
Compliance Policy Guide 7153.17とは
医薬品・医療機器業界において、FDA(米国食品医薬品局)による規制への準拠は企業活動の根幹をなす。電子記録・電子署名を規定する FDA 21 CFR Part 11(以下、Part 11)の執行に関わる文書として、Compliance Policy Guide(CPG)7153.17がある。本稿では、CPG 7153.17の正確な位置づけと歴史的経緯を整理した上で、そもそもCPGとはどういう性格の文書なのか、そして実務者はCPGをどう読めばよいのかを解説する。あわせて、Part 11において特に重要とされる3つの技術的要件を、条文番号を確認しながら整理する。
はじめに――本稿の前提
- CPG 7153.17はすでに撤回されている。撤回は、連邦官報 68 FR 8775(2003年2月25日公示、2003年2月19日付) で告知された。
- 現行の執行方針は、2003年9月に発行された「Part 11, Electronic Records; Electronic Signatures — Scope and Application」ガイダンスに基づく。
- したがって本稿は、CPG 7153.17の内容と歴史的意義、およびCPGという文書類型の理解を目的とする。現行の規制対応にあたっては最新ガイダンスを参照されたい。
CPG 7153.17とは何か
CPG 7153.17の正式名称は「Enforcement Policy: 21 CFR Part 11; Electronic Records; Electronic Signatures」である。その名称が示すとおり、これは執行方針(Enforcement Policy)を示したコンプライアンスポリシーガイドであり、査察の手順を定める「査察マニュアル(Inspection Guide/Compliance Program)」とは異なるカテゴリーの文書である。
すなわち、「FDAがどこを見るか」ではなく、「FDAが見つけたものをどう判断するか」を定めた文書と理解するのが正確である。Part 11に完全準拠していない状況が発見された場合に、FDAが規制措置(Warning Letter、輸入警告、差止など)に踏み切るかどうかを、ケースバイケースでどう判断するか――その判断枠組みを、FDA職員向けに示したものだ。
「7153.17」と「Sec. 160.850」――2つの番号は同じ文書を指す
CPGを調べようとすると、必ず番号体系の壁にぶつかる。CPGには旧番号(7153.17 のような「4桁.2桁」形式)と現行のセクション番号(Sec. 160.850 のような「3桁.3桁」形式)の2系統が存在し、文献によってどちらか一方だけが書かれていることが多いためである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| セクション番号(現行体系) | CPG Sec. 160.850 |
| 旧CPG番号 | CPG 7153.17 |
| 表題 | Enforcement Policy: 21 CFR Part 11; Electronic Records; Electronic Signatures |
| 発出日 | 1999年5月13日 |
| 収録 | Compliance Policy Guides Manual, Update No. 20 |
| 現在の状態 | 2003年に撤回(68 FR 8775) |
つまり「CPG 7153.17」と「CPG Sec. 160.850」は同一文書の別番号である。現在のFDAは Sec. 番号で運用しており、CPG Manual は製品分野ごとに章立てされている。たとえば「Chapter 1 – General」には全分野に共通する一般事項が、「Chapter 3 – Devices」には医療機器分野のCPGが収録されている。Sec.番号の上位桁がこの章立てに対応しており、Sec. 160.850 は一般事項(Chapter 1)に属する文書であった。
ただし、fda.gov 上のCPG一覧ページおよびCPG改訂履歴ページの本文は、本稿執筆時点でアクセスが遮断されており直接確認できていない。撤回済み文書であるためFDAの現行CPG一覧には収載されていないものと考えられるが、FDA公式ページ上で「撤回」表示を直接確認したものではない点をお断りしておく。また、撤回を告知した官報(68 FR 8775)の本文には「CPG 7153.17」という旧番号のみが記載され、Sec.番号は記されていない。
そもそもCompliance Policy Guide(CPG)とは何か
CPG 7153.17を正しく位置づけるには、CPGという文書類型そのものを理解しておく必要がある。この点は撤回の有無に関係なく、いまも変わらず有効な知識である。
CPGは「FDA職員向けの内部方針文書」である
CPGは、Compliance Policy Guides Manual に収録される文書群であり、第一義的にはFDAの査察官・コンプライアンス担当官に対して、規制の解釈と執行戦略を統一するために発出される内部方針文書である。同時に一般にも公開されており、業界側もこれを読むことができる。
ここで極めて重要なのは、CPGが法的拘束力を持つ規則ではないという点である。FDAのガイダンス文書には一貫して次の趣旨の但し書きが付されている。
――FDAガイダンス文書に共通して付される但し書き(趣旨)
つまり、CPGに書かれていることを守らなかったからといって、それ自体が違法となるわけではない。違法性の根拠となるのはあくまで連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C Act)と、それに基づく規則(21 CFR)――いわゆる predicate rule ――である。CPGは、その法令をFDAがどう運用するかの「運用解」を示したものにすぎない。
Guidance for Industry との違い
実務者が混同しやすいのが、CPGと「Guidance for Industry」の違いである。両者はいずれも法的拘束力を持たないガイダンス文書だが、想定読者と機能が異なる。
| 区分 | Compliance Policy Guide(CPG) | Guidance for Industry |
|---|---|---|
| 第一の読者 | FDA職員(査察官・コンプライアンス担当官) | 業界(申請者・製造業者) |
| 主な機能 | 執行するか否かの判断基準、規制措置の優先順位づけ | 要求事項の解釈、望ましい対応方法の提示 |
| 読者にとっての意味 | 「どこまで踏み込まれるか」の閾値が読める | 「何をすればよいか」の道筋が読める |
| 法的拘束力 | なし(推奨事項) | なし(推奨事項) |
なお、近年のCPGには「Guidance for Industry and FDA Staff」と副題が付されるものもあり、両者の境界は運用上やや曖昧になっている。
誤解しやすいポイント
- CPGは「査察でここを見る」というチェックリストではない。査察の実施手順を定めるのは Compliance Program(例:医療機器製造業者の査察を規定する CP 7382.850)である。
- CPGに「執行しない」と書かれていても、predicate rule 上の義務が消えるわけではない。執行を控える(enforcement discretion)だけであり、要求事項自体は存続する。
- CPGは予告なく改訂・撤回される。番号だけを記憶して引用すると、撤回済み文書を根拠にしてしまう危険がある。本稿の主題であるCPG 7153.17がまさにその典型例である。
CPG 7153.17が示していた4つの判断基準
CPG 7153.17は、Part 11への不適合が発見された場合に規制措置を追求するかどうかを、次の4点を総合して判断するとしていた。
- 逸脱の性質と範囲逸脱が多数にわたる場合、当局の監査を妨げる場合、あるいはデータや電子システムの完全性(integrity)を損なう場合に、より重大とみなされる。
- 製品品質・データインテグリティへの影響データに不整合が生じているにもかかわらず監査証跡が存在しない、運用上の管理策が不十分である、といった状況が重大な懸念事項とされた。
- 是正措置の適切性と迅速性手続的な管理策がすでに整備されていることを前提に、準拠達成までの合理的なタイムテーブルが示されているかが問われた。
- コンプライアンス履歴過去に違反歴がある企業に対しては、不整合や無許可の変更についてより厳しい目が向けられた。
この4点は、現在のFDAの執行判断の考え方とも本質的に通じている。「逸脱の重大性 × データへの影響 × 是正の姿勢 × 過去の履歴」という掛け算で判断されるという構図は、CPGが撤回された今日でも実務感覚として有効である。
なぜ撤回されたのか
CPG 7153.17が撤回された背景には、Part 11の要件に対する解釈が過度に広範になっていたことへの懸念がある。1997年8月20日の施行後、業界からは次のような問題点が繰り返し指摘された。
- 電子技術の使用を不必要に制限している
- 規則策定時に想定されていなかった水準のコンプライアンスコストを課している
- 公衆衛生上の利益を提供せずにイノベーションを阻害している
これを受けFDAは、2003年2月25日公示の官報(68 FR 8775)において、「Part 11, Electronic Records, Electronic Signatures — Scope and Application」ドラフトガイダンスの公表とあわせ、CPG 7153.17および既発出のPart 11ドラフトガイダンス4件(バリデーション、用語集、タイムスタンプ、電子記録の保守)の撤回を告知した。
| 年月日 | できごと | 典拠 |
|---|---|---|
| 1997年3月20日 | Part 11 最終規則が官報公示 | 62 FR 13430 |
| 1997年8月20日 | Part 11 施行 | 同上(effective date) |
| 1999年5月13日 | CPG Sec. 160.850(CPG 7153.17)発出 | CPG本文 |
| 2003年2月4日 | 「Electronic Copies of Electronic Records」ドラフトガイダンス撤回 | 68 FR 5645 |
| 2003年2月25日 | CPG 7153.17ほかの撤回を告知、Scope and Application ドラフト公表 | 68 FR 8775 |
| 2003年9月5日 | 「Scope and Application」最終ガイダンス公表 | 68 FR 52779 |
撤回後の現在――Part 11の執行はどうなっているか
2003年9月の「Scope and Application」ガイダンスにより、FDAはPart 11の適用範囲をより狭く解釈する方針へと転換した。同ガイダンスが示した執行方針の骨格は次のとおりである。
――68 FR 52779(2003年9月5日)/「Part 11 — Scope and Application」ガイダンスの記述(趣旨)
ここで見落としてはならないのが、執行裁量はPart 11の条文に対してのみ働き、predicate rule(先行規則)上の義務には及ばないという点である。たとえば監査証跡について、Part 11 §11.10(e) の執行が控えられたとしても、CGMP(21 CFR Part 211、Part 820)が求める記録の作成・保持義務は一切減じられない。実務上、データインテグリティ関連の指摘がPart 11単体ではなくCGMP違反として構成されることが多いのは、この構造による。
なお、臨床試験領域については、Part 11の適用に関する考え方を整理した「Electronic Systems, Electronic Records, and Electronic Signatures in Clinical Investigations: Questions and Answers」が別途発出されている。臨床データを扱う場合はこちらもあわせて参照されたい。
▲【動画】株式会社イーコンプライアンス公式YouTubeチャンネルより
Part 11における3つの重要要件
CPG 7153.17は撤回済みであるが、同文書が対象としたPart 11自体は現在も有効な規則である。以下では、Part 11において特に重要とされる3つの技術的・手続き的要件を、条文番号を確認しながら解説する。
1. 監査証跡(Audit Trail)の完全性 ― §11.10(e)
監査証跡とは、システム上で行われた操作――データの作成・変更・削除――を自動的に記録する機能である。21 CFR §11.10(e) は次のように定める。
――21 CFR §11.10(e)(拙訳)
「誰が」「いつ」「何を」変更したかが追跡可能であり、かつ変更前の値が消えずに残ることが基本要件である。これが担保されない場合、データインテグリティの観点から重大な問題とみなされる。前述のとおり、Part 11単体よりもCGMPなどのpredicate ruleとの組み合わせで指摘されるケースが実務上は多い。
2. アクセス制御と電子署名の運用 ― §11.10(d)(g)・Subpart C
Part 11は電子署名を紙の手書き署名と同等の法的効力を持つものとして認める一方で、その真正性を担保するための条件を課している。主な条文は次のとおりである。
| 条文 | 見出し | 要求の要点 |
|---|---|---|
| §11.10(d) | Controls for closed systems | システムへのアクセスを権限を有する者に限定する |
| §11.10(g) | Controls for closed systems | 権限確認(authority check)により、権限者のみが署名・操作・記録変更を行えるようにする |
| §11.50 | Signature manifestations | 署名者の氏名、署名日時、署名の意味(照査/承認/責任/作成)を電子記録に含める |
| §11.70 | Signature/record linking | 署名を記録に結び付け、通常の手段では切り離し・複製・転用できないようにする |
| §11.100(a) | General requirements | 各電子署名は個人に固有であり、他者に再使用・再割当てされないこと |
| §11.200(a) | Electronic signature components and controls | 非生体認証の署名は2つ以上の識別要素(IDとパスワード等)を用い、真正の所有者のみが使用し、他者による使用の試みには2名以上の共謀(collaboration)を要する設計とする |
実務上は、ユーザーIDとパスワードの適切な管理、退職者アカウントの速やかな無効化、共有アカウントの禁止といった運用面が問われることが多い。これらは技術的な設定だけでなく、SOPとして手続き化され、教育訓練の記録が残っているかどうかも重要な評価ポイントとなる。詳細は当社記事「電子署名の3つの明示事項」および「なぜ2人以上の共謀が必要とされたのか」もあわせて参照されたい。
3. システムバリデーションの実施と維持 ― §11.10(a)
21 CFR §11.10(a) は、対象システムが意図したとおりに動作することを科学的に証明する「バリデーション」を要求している。条文が挙げる確保すべき事項は、正確性(accuracy)・信頼性(reliability)・一貫した意図された性能(consistent intended performance)・無効または変更された記録を識別する能力の4点である。
バリデーション計画書(VMP)・適格性確認(IQ/OQ/PQ)・バリデーション報告書といった一連の文書はPart 11に明示されていないが、業界のベストプラクティス(GAMP等)として広く採用されている手法である。システムのバージョンアップや環境変更があった際の再バリデーション実施と、変更管理記録の整備も、継続的な準拠の観点から欠かせない。バリデーション概念の成り立ちについては「バリデーション概念の歴史的背景~1970年代の薬害事件から学ぶ」で詳しく述べている。
いま参照できる主要なCPGの例
CPG 7153.17は撤回されたが、CPGという文書群そのものは現在も更新・追加されている。医薬品・医療機器の実務者にとって参照価値の高いものをいくつか挙げる(表題はFDAサイトの掲載名による)。
| CPG番号 | 表題 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| Sec. 130.300 | FDA Access to Results of Quality Assurance Program Audits and Inspections | 内部監査報告書の提出をFDAが原則として求めない、という運用方針。査察対応の場面で頻繁に参照される。 |
| Sec. 300.600 | Commercial Distribution with Regard to Premarket Notification (Section 510(k)) | 510(k)における「商業的流通」の該当性判断。既販品該当性の整理に用いる。 |
| Sec. 160.300 | Requests for Records Under Section 703 | FD&C Act 第703条に基づく記録提出要求の取扱い。 |
| Sec. 490.200 | Parametric Release of Parenteral Drug Products Terminally Sterilized by Moist Heat | 湿熱最終滅菌注射剤のパラメトリックリリースに関する当局の考え方。 |
実務者はCPGをどう使うか
CPGは法的拘束力を持たない。しかし、だからといって読む価値がないわけではない。むしろ逆である。CPGを読むと、FDAが何を問題視し、どの水準を超えたら執行に踏み切るのか――その「閾値」が見える。これは規則の条文を読んでいるだけでは決して得られない情報だ。
具体的な活用の仕方は次のとおりである。
- 自社のリスク評価に組み込む該当領域のCPGを読み、FDAが「重大」とする逸脱類型を自社の内部監査チェック項目に反映する。
- 是正措置計画の説得力を高めるCPGは是正措置の「適切性と迅速性」を判断材料に挙げている。回答書には、根本原因分析と現実的なタイムラインを明記する。
- Compliance Program とセットで読むCPGが「判断基準」なら、Compliance Program は「査察手順」である。両者を突き合わせることで、査察で何を見られ、それがどう評価されるかが立体的に把握できる。
- 引用前に必ず現況を確認するCPGは撤回・改訂されうる。社内文書やFDAへの回答書で引用する場合は、その都度FDAサイトで現況を確認する。CPG 7153.17を「現行の根拠」として引用してしまう誤りは、実際にしばしば見られる。
まとめ――3つのポイント
- CPG 7153.17は撤回済みである正式名称は「Enforcement Policy: 21 CFR Part 11; Electronic Records; Electronic Signatures」、セクション番号は Sec. 160.850、発出は1999年5月13日。2003年2月25日公示の官報(68 FR 8775)で撤回が告知された。現行の執行方針は同年9月の「Scope and Application」ガイダンスによる。
- CPGは法的拘束力を持たない内部方針文書である読者はFDA職員であり、機能は「執行するか否かの判断基準」の提示にある。法的義務の根拠はあくまでFD&C Actと21 CFR(predicate rule)であって、CPGではない。だからこそ、CPGを読むと執行の閾値が見える。
- Part 11の要求事項そのものは今も有効である監査証跡(§11.10(e))、アクセス制御と電子署名(§11.10(d)(g)・Subpart C)、システムバリデーション(§11.10(a))――一部に執行裁量が働いているとはいえ、predicate rule上の記録義務は一切減じられていない。
重要なのは、これらの要件を形式的に満たすことではなく、データの信頼性を組織の日常的な文化として根付かせることである。FDAが最終的に評価するのは、書類の整合性ではなく、現場における実質的な管理の実態である。規制の変遷を正確に把握しながら、実効性のある品質管理体制を構築していくことが、今日の規制環境を生き抜く鍵となるであろう。
参考・出典(一次情報源)
- eCFR「21 CFR Part 11 – Electronic Records; Electronic Signatures」
- eCFR「21 CFR §11.10 – Controls for closed systems」
- Federal Register「Electronic Records; Electronic Signatures」(最終規則、62 FR 13430、1997年3月20日公示/1997年8月20日施行)
- GPO govinfo「Draft Guidance for Industry on “Part 11, Electronic Records, Electronic Signatures—Scope and Application;” Availability of Draft Guidance and Withdrawal of Draft Part 11 Guidance Documents and a Compliance Policy Guide」(68 FR 8775、2003年2月25日公示)
- GPO govinfo「Guidance for Industry on “Part 11, Electronic Records; Electronic Signatures—Scope and Application;” Availability」(68 FR 52779、2003年9月5日公示)
- Federal Register「Withdrawal of Draft Guidance for Industry on Electronic Records; Electronic Signatures, Electronic Copies of Electronic Records」(68 FR 5645、2003年2月4日公示)
- FDA「Part 11, Electronic Records; Electronic Signatures – Scope and Application」(2003年9月)
- FDA「Manual of Compliance Policy Guides」
- FDA「Compliance Policy Guides Index」
- FDA「Compliance Policy Guides – Chapter 1: General」/「Chapter 3: Devices」
- FDA「Electronic Systems, Electronic Records, and Electronic Signatures in Clinical Investigations: Questions and Answers」
- FDA「Search for FDA Guidance Documents」(Compliance Policy Guides で絞り込み可能)