
CAPAの根本原因を「教育不足」にしてはならない
「再発防止のため、教育訓練を徹底する」――CAPA報告書でこの一文を見ない日はない。しかし教育不足は原因ではなく症状である。ISO 13485:2016 8.5.2 が求めているのは「不適合の原因を除去する処置」であり、人の頭ではなく仕組みを変えることである。2026年2月2日から運用が始まったFDA コンプライアンスプログラム CP 7382.850でも、CAPAは「測定、分析及び改善(Measurement, Analysis and Improvement)」エリアの中核として重点的に確認される。本稿では、根本原因を「教育不足」で終わらせてはならない理由を、規格・ガイダンスに沿って整理する。
「教育訓練を徹底する」は、なぜ通用しないのか
CAPA報告書の定番フレーズ
「再発防止のため、教育訓練を徹底する」――CAPA報告書でこの一文を見ない日はない。
しかしFDAは、15年ほど前から「教育訓練」を根本原因としたCAPAに対して指摘を出すようになったと見られる。ワーニングレターでは、retraining(再教育)だけを是正処置としたCAPAが「根本原因に対処していない」と繰り返し否定されてきた。
なぜか。答えは単純で、教育不足は原因ではなく症状だからである。
人がミスをするのは、たいていは本人の不注意ではない。間違えやすい手順、紛らわしいラベル、無理なスケジュール、曖昧な責任分担――そうした“仕組み”がミスを誘発している。
規格は「原因の除去」を求めている
ISO 13485:2016 の 8.5.2(是正処置)は、単に「処置を取れ」とは言っていない。不適合の原因を除去し、再発を防止するための処置を、遅滞なく取ることを求めている。さらに、その処置は不適合がもたらす影響に見合ったものでなければならない。
――ISO 13485:2016 8.5.2(是正処置)の要求事項の趣旨
ここで見落としてはならないのが「原因を除去する」という一句である。原因を「教育不足」と書いた瞬間、除去すべき対象は「知識の欠落」になり、処置は「教育」に固定される。だが実際に除去すべきだったのは、間違えやすい手順書や紛らわしい部品配置であったはずだ。つまり、根本原因を「教育不足」に帰着させることは、システム要因の追究を途中で打ち切る典型的な不備なのである。
| 観点 | 是正処置 | 予防処置 |
|---|---|---|
| ISO 13485:2016 | 8.5.2 | 8.5.3 |
| QMS省令 | 第63条(是正措置) | 第64条(予防措置) |
| 起点 | 既に発生した不適合 | 発生し得る潜在的な不適合 |
| 求められること | 原因の除去と再発防止 | 原因の除去と発生の未然防止 |
| 共通の必須要素 | 影響に見合った処置であること/実施した処置が規制要求事項への適合と機器の安全・性能に悪影響を与えていないことの検証/有効性の照査 | |
航空業界はとうに切り替えた――ヒューマンファクターという考え方
航空業界はとうにこの考え方(ヒューマンファクター)へ切り替えた。
パイロットに「気をつけろ」と精神論を説くのではなく、計器やコックピットの設計そのものを変え、エラーが起きにくく、起きても致命傷にならないようにしてきた。
医療機器も同じであって、「以後注意する」「教育する」で終わるのは、仕組みを一切変えていないため、ほぼ確実に再発する。
FDA自身も、使用エラーを「使う人の問題」ではなく設計の問題として扱うよう求めている。Applying Human Factors and Usability Engineering to Medical Devices(ヒューマンファクタ/ユーザビリティエンジニアリングの適用に関するガイダンス)は、ユーザインタフェース設計によって使用エラーに起因するリスクを低減することを求めており、注意喚起や訓練は設計変更・保護方策の後にくる手段と位置づけられている。この優先順位は、ISO 14971:2019 のリスクコントロール手段の優先順位(①本質的安全設計 ②保護手段 ③安全に関する情報)とも完全に一致する。
失敗した者をこっぴどく叱って再教育したら、その者は二度と間違わないかもしれない。しかし、組織が変わり人員が替われば、また再発するのである。
根本原因分析(RCA)でやってはならないこと
- 「作業者の不注意」で止める――なぜ不注意が生じ得る工程になっているのかを問うていない。
- 「教育不足」で止める――なぜ教育で補わなければ回らない手順になっているのかを問うていない。
- 「本人が確認しなかった」で止める――確認が省略され得る設計・レイアウト・工数を問うていない。
- 個人名を原因欄に書く――原因分析ではなく責任追及になっており、次の報告が上がってこなくなる。
検証できない対策は、対策ではない
そもそも「教育訓練を徹底する」という対策には、致命的な欠陥がある。
検証できないのだ。
教育を実施したことは記録に残せても、「その教育によって再発が止まった」とは証明しようがない。
一方、紛らわしい二つのボタンの配置を変えた、取り違えやすい二品目の保管場所を離した、といった仕組みの変更であれば、効果を後から測定できる。
是正処置は、効果を確かめられる形にして初めて意味を持つ。ISO 13485 8.5.2 が「実施した是正処置の有効性の照査」を明示的に求めているのは、まさにこのためである。
「気合い」は測定できないが、「モノ」は測定できる。
この差は決定的である。
| 是正処置の書き方 | 変えたもの | 有効性の測り方 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 作業者を再教育する | なし(人の記憶のみ) | 測れない(受講記録が残るだけ) | 不可 |
| 「確認を徹底する」と朝礼で周知 | なし | 測れない | 不可 |
| 手順書に確認手順と判定基準を追記 | 手順書 | 当該工程の不適合件数の推移 | 可 |
| 紛らわしい2品目の保管場所を分離 | レイアウト | 取り違え件数・ピッキング誤り率 | 可 |
| 誤組付けができない治具に変更 | 治具(ポカヨケ) | 誤組付けの物理的発生可能性=ゼロ | 最良 |
| 帳票の記入欄を必須化・自動チェック化 | 帳票/システム | 記入漏れ検出率・差戻し件数 | 可 |
「なぜ」を一段掘れ――根本原因の書き方
根本原因を書くときは「なぜ教育が足りなかったのか」をもう一段掘るべきである。
手順書が現場の実態と合っていないなら、直すべきは作業者の頭ではなく手順書だ。
教育訓練は、仕組みを変えた“後に”その新しいやり方を定着させる手段として位置づける。
この順番を逆にした瞬間、そのCAPAは死ぬ。
ありがちな失敗例
ここで、ありがちな失敗例を一つ挙げよう。ある工程で部品の取り付け間違いが起きたとする。
「なぜ間違えたのか」と問えば「作業者が確認しなかったから」、「ではどうするか」と問えば「確認を徹底させる」――この流れで原因分析を終える会社は非常に多い。
しかしこれは“なぜ”を一回しか問うていない。
なぜ確認しなかったのか。手順書に確認の記載がなかったのか、二つの部品が見分けにくかったのか、ラインの速度が速すぎて確認の時間がなかったのか。
一段掘るごとに、対策の対象が“人”から“仕組み”へ移っていく。
トヨタの「なぜを五回繰り返せ」が今も語り継がれるのは、まさにこの理由による。
- なぜ①:部品を取り違えた作業者Aが部品Xの位置に部品Yを取り付けた。――ここで止めれば「作業者の不注意」で終わる。
- なぜ②:なぜ取り違えたのか部品XとYは外観がほぼ同一で、刻印も同じ面にない。識別性の問題が見えてくる。
- なぜ③:なぜ識別できない部品が同一工程に並んでいるのか部品箱が隣接配置され、色分けもされていない。工程設計・レイアウトの問題である。
- なぜ④:なぜ手順書はそれを許しているのか手順書に「取り付け前に刻印を照合する」旨の記載がない。手順書の不備である。
- なぜ⑤:なぜ手順書がそのまま運用されてきたのか設計変更時に工程FMEA/リスクマネジメントファイルが更新されていなかった。変更管理とリスクマネジメントの連結不全――ここが真の根本原因である。
誤解してはならないこと――教育が不要なのではない
誤解してはならないのは、教育が不要だと言っているのではない、という点である。
教育は重要だ。ただし、それは“原因を取り除いた後”の定着策としての教育であって、原因分析の結論としての教育ではない。
ISO 13485:2016 6.2(人的資源)は、製品品質に影響する業務を行う要員が、適切な教育(education)・訓練(training)・技能(skills)・経験(experience)に基づいて力量を有することを求め、さらに教育訓練の有効性の評価まで要求している。すなわち規格は、教育訓練そのものについても「実施した」ではなく「効いたか」を問うている。教育を是正処置の逃げ道に使う運用は、6.2 の要求とも整合しない。
教育と訓練は別物である点、そして力量が何によって構成されるかについては、次の記事もあわせて参照されたい。
FDA査察はCAPAをどこで見るか――CP 7382.850 の「測定、分析及び改善」
2026年2月2日、QMSR(Quality Management System Regulation)の施行にあわせて、FDAは従来のQSIT(Quality System Inspection Technique)の運用を終了し、更新されたコンプライアンスプログラム CP 7382.850「Inspection of Medical Device Manufacturers」による査察を開始した。旧来の CP 7382.845(Inspection of Medical Device Manufacturers)および CP 7383.001(PMA Preapproval / Postmarket Inspections)は、同日以降使用されない。
新しいCP 7382.850 は、21 CFR Part 820(QMSR)の要求事項を6つのQMSエリアと4つのOAFR(Other Applicable FDA Requirements)に整理し、患者・使用者へのリスクに着目したリスクベースの査察を行う構成になっている。CAPAは、このうち「測定、分析及び改善(Measurement, Analysis and Improvement)」エリアの中核に位置する。
| # | QMSエリア(CP 7382.850) | 主に対応するISO 13485の領域 |
|---|---|---|
| 1 | Change Control(変更管理) | 4.1/4.2/7.3.9 ほか |
| 2 | Design and Development(設計・開発) | 7.3 |
| 3 | Management Oversight(管理監督) | 5(管理監督者の責任)/6(資源の運用管理) |
| 4 | Measurement, Analysis and Improvement(測定、分析及び改善) | 8(苦情処理・内部監査・不適合製品・データ分析・CAPA) |
| 5 | Outsourcing and Purchasing(外部委託・購買) | 7.4/4.1.5 |
| 6 | Production and Service Provision(製造及びサービス提供) | 7.5 |
※4つのOAFRは MDR(不具合報告)/Device Tracking(機器追跡)/Corrections and Removals(回収・改修)/UDI(機器固有識別子)。
つまりFDAの査察官は、CAPAを「独立した書類仕事」としてではなく、苦情・不適合・データ分析から是正処置へ、そして有効性の照査へと至る一本の流れとして確認する。この流れのどこかが「教育した」で切れていれば、そこが指摘対象になる。CP 7382.850 の全体像については、QSITからCP 7382.850へ――FDA査察はどう変わったかもあわせて参照されたい。
▲【動画】【ワンポイント】第160回「ヒューマンエラー」で終わらせない製造――製造販売業者が担うCAPA監督の実際(株式会社イーコンプライアンス)
医薬品側も同じ構造――ICH Q10 のCAPAシステム
この考え方は医療機器に限らない。ICH Q10「医薬品品質システム」(日本では平成22年2月19日 薬食審査発0219第1号・薬食監麻発0219第1号として通知)も、医薬品品質システムを支える四つの要素の一つとして是正処置及び予防処置(CAPA)システムを掲げている。
ICH Q10 は、苦情、製品の不合格、不適合、回収、逸脱、監査、査察の所見といった情報源からの原因究明の深さを、リスクの程度に応じて決めること、そして是正処置・予防処置の有効性を監視・評価することを求めている。「教育した」で完結する処置は、この有効性評価に耐えない。
実務での見分け方――これだけは覚えて帰っていただきたい
- 是正処置を読んで、変えた“モノ”――手順、治具、帳票、レイアウト、チェック方法――が一つも書かれていなければ、それは是正ではなく作文である。
- 査察官は必ず「で、結局何を変えたのか」と訊いてくる。
- そのとき「教育した」としか答えられない会社は、半年後にまったく同じ不適合で、まったく同じ会話を繰り返すことになる。
- 逆に、変えたモノと、その効果を測った数値が一枚の紙に載っていれば、CAPAは自ずと説明可能になる。
内部監査でも同じ目で見る
CAPAの巧拙は、外部査察を待たずに内部監査で検出できる。ISO 13485:2016 8.2.4(内部監査)に基づく監査で、過去1年分のCAPA記録を抜き出し、「変えたモノ」の欄が空白のものだけを並べてみればよい。それが自社の弱点である。内部監査の目的そのものについては、内部監査は何のために行うのかを参照されたい。
また、CAPAの重さをどう決めるか――軽微な不適合にまで本格的なCAPAを起こしてよいのか――という論点は、リスクベースドアプローチの問題である。こちらは「リスクは多めに見積もる」が、結局は患者を苦しめるで詳しく述べた。そして、そもそも仕組みを決める責任が誰にあるのかは、(品質)マニュアルは、経営者が書くのであるに繋がる。
まとめ――3つのポイント
- 教育不足は原因ではなく症状であるISO 13485 8.5.2 が求めるのは「不適合の原因を除去する処置」である。根本原因を「教育不足」「作業者の不注意」に帰着させることは、手順書の不備・工程設計・ヒューマンファクターといったシステム要因の追究を止める典型的な不備である。
- 検証できない処置は処置ではない8.5.2 は有効性の照査を要求している。「気合い」は測定できないが、「モノ」は測定できる。手順・治具・帳票・レイアウトを変えたのであれば、効果は数値で示せる。
- 教育は“原因を取り除いた後”の定着策である教育が不要なのではない。順番が逆になった瞬間にCAPAは死ぬ。人を責めても再発は止まらない。仕組みを変えて初めて、不具合は過去のものになるのである。
参考・出典(一次情報源)
- FDA「Quality Management System Regulation (QMSR)」(2026年2月2日施行)
- FDA「Compliance Program 7382.850 – Inspection of Medical Device Manufacturers」(PDF)
- FDA「CDRH Compliance Programs」
- FDA「Town Hall – FDA’s QMSR: Medical Device Risk-Based Inspections」
- FDA「Warning Letters」(発出済みワーニングレターの検索)
- FDA「Applying Human Factors and Usability Engineering to Medical Devices」(ガイダンス)
- eCFR「21 CFR Part 820 – Quality Management System Regulation」
- ISO「ISO 13485:2016 Medical devices – Quality management systems – Requirements for regulatory purposes」(8.5.2 是正処置/8.5.3 予防処置/6.2 人的資源/8.2.4 内部監査)
- ISO「ISO 14971:2019 Medical devices – Application of risk management to medical devices」(リスクコントロール手段の優先順位)
- 厚生労働省「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号)」(第63条 是正措置/第64条 予防措置)
- 厚生労働省「QMS調査要領について」
- PMDA「ICH-Q10 品質システム(医薬品品質システムに関するガイドライン)」