設計管理と設計開発の違いとは

医療機器業界で働く方であれば「設計管理」という言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、この「設計管理」と「設計開発」の違いを明確に説明できる人は意外と少ない。結論を先に述べれば、規制されているのは「設計開発」ではなく「設計管理」である。どのような回路を組むか、どのようなアルゴリズムを選ぶかは企業の専門性に委ねられているが、それをどう計画し、どう検証し、どう記録するかは法的要求事項として定められている。本稿では、この2つの概念の違いを、21 CFR Part 820(QMSR)ISO 13485:2016QMS省令の条文に対応づけながら、初心者にも分かりやすく解説していく。

「設計開発」と「設計管理」――似て非なる2つの概念

まず、2つの言葉が指しているものを一覧で並べてみる。この対比が、本稿の問いに対する直接の回答である。

観点 設計開発(Design and Development) 設計管理(Design Control)
何を指すか 製品の仕様を決め、それを実現する技術的活動そのもの 設計開発というプロセスを計画・管理・記録し、品質を保証する仕組み
性格 創造的・技術的な「活動」 体系的・手続的な「プロセスの管理方法」
担い手 設計者・エンジニア 組織(品質保証部門を含む全社的な仕組み)
具体例 回路図の作成、機構設計、ソフトウェアのコーディング、試作、性能試験 設計開発計画書の策定、デザインレビューの開催と記録、検証・バリデーションの実施要領の文書化、変更管理
規制の対象か 技術的内容そのものは規制対象ではない 法的要求事項として明確に規制される
根拠条文 ―(企業の裁量) ISO 13485:2016 7.3/21 CFR 820.10(c)/QMS省令 第30条〜第36条の2
査察で見られるもの 手順書と、それに従って残された記録の整合

設計開発とは何か

設計開発とは、製品の仕様を決定し、それを実現するための技術的な活動そのものを指す。具体的には以下のような活動が含まれる。

  • 製品の機能仕様の決定
  • 回路図や機械図面の作成
  • ソフトウェアのプログラミング
  • 試作品の製作
  • 性能試験の実施

これらは、エンジニアとしての専門的な知識と経験に基づいて行われる創造的な活動である。どのような設計手法を用いるか、どのような図面の書き方をするかといった技術的な選択は、基本的に各企業のプロフェッショナルな判断に委ねられている。

なお、FDAの産業界向け教育資料(CDRH Learn)は、設計開発を「ある対象に対する要求事項を、その対象に対するより詳細な要求事項へと変換する一連のプロセス」と説明し、これはISO 9000:2015の定義に拠るとしている。「設計」「開発」「設計開発」の3語は、しばしば同義に使われる。

設計管理とは何か

一方、設計管理は、設計開発のプロセスを適切に管理・記録し、品質を保証するための体系的な仕組みである。設計開発という「活動」に対して、設計管理は「プロセスの管理方法」と言える。

重要なのは、医療機器規制において厳格に規制されているのは、この「設計管理」の方であるという点だ。設計開発の技術的な内容そのものは規制対象ではないが、それをどのように管理するかは法的要求事項として定められている。

この記事の核心――規制されているのは設計開発ではなく設計管理である

  • 当局は「この回路方式を採用せよ」「この材料を使え」とは言わない。技術的選択は企業の専門性に委ねられている。
  • 当局が求めるのは、あらかじめ決めた手順に従って設計開発を進め、その証跡を残したことである。
  • したがって査察で問われるのは「良い設計かどうか」ではなく、「自分で定めた手順どおりに進め、記録が残っているか」である。
  • 裏を返せば、手順書に書いていないことは求められないが、手順書に書いたことは必ず守らなければならない。過剰に厳しい手順書を作ると、自らの首を絞めることになる。

なぜ設計管理が法的要求になったのか――「44%」という数字の出どころ

設計管理が米国で法的要求事項になった経緯は、明確な数字で裏付けられている。

FDAは1990年5月22日付の連邦官報(55 FR 21108)で、1983年10月から1989年9月までの6年間に発生した医療機器回収を分析した報告書「Device Recalls: A Study of Quality Problems」の公表を告知した。1996年10月7日に公布された品質システム規則(QSR)最終規則の前文(61 FR 52602)は、その結論を次のように記している。

FDAは、この6年間に自主回収に至った品質問題のおよそ44パーセントが、当該機器に設計として作り込まれた誤りまたは欠陥に起因しており、適切な設計管理(design controls)によって防止できた可能性があることを見いだした。
――61 FR 52602(1996年10月7日、QSR最終規則前文)より要旨。原文は “approximately 44 percent of the quality problems that led to voluntary recall actions during this 6-year period were attributed to errors or deficiencies that were designed into particular devices and may have been prevented by adequate design controls.”
数字の読み方に注意:これは「回収の44%」ではなく、「自主回収に至った品質問題のうち44%」である。調査主体はFDA、対象期間は1983年10月〜1989年9月の6年間、母集団は当該期間の自主回収に係る品質問題である。孫引きで「医療機器回収の44%は設計不良」と紹介されることがあるが、原文はそこまで言っていない。

この分析結果を受け、1990年の医療機器安全法(Safe Medical Devices Act of 1990)がFDAに対し、医療機器のcGMP要求事項に設計管理を追加する権限を与えた。そして1997年6月1日、設計管理を含む品質システム規則(QS Regulation)が施行された。設計管理は、こうして「思想」ではなく「実測データに基づく制度」として導入されたのである。

設計管理を定める規制は、いま、どうなっているか

ここは元記事から最も大きく書き換えた部分である。従来「ISO 13485やFDAの21 CFR Part 820では」と並列で語られてきた両者の関係は、2026年2月2日をもって根本的に変わった。

QMSR――Part 820 は ISO 13485:2016 を「引用組み込み」している

FDAは2024年2月2日、医療機器品質システム規則改正最終規則(89 FR 7496)を公布した。この規則により21 CFR Part 820はQuality Management System Regulation(QMSR)へと改称され、2026年2月2日に施行された

QMSRの構造は次のとおりである。

  • §820.7(Incorporation by reference)――ISO 13485:2016 および ISO 9000:2015 の第3章(用語及び定義)を引用組み込み(incorporation by reference)する。
  • §820.10(a)――製造業者は、ISO 13485の適用される要求事項に適合する品質マネジメントシステムを文書化しなければならない。
  • §820.10(c)――クラスII・クラスIII、および所定のクラスIの機器の製造業者は、ISO 13485の「7.3 設計開発」およびその細分箇条の要求事項に適合しなければならない。

そして重要なのは、旧QSRの設計管理条文であった §820.30(Design controls)は、条文そのものが消滅したという点である。現行のPart 820を確認すると、Subpart B の該当箇所は次のようになっている。

§§ 820.20-820.30 [Reserved](留保)
――21 CFR Part 820(現行)Subpart B

「ISO 13485やFDAの21 CFR Part 820では」という並列表現はもう使えない

  • QMSR施行後、両者は並列の関係ではないISO 13485:2016 が実体的な要求事項を定め、21 CFR Part 820 がそれを引用組み込みしているという入れ子の関係にある。
  • したがって「Part 820 §820.30(j) が設計履歴ファイルを要求している」といった記述は、2026年2月2日以降は現行条文の記述としては誤りである。§820.30 は Reserved である。
  • ただし規制対象の範囲は変わっていない。FDAは最終規則前文のComment 45への回答で「QMSRは、提案時のとおり旧§820.30(a)の適用範囲を維持しており、どの機器が対象となるかを変更していない」と明言している。

適用対象――すべての機器に設計管理が要求されるわけではない

設計管理(ISO 13485 7.3)の適用範囲は、§820.10(c) に列挙されている。旧§820.30(a) の範囲がそのまま引き継がれた。

クラス区分 ISO 13485 7.3 の適用(21 CFR 820.10(c))
クラスIII 適用される
クラスII 適用される
クラスI(原則) 適用されない
クラスI(例外1) コンピュータソフトウェアによって自動化された機器――適用される
クラスI(例外2) §820.10(c)(2) の表1に列挙された5品目――適用される
21 CFR 868.6810 気管気管支吸引カテーテル/878.4460 非粉付き手術用手袋/880.6760 保護用拘束具/892.5650 用手式放射性核種アプリケータシステム/892.5740 放射性核種遠隔治療用線源
補足:旧QSRの表では 878.4460 が単に “Glove, Surgeon’s”(手術用手袋)と記載されていたが、QMSRの表1では “Glove, Non-powdered Surgeon’s”(非粉付き手術用手袋)に改まっている。粉付き手術用手袋が別途規制されたことを反映した文言の更新である。

なお、ISO 13485 自体は原則としてすべての機器に 7.3 の適用を求めるが、FDAは最終規則前文で「ISO 13485 の箇条1 は、規制当局が設計開発要求事項からの除外を設け得ることを認め、製造業者に対して除外の正当化を文書化するよう求めている。§820.10(c) はこれと整合している」と説明している。適用除外と非適用の区別については 適用除外と非適用の違い を参照されたい。

日本――QMS省令 第30条〜第36条の2

日本では、医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号、いわゆるQMS省令)が設計管理を定めている。2021年3月26日公布の改正により ISO 13485:2016 との整合が図られ、第30条から第36条の2までの9か条が設計開発の章を構成している。

QMS省令 第30条第1項は、次のように定める。

製造販売業者等は、製品の設計開発のための手順を文書化しなければならない。
――QMS省令 第30条第1項(e-Gov 法令検索より)

この一文が、設計管理の出発点である。「良い設計をせよ」ではなく「設計開発のための手順を文書化せよ」と書かれている点に、設計管理という制度の性格が凝縮されている。

用語の整理――「設計履歴ファイル」と「設計開発ファイル(DHF)」は同じものか

ここは実務で最も混乱が生じている箇所である。「設計開発ファイル(DHF)」という併記は、厳密には新旧の用語を混ぜてしまっている。整理すると次のようになる。

用語 どの体系の語か 2026年2月2日以降の扱い
Design History File(DHF)
設計履歴ファイル
旧QSR 21 CFR §820.30(j) 用語ごと削除された。§820.30 は Reserved
Design and Development File
設計開発ファイル
ISO 13485:2016 7.3.10 現行の要求事項はこちら。§820.7 により引用組み込みされている
設計開発に係る記録簿 QMS省令 第36条の2 7.3.10 に対応する日本の条文用語
Device Master Record(DMR)
機器原簿
旧QSR §820.181 削除。ISO 13485 4.2.3 の医療機器ファイル(MDF)
Device History Record(DHR)
機器履歴記録
旧QSR §820.184 削除。ISO 13485 7.5.1 の医療機器記録/バッチ記録へ
Quality System Record(QSR) 旧QSR §820.186 削除。ISO 13485 4.2 系へ

この整理はFDA自身が明示している。最終規則前文のComment 31(DMR・DHF・DHRという用語がISO 13485に存在しないが、これらの用語は本規則に残るのかという質問)に対し、FDAは次のように回答している。

FDAは、ISO 13485が品質システム規則で定められていた記録類型(QSR、DMR、DHF、DHR)に係る要求事項を含んでいない、という指摘については同意する。QMSR提案規則で述べたとおり、当庁はこれら記録類型についての別個の要求事項を残さず、これら特定の記録類型に結び付いた用語を削除した。これらの記録を構成する要素は、ISO 13485の箇条4.2 とその細分箇条、および箇条7 とその細分箇条によって、おおむね文書化が求められていると考えるためである。

同様に、旧来のDHFと整合的に、箇条7.3.10 は、設計開発ファイルが、設計開発計画および設計開発の手順を含め、設計開発要求事項への適合を確立するために必要なすべての記録を含むか、または参照することを求めている。
――89 FR 7507–7508(QMSR最終規則前文、Comment 31 への回答)より要旨

つまりDHFという「用語」は廃止されたが、そこに保管すべき内容は 7.3.10 の設計開発ファイルへ引き継がれている。実務上ファイルを作り直す必要はないが、手順書や品質マニュアルの中で「DHF」という語をFDA要求の根拠として引いている場合は、参照先を ISO 13485 7.3.10 へ改める必要がある。この点はすでに ISO13485:2016とQMSRとの差異 および FDA医療機器査察の新時代 で詳しく扱っている。

規制が求める設計管理のステップ――9つか、10か

設計管理は一般に「9つのステップ」として紹介されることが多い。これは旧QSR §820.30 の (b)〜(j) の9項に対応しており、決して誤りではない。ただし現行の ISO 13485:2016 では 7.3.1 から 7.3.10 までの10項で構成されている。9項の説明は、冒頭の「7.3.1 一般(手順を文書化すること)」が落ちているのである。

そして「設計管理のための手順を文書化する」という 7.3.1 こそ、設計管理の起点である。QMS省令が第30条第1項でまず手順の文書化を命じているのと同じ構造だ。したがって本稿では10のステップとして整理する。

【対応表】ISO 13485:2016 7.3 × QMS省令 × 旧QSR § 820.30 × 主な成果物

# ISO 13485:2016 QMS省令 旧QSR(参考) 主な成果物
1 7.3.1 一般 第30条第1項(設計開発) §820.30(a) General 設計管理規程・設計開発手順書
2 7.3.2 設計開発の計画 第30条第2項〜第4項 §820.30(b) Design and development planning 設計開発計画書(およびその改訂履歴)
3 7.3.3 設計開発への入力 第31条(設計開発への工程入力情報) §820.30(c) Design input 設計インプット仕様書、リスクマネジメントからの出力、妥当性の照査・承認記録
4 7.3.4 設計開発からの出力 第32条(設計開発からの工程出力情報) §820.30(d) Design output 仕様書、図面、部品表、受入基準、ラベリング案、承認記録
5 7.3.5 設計開発のレビュー 第33条(設計開発照査) §820.30(e) Design review デザインレビュー議事録(対象設計・日付・参加者・処置)
6 7.3.6 設計開発の検証 第34条(設計開発の検証) §820.30(f) Design verification 検証計画書(方法・判定基準・検体数の根拠)、検証報告書
7 7.3.7 設計開発のバリデーション 第35条(設計開発バリデーション) §820.30(g) Design validation バリデーション計画書・報告書、代表製品の選択根拠の記録、該当する場合は臨床評価資料
8 7.3.8 設計開発の移管 第35条の2(設計移管業務) §820.30(h) Design transfer 設計移管手順、製造工程仕様への確定記録、製造能力の確認記録
9 7.3.9 設計開発の変更の管理 第36条(設計開発の変更の管理) §820.30(i) Design changes 変更管理記録、影響評価、照査・検証・バリデーション・承認の記録
10 7.3.10 設計開発ファイル 第36条の2(設計開発に係る記録簿) §820.30(j) Design history file 製品または類似製品グループごとの記録簿

条番号で取り違えやすい2つ

  • 設計移管は QMS省令 第35条の2である。第36条の2ではない。
  • 第36条の2 は「設計開発に係る記録簿」、すなわち ISO 13485 7.3.10 の設計開発ファイルに相当する条文である。
  • 元記事のように設計変更管理を設計移管より先に置く並べ方は、旧§820.30 および ISO 13485 の条文順(移管→変更)とは逆である。実務の流れとしても、移管が済んでから変更管理の対象が製造工程まで広がるため、規格の順序に従うほうが理解しやすい。

各ステップの実務ポイント

1. 一般――手順の文書化(7.3.1/第30条第1項)

設計開発のための手順を文書化する。これが出発点である。手順書がなければ、以降のすべての活動は「たまたまそうした」に過ぎず、体系的な管理とは認められない。

2. 設計開発計画(7.3.2/第30条第2項〜第4項)

プロジェクトの開始時に、設計開発をどのように進めるかの計画を文書化する。この計画書は、単なる形式的な文書ではなく、実際の活動の指針となる重要なものである。QMS省令 第30条第4項は、計画の策定において次の6つを文書化するよう求めている。

  1. 設計開発の段階どの段階に区切って進めるか。
  2. 各段階における適切な照査どの段階でデザインレビューを行うか。
  3. 各段階における適切な検証、バリデーション及び設計移管業務条文は同項第3号のかっこ書きで設計移管業務を「設計開発からの工程出力情報について、あらかじめ、実際の製造に見合うものであるかどうかについて検証した上で、製造工程に係る仕様とする業務」と定義している。
  4. 設計開発に係る部門又は構成員の責任及び権限誰が何を決めるのか。
  5. 工程入力情報から工程出力情報への追跡可能性を確保する方法いわゆるトレーサビリティマトリクスを指す。
  6. 設計開発に必要な資源人・設備・予算。

また第30条第3項は、計画書を文書化し保管するとともに、変更の必要が生じた場合には設計開発の進行に応じて更新しなければならないと定めている。この「更新義務」が後述の「計画と実際の乖離」の論点に直結する。

3. 設計インプット(7.3.3/第31条)

顧客要求、法規制要求、安全性要求など、設計に必要な入力情報を明確に定義し、文書化する。QMS省令 第31条第1項は、明確にすべき入力情報として、意図した用途に応じた機能・性能・使用性・安全性に係る製品要求事項、法令の規定等に基づく要求事項、リスクマネジメントに係る工程出力情報、従前の類似設計から得られた適用可能な要求事項、その他必須の要求事項を挙げる。そのうえで第2項でこれらの妥当性を照査し承認すること、第3項で要求事項が漏れなく、不明確ではなく、かつ、互いに相反することがないようにすることを求めている。

FDAの教育資料は「携帯可能(Portable)」という要求を例に挙げている。重量要求を掘り下げた結果「3 lb ± 1 kg」という単位が食い違った矛盾する要求が見つかり、これを「3 lb ± 1 lb」に是正した、という例である。「互いに相反することがないように」とは、こうした地味な作業を指す。

4. 設計アウトプット(7.3.4/第32条)

設計インプットに基づいて作成された図面、仕様書、手順書などの設計成果物を指す。QMS省令 第32条第1項は、工程出力情報が、①入力情報に係る要求事項に適合すること、②購買・製造・サービス提供のために適切な情報を提供するものであること、③出荷可否判定基準を含むか、または参照できるものであること、④製品の安全かつ適正な使用又は操作に不可欠な当該製品の特性を規定していること、の4点に適合させるよう求める。さらに第3項で次の段階に進む前の承認を、第4項で記録の作成・保管を義務づけている。

5. デザインレビュー(7.3.5/第33条)

設計開発の各段階で、計画通りに進んでいるか、要求事項を満たしているかを体系的に評価する。QMS省令 第33条第2項は、参加者として「当該設計開発段階に関連する部門の代表者」および「当該設計開発に係る専門家」を求め、第3項で結果および所要の措置の記録(対象設計・参加者・実施日を含む)の作成・保管を求めている。

QMSRで実際に変わった点――デザインレビューの「独立した参加者」

  • 旧QSR §820.30(e) は、「レビュー対象の設計段階に直接の責任を負わない者」を各段階のレビューに含めることを明文で要求していた。
  • FDAは最終規則前文のComment 46への回答で、QMSRはこの明文要求を含まないことを認めている。ISO 13485 7.3.5 は「レビュー対象の段階に関係する部門の代表者」および「その他の専門家」の参加を求めるにとどまる。
  • ただしFDAは同じ回答で、独立したレビューが設計開発に対して果たす重要な貢献に言及し、7.3.5 は組織が人的資源の管理とその貢献とを両立させるための十分な柔軟性を与えるものだ、と説明している。
  • すなわち「明文の義務ではなくなったが、期待されなくなったわけではない」。独立レビュアーを外すのであれば、その判断の合理性を説明できるようにしておくべきである。承認と照査の分離という論点は 承認者はレビューをしてはいけない でも扱っている。

6. 設計検証(7.3.6/第34条)

設計アウトプットが設計インプットの要求事項を満たしているかを確認する活動である。QMS省令 第34条第2項は、検証計画に方法(統計学的方法を用いる場合は検体の数の設定の根拠を含む)および判定基準を含めて文書化することを求める。第3項は、他の機械器具等と一体的に使用または操作される医療機器等については、その一体的な状態を維持したまま検証を実施することを求めている。

7. 設計バリデーション(7.3.7/第35条)

製品が実際の使用環境において意図した用途を満たすことを確認する活動である。QMS省令 第35条は9項からなる長い条文で、実務上とくに重要なのは次の各項である。

  • 第3項――製品を代表するものについてバリデーションを実施すること。
  • 第4項――初回の製造に係る一群の医療機器等およびロット(これらと同等のものを含む)から代表製品を選択し、その選択の根拠の記録を作成・保管すること。
  • 第5項――薬機法第23条の2の5第3項等に該当する医療機器等については、臨床試験等の資料の収集・作成をバリデーションの一部として実施すること。
  • 第8項――製品の出荷を行うに当たり、あらかじめバリデーションを完了すること。ただし使用時の組立てまたは設置の後でなければバリデーションを行えない場合は、製品受領者への受渡しまでに行うこと。

8. 設計移管(7.3.8/第35条の2)

設計部門から製造部門へ、製品を作るための情報を適切に引き継ぐプロセスである。QMS省令 第35条の2 第1項は、手順に次の2点を含めるよう求めている。

  • 製造工程に係る仕様を確定する前に、設計開発からの工程出力情報が実際の製造に見合うものであるかを適切に検証していることを確認すること。
  • その製造工程を出ることによって適合製品を適切に製造できることを確認すること。

そして第2項で、設計移管業務を行った場合の結果および結論の記録・保管を求めている。設計移管は「図面を渡す」ことではなく、「その図面どおりに量産できることを確かめる」工程である。

9. 設計変更管理(7.3.9/第36条)

設計変更が発生した際の承認プロセスや影響評価を管理する。QMS省令 第36条は、第2項で変更が機能・性能・安全性・使用性および法令の規定等の適合性に及ぼす影響の有無および程度を検証すること、第4項で変更の実施前にあらかじめ照査・検証・バリデーション・承認を行うこと(バリデーションを実施しないことに合理的な理由があるときを除く)を求める。さらに第5項は、照査の範囲に構成部品等、工程内の製品、既に引き渡された製品、リスクマネジメントに係る工程入出力情報、製品実現に係る工程への影響評価を含めるよう明記している。

10. 設計開発ファイル(7.3.10/第36条の2)

設計開発の全記録を体系的に保管する。QMS省令 第36条の2 は次のとおりである。

製造販売業者等は、製品又は類似製品グループごとに、設計開発に係る要求事項への適合を証明する記録及び設計開発の変更の記録並びに設計開発において参照した資料に係る記録簿を作成し、これを保管しなければならない。
――QMS省令 第36条の2(設計開発に係る記録簿)

「製品又は類似製品グループごと」という単位の指定に注意されたい。1製品1ファイルに固定する必要はないが、逆に全製品を1つのファイルにまとめることも想定されていない。

▲【動画】FDA規制・査察の基礎とQMSRへの対応およびQMS構築の実践ポイント(株式会社イーコンプライアンス)

「設計検証」と「設計バリデーション」の違い

設計管理のなかで最も取り違えの多い2語である。定義そのものは単純であるにもかかわらず、実務では検証で済ませてバリデーションを省いたり、逆にバリデーションと称して仕様との照合を行っていたりする例が後を絶たない。

観点 設計開発の検証(Verification) 設計開発のバリデーション(Validation)
問い アウトプットはインプットを満たしているか 製品は実際の使用環境において意図した用途を満たすか
平たく言うと 「正しく作ったか」
(I made the device correctly)
「正しいものを作ったか」
(I made the correct device)
照合する相手 設計インプット(仕様) 使用者のニーズ・意図した用途
対象 設計開発からの工程出力情報 設計開発された製品。製品を代表するもの(QMS省令第35条第3項)
供試品 試作品でも可 初回の製造に係る一群の機器およびロット(またはこれらと同等のもの)から選択し、選択根拠を記録(同第4項)
条件 仕様・図面・試験成績の照合。他機器と一体使用される機器は一体の状態を維持(同第34条第3項) 実際の(または模擬した)使用条件・使用者。他機器と一体使用される機器は一体の状態を維持(同第35条第7項)
臨床評価 原則として不要 該当する場合は資料の収集・作成をバリデーションの一部として実施(同第35条第5項)
タイミング 各設計段階で 出荷前に完了。組立て・設置後でなければ行えない場合は受渡しまでに(同第35条第8項)
ISO 13485/QMS省令 7.3.6/第34条 7.3.7/第35条

よくある取り違え

  • 「性能試験をやったからバリデーション済み」は誤り。仕様値との照合は検証である。使用者が意図した用途を達成できるかを確かめて初めてバリデーションになる。
  • 「試作品でバリデーションを実施」は原則として不可。QMS省令第35条第3項・第4項は、代表製品を初回製造の一群・ロットまたはこれらと同等のものから選択することを求めている。
  • 「インプットが不完全なままの検証」は成立しない。検証はアウトプットとインプットの照合であるから、インプットが曖昧であれば検証の判定基準も定まらない。第31条第3項が「漏れがなく、不明確ではなく、互いに相反しない」ことを求めているのはこのためである。
  • 設計以外の文脈(プロセスバリデーション、コンピュータ化システムバリデーション)では、同じ2語が別の対象に対して用いられる。「何と何を照合しているのか」を毎回確認する習慣を持つとよい。

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計画と実際の乖離――柔軟性と規律のバランス

設計開発計画書の重要なポイントの1つは、計画と実際の活動が一致していなければならないという点である。プロジェクトを進める中で、当初の計画通りに進まないことは珍しくない。技術的な課題が発見されたり、市場要求が変化したりすることもある。

このような場合、重要なのは計画書を改訂することである。計画と実態が乖離したまま進めることは、規制上の問題となる。逆に言えば、適切に計画を更新し続ければ、柔軟にプロジェクトを進めることができる。QMS省令 第30条第3項が「設計開発計画を変更する必要がある場合には、設計開発の進行に応じ更新しなければならない」と定めているのは、まさにこの趣旨である。

たとえば――これは説明のための架空の例だが――当初3回を予定していたデザインレビューを、技術的な課題が見つかったために5回に増やす必要が生じたとする。この場合、計画書を改訂して5回に変更し、その変更を承認・記録することで、規制要求を満たしながら適切な開発を進めることができる。逆に、計画書には3回と書いたまま実際には5回開催した(あるいは2回しか開催しなかった)という状態が、最も避けるべき姿である。問われているのは回数の多寡ではなく、計画と実態の一致である。

「守れる計画」を書く

  • 手順書や計画書に書いた以上、それは自らに課した規範である。守れなければ不適合になる。
  • したがって、他社のひな形を無批判に写して過剰に細かい計画を立てることは、リスクを増やすだけである。
  • 組織として何を守れるのかを見極めたうえで手順を定めることは、経営の意思決定である。この観点は なぜ医療機器産業はトップダウン型管理が必要なのか で詳述している。

設計開発ファイル(旧DHF)が持つ実務的価値

設計開発ファイル(ISO 13485 7.3.10/QMS省令 第36条の2「設計開発に係る記録簿」)は、製品の設計に関するすべての記録を保管したものである。これには以下のような情報が含まれる。

  • 設計開発計画書とその改訂履歴
  • 設計インプット・アウトプットの文書
  • デザインレビューの議事録
  • 検証・バリデーションの報告書
  • 設計変更の記録
  • 設計開発において参照した資料に係る記録

その存在は、単なる規制対応以上の実務的価値を持っている。製品が市場で故障した場合、その原因究明には設計開発ファイルが不可欠である。過去の設計変更履歴を辿ることで、どの時点からその問題が存在していた可能性があるか、どのロット番号の製品が影響を受けるかを特定できる。

たとえば、ある部品の仕様を3年前に変更していたとする。その変更履歴が設計開発ファイルに記録されていれば、現在発生している不具合がその変更に起因する可能性を速やかに検証できる。影響を受ける製品の範囲も正確に特定できるため、必要最小限の回収や修正で済む。

詳細は別稿で:設計開発ファイル(旧DHF)に何を保管すべきか、保存期間はどれだけか、検索性をどう確保するかといった各論は、姉妹記事 なぜ設計履歴ファイル(DHF)が必要なのか で扱っている。本稿では設計管理プロセスの全体像に紙幅を割いた。

実践的な導入アプローチ

  1. ステップ1:現状の把握まず、自社の設計開発プロセスを可視化することから始める。どのような活動が行われているか、どのような文書が作成されているかを棚卸しする。ここで重要なのは、手順書に書かれている姿ではなく、実際に行われている姿を書き出すことである。
  2. ステップ2:ギャップ分析現状のプロセスと規制要求事項を比較し、不足している要素を特定する。本稿の対応表を、ISO 13485 7.3.1〜7.3.10 の10行のチェックリストとして使うとよい。各行について「手順書があるか」「記録が残っているか」「両者が一致しているか」の3点を確認する。
  3. ステップ3:段階的な導入すべてを一度に完璧にしようとせず、重要度の高い要素から段階的に導入していく。たとえば、まず設計開発計画書とデザインレビューの仕組みを確立し、次に検証・バリデーションのプロセスを整備するといった具合である。
  4. ステップ4:継続的な改善設計管理の仕組みは、一度構築すれば終わりではない。実際に運用する中で見えてくる課題を継続的に改善していくことが重要である。マネジメントレビューを形骸化させずに運用できるかが分かれ目になる。この点は マネジメントレビューのインテグリティ を参照されたい。
採用しなかった記述について:元記事のステップ2には「多くの企業では、技術的な活動自体は適切に行われているが、それを体系的に管理・記録する仕組みが不十分であることが多い」という記述があった。実感としては首肯できるものの、調査主体・時点・母集団が特定できる出典を確認できなかったため、割合を示す表現としては採用していない。ギャップが生じやすい箇所であるという一般的な注意喚起にとどめている。

デジタル化とAI――規制側の現在地

設計開発ファイルの電子化

従来、設計開発ファイルは紙の文書として管理されることが多かったが、文書管理システムやPLM(Product Lifecycle Management)システムを活用する例が増えている。電子化により、設計変更の履歴管理や文書の検索性が向上し得る。

裏取りできなかったため表現を改めた記述:元記事は「近年では電子化が急速に進んでいる」としていたが、調査主体・時点・母集団のいずれも特定できる出典を確認できなかったため、普及速度に関する定量的・比較的な表現は採用していない。定性的な記述にとどめている。
なお電子化には固有の課題もある。媒体の劣化、装置の陳腐化、ファイル形式の互換性といった長期保存の論点は 電子記録の長期保存が困難な理由 で扱っている。

AIと設計開発――「近づいている」ではなく、すでに規制の議題である

元記事は「AIやエージェント型システムが設計開発に参画する時代が近づいている」としていたが、規制側の現在地を確認すると、AIはすでに医療機器規制の具体的な議題になっている。確認できた一次情報は次のとおりである。

文書 発出時期・状態 設計管理との関係
Marketing Submission Recommendations for a Predetermined Change Control Plan for Artificial Intelligence-Enabled Device Software Functions 2024年12月4日/最終版 AI機能の変更を、あらかじめ計画(PCCP)として提出し審査を受けることで、変更のたびの再申請を要さずに実施できる枠組み。設計変更管理(7.3.9)の運用そのものに直結する。
Artificial Intelligence-Enabled Device Software Functions: Lifecycle Management and Marketing Submission Recommendations 2025年1月6日/ドラフト(本稿執筆時点で最終化されていない) AI搭載機器のトータル・プロダクト・ライフサイクルにわたるリスク管理と提出資料の考え方。CDRHの2026会計年度ガイダンス計画では最終化予定の項目として挙げられている。
QMSR(21 CFR Part 820) 2026年2月2日施行 AIを用いて生成した設計案であっても、7.3 の要求(入力の明確化、出力の承認、レビュー、検証、バリデーション、変更管理、記録)は変わらない。

したがって、AIが設計開発に関与する場合に問われるのは「AIを使ってよいか」ではなく、「AIが生成した設計案を、誰が、どの根拠で、どう照査し、どう検証・バリデーションしたか」を記録として示せるかである。設計管理の枠組み自体は変わらず、むしろその厳格な適用が要求される。

採用しなかった記述について:元記事には「AIやエージェント型システムが設計開発に参画する時代が近づいている」との将来予測があった。時期を特定できる根拠を確認できないため断定を避け、代わりに確認できた規制文書(発出日・最終/ドラフトの別を明記)に置き換えた。

まとめ――5つのポイント

  1. 設計開発は活動、設計管理は仕組み設計開発は創造的な技術活動であり、企業の専門性に委ねられている。設計管理は規制要求事項として定められた体系的なプロセスであり、製品の品質と安全性を保証するための仕組みである。規制されているのは後者である。
  2. Part 820 と ISO 13485 は並列ではない2026年2月2日施行のQMSRにより、21 CFR Part 820 は §820.7 で ISO 13485:2016 を引用組み込みしている。設計管理の実体的要求は ISO 13485 7.3 にあり、旧 §820.30 は Reserved となった。
  3. DHF という「用語」は廃止されたFDAはDMR・DHF・DHRの用語を削除し、DHFの内容は ISO 13485 7.3.10「設計開発ファイル」(QMS省令 第36条の2「設計開発に係る記録簿」)へ引き継がれた。手順書の参照先を改めること。
  4. 10のステップに条番号を紐づけて管理するISO 13485 7.3.1〜7.3.10 と QMS省令 第30条〜第36条の2 は1対1で対応する。設計移管は第35条の2、設計開発に係る記録簿は第36条の2である。この対応表がギャップ分析のチェックリストになる。
  5. 検証とバリデーションを混同しない検証は「アウトプットがインプットを満たすか(正しく作ったか)」、バリデーションは「実際の使用環境で意図した用途を満たすか(正しいものを作ったか)」である。試作品での性能試験はバリデーションではない。

技術の進化とともに、設計開発の手法は今後も変わっていくだろう。しかし、それをどのように管理し、品質を保証するかという設計管理の本質的な重要性は変わらない。むしろ、AIなどの新技術が導入される中で、その重要性はさらに高まっていくと考えられる。設計管理を単なる規制対応の負担と捉えるのではなく、製品品質の向上と効率的な開発を実現するための有効なツールとして活用することが肝要である。適切な設計管理の仕組みは、故障対応の迅速化、開発プロセスの可視化、組織的な知識の蓄積など、多くの実務的価値をもたらす。

参考・出典(一次情報源)

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