
QMS省令とは
QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令/平成16年厚生労働省令第169号)は、医療機器・体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理に関する国内の基本基準である。令和3年3月26日に公布・施行された改正(令和3年厚生労働省令第60号)によりISO 13485:2016と整合が図られたが、その3年間の経過措置は2024年(令和6年)3月25日をもって終了しており、2026年8月現在、改正後の条文が全面的に適用されている。本稿では、QMS省令が「何を要求している省令なのか」を、条文構成に沿って整理する。
まず押さえるべき3点
- QMS省令は令和3年改正により全面適用の段階に入っている。「いつまでに対応すればよいか」という論点はすでに存在しない。
- 省令番号は平成16年厚生労働省令第169号のままである。令和3年改正は一部改正であり、条項番号も原則として維持された(枝番の追加はある)。
- QMS省令は製造販売業者等に課される基準であり、製造販売業の許可要件そのものではない。許可要件は別に体制省令が定める。
1. QMS省令とは何か
QMS省令の正式名称は「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」である。QMSはQuality Management System(品質マネジメントシステム)の略であり、省令中では「品質管理監督システム」という訳語が用いられている。
この省令は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第23条の2の5第2項第4号にいう「その物の製造管理又は品質管理の方法が、厚生労働省令で定める基準に適合していると認められないとき」の当該基準にあたる。すなわち、製造販売承認の要件であり、かつ承認後も定期的な適合性調査の判定基準となる基準である。
省令の第1条(趣旨)から第84条までは、第2章がISO 13485の要求事項に対応する「基本的要求事項」、第3章以降が国内の薬事規制に固有の「追加的要求事項」という二層構造をとっている。この構造は令和3年改正後も維持されている。
2. 省令の構成
| 章 | 条 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 第1条〜第3条 | 趣旨、定義、適用の範囲 |
| 第2章 基本的要求事項 | 第4条〜第64条 | ISO 13485に対応する中核部分。第1節 通則/第2節 品質管理監督システム/第3節 管理監督者の責任/第4節 資源の管理監督/第5節 製品実現/第6節 測定、分析及び改善 |
| 第3章 追加的要求事項 | 第65条〜第72条の3 | 国内固有の要求。文書・記録の保管期限、不具合等報告、医療機器等総括製造販売責任者の業務、国内品質業務運営責任者ほか(第65条は削除) |
| 第4章 生物由来医療機器等 | 第73条〜第79条 | 業務運営基盤、工程管理、試験検査、教育訓練、記録の保管の特例 |
| 第5章 放射性体外診断用医薬品 | 第80条・第81条 | 登録製造所の業務運営基盤、製造及び取扱規則の遵守 |
| 第5章の2 再製造単回使用医療機器 | 第81条の2〜 | 業務運営基盤、工程管理、試験検査、教育訓練、追跡可能性の確保 |
| 第6章 製造業者等への準用等 | 第82条〜第84条 | 輸出用医療機器等の製造業者、登録製造所に係る製造業者等、製造販売業者等による管理 |
第50条及び第65条は削除されている。第65条は第2章の規定と重複するため削除されたものであり、条番号だけが空番として残っている点に注意されたい。
3. 令和3年改正で何が変わったか
令和3年改正の目的は、当時ISO 13485:2003に整合していた第2章をISO 13485:2016へ整合させることである。施行通知(令和3年3月26日 薬生監麻発0326第4号)は「第1 改正の要旨」として21項目を掲げている。主な項目を、同通知が各条について示したISO 13485:2016の対応箇条とともに整理する。
| 改正事項 | QMS省令 | ISO 13485:2016の対応箇条(施行通知による) |
|---|---|---|
| 定義の追加(植込医療機器、類似製品グループ、市販後監視、購買物品等、無菌バリアシステム、使用性) | 第2条 | (通知に対応箇条の記載なし) |
| 要求事項・手順・活動及び実施要領の確立、実施及び維持 | 第5条第2項 | 4.1 |
| リスクに基づくアプローチによる品質管理監督システムの確立 | 第5条の2 | 4.1.2 |
| 外部委託工程の管理(リスク及び受託事業者の能力に応じた管理、実施要領による合意) | 第5条の5 | 4.1.5 |
| 品質管理監督システムに使用するソフトウェアのバリデーション | 第5条の6 | 4.1.6 |
| 製品標準書(製品又は類似製品グループごとの文書)の作成・保管 | 第7条の2 | 4.2.3 |
| 汚染管理に係る実施要領、滅菌医療機器等の汚染防止 | 第25条の2 | 6.4.2 |
| 設計開発の検証・バリデーションにおける統計学的方法(検体数の設定根拠)、他の機械器具等と一体で使用する場合の実施条件 | 第34条・第35条 | 7.3.6・7.3.7 |
| 設計移管業務の手順化と記録 | 第35条の2 | 7.3.8 |
| 購買物品等の不適合時の供給者との協力、検証範囲のリスクに応じた設定 | 第37条・第39条 | 7.4.1・7.4.3 |
| 設置及びその検証に係る要求事項の文書化 | 第42条 | 7.5.3 |
| 製造及びサービス提供に用いるソフトウェアのバリデーション | 第45条 | 7.5.6 |
| 特定医療機器→植込医療機器への用語変更(追跡可能性) | 第49条・第59条 | 7.5.9.2・8.2.6 |
| 監視及び測定に用いるソフトウェアのバリデーション | 第53条 | 7.6 |
| 苦情処理の手順化、調査を行わない場合の理由の文書化 | 第55条の2 | 8.2.2 |
| 副作用等報告・回収報告に係る手順の文書化と記録の保管 | 第55条の3 | 8.2.3 |
このほか、施行通知は「ISO 13485:2016とQMS省令の条文の構成を同一にするため、一部の条項を移動させる等の所要の改正を行った」としている。第5条の2から第5条の6、第7条の2、第25条の2、第35条の2、第55条の2、第55条の3といった枝番条文が集中的に新設されたのはこのためである。
4. 経過措置は終了している
令和3年厚生労働省令第60号の附則は、施行期日と経過措置を次のように定めていた。
(施行期日)第一条 この省令は、公布の日から施行する。
(経過措置)第二条 この省令による改正後の医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の規定の適用については、これらの規定にかかわらず、この省令の施行の日から起算して三年を経過する日までの間は、なお従前の例によることができる。
出典:令和3年厚生労働省令第60号 附則(e-Gov法令検索)
公布日かつ施行日は令和3年(2021年)3月26日である。「施行の日から起算して三年を経過する日」は令和6年(2024年)3月25日であり、同日までは改正前の規定によることができた。したがって2024年3月26日以降は改正後の規定が全面的に適用されている。施行通知についても同様に、「施行の日(令和3年3月26日)から起算して3年を経過する日までの間は、旧通知の取扱いによることができる」とされていた。
「2024年3月26日までに新QMS省令を遵守しなければならない」という期限を訴求する記述は、2026年8月現在すでに意味を失っている。社内の手順書や教育資料にこの種の記述が残っている場合は、現在形(すでに全面適用されている)に改める必要がある。
なお、附則第2条第2項には期限のない適用除外が置かれている。薬事法時代に承認又は認証を受け、かつ旧QMS省令第4条第1項の「厚生労働大臣が定める医療機器以外の医療機器」に該当していたもの等については、設計開発に係る第30条から第36条の2までの規定が適用されない。これは経過措置ではなく恒久的な取扱いであるため、経過措置の終了と混同しないよう注意が必要である。
5. 令和3年改正後の動き
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2014年11月25日 | 薬事法が薬機法へ改題・施行(平成25年法律第84号)。医療機器の製造業が許可制から登録制へ。QMS省令も併せて改正(平成26年厚生労働省令第87号) |
| 2021年3月26日 | 令和3年厚生労働省令第60号 公布・施行。ISO 13485:2016と整合 |
| 2024年3月25日 | 令和3年改正の経過措置が終了 |
| 2024年3月26日 | 改正後QMS省令の全面適用が開始 |
| 2026年5月1日 | 令和7年厚生労働省令第117号による改正が施行。引用条項番号の整理が中心 |
| 2027年5月20日(予定) | 令和8年厚生労働省令第110号による改正が施行予定。同じく引用条項の整備 |
2026年5月1日施行分と2027年5月20日施行予定分は、いずれも薬機法改正(令和7年法律第37号)に伴う関係省令の整備によるものであり、e-Gov法令検索で条文を比較する限り、実質的な要求事項の追加ではなく引用条項番号の付け替えが中心である。ただし本稿では各改正省令の全体像までは確認していないため、影響評価にあたっては原本を参照されたい。
6. QMS省令が求める文書の階層
QMS省令の実務上の要は文書化要求である。省令は文書を単一の階層では捉えておらず、少なくとも次の4種類を区別している。
| 文書 | 条文 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 品質管理監督システム基準書 | 第7条 | いわゆる品質マニュアル。適用範囲、適用除外・非適用の理由、文書体系の概要を記載する |
| 製品標準書 | 第7条の2 | 製品又は類似製品グループごとに、設計開発・製造等に関する文書自体又はその所在を綴ったもの(令和3年改正で新設) |
| 手順書 | 第6条第3号ほか | 手順を記載した品質管理監督文書。業務を円滑かつ適切に実施できる粒度が求められる |
| 実施要領 | 第5条第2項ほか | 基準書や手順書以外に、運用上必要とされる事項を文書に定めたもの(令和3年改正で明文化) |
このうち「実施要領」は令和3年改正で新たに前面に出た概念であり、外部委託や設計開発の実務に直接影響する。定義、要求される条文の一覧、適合性調査での確認のされ方については、改正QMS省令における実施要領とはで詳述している。
また、QMS省令が体制省令・GVP省令とどのような関係に立ち、製造販売業許可・製造業登録・承認/認証・適合性調査がどう組み合わさっているかという規制の全体像は、医療機器に関する品質規制で整理している。
7. 2026年時点で取るべき対応
1. 期限を前提とした社内文書を洗い出す
手順書、教育資料、社内イントラの記載に「2024年3月26日まで」「経過措置期間中」といった表現が残っていないかを確認する。全面適用後にこれらが残存していると、内部監査や適合性調査で管理不十分と評価されかねない。
2. 令和3年改正の新設条文が手順に落ちているかを確認する
特に第5条の2(リスクに基づくアプローチ)、第5条の5(外部委託)、第5条の6・第45条・第53条(ソフトウェアのバリデーション)、第7条の2(製品標準書)、第35条の2(設計移管業務)、第55条の2(苦情処理)、第55条の3(副作用等報告・回収報告の手順)は、旧QMS省令に対応する条文がないか大きく異なるため、既存手順の微修正では足りないことが多い。
3. 実施要領の有無を条文単位で棚卸しする
「手順書はあるが実施要領がない」状態は、令和3年改正後のQMS省令では不適合となり得る。第25条の2、第29条、第33条、第34条、第35条、第58条などについて、実施要領に相当する文書が実在し、管理されているかを確認する。
4. 条文の最新版をe-Gov法令検索で確認する
QMS省令は令和3年改正以降も、令和7年厚生労働省令第117号(令和8年5月1日施行)等により条項の引用が整理されている。手元のPDFや書籍が令和3年時点のものである場合、引用条項番号が現行条文と一致しない可能性がある。
まとめ
- QMS省令は平成16年厚生労働省令第169号であり、令和3年厚生労働省令第60号による一部改正でISO 13485:2016と整合した。
- 経過措置は2024年3月25日に終了し、2024年3月26日以降は改正後の規定が全面適用されている。
- 第2章がISO 13485対応の基本的要求事項、第3章以降が国内固有の追加的要求事項という二層構造は維持されている。
- 令和3年改正の中核は、リスクに基づくアプローチ、ソフトウェアバリデーション、製品標準書、設計移管業務、苦情処理、そして「実施要領」の明文化である。
出典・参考
- 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号)/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100169
- 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の改正並びに関係省令及び告示の改正について(令和3年3月26日 薬生発0326第10号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5787&dataType=1&pageNo=1
- 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部改正について(令和3年3月26日 薬生監麻発0326第4号/改正の要旨・逐条解説・経過措置) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5788&dataType=1&pageNo=1
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
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