育訓練はリスクコントロールとして最も弱いISO 14971:2019 の優先順位は、①設計による本質的な安全 ②保護手段 ③安全に関する情報・教育訓練。教育は最後の手段であって、最初の手段ではない。
- 是正処置は必ずQMSの変更に行き着く「なぜその人に任せたのか」「なぜ仕組みが検知できなかったのか」と問いを立て直せば、矛先は必ず仕組みに向く。変更された文書がない是正処置は、是正処置ではない。
参考・出典(一次情報源)
- ISO「ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes」(8.5.2 Corrective action/6.2 Human resources。2025年の定期見直しで現行版として確認済み)
- ISO「ISO 14971:2019 Medical devices — Application of risk management to medical devices」(リスクコントロール選択肢の分析と優先順位)
- ISO「ISO/TR 24971:2020 Medical devices — Guidance on the application of ISO 14971」(リスク受容基準・ベネフィットリスク分析の解説)
- 厚生労働省「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年12月17日厚生労働省令第169号)」(第23条 能力、認識及び教育訓練/第63条 是正措置/第64条 予防措置)
- 厚生労働省「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部改正について(令和3年3月26日 薬生監麻発0326第4号)」
- PMDA「改正QMS省令の概要及び調査での指摘事例等について」(PDF)
- PMDA「QMS適合性調査における指摘事例及び適合に向けての考え方について」(PDF)
- FDA「Quality Management System Regulation (QMSR)」
- eCFR「21 CFR Part 820 – Quality Management System Regulation」