品質の悪い会社に、監査に行ってはいけない

品質の悪い会社に、監査に行ってはいけない

~供給者監査の本懐は「指摘」ではなく「学び」にある~
品質の悪い供給者を監査すれば、指摘は面白いように出る。だが、そこから持ち帰れる改善の種は何ひとつない。むしろ悪い例を見続けると感覚が麻痺し、自社の中の同様の問題を見過ごすようになる。ISO 13485:2016 7.4.1 は、供給者の評価・選定・再評価の基準を確立することを求めている。すなわち品質の悪い供給者は、監査に行く前に選定基準の段階で落とすべきなのである。本稿では、供給者監査を「自社の力量向上の場」として捉え直す視点を、購買管理の枠組みから論じる。

指摘が山ほど出る監査に、意味はあるか

品質水準の低い供給者を監査に行けば、不適合はいくらでも見つかる。手順書がない、記録が残っていない、教育訓練の証跡がない――監査員としては報告書を書くのに困らない。

だが、それは見つける方も持って帰る方も「自分のところはまだマシだ」という安堵感だけで、改善の種は何ひとつ持ち帰れない。

むしろ、悪い例を見続けると感覚が麻痺し、自社の中の同様の問題を見過ごすようになる。

そもそも購買管理は何を求めているのか――ISO 13485 7.4

ISO 13485 7.4 は購買管理を要求する。より正確には、7.4 は次の3つの条項から構成されている。

組織は、購買した製品が規定された購買情報に適合することを確実にするための手順を文書化しなければならない。
組織は、供給者の評価および選定の基準を確立しなければならない。その基準は、①組織の要求事項を満たす製品を供給する供給者の能力に基づくこと、②供給者のパフォーマンスに基づくこと、③購買製品が医療機器の品質に及ぼす影響に基づくこと、④医療機器に伴うリスクに見合ったものであること。
組織は、供給者の監視および再評価を計画しなければならない。購買要求事項が満たされなかった場合には、不適合のもたらす影響とリスクに見合った形で供給者に対処しなければならない。評価・選定・監視・再評価の結果および必要な処置の記録を維持しなければならない。
――ISO 13485:2016 7.4.1(購買プロセス)の要求事項の趣旨
条項 表題 要求の骨子 本記事との関係
7.4.1 購買プロセス 供給者の評価・選定基準の確立、監視および再評価の計画、記録の維持 品質の悪い供給者は、ここで落とすのが筋である
7.4.2 購買情報 購買製品の仕様、要求事項、変更の通知に関する取決めなどを規定して伝達する 「何を求めているか」を伝えていない相手を監査で叩くのは筋違いである
7.4.3 購買製品の検証 購買製品が要求事項を満たすことを確実にする検査等を実施。検証の程度は供給者評価の結果に基づき、リスクに見合ったものとする 供給者の品質水準は、受入検証の程度を決める入力である

監査は「選定の代わり」にはならない

  • 7.4.1 が求めているのは、あらかじめ基準を定めて評価・選定することである。監査で不適合を大量に出してから対処するのは、順序が逆である。
  • 供給者監査は「監視および再評価」の一手段であって、選定基準の不備を埋め合わせる手段ではない。
  • 品質水準が要求に届かない供給者と取引せざるを得ない場合、7.4.3 に従って受入検証の程度を上げるのが規格に沿った対応である。監査の回数を増やすことではない。

供給者起因の問題は、決して小さくない

供給者起因の故障・苦情は全体の相当な割合――経験的には三分の一程度――を占めると言われる。

数値についての注記:「約三分の一」という比率は、業界で経験則として語られる目安であり、FDA・PMDA等が公表した統計値ではない。自社の是正処置・苦情のデータを分類し、供給者起因の割合を実測することを勧めたい。その実測値こそが、7.4.1 が求める「供給者のパフォーマンスに基づく基準」の根拠になる。

輸入製造販売業者にとって、最大の供給者は本国である

輸入製販にとって、最大の供給者は本国である。

法律上、本国は供給業者であり、自社が委託元としてそのプロセスを監視・監督する立場にある。

だからこそ、本国に対しても「優れたところを学びに行く」という姿勢が成立する。

一方的に教えに行くのでも、対決しに行くのでもない。

あわせて押さえておきたい点:ISO 13485 は、品質マネジメントシステムに影響する外部委託プロセスについても、組織が適合の責任を保持し、管理を確実にすることを求めている。つまり「本国に任せてあるので当社の管理外である」という整理は成り立たない。この点は「適用除外と非適用の違い――品質マニュアル作成の落とし穴」で詳しく論じている。アウトソースしたプロセスは、適用除外の対象にはならない。
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監査員の基準は、訪問先の水準に引きずられる

百戦錬磨の監査員ほどこの言葉を実感する。

月に二本も三本も監査に出ていると、勘所が研ぎ澄まされてくる。

それは指摘を浴びせ続けたからではない。

優れたやり方に触れ続け、自社のリスクを発見し続けたからである。

逆に、品質の悪い供給者ばかり訪れ続けた監査員は、徐々に基準が下がる。「これくらい当たり前」と思っていた自社のレベルが、実は業界の中でも低かったと気づくのは、優良企業に行った時にしかない。

残念ながら、査察官の側にも同様の「基準の低下」が起こり得るという声を、実務の現場では耳にする。ただしこれは伝聞に基づく指摘であり、当局全体の傾向として一般化できるものではない点は付言しておきたい。基準が訪問先の水準に引きずられるという現象そのものは、監査を行う立場の誰にでも起こり得るということである。

訪問先 監査で得られるもの 監査員に起きること 自社への還元
品質水準の低い供給者 大量の不適合指摘 「自社はまだマシだ」という安堵。基準の低下と感覚の麻痺 ほぼゼロ
自社と同水準の供給者 相互の運用差異の発見 比較軸の獲得。ただし気づきは限定的 中程度
自社より優れた供給者 優れた運用・仕組みの実例 自社の弱点が浮かび上がる。基準の引き上げ 大きい

監査員が持つ「比較軸」がどれほど重要かについては、「転職経験のない人に、内部監査はできない」で詳しく論じている。また、監査を「エラー探し」と取り違えないための整理は「監査でエラーを探していませんか?それは仕事ではない」を参照されたい。

供給者監査の計画時に、まず立てるべき問い

供給者監査の予定を立てる時は、まずこう問うてほしい。

「この訪問先から、自社が学ぶものは何か
――供給者監査を計画する際の最初の問い

学ぶものが無いなら、行く意味はないかも知れない。

  1. 選定基準で落とすべき相手ではないか7.4.1 が求める評価・選定基準に照らして、そもそも取引すべき相手かを問う。監査は選定基準の代わりにならない。
  2. 取引を継続するなら、受入検証の程度は妥当か7.4.3 に従い、供給者評価の結果とリスクに見合った検証の程度を設定する。ここを上げずに監査だけ増やしても、製品品質は守れない。
  3. この訪問で、自社のどのプロセスを見直す材料が得られるか設計移管、工程バリデーション、変更管理、逸脱処理――あらかじめ「学びたいテーマ」を決めて臨む。
  4. 得られた気づきを、自社のCAPAや予防措置に接続できるか監査報告書を供給者に渡して終わりにせず、自社のQMS変更につなげる。ここまでやって初めて監査が投資になる。なお、その際に「教育訓練の徹底」で終わらせてはならないことは「「教育訓練を徹底します」と言う経営者は、必ず再発させる」で論じたとおりである。

供給者改善は監査の副産物に過ぎず、本懐は自社の力量向上にある――この発想の転換が、購買管理の質を一段引き上げる。

まとめ――3つのポイント

  1. 品質の悪い供給者は、監査ではなく選定基準で落とすISO 13485 7.4.1 は供給者の評価・選定基準の確立を求める。監査で大量の不適合を出してから対処するのは順序が逆である。取引せざるを得ないなら、7.4.3 に基づき受入検証の程度を上げるのが筋である。
  2. 監査員の基準は訪問先の水準に引きずられる悪い例ばかり見続ければ感覚が麻痺し、自社の同種の問題を見過ごすようになる。優れた供給者を訪問してこそ、自社の水準が業界の中でどこにあるかが分かる。
  3. 供給者監査の本懐は、自社の力量向上にある「この訪問先から自社が学ぶものは何か」を計画時に問う。輸入製販にとって最大の供給者である本国に対しても、学びに行く姿勢が成立する。外部委託プロセスの責任は、委託しても手放せない。

参考・出典(一次情報源)

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