日本とアメリカの規制アプローチの違い

JIS規格とFDAガイダンスのアプローチの違いと国際整合化の実態

日本産業規格(JIS)の役割と特徴

日本産業規格(JIS: Japanese Industrial Standards)は、産業標準化法に基づく国家規格であり、製品、データ、サービスなどの種類や品質・性能、それらを確認する試験方法や評価方法を定めている。経済産業省に設置された日本産業標準調査会(JISC)での審議を経て、主務大臣により制定・改正が行われる。
医療機器分野においては、JIS規格の多くがISO/IEC規格を基に作成されており、国際整合性が図られている。例えば、医療機器の品質マネジメントシステムに関するJIS Q 13485:2018は、ISO 13485:2016と技術的内容が同一である。また、医療機器のリスクマネジメントに関するJIS T 14971は、ISO 14971に対応している。
JIS規格は、製品の性能基準および仕様、試験方法および評価方法、品質管理システムの要求事項、リスクマネジメントプロセスといった要素を包括的に規定している。これにより、製造事業者は品質の良い製品やサービスを生産・提供でき、消費者等は品質の良い製品やサービスを入手・利用できる仕組みが構築されている。

FDAガイダンスの役割と特徴

米国食品医薬品局(FDA)のガイダンスは、法規制の解釈や規制要求への適合方法を示す文書である。ガイダンスそのものは法的拘束力を持たないが、FDAの現在の考え方を示すものとして、業界では事実上の標準として扱われている。企業は代替アプローチを採用することも可能だが、その場合は科学的妥当性を証明する責任を負う。
FDAのアプローチは、プロダクトライフサイクル全体を通じた品質保証を重視する。例えば、プロセスバリデーションに関するガイダンス(2011年)では、製品開発から商業製造、そして継続的な品質保証に至る一連のプロセスを3段階に分けて管理することを推奨している。第一段階であるプロセス設計では、開発段階で得られた知識に基づいて商業製造プロセスを設計する。第二段階のプロセス適格性評価では、そのプロセスが再現性のある商業製造を実現できることを確認する。そして第三段階の継続的プロセス検証では、日常的な製造においてプロセスが管理状態にあることを継続的に保証する。
このアプローチは、ICH Q8(製剤開発)、Q9(品質リスクマネジメント)、Q10(医薬品品質システム)といった国際ガイドラインと整合している。FDAは国際調和を積極的に推進しており、グローバルな製薬・医療機器産業の発展に貢献している。

両者のアプローチの実際の違い

JIS規格とFDAガイダンスは、いずれも国際規格(ISO/IEC/ICH)を基盤としているため、基本的な考え方は共通している。しかし、実務上の重点の置き方には違いがある。
まず規格の性質と運用面において、JIS規格は国家規格として法的位置づけが明確であり、医療機器の認証基準として直接引用される場合がある。改正サイクルは通常5年を目処に見直しが行われる。一方、FDAガイダンスは推奨事項であり法的拘束力はないものの、ガイダンスに従わない場合は代替アプローチの科学的妥当性を証明する必要があるため、実質的には強い影響力を持つ。また、業界や科学の進展に応じて柔軟に改訂される傾向がある。
医療機器のソフトウェア開発を例に取ると、その違いがより明確になる。日本では、JIS T 2304(医療機器ソフトウェア)がIEC 62304と同等の内容で制定されており、適合性認証の際にはこの規格への適合を証明する資料が必要となる。クラス分類に応じた試験成績書の提出が求められる。米国では、従来の「Software Validation Guidance」(2002年)に基づく検証が長らく実施されてきたが、2022年にドラフトが公表され、2025年9月に最終化された「Computer Software Assurance (CSA)」ガイダンスでは、Critical Thinkingによるリスクベースアプローチへの大きな転換が示された。これは従来のComputer System Validation (CSV)から、よりアジャイルで効率的な品質保証手法への進化を意味する。プリマーケット申請(510(k)、PMA等)における技術文書についても、詳細なレビューが実施される。
従来、「JIS規格は結果重視、FDAガイダンスはプロセス重視」と言われることがあったが、これは正確ではない。実態としては、両者ともプロセスと結果の両方を重視している。JIS規格も品質マネジメントシステム(JIS Q 13485)において、プロセスアプローチを明確に採用しており、FDAも最終製品の安全性・有効性という「結果」を最重要視している。違いは、どのプロセスをどの程度詳細に文書化・検証するかという程度の問題であり、本質的なアプローチの差異ではない。

国際整合化の現状と重要性

医療機器・医薬品分野における国際整合化は、ISO/IEC規格およびICHガイドラインの採用という二つの大きな枠組みで進展している。
ISO 13485は医療機器品質マネジメントシステムの国際規格であり、日本ではJIS Q 13485:2018として採用されている。米国ではFDAのQSR(Quality System Regulation)を補完する形で活用され、欧州ではMDR(医療機器規則)の整合規格として位置づけられている。同様に、IEC 62366は医療機器のユーザビリティエンジニアリングに関する国際規格であり、日本ではJIS T 62366-1:2022として採用されている。米国ではFDAのHuman Factors Engineeringガイダンスと概ね整合しているが、実務上はFDAガイダンスの方がIEC 62366-1よりも要求が厳しい部分がある。特にクリティカルタスクの特定方法や統括的評価における参加者数の設定などにおいて、FDA固有の追加要求がある点に留意が必要である。
医薬品分野では、日米欧の規制調和会議(ICH)により、製剤開発(ICH Q8)、品質リスクマネジメント(ICH Q9)、医薬品品質システム(ICH Q10)、原薬の開発と製造(ICH Q11)、ライフサイクルマネジメント(ICH Q12)といった一連の共通ガイドラインが策定されている。これらは日本、米国、欧州で共通して採用されており、グローバル開発を大幅に効率化している。製薬企業は、これらのICHガイドラインに準拠することで、複数地域での同時申請や承認取得が容易になっている。

実務上の留意点

グローバル展開を目指す企業にとって、複数規制への同時対応は避けて通れない課題である。最も効率的なアプローチは、国際規格を基盤として品質システムを構築することである。具体的には、ISO 13485に基づく品質マネジメントシステムを構築し、ISO 14971に基づくリスクマネジメントを実施し、IEC 62304(ソフトウェア)やIEC 62366(ユーザビリティ)等の関連規格への適合を図ることが推奨される。
その上で、各国固有の要求事項に対応する必要がある。日本では薬機法に基づく承認・認証要求とQMS省令への適合が求められる。米国ではFDAのPremarket要求(510(k)やPMA等)とQSRへの適合が必要である。欧州ではMDR/IVDRに基づくCEマーキングの取得が求められる。これらの要求事項は、国際規格を基盤としつつも、各国の医療制度や規制の歴史を反映した独自の要素を含んでいる。
文書化の粒度についても、地域差が存在する。FDAは一般的に、より詳細な文書化を求める傾向がある。Design History File(設計履歴ファイル)の詳細性、Validation Protocol/Reportの具体性、Traceability Matrixの網羅性などにおいて、PMDAと比較して高いレベルの文書化が期待される。一方、PMDAは、JIS規格への適合を基本としつつ、AMED(日本医療研究開発機構)の各種ガイダンスも参考とすることを推奨している。これらの違いを理解し、適切なレベルで文書を準備することが、審査の効率化につながる。
規制は常に変化しており、最新動向のフォローは極めて重要である。FDAのComputer Software Assurance (CSA)ガイダンスは、従来のCSV(Computer System Validation)から大きく転換する内容であり、業界に与える影響は大きい。ISO 10993-1(生物学的安全性評価)は2025年に改訂が予定されており、医療機器の生物学的安全性評価のアプローチが更新される。日本のQMS省令も国際規格の改訂に合わせて見直しが行われる予定である。これらの動向を継続的にモニタリングし、自社の品質システムに適時反映させることが、コンプライアンス維持の鍵となる。

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