なぜ医療機器には「CEマーキング」が必要なのか

欧州で医療機器を販売しようとする企業が必ず直面する課題、それが「CEマーキング」である。この小さなマークは、欧州単一市場での自由な流通を保障する通行証のような存在であり、医療機器ビジネスにおいては避けて通れない重要な制度である。しかし、日本やアメリカの承認制度とは根本的に異なる「自己適合宣言」という独特の仕組みは、多くの人を戸惑わせる。本コラムでは、CEマーキング制度の本質と、その背景にある欧州独自の規制思想を解説したうえで、2026年8月時点で日本企業が最も知りたい「経過措置はいつまでか」「認証機関は足りているのか」「EUDAMEDはどこまで動いているのか」までを、EUR-Lex の原文と欧州委員会の公表資料で確認しながら整理する。

本稿は2026年8月時点の情報に基づき、旧稿を全面的に改訂したものである。旧稿にあった「欧州域内31カ国」「規制当局は事前に製品を審査しない」「2021年5月に全面適用が開始された」といった記述は、いずれも現在の実態とずれている。訂正の根拠は本文中および末尾の出典一覧に示した。

CEマーキングとは何か

「CE」の意味

CEマーキングの「CE」は、フランス語の「Conformité Européenne」(欧州適合)に由来する。このマークは医療機器に限らず、玩具、電気製品、機械類など、欧州で流通する多くの製品に求められる適合マークである。

医療機器については、医療機器規則(Regulation (EU) 2017/745, MDR)第20条が「本規則の要求事項に適合すると考えられる機器(カスタムメイド機器および治験機器を除く)は、Annex V に示す様式の CE マーキングを付さなければならない」と定めている。同条第2項は、CEマーキングの一般原則が規則 (EC) No 765/2008 第30条に従うことを明示している。

「CEマーキングを貼付し、または貼付させることにより、製造業者は、当該製品が、その貼付を定める関連の共同体調和法令に規定されたすべての適用要求事項に適合していることについて責任を負うことを表明する。」
Regulation (EC) No 765/2008 Article 30(3)(筆者訳。原文は EUR-Lex 参照)

つまり、CEマーキングは「品質が優れていることの証」ではない。「法定要求事項への適合について製造業者が責任を引き受けたことの表示」である。この点を取り違えると、以降の議論がすべてずれる。

どの国で通用するのか――「31カ国」という数え方を訂正する

旧稿は「EU加盟27カ国、EEA加盟3カ国、そしてスイスの計31カ国で自由に販売することができる」と書いていた。この記述は現在では誤りである。

MDRはEU規則であるから、まずEU加盟27カ国に直接適用される。MDRの表題には「(Text with EEA relevance)」(EEAに関連するテキスト)と付されており、EEA協定に取り込まれることでEEA/EFTA3カ国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー)にも及ぶ。ここまでで30カ国である。

問題はスイスである。スイスはこれまで、EU・スイス相互承認協定(MRA)の医療機器章を通じてEUの医療機器単一市場に参加してきた。しかしMDRの適用開始にあわせてこの章を更新する交渉がまとまらず、欧州委員会保健・食品安全総局は2021年5月26日付で次の通知を発出した。

「MRAの提案された修正について合意が得られるまでの間、新医療機器規則の対象となる医療機器についてMRAがもたらしてきた貿易円滑化の効果、すなわち適合性評価結果の相互承認、授権代表者を置く必要がないこと、および技術規制の整合は、本日2021年5月26日水曜日をもって適用されなくなる。」
「すべての新規機器について、スイスの製造業者は、EU市場に機器を上市しようとする他の第三国の製造業者と同様に扱われる。」
European Commission, DG SANTE「Notice to Stakeholders: Status of the EU-Switzerland Mutual Recognition Agreement (MRA) for medical devices」(2021年5月26日)より抜粋・筆者訳

すなわち、スイスは医療機器について2021年5月26日以降、EUから見て第三国である。スイスの適合性評価機関がMRAに基づいて発行した既存の証明書はEUで有効と認められなくなり、スイスの製造業者や、授権代表者をスイスに置いていた第三国製造業者は、EU域内に授権代表者を指名し直す必要が生じた。2026年8月時点でも、欧州委員会がこの通知を撤回・更新した事実は確認できない。

区分 国・地域 MDRとの関係
EU加盟国 27カ国 規則として直接適用される
EEA/EFTA アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー(3カ国) EEA協定への取り込みにより適用される(MDRは「EEA relevance」付き)
スイス 2021年5月26日以降は第三国扱い。MRA医療機器章は更新されていない
「31カ国」という数え方は、旧MRA下で「EU27+EEA3+スイス」を合算したものと推測される。スイスが第三国となった現在、この数字を裏付ける根拠は示せない。したがって本稿では数字を「EU27+EEA/EFTA3」に改めた。なお英国はEUを離脱しており、グレートブリテンおよび北アイルランドの取扱いは別の法的枠組みによる。本稿では扱わない。

「自己宣言」の正確な意味――当局は承認しないが、第三者は関与する

最大の誤解:「自己宣言」=「誰も審査しない」ではない

  • 正しい:加盟国の所管当局(competent authority)は、上市前に製品を審査して承認を与えることをしない。日本の厚生労働大臣承認や米国FDAのPMA承認に相当する行政処分は存在しない。
  • 誤り:「だから第三者は誰も見ない」。クラスI(一部の例外を除く)以外のすべての機器で、認証機関(Notified Body)による適合性評価が法的に必須である(MDR第52条)。
  • さらにクラスIII植込み型機器などについては、認証機関の評価に加えてEUの専門家パネルによる臨床評価協議手続が課される(MDR第54条)。

旧稿は前段で「規制当局は事前に製品を審査しない」「製造業者自身が宣言する」と述べながら、後段では認証機関の審査に触れており、前後で矛盾していた。正確には、「行政庁による事前承認はないが、リスククラスに応じて独立第三者機関が関与する」という二層構造である。

クラス分類と適合性評価ルート

医療機器は、意図した使用目的と固有のリスクに応じてクラスI・IIa・IIb・IIIの4区分に分けられる(MDR第51条)。分類はAnnex VIIIに置かれた22のルールに従って行う。分類が決まると、適用される適合性評価手続(Annex IX〜XI)が決まり、認証機関の関与の要否と深さが決まる。

クラス リスク 適合性評価手続(MDR第52条) 認証機関の関与
クラスI Annex II・IIIの技術文書を作成し、第19条のEU適合宣言書を発行(第52条第7項第1文) 不要
クラスIs / Im / Ir 低(限定要素あり) 滅菌状態で上市する機器(Is)、計測機能を有する機器(Im)、再使用可能な外科用器具(Ir)は、Annex IX 第I章・第III章またはAnnex XI Part Aの手続を追加(第52条第7項第2文) 必要(範囲限定)
滅菌性の確立・維持/計量要求への適合/再使用(洗浄・消毒・滅菌・保守・機能試験および取扱説明)に関する側面に限定
クラスIIa 低〜中 Annex IX 第I章・第III章+機器のカテゴリごとに代表機器1品目以上の技術文書評価。または Annex II・III+Annex XI 第10節もしくは第18節(第52条第6項) 必要
クラスIIb 中〜高 Annex IX 第I章・第III章+一般機器グループごとに代表機器1品目以上の技術文書評価。または Annex X(型式試験)+Annex XI(製品適合検証)(第52条第4項) 必要
クラスIIb 植込み型 原則として全機器について Annex IX 第4節の技術文書評価。ただし縫合糸、ステープル、歯科充填材、歯列矯正具、歯冠、ねじ、くさび、プレート、ワイヤ、ピン、クリップ、コネクタ等は除外 必要(原則、機器ごと)
クラスIII Annex IX(フルQMS+技術文書評価)。または Annex X+Annex XI(第52条第3項) 必要
クラスIIb植込み型の除外リストは、委任規則 (EU) 2026/1359(2026年3月20日採択、2026年6月29日官報掲載)により拡張され、カニューレ、カテーテル、経管栄養チューブ、骨ろう、骨補填材、歯科インプラント、歯科矯正装置などが追加された。同日採択の委任規則 (EU) 2026/1451は、第61条第6項(b)に基づく「臨床試験の実施義務が免除される植込み型機器・クラスIII機器」のリストを同様に拡張している(臨床評価そのものの義務は残る)。旧稿の「クラスIの多くは製造業者の自己評価のみで済む」は、Is/Im/Ir の例外に触れていない点で不正確であった。

高リスク機器には、さらに関門がある

MDR第54条は、次の機器について、第52条の手続に加えて臨床評価協議手続(clinical evaluation consultation procedure)を認証機関に義務づけている。

  • クラスIII植込み型機器
  • 医薬品を投与または除去することを意図したクラスIIb能動機器(Annex VIII 第6.4節・ルール12に規定するもの)

この手続では、認証機関が作成した臨床評価審査報告書をEUの専門家パネルが精査する(Annex IX 第5.1節)。認証機関がパネルの助言に従わなかった場合、欧州委員会が作成する年次概観にその事実が記載される。「誰も見ない」どころか、高リスク機器については三段構えの目が入る仕組みである。

米国(FDA)/欧州(MDR)/日本(薬機法)の制度比較

日本の読者にとって最も理解の助けになるのは、三極の建付けの違いを並べて見ることである。

観点 米国(FDA) 欧州(MDR) 日本(薬機法・QMS省令)
規制当局による
上市前審査
あり。クラスIIは市販前届出 510(k) によるFDAの実質同等性判定、クラスIIIは市販前承認 PMA。新規機器は De Novo なし。加盟国の所管当局は上市前に製品を審査・承認しない あり。高度管理医療機器等は厚生労働大臣の製造販売承認(法第23条の2の5。審査はPMDA)
第三者機関の関与 原則なし(510(k) には Third Party Review Program という限定的制度がある) 中核。クラスIs/Im/Ir以上で認証機関(Notified Body)の適合性評価が必須(第52条)。クラスIII植込み型等はさらに専門家パネル協議(第54条) あり。指定高度管理医療機器等は登録認証機関による認証(法第23条の2の23)。認証基準のある管理医療機器も同様
低リスク機器 クラスIの多くは 510(k) 免除 クラスIは技術文書+EU適合宣言書のみ(第52条第7項) 一般医療機器は製造販売の届出(法第23条の2の12)
分類 3クラス(I/II/III)。品目ごとの規制分類(21 CFR Parts 862–892) 4クラス(I/IIa/IIb/III)。Annex VIIIの22ルールで製造業者が自ら判定 3区分(一般/管理/高度管理医療機器。法第2条第5〜7項)。国際分類(GHTF)に対応するクラスI〜IVを併用
QMS QMSR(21 CFR Part 820。ISO 13485:2016を取り込み、2026年2月2日施行) 第10条第9項でQMSの確立を義務づけ。整合規格は EN ISO 13485:2016 QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)
市販後監視 不具合報告(Medical Device Reporting; 21 CFR Part 803)、市販後調査 第83条でPMSシステムを義務化、第86条でPSUR(クラスIIb・IIIは年1回以上、クラスIIaは2年に1回以上)、第87条で重篤インシデント・FSCAの報告 不具合等報告、感染症定期報告、使用成績評価(法第23条の2の9)
データベース GUDID/AccessGUDID、510(k)・PMAデータベース、MAUDE EUDAMED(第33条)。6モジュール構成。うち4モジュールが2026年5月28日から使用義務化 医療機器データベース、PMDA医療機器情報検索
MDSAP 参加(FDA) 不参加 参加(厚生労働省・PMDA)

EUはMDSAPに参加していない

MDSAP(Medical Device Single Audit Program)の参加規制当局は、オーストラリア(TGA)、ブラジル(ANVISA)、カナダ(Health Canada)、日本(厚生労働省・PMDA)、米国(FDA)の5当局・5市場である。EUはこの5者に含まれていない。したがって、MDSAP監査を受けているからといってMDRの適合性評価が省略できるわけではなく、欧州向けには認証機関によるQMS監査を別途受ける必要がある。MDSAPの中身についてはMDSAPとは何かを参照されたい。

ニューアプローチとその現在地――1985年決議から新法制枠組みへ

1985年5月7日の理事会決議

CEマーキング制度の背景には、「ニューアプローチ」と呼ばれる欧州独自の規制手法がある。その出発点は、1985年5月7日の理事会決議「技術的調和および規格に対するニューアプローチに関する決議」(OJ C 136, 1985年6月4日, pp.1–9)である。

旧稿は「1985年に欧州理事会で採択された」と書いていたが、これを採択したのはEC理事会(Council=閣僚理事会)であって、加盟国首脳会議である「欧州理事会(European Council)」ではない。日本語では紛らわしいが、別の機関である。

従来の規制手法では、製品の詳細な技術仕様を法律で定めていた。しかし技術革新の速い分野では、法律で技術仕様を細かく規定するとすぐに時代遅れになる。そこで欧州は、法律では安全性・性能に関する要求事項のみを規定し、具体的な技術仕様は欧州規格に委ねるという設計を採った。

2008年の新法制枠組み(NLF)への置き換え

ニューアプローチは1985年で止まっているわけではない。2008年7月9日、EUは次の2つの法令を採択し、製品規制の共通土台を刷新した。両者はあわせて新法制枠組み(New Legislative Framework, NLF)と呼ばれる。

  • 規則 (EC) No 765/2008(認定および市場監視の要求事項。OJ L 218, 2008年8月13日, pp.30–47)。CEマーキングの一般原則は同規則第30条にある
  • 決定 No 768/2008/EC(製品販売に関する共通枠組み。OJ L 218, 2008年8月13日, pp.82–128)。適合性評価の「モジュール」の道具箱と、製造業者・輸入業者・流通業者の責務の標準文言を示す

MDRの2025年12月の改正提案も、「本提案は、既存枠組みの主要な特徴、とりわけ分権的アプローチと、他のEU新法制枠組みに基づく法令と同様の適合性評価手続における認証機関の関与の上に構築される」と述べており、MDRがNLFの系譜にあることを明言している。

整合規格と「一般安全性及び性能要求事項」

MDR第8条第1項は、次のように定める。

「欧州連合官報にその参照が公示された関連整合規格またはその関連部分に適合する機器は、当該規格またはその部分がカバーする本規則の要求事項に適合するものと推定される。」
Regulation (EU) 2017/745 Article 8(1)(筆者訳)

同項第2段は、この適合推定が製品そのものだけでなく、品質マネジメントシステム、リスクマネジメント、市販後監視システム、臨床試験、臨床評価、市販後臨床フォローアップ(PMCF)といったシステム/プロセス要求にも及ぶことを明記している。EN ISO 13485:2016 や EN ISO 14971 が実務で重視されるのはこのためである。

用語について。旧稿は「基本要件(Essential Requirements)」と書いていたが、これは旧医療機器指令(MDD 93/42/EEC)の用語である。MDRでは Annex I の「一般安全性及び性能要求事項(General Safety and Performance Requirements, GSPR)」に置き換わっている。技術文書上も「Essential Requirements Checklist」ではなく「GSPRチェックリスト」を作ることになる。

PIPスキャンダル――何が起き、何が起きなかったのか

事実関係

フランスの製造業者 Poly Implant Prothèse(PIP)社が、適合性評価のために提出した文書で申告した医療用グレードのシリコーンとは異なる低品質の工業用シリコーンを不正に使用していたことが、フランス保健当局の調査で判明した。欧州委員会の科学委員会 SCENIHR の意見書は、事実関係を次のように記している。

「フランス保健当局の調査結果によれば、フランスの製造業者(Poly Implant Prothèse)は、適合性評価のために提出した文書において申告したもの(医療用グレードのシリコーン)とは異なる低品質材料(工業用シリコーン)を不正に使用していた。同社は2010年3月に乳房インプラントの製造を停止した。」
「これらのインプラントは、世界全体で約40万人の女性に使用されたと推定される。」
SCENIHR「The safety of Poly Implant Prothèse (PIP) Silicone Breast Implants」(2012年2月意見書 第1章 BACKGROUND、および2014年5月12日承認の更新意見書)より抜粋・筆者訳

数値の扱いを正す

旧稿は「全世界で40万人以上(フランスだけで約3万人)の女性に健康被害をもたらした」と書いていたが、これは出典の読み違いである。正確には次のとおりである。

  • 約40万人という数字は、当該インプラントを「使用された」と推定される人数であって、健康被害を受けた人数ではない。
  • 約3万人という数字は、フランスの規制当局 ANSM が3万人のPIPインプラント装着者を対象に行った報告の母集団である。同報告では、16.8%が少なくとも1つのインプラントの破損を経験し、9%が少なくとも1つの有害事象を経験したとされる。
  • SCENIHRは、PIPインプラントの10年後の破損確率を約25〜30%(他のシリコーンインプラントは10年後2〜15%と報告されている)と推定した一方で、破損したPIPインプラントが他社製の破損インプラントより大きな健康リスクをもたらすという信頼できる証拠はないとも結論している。
本稿では、裏取りできる範囲に記述を限定し、「40万人以上に健康被害」という表現は採用していない。なお、企業名(PIP社)は欧州委員会の公開文書に記載があるため記載したが、個人名は記載しない。

制度の脆弱性が露呈した

この事件が衝撃的だったのは、問題の製品がCEマーキングを取得していた点である。適合性評価を行った認証機関の監査が不正を検出できなかったこと、市販後監視の網の目が粗かったこと、加盟国間で認証機関の指定・監督の水準がばらついていたことなど、制度上の弱点が一挙に露呈した。欧州はこれを契機に、まず旧指令の枠内で認証機関の指定・監督を強化し、続いて指令から規則への全面的な作り替えへと進むことになる。

指令から規則へ――MDRの正確な年表

採択日・掲載日・適用開始日は分けて理解する

旧稿は「2017年に採択され、2021年5月に全面適用が開始された」と一息に書いていたが、実務ではこれらを分けて押さえておく必要がある。

出来事 日付 根拠
採択 2017年4月5日 Regulation (EU) 2017/745
官報掲載 2017年5月5日(OJ L 117, pp.1–175) 同上
発効 2017年5月25日(掲載後20日目) 第123条第1項
当初の適用開始予定日 2020年5月26日 第123条第2項(原文)
1年延期 2020年4月23日採択/同年4月24日掲載(OJ L 130, p.18) 規則 (EU) 2020/561。COVID-19により延期
実際の適用開始日 2021年5月26日 第123条第2項(改正後)
認証機関関連条文の先行適用 2017年11月26日(第35〜50条、第101条・第103条)/2018年5月26日(第102条) 第123条第3項(a)〜(c)
旧指令の廃止 2021年5月26日(一部を除く) 第122条

すなわち、MDRは当初2020年5月26日に適用開始される予定であり、COVID-19を理由に規則 (EU) 2020/561 によって1年延期された。この経緯を落とすと、後述の経過措置延長の議論が理解しにくくなる。

MDRで何が変わったか

臨床評価と「同等性」

旧稿は「従来は既存製品との同等性を示せば簡易的な評価で済んだが、MDRでは多くの製品で臨床試験データが必要となった」と書いていた。方向としては正しいが、条文に即して述べるとこうなる。

  • 臨床評価は第61条とAnnex XIV Part Aに従って計画・実施・文書化しなければならない(第61条第1項)。
  • 文献に基づく評価が許されるのは、対象機器がデータの帰属する機器とAnnex XIV 第3節に従って同等(equivalent)であることが示された場合に限られる(第61条第3項(a))。
  • Annex XIV 第3節は、同等性の立証にあたり技術的・生物学的・臨床的の3側面すべてを考慮すべきことを列挙したうえで、「これらの特性は、機器の安全性および臨床性能に臨床的に有意な差が生じない程度に類似していなければならない」「同等性の検討は適切な科学的正当化に基づかなければならない」「同等性を主張する機器のデータに十分なレベルでアクセスできることを明確に示さなければならない」と要求する。
  • 植込み型機器およびクラスIII機器では、原則として臨床試験の実施が必要である(第61条第4項)。例外は、同一製造業者が既に上市している機器の改変であり、同等性が認証機関に承認され、かつ既上市機器の臨床評価で十分であることが示される場合等に限られる。
  • 他社製機器との同等性に依拠する場合は、両製造業者間で技術文書への継続的なフルアクセスを明示的に認める契約が必要である(第61条第5項)。

最後の要件が、実務上とりわけ重い。「競合他社の技術文書に継続的にアクセスできる契約」を結べる例はまれであり、事実上、他社機器との同等性ルートは閉じられたに等しい。これがMDR移行で多くの製品が姿を消した最大の技術的理由の一つである。

UDIによるトレーサビリティ

MDRは第27条で機器固有識別(UDI)システムを、第28条でUDIデータベースを規定する。UDIの仕様そのものはAnnex VI Part Cに、UDIデータベースに提出すべき情報は Annex VI Part B に置かれている。第27条第1項は、UDIがUDI-DI(機器識別子)とUDI-PI(製造識別子)から構成されることを定めている。

UDIキャリアの表示義務(第27条第4項)は、リスククラスごとに段階適用された。第123条第3項(f)(g)によれば、植込み型機器・クラスIIIは2021年5月26日、クラスIIa・IIbは2023年5月26日、クラスIは2025年5月26日から。機器本体への直接表示が求められる再使用可能機器については、それぞれ2年ずつ後ろ倒しの2023年/2025年/2027年5月26日である。

UDIの仕組みそのもの(UDI-DI/UDI-PI、発行機関、GS1・HIBCC・ICCBBA、米国GUDIDとの関係など)については、姉妹記事UDI(機器固有識別子)とは何かで詳しく扱っている。本稿では「MDRがUDIを要求している」という接続にとどめる。

市販後監視の強化

MDR第83条は、機器ごとに、リスククラスに応じた市販後監視(PMS)システムを計画・確立・文書化・実施・維持・更新することを義務づけ、これを第10条第9項のQMSの不可分の一部と位置づけた。第86条は定期的安全性最新報告(PSUR)を求め、クラスIIb・IIIは年1回以上、クラスIIaは必要に応じて少なくとも2年に1回の更新を課す。第87条は重篤インシデントと現場安全是正措置(FSCA)の報告を定める。

規制遵守責任者(PRRC)

MDR第15条は、製造業者に対し、組織内に規制遵守責任者(Person Responsible for Regulatory Compliance, PRRC)を少なくとも1名確保することを義務づけた。学位+規制業務1年以上、または規制業務4年以上の実務経験といった資格要件が条文に書き込まれている。旧指令にはなかった要求であり、日本企業が見落としやすい点である。

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【2026年8月時点】MDRの経過措置はいつまでか

ここが、いま日本企業が最も知りたい論点である。MDRの経過措置は延長されており、しかも「延長すれば自動的に使える」ものではない。期限はクラス別に分かれ、かつ2024年に期限が到来した条件を満たしていることが前提になる。

なぜ延長されたのか

欧州委員会は2025年12月の改正提案(COM(2025) 1023 final)の中で、延長の理由を次のように整理している。旧機器にも及ぶ大幅に厳格化された要求、認証機関の限られた認証キャパシティ、そして製造業者側の準備不足が重なり、供給不足と重要機器の市場からの消失のリスクが生じたためである。同文書は「MDRおよびIVDRが施行された当時、指定された認証機関の数は非常に少なく、これが強制的な市販前認証プロセスにおけるボトルネックを生んだ」とも述べている。

クラス別の期限(規則 (EU) 2023/607 による延長後)

延長は規則 (EU) 2023/607(2023年3月15日採択、2023年3月20日官報掲載・即日発効。OJ L 80, pp.24–29)によって行われ、MDR第120条を書き換えた。現行の第120条第3a項・第3b項は次のとおりである。

対象 上市・使用開始が認められる期限 条文
すべてのクラスIII機器、およびクラスIIb植込み型機器
(ただし縫合糸、ステープル、歯科充填材、歯列矯正具、歯冠、ねじ、くさび、プレート、ワイヤ、ピン、クリップ、コネクタを除く)
2027年12月31日 第120条第3a項(a)
上記以外のクラスIIb機器クラスIIa機器、および滅菌状態で上市されるクラスI機器または計測機能を有するクラスI機器 2028年12月31日 第120条第3a項(b)
MDD下では認証機関の関与が不要で、2021年5月26日より前に適合宣言書を作成しており、MDR下では認証機関の関与が必要となる機器(いわゆるアップクラス機器 2028年12月31日 第120条第3b項
クラスIIIカスタムメイド植込み型機器(認証機関の証明書なしでの上市) 2026年5月26日(既に経過) 第120条第3f項

期限を使うための「条件」――こちらの方が重要である

第120条第3c項は、上記の期限まで上市できるのは次の条件がすべて満たされる場合に限ると定めている。とりわけ(d)と(e)の日付は既に過ぎており、これを満たしていない製品は、期限を待たずに上市できなくなっている。

  1. 旧指令への継続的適合当該機器が、AIMDD(90/385/EEC)またはMDD(93/42/EEC)に引き続き適合していること。
  2. 設計・使用目的の重要変更がないこと設計および意図する使用目的に重大な変更がないこと。
  3. 許容できないリスクがないこと患者・使用者・その他の者の健康もしくは安全、または公衆衛生保護の他の側面に対して許容できないリスクを示さないこと。
  4. QMSの整備(期限:2024年5月26日)2024年5月26日までに、製造業者が第10条第9項に従うQMSを整備していること。
  5. 申請と書面契約(期限:2024年5月26日/2024年9月26日)2024年5月26日までに、製造業者または授権代表者が Annex VII 第4.3節第1段に従って認証機関に正式な申請を提出し、かつ2024年9月26日までに、認証機関と製造業者が Annex VII 第4.3節第2段に従う書面契約に署名していること。

「2027年末まで大丈夫」と考えるのは危険である

  • 2027年12月31日/2028年12月31日という期限は、2024年5月26日・9月26日の2つの関門を通過した製品にのみ与えられる。通過していない製品は、既に上市できない。
  • 第120条第2項により、2017年5月25日以降に発行され2021年5月26日時点で有効だった旧指令証明書は、記載された有効期限を過ぎても第3a項の日付まで有効とみなされる。ただし2023年3月20日より前に失効していた証明書については、失効日より前に認証機関との書面契約が締結されているか、加盟国当局が第59条第1項の適用除外を認めるか第97条第1項に基づき手続を求めた場合に限られる。
  • 第120条第3d項により、経過措置適用中の機器であっても、市販後監視・市場監視・ビジランス・経済事業者および機器の登録については、旧指令ではなくMDRの要求が適用される。「旧指令のままでよい」わけではない。
  • 第120条第4項により、期限までに適法に上市された機器は、その後も引き続き市場で入手可能とし、または使用を開始することができる。「販売期限」と「上市期限」を混同しないこと。
2024年以降のMDR改正のうち、規則 (EU) 2024/1860(2024年6月13日採択、2024年7月9日官報掲載)は、EUDAMEDの段階的稼働、供給の中断・中止の事前通知義務(新設の第10a条)、および体外診断用医薬品規則(IVDR)の経過措置延長を扱うものであり、MDR第120条のクラス別期限そのものは変更していない。IVDR側の期限はクラスD が2027年12月31日、クラスCが2028年12月31日、クラスBおよび滅菌クラスAが2029年12月31日である。本稿執筆時点(2026年8月)で、MDRの2027年/2028年という期限を変更する改正法は確認できない。

認証機関(Notified Body)は足りているのか

指定数

欧州委員会の改正提案 COM(2025) 1023 final(2025年12月16日)は「現在までに、MDRの下で51の認証機関が、IVDRの下で19の認証機関が指定されている」と記している。より新しい数字としては、DG SANTE が委託する監視調査の第20回認証機関サーベイ(データ基準日2026年2月28日、2026年7月2日公表)が、MDRまたはIVDRの下で指定された認証機関は53機関、うちMDR指定は52機関、IVDR指定は19機関(回答率100%)としている。

申請と証明書の実数

指標(MDR、指定時点から2026年2月28日まで累計) 件数
認証申請の総数 31,902件(小データセット)/32,898件(Annex別・中データセット)
署名済みの書面契約 20,698件
発行された証明書の総数 18,010件
うちQMS証明書 12,036件(うち新規のみ6,373件)
うち製品証明書 6,203件(うち新規のみ3,291件)
拒否された申請 989件
既発行MDR証明書の変更申請 9,724件(上記申請総数に含まれる)

出典:Austrian National Public Health Institute (GÖG)/Areté/Civic Consulting「Study supporting the monitoring of the availability of medical devices on the EU market ― Survey results of the 20th NB survey (MDR/IVDR)」(データ基準日2026年2月28日、2026年7月2日公表、欧州委員会 DG SANTE 委託。回答率100%=53/53機関)。調査主体・時点・母集団は必ずセットで引用すること。

所要期間と申請品質

  • 申請提出から書面契約署名までは、65%のケースで2カ月未満である。
  • 書面契約署名から新規証明書発行までは、QMS証明書で62%の認証機関が13〜18カ月、30%が6〜12カ月と回答している。QMS+製品証明書ではさらに長く、51%が13〜18カ月、31%が19〜24カ月である。
  • 「提出書類の50%超が(内容審査に入る前の段階で)追加情報の求めなしに完備していた」と回答した認証機関は、MDR指定52機関のうち14機関にとどまる。申請の不備は依然として多い。
  • 申請拒否の主な理由は「認証機関の指定範囲外」(30%)と「申請書類の不備」(25%)である。「認証機関のリソース不足」を理由とするものは30件と少数である。

この数字は日本企業にとって実務的な含意を持つ。すなわち、ボトルネックの相当部分は「認証機関が忙しいから」ではなく、「申請の中身が整っていないから」である。指定範囲の事前確認と技術文書の完備が、そのまま所要期間の短縮につながる。

2026年5月の新しい実施規則

欧州委員会は2026年5月4日、実施規則 (EU) 2026/977(同年5月5日官報掲載)を採択した。これはMDR・IVDRの下で指定された認証機関が行う適合性評価活動について、統一的な品質マネジメント要求と手続要求を定めるものである。見積り時に製造業者から取得すべき情報と見積りの記載事項、審査段階ごとの上限期間、再認証時の審査の重点(市販後監視データ・変更・技術水準の進展に集中させる)、期間遵守状況のモニタリングと年次公表などが規定されている。適用は原則2027年2月25日からであり、一部規定はさらに後ろの日付から適用される。

EUDAMEDはどこまで動いているのか

MDRは第33条で欧州医療機器データベース(EUDAMED)を規定し、6つの電子システム(モジュール)から構成することとしている。長らく全面稼働が遅れていたが、規則 (EU) 2024/1860 が「全モジュール完成を待たず、稼働したものから順次義務化する」段階的ロールアウト方式を導入したことで、状況が動いた。

2025年11月26日、欧州委員会は決定 (EU) 2025/2371(同年11月27日官報掲載)を採択し、4つの電子システムが機能要件を満たして稼働状態にあることを宣言した。MDR第123条第3項(d)の「通知の公示から6カ月後」という規定により、これら4モジュールは2026年5月28日から使用が義務化された。

モジュール 状況(2026年8月時点)
アクター登録 2026年5月28日から義務化(2020年12月から任意運用)
UDI/機器登録 2026年5月28日から義務化(2021年10月から任意運用)
認証機関・証明書 2026年5月28日から義務化(2021年10月から任意運用。精査手続・臨床評価協議手続を除く)
市場監視 2026年5月28日から義務化(所管当局および欧州委員会向け)
臨床試験・性能試験 開発中。義務化と同時にリリース予定
ビジランス・市販後監視 開発中。義務化と同時にリリース予定

関連する期限として、MDR第123条第3項(e)は、通知公示から12カ月以内に製造業者が第29条に基づく情報をEUDAMEDに入力することを、同項(ea)は18カ月以内に認証機関が第56条第5項に基づく証明書情報を入力することを求めている。2025年11月27日の公示を起点とすれば、それぞれ2026年11月27日、2027年5月27日にあたる。

上表の「臨床試験・性能試験」は Clinical investigations and performance studies モジュールを指す。稼働していない2モジュールについては、MDR第123条第3項(d)の経過規定により、当面は旧指令の対応規定(ビジランス報告、臨床試験、機器・経済事業者の登録、証明書通知に関するもの)が引き続き適用される。

実務的な導入プロセス

  1. ステップ1:製品の分類確認Annex VIIIの22ルールに従い、クラスI/IIa/IIb/IIIのいずれに該当するかを判定する。判定は製造業者が行うが、製造業者と認証機関の間で争いが生じた場合は、製造業者の登録事業所所在加盟国の所管当局が決定する(第51条第2項)。分類を誤ると適合性評価ルートごと誤る。認証機関の申請拒否理由の第2位が「製品の適格性判断・機器の分類の誤り」(85件)であることを踏まえ、ここに時間をかけるべきである。
  2. ステップ2:技術文書の作成Annex IIおよびAnnex IIIに定める技術文書を作成する。設計、製造方法、Annex I第3節に基づくリスクマネジメント、GSPRへの適合の立証、臨床評価報告書(CER)、市販後監視計画、PMCF計画などが含まれる。MDR施行後、この文書に求められる内容と粒度は大幅に増えた。
  3. ステップ3:適合性評価クラスに応じて、自己適合宣言のみ(クラスI)か、認証機関による評価(クラスIs/Im/Ir以上)かが決まる。認証機関の評価が必要な場合は、QMS審査(Annex IX 第I章など)と技術文書の評価(同 第4節など)の両方が行われる。クラスIII植込み型機器等では、さらに第54条の臨床評価協議手続が加わる。認証機関の指定範囲(NANDOに公示されている)に自社製品が含まれているかを、申請前に必ず確認すること。
  4. ステップ4:EU適合宣言書の作成とCEマーキングの貼付すべての要求事項を満たしたら、第19条およびAnnex IVに従いEU適合宣言書を作成する。宣言書は継続的に更新しなければならない。CEマーキングは上市前に貼付し、認証機関が関与する場合はその識別番号を併記する(第20条第5項)。識別番号は、CEマーキングへの適合を謳う販促資料にも表示しなければならない。あわせて、EU域外の製造業者は授権代表者を指名し(第11条)、PRRCを確保し(第15条)、EUDAMEDに登録する。

日本企業が直面する課題

文化的な違いからくる戸惑い

日本企業がCEマーキング取得で苦労する理由の一つは、「自己適合宣言」という概念に対する感覚の違いである。日本では、規制当局による承認がなければ「正式に認められた」とは考えにくい。しかし欧州では、「製造業者が最も自社製品を理解しているのだから、適合性の一次的判断も製造業者が行うべきである。そのかわり責任も製造業者が負う」という考え方が根底にある。この違いを理解することが第一歩である。

ただし前述のとおり、これは「誰も見ない」という意味ではない。「行政庁が事前承認しない」ことと「第三者の目が入らない」ことは別である。この2つを区別できていないと、認証機関との対話で必ず躓く。

EU域内の代理人と拠点の問題

EU域外の製造業者は、EU域内に単一の授権代表者(Authorised Representative)を指名しなければ、EU市場に機器を上市できない(第11条第1項)。指名は授権代表者による書面での受諾があってはじめて有効となる。スイスが第三国となったことで、従来スイスに代表者を置いていた日本企業は、EU域内への切り替えを迫られた。

MDSAPは欧州には効かない

日本企業の中には、MDSAP監査を受けているためQMS監査は一巡したと考える向きがある。しかし前述のとおり、EUはMDSAPの参加規制当局ではない。欧州向けには、指定された認証機関によるMDRベースのQMS審査を別途受ける必要がある。ISO 13485:2016をベースにしている点は共通だが、MDR固有の要求(PRRC、PMS計画、PSUR、PMCF、UDI、EUDAMED登録など)は別途作り込みが要る。ISO 13485と米国QMSRの差異についてはISO13485:2016とQMSRとの差異を、適用除外・非適用の考え方については適用除外と非適用の違いを参照されたい。

継続的な対応が必要になる

CEマーキングは一度取得すれば終わりではない。市販後監視(第83条)、PSURの作成・更新(第86条)、重篤インシデント報告(第87条)、技術文書の更新、整合規格の改訂対応、証明書の更新審査といった作業が継続的に発生する。2024年7月に追加された第10a条により、供給の中断・中止が患者や公衆衛生に重大な危害またはそのリスクをもたらしうる場合、原則として中断の6カ月前までに通知する義務も加わった(2025年1月10日から適用)。

旧稿には「多くの企業が対応に苦慮している」という記述があったが、調査主体・母集団の示されない「多く」という表現は本稿では用いていない。かわりに、認証機関サーベイの実数(申請32,898件に対し証明書18,010件、新規QMS証明書発行に13〜18カ月を要すると回答した認証機関が62%、提出書類の50%超が完備していたと回答した認証機関が52機関中14機関)と、欧州委員会自身が改正提案で認めている「認証手続の予見可能なタイムラインの欠如」「実際のリスクに比して過大な要求」という評価を示した。

「世界で最も厳しい規制」という評価について

旧稿の結びは「現在の欧州医療機器規制は、世界で最も厳しいものの一つとなっている」であった。これは評価であって事実ではない。より正確に言えば、MDRは臨床エビデンスの水準と第三者関与の深さを大幅に引き上げた規制であり、そのことがしばしば「世界で最も厳しい」と評される、ということである。

欧州委員会自身の評価はむしろ逆方向を向いている。2025年12月16日に提出されたMDR・IVDRの簡素化に関する改正提案(COM(2025) 1023 final)は、「経過措置の度重なる延長は不足リスクを緩和する短期的な解決にすぎず、MDRおよびIVDRの実施における構造的な問題を解決できなかった」と述べ、認証手続の予見可能性とコスト効率の改善、行政負担の軽減を提案の主目的に掲げている。2024年には対象を絞った評価(targeted evaluation)が実施され、規制枠組みの欠点が特定された。「厳しくした結果、機器が市場から消える」という副作用を、EU自身が問題として認識している段階にあると見るのが2026年時点の正確な現在地であろう。

COM(2025) 1023 final は提案であり、通常立法手続により欧州議会と理事会が採択しなければ法にならない。2026年8月時点で成立していないため、本稿では内容の詳細には立ち入らない。実務上は「経過措置の期限は現行のまま(2027年12月31日/2028年12月31日)として計画を立て、簡素化提案の審議状況を追跡する」のが妥当である。

まとめ――押さえるべき6点

  1. CEマーキングは「品質保証マーク」ではない法定要求事項への適合について製造業者が責任を引き受けたことの表示である(MDR第20条、規則 (EC) No 765/2008 第30条第3項)。
  2. 「自己宣言」=「誰も審査しない」ではない加盟国当局による上市前承認はないが、クラスIs/Im/Ir以上では認証機関の適合性評価が必須であり(第52条)、クラスIII植込み型等ではさらに専門家パネルの協議手続が入る(第54条)。
  3. 通用範囲はEU27+EEA/EFTA3スイスは2021年5月26日以降、医療機器についてEUから見て第三国である。「31カ国」という数え方は現在では根拠を示せない。
  4. 経過措置はクラス別に2027年末/2028年末ただし2024年5月26日(QMS整備・申請)と2024年9月26日(書面契約署名)という条件を満たしていることが前提である。条件を満たさない製品は既に上市できない。
  5. ボトルネックは「認証機関の数」だけではないMDR指定は52機関(2026年2月28日時点)。申請32,898件に対し証明書18,010件。ただし申請拒否理由の第1位は「認証機関の指定範囲外」、第2位は「申請書類の不備」である。準備の質が期間を左右する。
  6. EUDAMEDは4モジュールが稼働・義務化2026年5月28日から、アクター登録・UDI/機器登録・認証機関/証明書・市場監視の4モジュールの使用が義務となった。残る2モジュールは開発中である。

日本企業にとって、CEマーキングは単なる手続ではなく、欧州の規制思想を理解し、継続的な品質管理体制を構築する機会である。制度の建付けと現在地を正確に把握することが、グローバルな医療機器ビジネスの成功への鍵となるであろう。

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参考・出典(一次情報源)

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