「経営方針」と「品質方針」が乖離した会社の末路

「経営方針」と「品質方針」が乖離した会社の末路

~ISO 9001:2000 が経営者に課した、最大の宿題~
多くの会社で、経営方針と品質方針は別の文書として存在している。経営方針には「利益追求」「売上拡大」「競合他社に勝ち抜く」といった経営の言葉が並ぶ。一方、品質方針には「お客様目線」「社会への貢献」「品質第一」といった耳障りの良い言葉が並ぶ。両者を並べてみると、まったく別の世界の話に見える。これが問題なのである。

品質マネジメント規格が経営者に求めた核心要求

ISO 9001 が2000年版から、そして ISO 13485 を含めた品質マネジメント規格が経営者に求めるようになった核心要求は、これである――経営方針・経営目標と、品質方針・品質目標を整合させること。

乖離を放置することは規制違反であり、QMSが回らない最大の構造原因でもある。

それまで経営者の責任は経営責任のみであった。売上を上げ、利益を出し、株価を上げる――これが20世紀の経営者の世界だった。品質責任は現場任せ。だが2000年を境に、経営者には品質責任も明確に課せられるようになった。

補足(規格の変遷):厳密には、ISO 9001:1994 にも品質方針を組織の目標や顧客の期待・ニーズに関連づける規定は存在した。2000年版で決定的に変わったのは、①「経営者の責任」が独立した章として体系化されたこと、②測定可能な品質目標が要求され、それを品質方針と整合させることが明示されたこと、③継続的改善が要求事項となったこと――の三点である。現行のISO 9001:2015 では、品質方針は「組織の目的及び状況に対して適切であり、その戦略的な方向性を支える」ものであることが求められている。ISO 13485:2016 は ISO 9001:2008 の構成を基礎としており、この「方針と目標の整合」という骨格を受け継いでいる。

条文はどう書いているか――ISO 13485 5.3/5.4.1 とQMS省令第12条・第13条

品質方針は「組織の目的に対して適切」でなければならない

ISO 13485:2016 の 5.3(品質方針)は、トップマネジメントに対し、品質方針が次の条件を満たすことを確実にするよう求めている。日本のQMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)第12条は、これに対応する条文である。

第十二条 管理監督者は、品質方針が次に掲げる条件に適合しているようにしなければならない。

一 製造販売業者等の意図に照らし適切なものであること。
二 品質管理監督システムに係る要求事項への適合及び品質管理監督システムの実効性の維持について、管理監督者が責任をもって関与することを規定していること。
三 品質目標の策定及び照査に当たっての枠組みとなるものであること。
四 全ての施設に周知され、理解されていること。
五 品質管理監督システムの適切性を維持するために照査されていること。

――QMS省令 第12条(品質方針)

第一号の「製造販売業者等の意図に照らし適切なもの」――これは ISO 13485 5.3 a) の “is appropriate to the purpose of the organization”(組織の目的に対して適切である)に対応する。会社の目的と無関係な品質方針は、そもそも条文違反なのである。

そして第三号は、品質方針が品質目標の策定・照査の枠組みとなることを求めている。方針が枠組みである以上、目標は方針の中から導かれなければならない。方針と目標が別々に作られている時点で、この条文構造は壊れている。

品質目標は「測定可能」かつ「品質方針と整合」でなければならない

第十三条 管理監督者は、各施設において、各部門及び各階層に応じた品質目標(製品要求事項への適合のために必要な目標を含む。)が定められているようにしなければならない。

2 前項の品質目標は、その達成状況を評価しうるものであって、かつ、品質方針との整合性のとれたものとしなければならない。

――QMS省令 第13条(品質目標)

ISO 13485 5.4.1 も同様に、品質目標が組織内の関連する部門および階層で設定され、測定可能(measurable)であり、かつ品質方針と整合している(consistent with the quality policy)ことを要求している。

要求事項 ISO 13485:2016 QMS省令 監査で見られる点
品質方針が組織の目的に適切であること 5.3 a) 第12条第一号 経営方針・事業計画と品質方針を並べて、矛盾がないか
品質方針が品質目標の枠組みとなること 5.3 c) 第12条第三号 各品質目標が方針のどの文言から導かれたか説明できるか
品質方針の周知・理解 5.3 d) 第12条第四号 現場の従業員が自部門の目標との関係を語れるか
品質方針の照査 5.3 e) 第12条第五号 管理監督者照査の記録に方針の見直し検討が残っているか
品質目標が測定可能であること 5.4.1 第13条第2項 達成/未達を客観的に判定できる指標になっているか
品質目標が品質方針と整合すること 5.4.1 第13条第2項 方針が顧客志向なら、目標も顧客側を向いているか

監査での確認ポイントは具体的だ

品質方針に「顧客重視」「品質改善」と書いてあるのに、品質目標には「社内のエラーレートを下げる」のような内向きの数値しか並んでいない――こうした事例が頻出する。

これは整合していない。顧客重視を方針に置いたなら、目標は顧客満足度の改善幅、苦情率の削減幅といった顧客側に向いた数値で示さねばならない。

品質方針に掲げた文言 整合していない目標の例 整合している目標の例
顧客重視 社内エラーレートを前年比10%削減する 顧客苦情率を前年比◯%削減する/顧客満足度調査のスコアを◯ポイント改善する
品質改善 手順書を◯件改訂する 重大不適合の発生件数を◯件以下に抑える/是正処置の有効性検証の完了率を◯%にする
社会への貢献・患者安全 教育訓練の受講率を100%にする 市販後の不具合情報の初動対応日数を◯日以内にする/回収件数を◯件以下にする

誤解しやすいポイント

  • 教育訓練の受講率や手順書の改訂件数は、それ自体が悪い指標なのではない。方針から導かれていない点が問題なのである。方針が「力量の底上げ」を掲げているなら、受講率は整合した目標になり得る。
  • 「測定可能」であることと「数値であること」は同義ではない。達成状況を客観的に評価できるならよい。逆に、数値であっても判定基準が曖昧なら要求を満たさない。
  • 目標は「各部門及び各階層に応じて」設定することが条文の要求である。全社目標を掲げただけでは足りない。

品質目標と経営目標をどう切り分け、どう結び付けるかについては、品質目標と経営目標の違いで詳しく論じている。

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整合させない組織の末路

整合させない組織の末路は明確である。

  1. QMSが絵に描いた餅になる方針と目標がつながっていないため、現場は「規格のために作った目標」を追うことになる。
  2. 毎年「目標未達」が並ぶ管理監督者照査(マネジメントレビュー)の場に、達成できない目標の一覧が並び続ける。
  3. 経営側が品質側を「コストセンター」と見る成果が経営指標に結び付かないため、予算が絞られる。
  4. 品質側が経営側を諦める「品質を理解しない人たち」という認識が固定化し、双方の不信感が構造化する。
  5. 不適合・苦情・回収として経営に跳ね返るやがて不適合・苦情・回収という形で経営に跳ね返ってきた時、もはや手の打ちようがない。

この連鎖は、データの分析が改善につながらない構造とも表裏一体である。分析結果が経営判断に届かない組織の症状については、データ分析と称して、グラフを持ってくる人へで扱っている。

まず点検すべきは「会議体が分かれていないか」である

経営方針・経営目標を立てる場と、品質方針・品質目標を立てる場を、別々の会議体で開いていないか――まずここを点検してほしい。同じ場で、同じ経営者の前で、両者を並べて議論することが整合の第一歩である。

管理監督者照査は「方針・目標を見直す場」でもある

QMS省令第18条は、管理監督者照査を次のように定義している。

製造販売業者等は、品質管理監督システムについて、その適切性、妥当性及び実効性の維持を確認するための照査(品質管理監督システム(品質方針及び品質目標を含む。)の改善又は変更の必要性の評価を含む。以下「管理監督者照査」という。)に係る手順を文書化しなければならない。
――QMS省令 第18条(管理監督者照査)第1項

条文が括弧書きでわざわざ「品質方針及び品質目標を含む」と明記している点に注目されたい。管理監督者照査は、目標の達成状況を報告する場であると同時に、方針そのものの妥当性を経営者が問い直す場として設計されている。ここで経営方針との突き合わせを行わないのであれば、条文の趣旨を果たしていない。

経営者が品質に主体的に関与する体制については、トップダウンの品質マネジメントを、その実効性を検証する仕組みについては内部監査の目的を参照されたい。なお、経営者が「他社と何が違うのか」を説明できる状態にしておくことは、査察対応の観点からも重要である(査察官は医療機器企業に勤めたことがない)。

まとめ――3つのポイント

  1. 乖離は「文化の問題」ではなく「条文違反」であるISO 13485 5.3/QMS省令第12条は、品質方針が組織の目的に照らして適切であり、品質目標の策定・照査の枠組みとなることを求めている。経営方針と無関係な品質方針は、この条文を満たさない。
  2. 方針が顧客を向いているなら、目標も顧客を向いていなければならないISO 13485 5.4.1/QMS省令第13条第2項は、品質目標が測定可能であり、かつ品質方針と整合していることを要求する。内向きの数値だけが並ぶ目標は整合していない。
  3. 同じ場で、同じ経営者の前で議論する経営方針と品質方針を別々の会議体で決めている限り、整合は起きない。管理監督者照査は、条文上、品質方針・品質目標の改善又は変更の必要性を評価する場である。

Quality Culture を構築すれば、利益も売上も給料も顧客満足度も上がるべき構造になる――ISO 13485 が経営者に託しているのは、この大きな前提そのものである。

参考・出典(一次情報源)

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