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医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門   ~品質、有効性及び安全性の確保~  4講 医療機器と安全性

医療機器の規制要件は、突き詰めれば「品質・有効性・安全性の確保」という一点に収束する。だが実務の現場でこの三語を分解し、どの規格・どの工程で誰が担保するのかを説明できる担当者は意外に少ない。有効性は臨床評価で確かめられる。品質はプロセスの管理で作り込める。ところが安全性だけは、試すことができない。患者に危害を与えて確かめるわけにいかないからである。だからこそ安全性は、設計段階で知恵を絞って推定し、設計そのものに作り込むしかない。本稿は、この「作り込み」の実務――設計開発プロセス、リスクマネジメント、ユーザビリティエンジニアリング、生物学的安全性、臨床評価――を、2026年8月時点で有効な規格・版数に基づいて整理するものである。

本稿の位置づけ ── 制度の全体像と申請実務は別稿に譲る

本シリーズは全6講で構成される。日米欧の規制枠組み、薬機法の体系、クラス分類といった総論は第1講で扱った。承認申請の実務、当局査察、MDSAPについては第6講で詳述している。本稿はそのいずれでもなく、「製品そのものをどうやって安全にするか」という設計・開発の実務に集中する。

本稿が答える問い

安全性は設計のどの段階で、どの規格を使って、どのような成果物として作り込まれるのか。そして2026年8月時点で参照すべき版数はどれか。

「品質・有効性・安全性」は三つの別々の仕事である

この三語は法文上ひとまとまりで登場するため、同義語のように扱われがちである。しかし設計・開発の実務では、担保の仕方がまったく異なる。

要素 担保する主な手段 主たる成果物 試せるか
品質 品質マネジメントシステムによる工程の管理と記録 QMS文書・設計履歴ファイル(DHF)・製造記録 試せる(工程能力・検査)
有効性 臨床評価および臨床試験による性能・効果の実証 臨床評価報告書・臨床試験成績 試せる
安全性 リスクマネジメントと安全規格適合による設計への作り込み リスクマネジメントファイル・安全規格適合試験報告書 試せない(推定するほかない)

安全性だけが「試せない」という点が決定的である。リスクを顕在化させ、患者や使用者にどのような健康被害が生じるかを実際に試すことはできない。したがって安全性の確保は、市場に出て実際に使用されたときに何が起こりうるかを設計段階で推定し、その推定に基づいて設計するという、極めて演繹的な作業になる。医療機器の規制要件が設計管理とリスクマネジメントをこれほど強調するのは、この構造ゆえである。

リスクとは何か ── 定義に立ち返る

安全性を論じる出発点は、リスクの定義である。ISO/IEC Guide 51:2014(第3版、2014年4月発行。2025年の見直しでConfirmedとされ現行版である)は、リスクを次のように定義する。

combination of the probability of occurrence of harm and the severity of that harm
(危害の発生確率とその危害の重大性との組合せ)

出典:ISO/IEC Guide 51:2014, Safety aspects — Guidelines for their inclusion in standards

ここで注意すべきは、「危害の発生確率」であって「欠陥の発生確率」ではないという点である。部品が何%の確率で故障するかを問うているのではない。その故障を経由して、患者または使用者に健康被害が何%の確率で生じるかを問うている。信頼性工学の故障率と、リスクマネジメントの発生確率は別物である。この混同は実務で頻繁に見られる誤りである。

もう一点、ヘルスケア産業におけるリスクとは、あくまで患者・使用者・第三者に対する健康被害を指す。製造工程で作業者が負傷するリスクや、サービスマンが感電するリスクは、労働安全の問題ではあっても、医療機器の規制要件が管理を求めているリスクではない。ここを取り違えると、リスクマネジメントファイルが労働安全衛生の文書と化してしまう。

安全とは「リスクがない状態」ではない

同じくISO/IEC Guide 51の枠組みでは、安全(safety)は「受容できないリスクがないこと」として捉えられる。世の中にリスクゼロの製品は存在しない。あるのはリスクの大小だけである。医療機器に求められているのは、リスクをゼロにすることではなく、リスクを受容可能な水準まで低減し、それでもなお残る残留リスクを、得られる便益と比較して正当化することである。ISO 14971:2019が便益・リスク分析(benefit-risk analysis)を明示的に要求しているのは、この考え方の帰結である。

設計開発プロセスと規格の対応 ── 全体地図

安全性の作り込みは、単発の活動ではなく設計開発プロセス全体に埋め込まれる。設計インプットからリスクマネジメント、ユーザビリティエンジニアリング、検証・妥当性確認までの流れと、各段階で参照すべき規格を対応させると次のようになる。

設計開発の段階 そこで行うこと 主に参照する規格
設計・開発への
インプット
顧客要求(機能・性能=有効性の要求)を文書化し、安全要求を製造業者側で自ら導出して加える。安全要求は使用者からは出てこない。 ISO 13485:2016(設計・開発)
ISO 14971:2019
IEC 62366-1:2015+A1:2020
リスク
マネジメント
ハザードを同定し、危険状態と危害を推定し、リスクを評価する。分析結果は設計インプットに反映される。 ISO 14971:2019
ISO/TR 24971:2020
ユーザビリティ
エンジニアリング
使用に関わる要求仕様を定め、使用エラーにつながるユーザーインターフェースを分析し、形成的評価で改善する。 IEC 62366-1:2015+A1:2020
IEC/TR 62366-2:2016
生物学的
安全性評価
人体接触の性質と期間を分類し、材料の化学的性状を評価し、必要な試験を選定する。 ISO 10993-1:2025
ISO 10993シリーズ各部
設計・開発への
アウトプット
機器要求仕様書から、メカ・エレキ・ソフトウェアの各要求仕様書と設計書へ展開し、相互の整合性を確保する。 ISO 13485:2016(設計・開発)
IEC 62304:2006+A1:2015
検証
(Verification)
アウトプットがインプットの要求を満たしていることを客観的証拠で確認する。安全規格への適合試験もここに含まれる。 ISO 13485:2016(検証)
IEC 60601シリーズ
妥当性確認
(Validation)
意図する使用条件下で使用者要求と用途を満たすことを確認する。総括的評価と臨床評価がここに位置づけられる。 ISO 13485:2016(妥当性確認)
IEC 62366-1(総括的評価)
ISO 14155:2026
製造販売後 市場からの情報を収集し、リスクマネジメントファイルを見直し、必要に応じて設計にフィードバックする。 ISO 14971:2019
(生産及び生産後の活動)

この表で最も見落とされやすいのは、最上段の「安全要求は使用者からは出てこない」という点である。医療機関の医師や検査技師から寄せられる要求は、ほぼすべてが機能・性能に関する要求、すなわち有効性の要求である。「安全に作ってほしい」という漠然とした期待はあっても、「この部位の表面温度を何℃以下に抑えよ」という具体的な安全要求は出てこない。安全要求は、製造業者がリスク分析とユーザビリティ分析によって自ら生成し、自ら設計インプットに書き込むしかない。ここが設計管理の勘所である。

参照すべき規格の現行版 ── 2026年8月時点

版数の取り違えは、設計文書の全面改訂という高い代償を伴う。2026年8月時点で有効な主要規格を整理する。

規格 現行版 発行 備考
品質マネジメントシステム ISO 13485:2016 2016-03
(第3版)
2025年の見直しでConfirmed
リスクマネジメント ISO 14971:2019 2019-12
(第3版)
2025年の見直しでConfirmed
リスクマネジメント
(適用の手引)
ISO/TR 24971:2020 2020-06
(第2版)
技術報告書(TR)
ユーザビリティ
エンジニアリング
IEC 62366-1:2015
AMD1:2020
2015-02
+2020-07
本体は2021年見直しでConfirmed
ユーザビリティ
(適用の手引)
IEC/TR 62366-2:2016 2016 規制目的での使用は想定外
生物学的安全性評価 ISO 10993-1:2025 2025-11
(第6版)
2018年版は廃止
ソフトウェア
ライフサイクル
IEC 62304:2006
AMD1:2015
2006
+2015-06
臨床試験(GCP) ISO 14155:2026 2026-03
(第4版)
2020年版は廃止
安全の基本概念 ISO/IEC Guide 51:2014 2014-04
(第3版)
2025年の見直しでConfirmed

とりわけ注意を要するのが生物学的安全性と臨床試験である。ISO 10993-1は2025年11月に第6版が発行され、長く使われてきた2018年版(第5版)は廃止された。ISO 14155も2026年3月に第4版が発行され、2020年版は廃止されている。いずれも本稿執筆時点でごく最近の改訂であり、社内手順書や試験計画書が旧版を引用したまま放置されていないか、まず確認されたい。なお各国規制当局が改訂版をいつ承認規格・整合規格として受け入れるかは別問題であり、当局の最新の告示・データベースを個別に確認する必要がある。

リスクマネジメント ── ISO 14971:2019の実務

医療機器にリスクマネジメントは必須である。ISO 13485:2016も、日本のQMS省令も、リスクマネジメントの適用を明確に求めている。ISO 14971:2019は第3版であり、2019年12月に発行された。2007年版(第2版)からの主な変化は、便益・リスク分析の位置づけの強化、生産及び生産後の活動に関する要求の拡充、そして主要市場の規制要件との整合強化である。

重要なのは、ISO 14971がリスクの受容可能性の判断基準を製造業者に策定させる一方で、「このレベルなら受容可能」という具体的な数値を規格自体は定めていないことである。受容可能性は機器の性質と使用目的に依存するため、製造業者がリスクマネジメント計画の中で客観的な基準を定め、それを一貫して適用しなければならない。この基準の妥当性こそが、査察や適合性調査で問われる。

プロセスの骨格は三つの箱に集約できる

リスクマネジメントは複雑に見えるが、骨格は単純である。

① リスクアセスメント(何が危ないかを調べる)

当該医療機器にどのようなハザード(危害の潜在的な源)があるかを網羅的に洗い出し、そのハザードへの暴露によりどのような危険状態が生じ、どのような危害に至るかを推定する。そのうえで重大性と発生確率を見積もり、あらかじめ定めた基準に照らしてリスクを評価する。

② リスクコントロール(危なくないように設計する)

受容できないと判断されたリスクに対して、低減手段を選択し、設計に実装する。実装した手段が有効であることを検証し、その手段が新たなリスクを生んでいないかを確認する。

③ 生産及び生産後の活動(本当に効いているかを見届ける)

市場に出た製品や類似製品からの情報を収集し、想定した発生確率や重大性が現実と乖離していないかを監視する。乖離があればリスクアセスメントに立ち返る。リスクは試せない以上、この市販後の監視こそが唯一の実証手段である。

この三つは一巡して終わるものではない。製品ライフサイクル全体にわたって回り続けるPDCAである。ISO 14971:2019が生産及び生産後の活動を独立した箇条として強化したのは、この循環を形式的な文書作業に終わらせないためである。

リスクコントロールには優先順位がある

実務で最も誤解が多いのがここである。ISO 14971は、リスク低減の手段を任意に選んでよいとはしていない。次の順序で検討し、上位の手段が実行可能である限り、下位の手段で代替してはならないとしている。

順位 手段 具体例 効果
1 本質的な安全設計・製造 危険な材料を使わない。高温部を人が触れない構造にする。危険なエネルギーそのものを減らす。 ハザードを除去できる
2 機器自体または製造工程
における防護手段
保護カバー、インターロック、リミッター、アラーム、フェールセーフ機構。 暴露確率を下げる
3 安全に関する情報
および必要な場合の訓練
取扱説明書の警告表示、本体ラベル、使用者への教育訓練プログラム。 最も効果が弱い

取扱説明書に警告を書き足して済ませる対応が、規格上は最後の手段であることに留意されたい。設計で解決できるものを注意書きに転嫁することは、リスクコントロールとして許容されない。査察や適合性調査で「なぜ本質的な安全設計を採らなかったのか」と問われたときに説明できるよう、上位の手段を検討した記録そのものを残しておく必要がある。

下げるべきは発生確率であって、重大性ではない

多くの製造業者が、危害の重大性を下げようとして行き詰まる。しかし重大性はほとんど下がらない。高温部に触れれば火傷する。放射線を浴びれば被曝する。火傷を火傷でなくすることはできない。下げられるのは、その危害が発生する確率である。したがって設計の努力は、高温部に触れない構造にする、被曝する状況を作らない、という発生確率の低減に集中すべきである。

初期段階の発生確率にこだわりすぎない

設計の初期段階で発生確率を精緻に見積もろうとして、リスク分析が停滞する例は多い。この段階では発生確率を最も高い値に置いてしまってよい。重要なのは、リスクコントロールを実装した後に発生確率がどこまで下がったかを評価することである。初期値の精度を競うことに実益はない。

ハザードから始める ── 危害から始めない

リスク分析の実務で最も陥りやすい失敗は、いきなり「どんな事故が起こるか」を考え始めることである。これでは網羅性が担保できない。まずハザード(危害の潜在的な源)を洗い出す。次に、そのハザードへの暴露がどのような危険状態を生むかを考える。最後に、その危険状態から生じる危害を推定する。この順序を守ることで、想像力に依存しない体系的な分析が可能になる。

洗い出しの網羅性を確保するには、ハザードを類型で押さえておくと実務が進めやすい。エネルギーに関するもの(電磁エネルギー、熱エネルギー、力学的エネルギー、音響エネルギー、放射線)、生物学的および化学的なもの(細菌・ウイルス、化学薬品、洗浄後の残渣、生体適合性)、使用・操作に関するもの(不注意、記憶違い、規則に基づく誤り、常習的な違反)、情報に関するもの(ラベリング、取扱説明書、警告表示、アラーム)といった区分である。実際の類型と例示はISO 14971およびISO/TR 24971の附属書に整理されているので、自社製品に即して原典の一覧を当たられたい。

とくに情報に関するハザードは軽視されやすい。ラベリングとは患者・使用者が目にするあらゆる印刷物を指し、その中でも取扱説明書は最重要である。取扱説明書が曖昧であったり誤っていたりすれば、それ自体が健康被害の源になる。したがってラベリングも設計対象であり、設計レビュー(デザインレビュー)を経て発行されなければならない。医療機関で複数の機器のアラームが同時に鳴り、どの機器が何を知らせているのか判別できない状況もまた、情報に関するハザードである。

国内ではJIS T 14971:2020が適用され、用語も変わった

国内のリスクマネジメント要求は、基本要件基準(平成17年厚生労働省告示第122号。体外診断用医薬品は同第126号)を通じて課される。令和2年12月24日付 薬生機審発1224第1号により、JIS T 14971:2012からJIS T 14971:2020への改正に伴う取扱いが定められた。同通知によれば、経過措置期間終了日は令和5年(2023年)9月30日であり、その翌日以降に新規の承認申請・認証申請(一部変更を含む)を行う場合には改正後のJISを適用することとされている。なお、その原典であるISO 14971:2019を適用することをもって基本要件基準への適合を確認したこととして差し支えないとされている。

同通知が挙げる改正の要点は、設計・開発の実務に直結する。

  • 体外診断用医療機器、医療機器プログラム(SaMD)、およびセキュリティが適用範囲であることが示された
  • ユーザビリティに関するリスクに適用することが示された
  • 従来の「誤使用」が「使用エラー」に修正され、新たに「3.15 合理的に予見可能な誤使用」が定義された

三つめの用語の変更は見落とされやすい。従来ひとまとめに「誤使用」と呼んでいたものが、正しく使おうとして起きる「使用エラー」と、意図しない使い方である「合理的に予見可能な誤使用」に分けられた。社内のリスクマネジメント手順書やハザード分析様式が旧来の「誤使用」のまま一括りにしていると、両者を分けて分析する構造になっていない可能性がある。

関連して、改正後のJISのガイダンス文書である標準報告書「医療機器―JIS T 14971適用の指針」(TR T 24971:2020。ISO/TR 24971:2020が原典)が制定され、セキュリティ等の新しい技術分野に関する附属書が追加されている。また、ISO/IEC Guide 63:2019に対応するJIS T 0063:2020「医療機器規格における安全側面の開発及び導入の指針」も制定され、医療機器関係の規格について用語の訳語レベルまで統一されている。国内で日本語の手順書を整備する場合は、これらの訳語に揃えておくと当局とのやり取りが円滑になる。

国際規格 国内規格 対象
ISO 14971:2019 JIS T 14971:2020 リスクマネジメント
ISO/TR 24971:2020 TR T 24971:2020 リスクマネジメント適用の指針
IEC 62366-1:2015
+AMD1:2020
JIS T 62366-1:2022 ユーザビリティエンジニアリング
ISO/IEC Guide 63:2019 JIS T 0063:2020 医療機器規格における安全側面
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ユーザビリティエンジニアリング ── 使いやすさではなく安全である

医療機器のユーザビリティエンジニアリングは、IEC 62366-1:2015Amendment 1:2020(2020年7月発行)を適用した版が現行である。国内規格としてはJIS T 62366-1:2022が対応する。

ここで決定的に重要なのは、医療機器におけるユーザビリティエンジニアリングが「使いやすさ」を評価する活動ではないという点である。一般にユーザビリティといえば使いやすさ、使用者の満足度、見栄えを含む概念である。しかし医療機器の設計開発で求められているのは、使用エラーの起きない安全な機器を設計するための分析手法としてのユーザビリティエンジニアリングである。IEC 62366-1が扱うのは、安全に関わる限りでのユーザビリティである。

この点を象徴する例が、使い捨てライターである。使い捨てライターの着火操作は意図的に重く設計されている。子どもがいたずらで火をつけることを防ぐためである。使いにくくすることが安全に資するなら、使いにくく設計する。これもまたユーザビリティエンジニアリングの成果である。使いやすさの追求だけが目的ではない。

ISO 14971とIEC 62366-1は適用範囲が異なる

この二つの規格の区別がつかないという相談は非常に多い。使用のパターンで切り分けると理解しやすい。

使用の区分 内容 ISO 14971 IEC 62366-1
正常使用
(正しく使える)
取扱説明書のとおりに使用し、意図したとおりに操作できている状態。 対象 対象
正常使用
(使用エラーが起きる)
正しく使おうとしているのに使えない。握力が足りない、文字が読めない、音が聞こえない、原疾患により操作できない等。 対象 対象
(中核領域)
合理的に予見可能な
誤使用
製造業者が意図しない使い方だが、使用者がそう使うことが合理的に予見できる状態。 対象 対象
非常識な誤使用 常識的に予見しえない使い方。注射針を振り回して他人を傷つける等。 対象外 対象外

おおまかに言えば、IEC 62366-1はユーザーインターフェースに起因するヒューマンエラーに特化したリスクマネジメントである。機器が画面に表示したものを人が読み取り、次の操作を入力する。表示を読み違えれば誤った操作が入力され、機器は誤った動作をする。その結果を見た人がさらに誤った判断を下す。この悪循環が事故に至る。だからインターフェースに着目し、使用エラーの発生を設計で抑え込む。

そしてインターフェースは画面だけではない。介護用ベッドの昇降ボタンを「丸は上昇、三角は停止、四角は下降」と形状で区別する設計、警報を音で伝えるアラーム、プラス側を赤・マイナス側を青とする色分け。視覚・聴覚・触覚を通じて使用者と機器が情報をやり取りするすべての経路がユーザーインターフェースである。色覚特性の異なる使用者を想定すれば、色だけに依存した設計は成立しない。

なぜユーザビリティエンジニアリングが必要か ── 輸液ポンプの事例

流量と予定量を同一のスイッチで切り替えて入力する方式の輸液ポンプで、流量30 mL/hと設定すべきところを900 mL/hと入力してしまい、患者が呼吸停止に至る事故が繰り返し発生した。これは確かに使用者の入力ミスである。しかし問われるべきは、なぜそのような入力ミスが起こりうる設計にしたのかである。これは合理的に予見可能な誤使用であり、設計者はこの誤使用を推定して設計すべきであった。

使用者の属性は多様である。医師、看護師、臨床工学技士、介護士、患者本人、その家族。習熟度もまちまちである。野次馬に囲まれ、取扱説明書を読む余裕もなく、初めてAEDを操作する一般市民もいる。取扱説明書を読まずに、アナフィラキシーショックを起こした母親に子どもがアドレナリン自己注射薬を投与する場面もある。振動する救急車内で正確に測定しなければならない心電計や血圧計もある。どのような環境で、どのような人が、どのような状態で操作するのか――この「意図する使用」の記述が、ユーザビリティエンジニアリングの出発点である。

形成的評価と総括的評価

IEC 62366-1のプロセスは、使用仕様の明確化から始まり、ユーザーインターフェースに関わる使用に関連するハザードの特定、使用シナリオの選定、ユーザーインターフェースの仕様策定と設計、そして評価へと進む。評価は性格の異なる二つに分かれる。

区分 実施時期 目的 設計管理上の位置づけ
形成的評価
(formative evaluation)
設計の途中 設計を改善するために使用上の問題点を発見する。何度でも繰り返す。 設計レビュー・設計変更の入力
総括的評価
(summative evaluation)
設計の完了後 完成したユーザーインターフェースが安全に使用できることを実証する。 設計の妥当性確認(validation)の一部

日本ではJIS T 62366-1:2022への適合確認体制が求められている

国内では、ユーザビリティに関する要求は基本要件基準を通じて課される。基本要件基準とは、薬機法第41条第3項の規定により厚生労働大臣が定める医療機器の基準(平成17年厚生労働省告示第122号)である。PMDAの解説によれば、ユーザビリティに係る事項は基本要件基準第9条(使用環境に対する配慮)および第16条(一般使用者が使用することを意図した医療機器に対する配慮)等に規定されている。

四 医療機器は、その使用に当たって患者、使用者及び第三者(医療機器の使用に当たって次の各号に掲げる危険性がある者に限る。)に生じる次の各号に掲げる危険性が、合理的かつ適切に除去又は低減されるように設計及び製造されなければならない。
一 物理的及び人間工学的特性に関連した傷害の危険性
二 医療機器の意図された使用目的における人間工学的特性、人的要因及びその使用環境に起因した誤使用の危険性

出典:基本要件基準第9条(使用環境に対する配慮)第4項第1号・第2号(PMDA「医療機器のユーザビリティについて」より)

そして版数について重要な経緯がある。日本産業規格「医療機器-第1部:ユーザビリティエンジニアリングの医療機器への適用」は、引用規格であるJIS T 14971においてユーザビリティ等の分野への適用を明確化する改正が行われたこと等を受け、JIS T 62366-1:2019からJIS T 62366-1:2022へ改正された。これに伴い、製造販売業者、外国製造医療機器等特例承認取得者または外国指定高度管理医療機器製造等事業者は、2024年4月1日以降に製造販売される医療機器について、改正後のJIS(JIS T 62366-1:2022)への適合の確認を行う体制を有している必要があるとされている。

関連する通知として、2022年9月30日付 薬生機審発0930第1号・薬生監麻発0930第1号「医療機器のユーザビリティエンジニアリングに係る要求事項に関する日本産業規格の改正の取扱いについて」および、2023年8月10日付 事務連絡「医療機器のユーザビリティエンジニアリングに係る基本要件基準の適用に関する質疑応答集(Q&A)について」がある。またPMDAは登録認証機関向けトレーニングとして実施したユーザビリティに関するセミナー資料と動画を公開しており、実務担当者にとって有用な解説になっている。

ここで実務上の勘所は、総括的評価は設計妥当性確認の一部であり、設計を改善する場ではないという点である。総括的評価で重大な使用エラーが検出されたなら、それは設計に戻ってやり直すべき事態である。形成的評価を省略して総括的評価に臨むと、この手戻りの代償が大きくなる。ユーザビリティエンジニアリングファイルは、これら一連の活動の記録として構成され、リスクマネジメントファイルと相互に参照される。

「合理的に予見可能な誤使用」の境界は動く

かつては「それは仕様です、使用者の使い方の誤りです」で通った事案が、いまは通らない。国内でも、JIS T 14971:2020への改正により「合理的に予見可能な誤使用」が定義として明記され、製造業者が推定して対処すべき範囲であることが規格の文言として確定した。使い勝手が悪く使用エラーを誘発する設計は、製造業者の責任である。

厄介なのは、この「合理的に予見可能な誤使用」と「非常識な誤使用」の境界が固定されていないことである。境界は社会通念の変化、製品が世に出てからの年数、使用者の属性によって移動する。訓練を受けた医療従事者だけが使う機器と、一般消費者が家庭で使う機器とでは、設計すべき安全の水準が異なる。同じ製品でも、市販後に想定外の使われ方が現実に報告されれば、その使い方は「合理的に予見可能」の側へ移る。だからこそ、生産及び生産後の活動によるリスクマネジメントファイルの見直しが規格上の要求になっているのである。

生物学的安全性 ── ISO 10993-1が2025年に第6版へ

人体に接触する医療機器では、材料そのものが健康被害の源になりうる。生物学的安全性評価の基本規格であるISO 10993-1は、2025年11月に第6版が発行された。長く使われてきたISO 10993-1:2018(第5版)は廃止されている。

表題も変更されている。第5版までの「Evaluation and testing within a risk management process(リスクマネジメントプロセスにおける評価及び試験)」から、第6版では「Requirements and general principles for the evaluation of biological safety within a risk management process(リスクマネジメントプロセスにおける生物学的安全性の評価に関する要求事項及び一般原則)」となった。ISOによれば第6版はISO 14971との整合を図って全面的に再構成され、暴露期間、材料の性状評価(materials characterization)、生物学的ハザードの同定に関する手引が追加され、用語が整理されたうえで、改訂の根拠を説明する附属書が新設されている。

生物学的安全性は「試験」ではなく「評価」である

ISO 10993-1が求めているのは、試験項目を機械的に消化することではない。接触の性質(表面接触・体内と体外を連結・体内埋植)と接触期間(一時的・短期・長期)に応じて何を評価すべきかを判断し、材料の化学的性状や既存データによって説明できるものは試験を省略し、説明できないものだけを試験で埋めるという、リスクベースの評価である。動物試験の不必要な実施を減らすことは、規格自体が掲げる目的でもある。

電気的安全とソフトウェア ── 安全規格への適合は必須要件である

リスク分析によって導出される安全要求のほかに、製品分野ごとに定められた安全規格への適合という要求がある。医用電気機器であればIEC 60601シリーズ(基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項と、機器種別ごとの個別規格)が、医療機器ソフトウェアであればIEC 62304(2006年版に2015年発行のAmendment 1を適用した版)がこれにあたる。これらへの適合は選択肢ではなく必須要件であり、適合試験の記録は設計検証の証拠として設計履歴ファイルに保管される。

医用電気機器はメカ・エレキ・ソフトウェアの複合体である。機器要求仕様書(PRS:Product Requirements Specification)から、機構系・電気系・ソフトウェア系それぞれの要求仕様書、基本設計書、詳細設計書へと展開されていく。安全性は、この展開の過程で失われやすい。機器レベルで定めた安全要求が、サブシステムの仕様書に落ちる過程で抜け落ちる。あるいは三系統の設計書の間で前提が食い違う。トレーサビリティマトリクスによって、リスクコントロール手段が最終的にどの仕様のどの記述として実装され、どの検証試験で確認されたのかを追跡できる状態を維持することが、実務上の要となる。

機械学習を用いる機器では「変更しても安全か」が問われる

機械学習を用いた医療機器では、市販後にモデルを更新することが前提になる。ところが従来の設計管理は、設計を固定し、固定した設計を検証・妥当性確認するという枠組みで成り立っている。更新を前提とする製品では、この枠組みが噛み合わない。

そこで用いられるのが、あらかじめ定めた変更管理計画(PCCP:Predetermined Change Control Plan)という考え方である。市販後にどのような範囲の変更を、どの手順で行い、どう検証するかを設計段階で計画として定めておき、その計画の枠内であれば再申請を要さずに更新できるようにする。設計を固定するのではなく、変更のしかたを固定するという発想の転換である。

この領域は国際的にもIMDRF(International Medical Device Regulators Forum)を中心に整理が進んでおり、国内外で文書が相次いで発出されている状況にある。学習済みモデルを更新しうる製品を手がけるのであれば、変更の範囲・手順・検証方法を設計段階で計画に落とし込むという考え方を、いま設計プロセスに織り込んでおく価値がある。適用にあたっては、IMDRFおよび各極当局の最新文書を直接確認されたい。

有効性の確保 ── 臨床評価と臨床試験

安全性が「試せない」のに対し、有効性は試せる。機器が意図した臨床的効果を発揮するかどうかは、臨床評価または臨床試験によって確かめられる。医療機器の臨床試験に関する国際規格であるISO 14155は、2026年3月に第4版が発行され、2020年版(第3版)は廃止された。ISOによれば最新版では、残留リスクの評価、データモニタリング、臨床事象委員会、有害事象報告、欠測データ、エスティマンド(estimand)、臨床手技に起因するリスクの管理といった領域の要求が強化されている。

ここで注意したいのは、臨床試験が「有効性だけ」を見るものではないことである。ISO 14155は臨床性能・有効性と安全性の双方を評価対象としている。市販前の臨床データは、設計段階で推定した残留リスクが現実の使用でどう現れるかを確認する、数少ない実証機会でもある。臨床評価の結果は、リスクマネジメントファイルにフィードバックされなければならない。

また、すべての医療機器に臨床試験が必要なわけではない。既存の同等品に関する文献や市販後データによって臨床評価を成立させられる場合も多い。どの範囲でどの証拠が求められるかは製品と申請区分に依存し、その判断は申請戦略の一部である。申請資料の構成や信頼性調査の実務については第6講を参照されたい。

検証と妥当性確認 ── 混同されやすい二つの活動

設計管理において、検証(verification)と妥当性確認(validation)はまったく別の活動である。この二語を同義に扱っている設計手順書は珍しくないが、両者を区別できていないことは設計管理の欠陥として指摘されうる。

観点 検証(Verification) 妥当性確認(Validation)
問い 設計したとおりに作れているか 作ったものが使用者の必要を満たすか
比較の対象 設計アウトプット ⇔ 設計インプット 製品 ⇔ 使用者要求・意図する使用
実施の条件 仕様書どおりの条件で確認する 意図する使用条件または同等の条件で確認する
典型的な活動 寸法測定、性能試験、安全規格適合試験、ソフトウェアの単体・結合試験 ユーザビリティの総括的評価、臨床評価、実使用環境での評価
使用する製品 試作品でも可 初期ロットまたは同等品

安全性の観点から言えば、リスクコントロール手段の「実装したこと」の確認は検証であり、「実際に危害を防げること」の確認は妥当性確認に近い。ISO 14971がリスクコントロール手段について実装の検証と有効性の検証の双方を求めているのは、この二段構えを担保するためである。

設計管理を要求する根拠は日米ともに書き換わった

ここまで述べてきた設計開発上の実務は、規制上どの条文を根拠に要求されているのか。この根拠が、日本でも米国でも近年書き換わっている。制度の全体像は第1講で扱っているため、本稿では設計・開発の担当者が押さえるべき点に絞る。

日本 ── 改正QMS省令は経過措置を終え、全面適用となった

QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令、平成16年厚生労働省令第169号)は、令和3年厚生労働省令第60号により改正され、ISO 13485:2016との整合が図られた。この改正省令は2021年3月26日に公布・施行され、附則により施行の日から起算して3年を経過する日までは従前の例によることができるとされていた。

その経過措置は2024年3月25日をもって終了しており、2026年8月時点では改正QMS省令が全面適用の状態にある。旧版のQMS省令、あるいはISO 13485:2003に整合していた時代の設計管理手順書をそのまま運用している余地はもはやない。「2024年3月26日までに対応すればよい」という記述の残る社内文書や研修資料があれば、期限そのものが過去のものであることを確認されたい。

米国 ── 設計管理の根拠は21 CFR 820.30からISO 13485:2016へ移った

米国では、品質システム規則(QSR)を全面改正するQMSR(Quality Management System Regulation)が2024年2月2日に最終規則として公布(89 FR 7496)され、2026年2月2日に施行された。したがって本稿執筆時点では、すでに施行後の運用段階にある。

設計・開発の担当者にとって最も直接的な変化は、設計管理を要求していた21 CFR 820.30(Design controls)が条文として存在しなくなったことである。2026年8月時点の21 CFR Part 820を確認すると、その構成は次のように大きく簡素化されている。

条番号 表題 設計・開発との関係
§ 820.1 Scope 適用範囲
§ 820.3 Definitions 用語はISO 13485およびISO 9000 Clause 3の定義による
§ 820.7 Incorporation by reference ISO 13485:2016(第3版、2016年3月1日)を引用
§ 820.10 Requirements for a quality management system ISO 13485の該当要求に適合するQMSの文書化を要求
§§ 820.20〜820.30 [Reserved] 旧820.30(設計管理)はここに含まれ、条文は削除された
§ 820.35 Control of records 記録管理に関する米国固有の上乗せ要求
§ 820.45 Device labeling and packaging controls ラベリング・包装に関する米国固有の上乗せ要求
Subpart C〜O [Reserved]

設計管理の要求は、§ 820.10(c)「Design and development」に移されている。同項は、クラスII機器、クラスIII機器、およびコンピュータソフトウェアにより自動化されたクラスI機器などの列挙された機器の製造業者は、ISO 13485の「Design and Development」すなわち箇条7.3およびその細分箇条の要求に適合しなければならないと規定する。設計インプット、設計アウトプット、設計レビュー、検証、妥当性確認、設計移管、設計変更、設計ファイルという骨格が失われたわけではない。要求の出どころが連邦規則の独自条文から国際規格に移ったのである。

実務的には、日欧向けにISO 13485で構築してきたQMSと米国向けの設計管理手順を二重に維持する必要が薄れた。一方で、社内手順書やトレーサビリティマトリクスが「21 CFR 820.30(c)」のような旧条番号を参照したままであれば、その参照先はもはや存在しない。参照の張り替えが必要である。

なお、記録管理(§ 820.35)とラベリング・包装管理(§ 820.45)は、ISO 13485に上乗せされる米国固有の要求として残されている。ISO 13485への適合だけでは米国要求を満たさない領域があることに留意されたい。査察手法の変更(QSITからCP 7382.850への移行)やMDSAPの位置づけについては第6講で詳述している。

規格の改訂と、各極がそれを受け入れる時期は別問題である

ここが実務で最も混乱しやすい。ISOやIECが新版を発行しても、それが直ちに各国の規制上の証拠として使えるわけではない。米国はFDAの承認規格(Recognized Consensus Standards)データベースへの収載、欧州はMDR(規則(EU) 2017/745)の整合規格(harmonised standards)としての官報告示を経て、はじめて適合宣言の根拠として機能する。「最新版に改訂した」ことと「その版で当局に説明できる」ことは同義ではない。

規格 FDA承認規格番号 収載日 MDR整合規格
ISO 14971:2019
(リスクマネジメント)
5-125 2019-12-23 EN ISO 14971:2019
+A11:2021 として収載
IEC 62366-1 Edition 1.1
(ユーザビリティ)
5-129 2020-07-06 未収載
ISO 10993-1:2025
(生物学的安全性)
2-313 2026-05-25 EN ISO 10993-1:2025
として収載

注意すべき点が三つある。第一に、FDAはIEC 62366-1:2015+AMD1:2020を「Edition 1.1(2020-06 統合版)」という呼称で収載している。内容は同一だが、申請書類に記載する規格名としてはFDAの表記に従うのが無難である。第二に、ISO 10993-1:2025はFDAに収載されているものの、FDAの生物学的安全性ガイダンス「Use of International Standard ISO 10993-1」(2023年9月8日発行)は第5版を前提とした記述のままであり、規格とガイダンスの間に時期のずれがある。第三に、EN IEC 62366-1はMDR整合規格として告示されていない。ユーザビリティエンジニアリングの実施自体は基本要件(GSPR)上求められるため、IEC 62366-1は最新技術水準(state of the art)を示す文書として参照されるが、整合規格としての適合推定は働かない。この違いは技術文書の書き方に影響する。

なお医用電気機器の一般要求事項であるIEC 60601-1については、FDAはEdition 3.2(2020-08統合版、承認規格番号19-49、2023年4月3日収載)を承認規格としている。

ヒューマンファクタに関する米国の要求

米国では、ユーザビリティ(FDAの用語ではヒューマンファクタ/ユーザビリティエンジニアリング)について、IEC 62366-1の承認に加えてFDA独自のガイダンスが運用されている。設計そのものへの適用を扱う「Applying Human Factors and Usability Engineering to Medical Devices」と、市販前申請にヒューマンファクタ情報をどう記載するかを扱う「Content of Human Factors Information in Medical Device Marketing Submissions」である。後者は2026年5月29日に最終版として発出(91 FR 32061)され、両者は併用される関係にある。米国向けの申請を予定するのであれば、総括的評価の計画段階でこれらの記載要求を確認しておきたい。

2026年時点で押さえるべき要点

品質・有効性・安全性の確保 ── 実務のチェックポイント
  1. 安全性だけは試せない。品質は工程で作り込め、有効性は臨床で試せる。安全性は設計段階での推定に依存する。だからリスクマネジメントとユーザビリティエンジニアリングが設計インプットの必須要素になる。
  2. 安全要求は使用者から出てこない。顧客要求はほぼすべて機能・性能の要求である。安全要求は製造業者が自ら導出し、自ら設計インプットに書き込むしかない。
  3. リスクとは危害の発生確率と重大性の組合せである。欠陥の発生確率ではない。管理対象は患者・使用者・第三者に対する健康被害であって、作業者の労働安全ではない。
  4. リスクマネジメントはISO 14971:2019(第3版)、国内はJIS T 14971:2020。2025年の見直しでConfirmedとされ現行版である。適用の手引はISO/TR 24971:2020(国内はTR T 24971:2020)。国内の経過措置期間は2023年9月30日に終了している。
  5. 「誤使用」は「使用エラー」と「合理的に予見可能な誤使用」に分かれた。JIS T 14971:2020の改正により用語が整理された。旧来の「誤使用」で一括りにした分析様式は見直しを要する。
  6. ユーザビリティはIEC 62366-1:2015にAMD1:2020を適用した版、国内はJIS T 62366-1:2022。2024年4月1日以降に製造販売される医療機器については、改正後のJISへの適合を確認する体制が求められている。目的は使いやすさではなく、使用エラーのない安全な機器の設計である。形成的評価と総括的評価を区別し、総括的評価は設計妥当性確認の一部として扱う。
  7. 生物学的安全性はISO 10993-1:2025(第6版、2025年11月発行)。2018年版(第5版)は廃止された。表題も要求構成も変わっており、旧版を引用する手順書は改訂を要する。
  8. 臨床試験はISO 14155:2026(第4版、2026年3月発行)。2020年版は廃止された。残留リスク評価やエスティマンドなどの要求が強化されている。
  9. リスクコントロールには順序がある。本質的な安全設計 → 防護手段 → 安全に関する情報および訓練。取扱説明書への警告追記は最後の手段であり、設計で解決できるものを注意書きに転嫁することは許されない。
  10. 下げるべきは発生確率である。重大性はほとんど下がらない。初期段階の発生確率の精度に労力を割かず、リスクコントロール実装後にどこまで下がったかを評価する。
  11. 日本の改正QMS省令は経過措置を終えている。経過措置は2024年3月25日で終了し、全面適用の段階にある。「2024年3月26日まで」という期限は過去のものである。
  12. 米国のQMSRは2026年2月2日に施行された。21 CFR 820.30(Design controls)は条文として存在せず、設計管理の根拠は§ 820.10を通じて引用されたISO 13485:2016に移った。旧条番号を参照する社内文書は張り替えが必要である。
  13. 合理的に予見可能な誤使用の境界は動く。社会通念、製品の履歴、使用者の属性によって移動する。市販後情報によるリスクマネジメントファイルの見直しは、形式的な作業ではなく安全性確保の実証手段そのものである。

シリーズ一覧

本シリーズ「医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門 ~品質、有効性及び安全性の確保~」は次の構成である。

出典・参考(一次情報源)

※本稿の規格の版数・発行日は2026年8月時点で上記一次情報源により確認したものである。規格および規制は改訂されるため、実務においては必ず最新の原典を参照されたい。

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