ASTM F3127による洗浄バリデーション――現行版はF3127-22

洗浄バリ唯一のガイドラインASTM F3127-16

~医療機器製造業者向けの、数少ない洗浄バリデーションガイドライン~
医療機器の製造工程において「洗浄」は品質保証の根幹をなす重要なプロセスである。製造中に付着する異物、残留物、汚染物質を適切に除去しなければ、最終製品の安全性・有効性に直接影響を及ぼしかねない。しかし、こうした製造中の洗浄バリデーションに関して「国際的なガイドラインは何を参照すればよいか」と問われたとき、多くの担当者は答えに窮するのではないだろうか。実は、この領域において医療機器製造業者が拠り所とすべき汎用的な国際ガイドラインは、現時点でも極めて限られる。その代表が ASTM F3127(Standard Guide for Validating Cleaning Processes Used During the Manufacture of Medical Devices)である。

最初に押さえるべき版番号の話

  • 本記事のタイトルにある F3127-16 は2016年に発行された版である。
  • 本規格はその後改訂され、現行版は ASTM F3127-22(2022年)である。ASTM公式ストアでは F3127-16 は旧版(previous version)として扱われている。
  • ASTM規格は改訂・再承認・廃止が随時行われる。実務での参照・購入に際しては必ず最新版を入手すること。

ASTM F3127とは何か

ASTM International(旧称:American Society for Testing and Materials)は、材料・製品・システム・サービスに関する自主的なコンセンサス標準を策定する国際的な標準化団体である。そのASTM Internationalが2016年に発行したF3127-16、およびその改訂版であるF3127-22は、医療機器の製造工程における洗浄バリデーションを専門的に扱った規格である。

本規格が対象とするのは、医療機器の製造業者(manufacturer)が初回使用前の製作・組立段階(initial fabrication and assembly)において実施する洗浄プロセスの妥当性確認である。製造現場での部品洗浄、組立前の洗浄処理、最終製品前の工程洗浄など、製造ラインにおいて実施される洗浄工程が主な適用範囲となる。バリデーションのアプローチ、設備設計、手順と文書化、分析方法、サンプリング、許容限度値の設定といった論点が扱われている。

適用範囲の明示的な除外:ASTM F3127-22はその適用範囲において、再使用可能医療機器(reusable medical devices)および医療機関内で行われる洗浄プロセスを対象外としている。また、本規格に従うことは生物学的安全性試験(ISO 10993シリーズ)の要求を置き換えるものではない。

「唯一」という表現は現在も妥当か

ASTM F3127はしばしば「医療機器製造業者向けの唯一の洗浄バリデーションガイドライン」と紹介される。この表現の妥当性を検証しておきたい。

結論から言えば、「あらゆる医療機器を横断的に対象とする、製造中洗浄バリデーションの汎用ガイドライン」という限定を付す限りにおいて、ASTM F3127はほぼ唯一といえる位置を占める。しかし、隣接する領域には複数の規格・技術報告が存在し、実務では併読が必要である。したがって本稿では、「唯一」ではなく「数少ない」と表現するのが正確であると考える。

区分 対象 参照される主な規格・技術文書
製造業者の製造中洗浄バリデーション(汎用) 製造ライン・工程中洗浄 ASTM F3127-22(F3127-16の改訂版)
製造業者の製造中洗浄(特定カテゴリ) 整形外科インプラントの清浄度 ISO 19227:2018(改訂作業中:ISO/AWI 19227
製造業者が提供すべき再処理情報 再使用可能機器のIFU記載事項 ISO 17664-1:2021(クリティカル/セミクリティカル)、ISO 17664-2:2021(ノンクリティカル)
医療機関による再使用可能機器の再処理 使用後の洗浄・消毒・滅菌 ISO 15883シリーズ(ウォッシャーディスインフェクター)、ANSI/AAMI ST79、AAMI TIR12、AAMI TIR30
再製造単回使用医療機器(R-SUD) 使用済みSUDの再製造工程洗浄 各国規制(日本:厚生労働省の洗浄ガイドライン、米国:FDAのSUD再処理関連ガイダンス)
最終滅菌プロセス 滅菌工程のバリデーション ISO 11135(EO)、ISO 11137(放射線)、ISO 17665(湿熱)等

とりわけ、AAMI TIR12(再使用可能機器の再処理を考慮した設計・試験・表示に関する技術情報報告)およびAAMI TIR30(洗浄プロセスと洗浄性評価の指標・試験法・許容値に関する技術情報報告)は、洗浄性評価マーカと許容値の考え方を提供する文書として実務上よく参照される。日本の厚生労働省が示した再製造単回使用医療機器向けの洗浄ガイドラインでも、内視鏡の洗浄後残留物の許容値としてAAMI TIR30の値が例示されている。

注意:ISO 15883シリーズやANSI/AAMI ST79、AAMI TIRは、あくまで医療機関側の再処理または再処理を前提とした設計・情報提供を対象とした文書であり、製造業者が製造工程で行う洗浄バリデーションとは適用範囲が根本的に異なる。境界線を誤解すると、適用すべきでない規格を参照したり、逆に必要な規格を見落としたりする可能性がある。

FDAのコンセンサス標準としての位置づけ

ASTM F3127の実用的価値を高めているもう一つの要素が、FDAによる認知コンセンサス標準(Recognized Consensus Standard)としての取扱いである。

FDAは、医療機器の審査において、認知コンセンサス標準に準拠していることを示す適合宣言(Declaration of Conformity)の提出を認めている。製造業者が認知コンセンサス標準への適合を宣言した場合、FDAはその部分についての詳細な審査資料の提出を軽減できるため、510(k)やPMAといったFDA申請プロセスの効率化につながる。

すなわち、ASTM F3127に従い、適切な洗浄バリデーションを実施・文書化している場合、FDA申請において製造中洗浄に関する要求事項への対応が適切であることを示す根拠として活用し得る。「これ一つに従えばFDA申請において洗浄バリデーションの観点で問題が生じにくい」という実務上の安心感は、規格が「汎用領域でほぼ唯一」であることと「FDAに認知されている」ことの組み合わせによって初めて成立するものである。

認知状況は必ず自分で確認すること

  • FDAの認知コンセンサス標準の一覧は、認知される版・認知番号・適用範囲(Extent of Recognition)が随時更新される。過去に認知されていた版が新版に差し替えられることも、認知が撤回されることもある。
  • 申請の都度、FDA Recognized Consensus Standards データベースで最新の認知状況と Supplemental Information Sheet を確認されたい。
  • 認知標準の使い方の考え方は、FDAのDivision of Standards and Conformity Assessmentのページに整理されている。

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規格の主要な構成と考え方

ASTM F3127は、洗浄バリデーションを「科学的・リスクベースのアプローチ」で実施することを求めている。主な構成要素は以下のとおりである。

  1. 洗浄プロセスの設計と開発洗浄対象の汚染物質(切削油、グリース、金属粉、研磨剤、離型剤、残留物等)を特定し、それを除去するための洗浄剤・溶媒・洗浄条件(時間、温度、濃度、機械的作用等)を科学的根拠に基づいて設計する。設備設計や水質も検討対象となる。
  2. 受入基準(許容限度値)の設定洗浄後の残留物量の合否判定基準を定量的に設定することが求められる。「目視で清潔であること」という主観的基準ではなく、数値化された基準の設定が必要である。生物学的安全性評価(ISO 10993シリーズ)や毒性学的評価と整合させる考え方が用いられる。
  3. 分析方法とサンプリングの妥当性確認残留物を回収・定量する方法(抽出法、拭き取り法、色素染色法等)と、回収率(recovery)の妥当性を確認する。サンプリング箇所は、洗浄が最も困難な部位(ワーストケース)を根拠をもって選定する。
  4. バリデーションの実施設計した洗浄プロセスが、繰り返し安定して受入基準を満たすことを、適切なサンプリング・分析手法を用いて実証する。複数ロット・複数ランでの再現性確認が基本となる。
  5. ルーティンモニタリングと変更管理バリデート済みの洗浄プロセスを維持するため、定期的なモニタリングと、プロセスや環境が変化した場合の再バリデーション手順を確立する。洗浄剤の変更、設備更新、材質変更、加工方法の変更はいずれも再評価の契機となる。

実務上の留意点:適用範囲の明確化

ASTM F3127を実務に適用する際、まず明確にしなければならないのは適用範囲である。本規格が対象とするのは、あくまで製造業者が製造工程において実施する洗浄バリデーションに限定される。以下は対象外となる領域である。

規格の入手と活用

筆者はASTM F3127-16を自ら購入・研究した経験を持つ。ASTMの規格は一般に有償で提供されており、ASTM公式ストアから購入可能である。

実際に規格本文を参照することで、業界の標準的なアプローチを正確に理解でき、社内の洗浄バリデーション手順書やプロトコルをグローバルスタンダードに沿った形で整備することができる。とりわけ、FDA申請を視野に入れた製造業者にとっては、規格の一次資料を直接確認することが不可欠である。要約・解説資料は理解の補助として有用だが、最終的には一次文書を参照した上で社内文書を整備することが、規制対応の観点から推奨される。

なお、ASTM F3127はISO 13485:2016やQMS省令の要求事項そのものではない。規格と法令要求の関係を整理したうえで用いる必要がある。この点は洗浄バリデーションとISO 13485との関係で解説している。バリデーションという概念が1970年代の米国でどのように生まれたかについては、バリデーションの歴史(1970年代)も参考になるであろう。

まとめ――3つのポイント

  1. 参照するなら最新版を本記事タイトルのF3127-16は2016年版であり、現行版はASTM F3127-22である。ASTM規格は改訂・再承認が随時行われるため、実務では必ず最新版を入手すること。
  2. 「唯一」ではなく「数少ない」あらゆる医療機器を横断する製造中洗浄バリデーションの汎用ガイドラインとしてはほぼ唯一の位置にあるが、ISO 19227(整形外科インプラント)、ISO 17664シリーズ(再処理情報)、AAMI TIR12/TIR30、ISO 15883シリーズ、ANSI/AAMI ST79など、隣接領域の文書は複数存在する。適用場面を見極めて使い分けることが実務では欠かせない。
  3. FDA認知標準としての価値と、その確認義務認知コンセンサス標準への適合宣言はFDA申請の効率化につながる。ただし認知される版・認知番号・適用範囲は更新されるため、申請の都度FDAのデータベースで最新状況を確認すること。「何を参照すればよいかわからない」という状況こそが、かえってコンプライアンス上のリスクを生む。

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