ISO 13485 適用除外と非適用の違い――アウトソースは除外できない

適用除外と非適用の違い――品質マニュアル作成の落とし穴

ISO 13485の品質マニュアルを作成する際、多くの企業が見落としがちな重要な概念がある。それが「適用除外(Exclusion)」「非適用(Non-application)」の違いである。この2つの用語は似ているようで全く異なる意味を持ち、その理解を誤ると、査察時に重大な指摘を受ける可能性がある。本稿では、この落とし穴を避けるための正しい理解と実践的なアプローチを解説する。

「適用除外」と「非適用」:根本的な違い

まず全体像を押さえる

ISO 13485:2016では、自社の品質マネジメントシステムに組み込まない要求事項について、次の3つの扱いが存在する。混同されやすいため、最初に整理しておく。

区分 対象となる条項 成立の条件 QMSからの除外
適用除外
(Exclusion)
第7章(製品実現)の要求事項。とりわけ7.3(設計・開発) 適用される規制要件が許容する場合に限られる 可(正当化の記録が必要)
非適用
(Non-application)
第6章・第7章・第8章の要求事項 組織の活動または医療機器の性質上、該当しない場合 可(正当化の記録が必要)
アウトソース
(外部委託)
すべての該当条項 ―(外部に委託しているだけ) 不可。適用したうえで購買管理(7.4)で管理する

最も重要な原則

  • いずれの区分であっても、ISO 13485:2016 4.2.2(品質マニュアル)により、その理由(正当化)を品質マニュアルに記録することが要求される
  • 委託しても責任は残る。外部委託を「非適用」と書くことは、査察・審査で最も重い指摘を受ける誤りの一つである。

適用除外(Exclusion)とは何か

適用除外とは、ISO 13485の規格要求事項のうち、適用される規制要件が許容する場合に限り、品質マネジメントシステムに含めなくてよいとされる要求事項を指す。これは企業が自由に選択できるものではなく、規制当局や法令によって認められる範囲が定められている。

ISO 13485:2016において、「適用除外」という用語が特に結び付けられているのは設計・開発管理(7.3)である。規格は、適用される規制要件が設計・開発管理の除外を許容する場合、それを除外の正当化根拠として使用できるとしている。

各国の規制における設計管理の扱いは、次のように異なる。

規制 設計管理の適用範囲
米国
21 CFR Part 820
従来のQSRでは、クラスIの大部分が設計管理の対象外とされ、一部のクラスI機器(自動体外式除細動器等)とクラスII・IIIが対象とされてきた。2026年2月2日施行のQMSR下でも、この適用範囲の考え方は維持されている。
日本
(QMS省令)
クラスI(一般医療機器)については、QMS適合性調査自体が原則として不要である。
欧州
EU MDR
設計・開発の除外は限定的であり、製造業者としての責任範囲に応じて判断される。

また、設計・開発管理以外にも、第7章(製品実現)内の他の条項について、組織の活動や機器の性質に照らして正当な理由があれば、品質マネジメントシステムに含めないことが認められる場合がある。実務上よく見られる例として以下が挙げられる。

  • 7.3(設計・開発):設計責任を持たない受託製造業者など
  • 7.5.4(付帯サービス業務):サービス提供を行わない場合
  • 設置活動に関する条項(7.5.3等):設置が不要な機器の場合

具体例を挙げると、設計業務を一切行わず、他社が設計した製品の製造のみを受託している企業は、適用される規制要件が許容する範囲で設計管理を適用除外とすることができる。ただし、これは法令で認められた範囲に限られ、企業の判断で勝手に拡大解釈することはできない。

注意:「設計を行っていない」という主張が認められるかどうかは、契約上の設計責任の所在によって決まる。仕様を自社で決定している場合や、OEM先に設計を委託している場合は、設計責任を負っていると判断され得る。

非適用(Non-application)とは何か

一方、非適用とは、組織が行う活動または対象となる医療機器の性質に照らして、その要求事項がそもそも該当しない場合を指す。ISO 13485:2016の「1 適用範囲」では、第6章・第7章・第8章の要求事項が組織の活動または機器の性質により適用されない場合、それらを品質マネジメントシステムに含める必要はないとされている。

非適用の代表的な例として、以下が挙げられる。

  • 滅菌医療機器を製造していない企業における、滅菌医療機器に関する特別要求事項(7.5.5)および滅菌プロセスのバリデーション(7.5.7)
  • 埋込医療機器を扱っていない企業における、埋込機器特有のトレーサビリティ要求(7.5.9.2)
  • 放射線を使用しない機器における放射線安全管理の要求事項
  • ソフトウェアを含まない医療機器を扱う企業における、ソフトウェア関連の一部要求事項

重要なのは、非適用は企業の事業範囲・製品特性に基づく自然な状態であり、規制当局の個別の許可を必要としない点である。ただし、その正当化の記録は品質マニュアルに必要である。品質マニュアルには「当社は滅菌製品を製造していないため、7.5.5および7.5.7は非適用である」といった記載を行う。

よくある誤解:アウトソースを非適用と混同するケース

品質マニュアル作成で最も深刻な誤りの一つが、外部委託(アウトソース)している業務を非適用として扱ってしまうことである。

アウトソースと非適用の決定的な違い

ある医療機器企業が、設計は自社で行うが製造は外部の工場に委託しているとしよう。この場合、「当社は製造を行っていないので、製造プロセスの要求事項(7.5)は非適用である」と品質マニュアルに記載することは重大な誤りである。

なぜなら、外部に委託している場合でも、その業務に対する管理責任は委託元企業にあるからである。ISO 13485では、アウトソースされたプロセスは購買管理(7.4)の枠組みで管理することが要求されている。また、4.1.5では、外部委託したプロセスに対する管理を維持する責任が組織にあることが明記されている。

外部委託している設計業務の場合

  • 設計管理(7.3)は非適用とせず、適用する
  • 委託先の設計能力を評価し、承認する(購買管理)
  • 設計のインプット・アウトプット・レビュー・検証・妥当性確認を監督する
  • 委託先との間で設計変更管理の手順を確立する

外部委託している製造業務の場合

  • 製造プロセス(7.5)は非適用とせず、適用する
  • 委託先の製造能力と品質管理体制を評価する
  • 製造指図書や作業手順書の管理について合意する
  • 定期的な監査を実施し、製造プロセスの適切性を確認する

責任の所在は移転しない

委託契約によって業務は移転するが、規制上の責任は移転しない。委託先で発生した不具合であっても、製造販売業者が説明責任を負う。したがって、次のような管理活動が必要になる。

  • 委託先の選定基準と評価記録
  • 品質取決め(Quality Agreement)の締結
  • 委託先に対する定期監査
  • 受入検査・是正処置の要求
  • 品質指標のレビューと改善要求

これらはすべて「購買管理」の枠組みで実施され、品質マニュアルにも明記する必要がある。

▲【動画】医療機器設計管理入門(設計管理を適用除外とすべきか判断する前に押さえたい全体像/株式会社イーコンプライアンス)

実践的な品質マニュアル作成アプローチ

  1. ステップ1:事業範囲の明確化
    まず、自社の事業範囲を正確に把握する。整理すべき項目は次のとおり。

    • 取り扱う医療機器のクラス分類
    • 製品の特性(滅菌/非滅菌、埋込/非埋込、ソフトウェアの有無など)
    • 自社で実施する業務プロセス
    • 外部委託している業務プロセス
    • 全く関与していない業務プロセス
  2. ステップ2:適用除外の判定
    適用される規制要件が許容する適用除外に該当するか確認する。可能性があるのは次の条項である。

    • 設計・開発管理(7.3):規制要件が許容する場合
    • 付帯サービス業務(7.5.4):サービス提供を行わない場合
    • 設置活動関連の条項:設置が不要な機器の場合

    適用除外の可否は規制当局や認証機関によって判断が異なる場合があるため、不明な場合は事前に確認することが推奨される。

  3. ステップ3:非適用の判定
    自社の事業範囲・製品特性に該当しない要求事項を特定する。記載例は次のとおり。

    • 「当社は滅菌医療機器を製造していないため、滅菌医療機器に関する特別要求事項(7.5.5)および滅菌プロセスのバリデーション(7.5.7)は非適用」
    • 「当社は埋込医療機器を扱っていないため、埋込機器特有のトレーサビリティ要求(7.5.9.2)は非適用」

    ここで重要なのは、外部委託している業務を非適用に含めないことである。

  4. ステップ4:アウトソースの明記
    外部委託している業務については、品質マニュアルに以下を明記する。

    • アウトソースしているプロセスの範囲
    • 委託先に対する管理方法(購買管理)
    • 品質責任の所在
    • 委託先の評価・選定基準
    • 定期監査の頻度と方法
記載例:「当社は製品の製造を外部の製造受託業者(CMO)に委託している。製造プロセス(7.5)の要求事項は当社の品質マネジメントシステムに適用され、購買管理(7.4)および外部委託プロセスの管理(4.1.5)に基づき、委託先の選定・評価・監視・監査を通じて管理する。」
――品質マニュアルにおけるアウトソース記載の例
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今後の動向と準備すべきこと

サプライチェーン管理への要求の高まり

近年、規制当局の関心はサプライチェーン全体に及んでいる。

  • 多層委託の把握:委託先だけでなく、原材料サプライヤーに対する管理要求も厳しくなりつつある。複数階層の委託関係がある場合、その全体を把握し管理することが求められる傾向にある。
  • デジタルトレーサビリティへの期待:外部委託している場合でも、製品のトレーサビリティを確保するため、デジタル記録の統合管理が推奨される方向にある。

2026年2月2日に施行されたFDAのQMSRにより、米国の品質システム要求事項がISO 13485:2016と整合したことで、購買管理・外部委託管理の要求もISO 13485の枠組みで統一的に評価されることになった。新しい査察運用については、当社の別記事「QSITはこう変わった|FDAの新査察プログラム「CP 7382.850」とQMSR時代の査察対応」および「なぜ事後法が適用されたのか」を参照されたい。

準備すべきこと

  • 品質マニュアルの総点検:適用除外・非適用・アウトソースの区分が正しいか、またそれぞれの正当化が記録されているか再確認する
  • 委託先管理体制の強化:形式的な監査ではなく、実効性のある品質監督を実施する仕組みを構築する
  • 社内教育の実施:品質管理担当者だけでなく、経営層も含めて「責任の所在」に関する認識を統一する

まとめ

ISO 13485における適用除外と非適用の違いを正しく理解することは、品質マニュアル作成の基本である。特に重要なのは、外部委託している業務を安易に「非適用」としてしまう誤りを避けることである。

品質マニュアル作成の3原則

  1. 適用除外は「規制要件が許容する場合」に限られるとりわけ7.3(設計・開発)が対象。企業の判断で拡大解釈してはならない。
  2. 非適用は「該当しないこと」が根拠となる製品特性や事業範囲に照らして該当しない要求事項が対象。規制当局の個別許可は不要だが、正当化の記録は必要。
  3. アウトソースは除外できない委託しても責任は残る。該当条項を適用したうえで、購買管理(7.4)および外部委託プロセスの管理(4.1.5)で監督する。

委託しても責任は残る――この原則を理解し、適切な管理体制を構築することが、査察をクリアするだけでなく、真に患者の安全を守る品質マネジメントシステムを実現する鍵となる。技術や業務プロセスがどれほど複雑化しても、最終的な品質責任の所在を明確にし、それを品質マニュアルに正確に反映することが、医療機器企業に求められる姿勢である。

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