改正QMS省令セミナー 1章(サンプル)

改正QMS省令(令和3年厚生労働省令第60号)は2021年3月26日に公布・施行され、その経過措置は2024年3月25日をもって終了した。すなわち2026年8月現在、改正QMS省令は経過措置なしで全面適用されている段階にある。一方、米国では21 CFR Part 820がQSR(Quality System Regulation)からQMSR(Quality Management System Regulation)へと全面改正され、2026年2月2日に施行された。本稿では、当社セミナー「改正QMS省令セミナー」の第1章にあたる導入部分を、2026年8月時点の規制状況にあわせて書き起こす。改正の背景と要点、ISO 13485:2016との条項対応、そして日米両規制が出そろった現在において品質保証担当者が取るべき対応を整理する。

改正QMS省令はすでに「移行期」を終えている

厚生労働省は2021年(令和3年)3月26日付で、医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号、いわゆるQMS省令)の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第60号)を公布した。改正省令は同日施行されたが、施行から3年間の経過措置が設けられ、その間は従前の基準によることが認められていた。

この経過措置の期限が2024年(令和6年)3月25日である。したがって2024年3月26日以降に着手されるQMS適合性調査は、原則としてすべて改正後のQMS省令に基づいて実施されている。かつて多くのセミナーや解説記事が用いた「3年以内に対応せよ」「期限が迫っている」という訴求は、2026年8月時点では完全に無効である。

2026年8月時点の位置づけ

改正QMS省令は「これから対応するもの」ではなく、「すでに適合していなければならないもの」である。論点は移行の可否ではなく、構築済みの品質管理監督システムが実運用として機能しているか、適合性調査で指摘を受けない水準にあるか、という運用品質の側に移っている。

改正QMS省令をめぐる年表

年月日 できごと
2004年12月17日 QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)公布。ISO 13485:2003を基礎とする
2016年3月1日 ISO 13485 第3版(ISO 13485:2016)発行
2021年3月26日 改正QMS省令(令和3年厚生労働省令第60号)公布・施行。ISO 13485:2016との整合を図る
2024年2月2日 米国FDAがQMSR最終規則を公布(89 FR 7496)
2024年3月25日 改正QMS省令の経過措置が終了。翌26日以降の調査は改正省令に基づく
2025年10月31日 ISO 13485:2016が定期見直しでConfirmed(現行版として維持)
2025年12月4日 FDAがQMSR技術的補正の最終規則を公布(90 FR 55978)
2026年2月2日 QMSR施行。同日よりQSITは廃止され、CP 7382.850に基づく査察へ移行

改正の主旨はISO 13485:2016との整合である

今回の改正の主旨は、QMS省令を医療機器の品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 13485:2016と整合させることにあった。改正前のQMS省令はISO 13485:2003年版と整合していたため、最新の国際規格からは13年分遅れていた。この遅れを解消し、国際的な相互理解と調査の効率化を図ったのが令和3年改正である。

なお、ISO 13485:2016は2025年10月31日にISOの定期見直し(Systematic Review)でConfirmedとされ、現行版として維持されている。第4版が近く発行されるという前提で計画を立てるべき状況にはない。

ISO 13485:2016は、当時の米国FDA QSR(21 CFR Part 820)にきわめて近い内容を持ち、とりわけ設計管理について詳細な要求事項が盛り込まれていた。医療機器は、たとえ設計された図面のとおり適切に製造されたとしても、そもそも設計に誤りがあれば安全な医療機器とはならない。設計段階の作り込みを制度として担保しようとする発想が、ISO 13485:2016の設計開発関連要求の背景にある。

改正QMS省令の章構成

改正QMS省令は、次の章立てからなる。第二章が国際規格と整合する基本的要求事項、第三章が日本固有の追加的要求事項であり、この二層構造が改正後も維持されている。

表題
第一章 総則
第二章 医療機器等の製造管理及び品質管理に係る基本的要求事項
第三章 医療機器等の製造管理及び品質管理に係る追加的要求事項
第四章 生物由来医療機器等の製造管理及び品質管理
第五章 放射性体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理
第五章の二 再製造単回使用医療機器の製造管理及び品質管理
第六章 医療機器等の製造業者等への準用等

QMS省令の条とISO 13485:2016の箇条の対応

改正で新設された条の多くは、ISO 13485:2016で新設・強化された箇条に対応している。主な対応関係は次のとおりである。

QMS省令 条の見出し ISO 13485:2016 要点
第5条の5 外部委託 4.1.5 外部委託した工程を管理下に置き、委託先との合意を文書化して管理責任を明確にすることが求められる
第5条の6 ソフトウェアの使用 4.1.6 品質管理監督システムで使用するソフトウェアについて、使用前および変更時にバリデーションを行い、その手順を文書化する
第7条 品質管理監督システム基準書 4.2.2 いわゆる品質マニュアルに相当し、適用範囲・除外の正当性・プロセス間の相互関係を記載する
第7条の2 製品標準書 4.2.3 製品ごとに仕様・製造・据付け・附帯サービスの要求事項をまとめた文書一式を維持する
第35条の2 設計移管業務 7.3.8 設計開発からの出力が製造仕様として妥当であることを検証してから製造へ移す手順を定める
第36条の2 設計開発に係る記録簿 7.3.10 設計開発ファイルとして、製品ごとに設計開発の記録および参照文書を一元的に維持する
第43条 附帯サービス業務 7.5.4 修理・保守などのサービス記録を照査し、苦情として扱うべきものを識別して分析につなげる
第55条 製品受領者の意見 8.2.1 製造および市販後の段階から情報を収集するフィードバックの仕組みをリスク管理の入力とする
第55条の2 苦情処理 8.2.2 苦情の受付・評価・調査・是正の手順を定め、調査を行わない場合はその根拠を記録する
第55条の3 厚生労働大臣等への報告 8.2.3 規制当局への報告が必要な事象を識別し、通知する手順を定める
第61条 データの分析 8.4 適切な統計的方法を含む手法により、品質管理監督システムの適切性と実効性を評価する

上記は主要な対応関係を示したものであり、条項の一対一対応を保証するものではない。QMS省令には第三章の追加的要求事項など日本固有の規定があり、逆にISO 13485:2016の箇条がQMS省令の複数条に分かれて反映されている場合もある。実務では条文と規格本文の双方を照合されたい。

改正で新たに求められるようになったこと

設計開発の作り込みを記録で示す

改正により、設計開発に係る記録簿(設計開発ファイル)の作成と設計移管業務が明示的に要求されるようになった。設計開発ファイルは、製品ごとに設計開発の計画・入力・出力・照査・検証・バリデーション・変更の記録を参照可能な形でまとめるものである。設計移管業務は、設計開発からの出力が製造仕様として妥当であることを検証したうえで製造へ引き渡す手順を求めるものであり、いわゆる「図面は出したが量産できない」という断絶を制度として塞ぐ趣旨と捉えられる。

QMSで使用するソフトウェアのバリデーション

品質管理監督システムで使用するソフトウェアについて、使用前および変更時のバリデーション(コンピュータ化システムバリデーション、CSV)が新たに要求された。文書管理システム、是正処置・予防処置の管理システム、教育訓練記録システム、製造実行システムなど、QMSの運用を支えるソフトウェアが対象となる。バリデーションの程度は、当該ソフトウェアの使用に伴うリスクに応じて決定することが求められる。

統計的方法とサンプリングの根拠

設計検証および設計バリデーションにおいて、サンプルサイズの根拠となる統計的方法を明示することが求められるようになった。「経験的に3台」といった慣行では説明がつかない。さらに、データの分析(第61条)では、製品受領者の意見、製品要求事項への適合性、工程および製品の特性と傾向、供給者の実績などを対象に、適切な統計的方法を含む手法で分析することが要求されている。

苦情とサービス記録の接続

苦情処理については、受付から評価・調査・是正処置までのタイムフレームを定め、手順を文書化することが求められる。加えて、修理報告書などの附帯サービス業務の記録を照査し、そこから苦情に該当する事象を抽出しなければならない。サービス記録もまた分析の対象であり、市場からのシグナルを見落とさない仕組みが要求されている。

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米国のQSRはQMSRへ全面改正された

改正QMS省令を解説する従来の資料は、比較対象として米国の「QSR(21 CFR Part 820)」を挙げてきた。しかしQSRはすでに存在しない。FDAは2024年2月2日、最終規則「Medical Devices; Quality System Regulation Amendments」を公布し(89 FR 7496、Docket No. FDA-2021-N-0507、RIN 0910-AH99)、21 CFR Part 820の表題そのものを「Quality Management System Regulation」へ変更した。施行日は2026年2月2日であり、本稿執筆時点ですでに発効している。

QMSRの最大の特徴は、ISO 13485:2016(第3版、2016年3月1日発行)およびISO 9000:2015の第3節(用語及び定義、第4版)を参照取り込み(incorporation by reference)した点にある。従来のQSRのようにFDA独自の条文で品質システムを網羅的に規定するのではなく、国際規格を本体として引き込み、FDA固有の上乗せ要求だけを条文として残す構造に変わった。

QSRとQMSRの新旧対比

観点 QSR(2026年2月1日まで) QMSR(2026年2月2日以降)
Part 820の表題 Quality System Regulation Quality Management System Regulation
要求事項の骨格 Subpart A~O にFDA独自の条文を網羅的に規定 ISO 13485:2016を参照取り込みし、Subpart A・BにFDA固有要求のみを規定。Subpart C~Oは削除・留保
用語の定義 820.3 にFDA独自定義を列挙 ISO 13485およびISO 9000 第3節の定義を採用し、FDA固有の語のみ820.3で追加定義
設計管理 820.30 Design Controls 820.10(c) を通じてISO 13485の箇条7.3を適用
設計履歴ファイル Design History File(DHF) Design and development files(ISO 13485 箇条7.3.10)
記録・苦情ファイル 820.180 Records、820.198 Complaint files 820.35 Control of records に統合
表示・包装の管理 820.120 Device labeling、820.130 Device packaging 820.45 Device labeling and packaging controls
査察手法 QSIT(Quality System Inspection Technique) CP 7382.850 に記載された査察プロセス。QSITは2026年2月2日に廃止

QMSRの条文構成

改正後の21 CFR Part 820は、次のとおり大幅に条数が絞り込まれている。

表題 内容
820.1 Scope 適用範囲。完成医療機器の設計・製造・包装・表示・保管・据付け・附帯サービスに適用する
820.3 Definitions ISO 13485およびISO 9000 第3節の定義を採用し、component、finished device など一部の語を追加定義する
820.5 [Reserved]
820.7 Incorporation by reference ISO 13485:2016(第3版)およびISO 9000:2015 第3節(第4版)を参照取り込みする根拠規定
820.10 Requirements for a quality management system ISO 13485への適合の文書化、UDI(Part 830)・追跡(Part 821)・不具合報告(Part 803)・回収等(Part 806)との接続、設計開発(箇条7.3)の適用対象、生命維持機器の追跡性を規定する
820.35 Control of records ISO 13485 箇条4.2.5への上乗せとして、苦情記録の記載事項、附帯サービス記録の記載事項、UDIの記録、機密指定の扱いを規定する
820.40 [Reserved]
820.45 Device labeling and packaging controls ISO 13485 箇条7.5.1への上乗せとして、表示・包装の正確性の確認、リリースの記録、取り違え防止を規定する

2025年12月4日、FDAは技術的補正の最終規則(90 FR 55978、Docket No. FDA-2025-N-4635)を公布し、21 CFRの18パート・179条にわたってQSRへの参照をQMSRへの参照に置き換えた。施行日はQMSRと同じ2026年2月2日である。FDAはこれを非実質的・編集上の補正であり、新たな要求を課すものではないと明示している。

ISO 13485認証はFDA査察を免除しない

QMSRがISO 13485:2016を参照取り込みしたことをもって、認証機関のISO 13485認証書があればFDA査察が不要になると理解するのは誤りである。FDAはISO 13485適合の証明書を要求しないし、発行もしない。認証書の保有はFDA査察の免除事由とならない。QMSRはあくまで米国連邦規則であり、遵守の確認はFDAの査察により行われる。

QMS省令・ISO 13485・QMSRの三者関係

2026年8月時点で、日米の医療機器QMS規制はいずれもISO 13485:2016を共通の土台としている。この構図を押さえると、三重管理の重複を整理しやすくなる。

枠組み 根拠 ISO 13485:2016との関係 適合の確認方法
日本 QMS省令 平成16年厚生労働省令第169号(令和3年厚生労働省令第60号により改正) 省令の条文としてISO 13485:2016の要求を取り込み、整合させた。第三章に日本固有の追加的要求事項を置く PMDAまたは登録認証機関によるQMS適合性調査
国際規格 ISO 13485 ISO 13485:2016(第3版、2025年にConfirmed) 規格そのもの 認証機関による第三者認証(任意)
米国 QMSR 21 CFR Part 820(89 FR 7496、2026年2月2日施行) ISO 13485:2016を参照取り込みし、FDA固有要求を820.10・820.35・820.45で上乗せ FDAによる査察(CP 7382.850)。ISO認証書では代替されない

2026年時点で取るべき対応

  1. 経過措置終了を前提に自社文書を点検する品質管理監督システム基準書、製品標準書、各手順書の改訂履歴を確認し、令和3年改正に対応した版がすでに発効しているかを検証する。改正省令の条番号を引用している文書で、旧条番号のまま残っているものがないかを機械的に洗い出すとよい。
  2. 設計開発ファイルの実在を確認する市販中の製品について、設計開発に係る記録簿が製品ごとに参照可能な形で整備されているかを確認する。改正前に設計を終えた既存製品ほど記録が散在している傾向があるため、参照先を一覧化した索引を整備する価値がある。
  3. QMS使用ソフトウェアのバリデーション状況を棚卸しする文書管理、CAPA管理、教育訓練記録、製造実行、試験機器の解析ソフトなどを対象に、バリデーション記録の有無とリスクに応じた妥当性を確認する。クラウドサービスへ移行した場合は、移行時に再バリデーションを行った記録が必要となる。
  4. 統計的方法の根拠を文書化する設計検証・設計バリデーションのサンプルサイズ、工程能力の評価、データの分析に用いる手法について、選定理由を手順書と記録の双方で説明できる状態にする。
  5. 苦情とサービス記録の接続を実運用で検証する附帯サービスの記録から苦情該当事象を抽出する運用が形骸化していないかを、内部監査で実データを追跡して確認する。抽出漏れは適合性調査で指摘を受けやすい論点である。
  6. 米国向け文書の表記をQMSRへ更新する米国へ輸出する企業は、手順書・品質マニュアル・契約書中の「QSR」「21 CFR 820.30」「Design History File」等の表記を、QMSRの構造(820.10(c)、design and development files 等)に合わせて改訂する。技術的補正により他パートの参照も置き換わっている点に注意する。
  7. CP 7382.850を前提に査察準備を組み直すQSITの4サブシステムを前提とした模擬査察のシナリオは、2026年2月2日以降の実務に合致しない。CP 7382.850に記載された査察プロセスに沿って、提示する記録と担当者の割り当てを見直す。

まとめ

改正QMS省令は2021年3月26日に公布・施行され、経過措置は2024年3月25日に終了した。2026年8月現在、経過措置は存在せず全面適用されている。改正の主旨はISO 13485:2016との整合であり、製品標準書、設計移管業務、設計開発に係る記録簿、QMS使用ソフトウェアのバリデーション、統計的方法、苦情処理と附帯サービス記録の接続などが要求として明確化された。米国では21 CFR Part 820がQMSRへ全面改正され、2026年2月2日に施行された。QMSRはISO 13485:2016とISO 9000:2015第3節を参照取り込みし、FDA固有要求を820.10・820.35・820.45に集約している。日米の規制がいずれもISO 13485:2016を土台とした現在、企業に求められるのは新旧比較の学習ではなく、ISO 13485:2016を軸に一本化した品質管理監督システムを実運用として機能させ、日本のQMS適合性調査と米国のCP 7382.850に基づく査察の双方に耐える記録を維持することである。

出典

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