UDI(機器固有識別子)とは何か

医療機器業界に携わる方なら、「UDI」という言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。2013年9月にFDAによって公布されたUDI規則は、医療機器の安全管理において重要な転換点となった。本規則は、リスククラスに応じた段階的な施行スケジュールが設定され、Class III機器は2014年9月から、Class I機器は2018年9月から順次、全ての医療機器にUDI表示が義務付けられている。本稿では、UDIの基本概念から実務への影響まで、初心者にも分かりやすく解説していく。

UDIとは何か:基本的な定義

UDI(Unique Device Identification:機器固有識別子)とは、医療機器の流通から使用に至るまでの全過程において、その機器を適切に識別するための識別子である。簡単に言えば、医療機器一つ一つに付けられる「身分証明書」のようなものだと考えれば理解しやすいだろう。
この「身分証明書」は、DI(Device Identifier:機器の種類を識別する固定部分)とPI(Production Identifier:製造情報を識別する可変部分)の2つの要素で構成される。DIはFDAが認定する発行機関(GS1、HIBCC、ICCBBA)から取得する必要がある。
従来、医療機器の識別方法は製造業者ごとにバラバラであり、回収が必要になった際や不具合報告があった際に、迅速に対象機器を特定することが困難であった。UDIの導入により、この課題が大きく改善されることとなった。

UDIの構造:2つの重要な要素

UDIは、以下の2つの要素から構成される。

  • DI(Device Identifier:デバイスアイデンティファイヤー)
    DIは、FDA認定の発行機関によって割り当てられる必須部分で、ラベラー(製造業者など)と機器の特定のモデル・バージョンを識別する。同じモデルの医療機器であれば、すべて同じDIが割り当てられる。例えば、特定のメーカーの血圧計の特定モデルであれば、そのモデル全体に共通のDIが付与される。これにより、「どのような機器なのか」を特定することができる。
  • PI(Production Identifier:プロダクションアイデンティファイヤー)
    PIは、ロット番号、シリアル番号、製造日、有効期限などの変動情報を含む条件付き部分である。重要なのは、Class I機器を除き、ラベルにPI要素が表示されている場合は、必ずUDIのPI部分にも含める必要があることである。先ほどの血圧計の例で言えば、同じモデルであっても製造された時期やロットが異なれば、PIも異なる値となる。これにより、「いつ、どこで製造された機器なのか」を特定することができる。

この2つの組み合わせにより、医療機器の種類と個体の両方を正確に識別できる仕組みが実現されている。

表示要件:どのように記載するのか

UDIは、以下の場所への表示が求められる。

  • 機器のラベル
  • 機器の包装
  • 機器本体(該当する場合)

機器本体への表示は、複数回使用され、各使用前に再処理(洗浄・滅菌など)が必要な機器に限り、直接マーキングが要求される。この要件もリスククラスに応じた段階的な施行が適用された。
さらに重要なのは、表示方法である。UDIは2つの形式で記載される必要がある。

  • プレーンテキスト形式
    人間が目視で確認できる通常の文字列での表示である。医療従事者が直接確認できることが重要な場合に有効である。
  • 機械読取可能な形式
    バーコードやQRコードなど、スキャナーで読み取れる形式での表示である。これにより、手作業によるエラーを防ぎ、迅速な情報入力が可能になる。

UDI導入がもたらす実務への影響

1. トレーサビリティの確保

UDIの最も重要な効果は、医療機器のトレーサビリティ(追跡可能性)の向上である。従来は機器の流通経路を追跡することが困難であったが、UDIにより製造から使用まで、どの機器がどこにあるのかを正確に把握できるようになった。

2. 迅速な回収対応

不具合が発見され、特定のロットの機器を回収する必要が生じた場合、UDIがあれば対象機器を迅速に特定できる。これにより、患者の安全を守るための対応速度が大幅に向上した。

3. 在庫管理の効率化

医療機関においても、UDIを活用することで医療機器の在庫管理が効率化される。バーコードスキャンにより、機器の入出庫管理や使用期限管理が自動化でき、人的エラーの削減にもつながる。

4. データベース登録義務

FDAでは、DI情報をGUDID(Global Unique Device Identification Database)に提出する必要がある。これは単なるラベル表示以上の重要な規制要件である。EUでは、UDI情報をEUDAMEDデータベースに登録することが求められる。これらのデータベースにより、規制当局や医療機関が機器情報にアクセスできるようになり、より広範な安全管理が可能となる。

実践的な導入アプローチ

ステップ1:対象機器の特定

まず、自社が扱う医療機器のうち、UDI表示が必要な機器を特定する。FDAの規則では、リスククラスに応じて段階的な導入スケジュールが定められているため、優先順位を明確にすることが重要である。

ステップ2:システム対応の準備

UDIを管理するためのシステム構築が必要になる。既存の製造管理システムや在庫管理システムとの連携を考慮しながら、効率的な運用体制を整備する必要がある。

ステップ3:ラベル・包装の変更

実際の機器ラベルや包装にUDIを表示するための変更作業を行う。この際、プレーンテキストと機械読取可能な形式の両方を適切に配置することが求められる。

今後の展望

UDIは、単なる規制対応にとどまらず、医療機器業界全体のデジタル化を推進する基盤となっている。今後は、以下のような発展が期待される:

  • グローバルな標準化
    米国FDAに続き、欧州や日本など各国・地域でもUDI制度が導入されつつある。将来的には、グローバルで統一された識別システムが実現する可能性がある。
  • データ活用の拡大
    UDIによって収集されるデータを分析することで、医療機器の使用実態や不具合傾向をより詳細に把握できるようになる。これは、製品改良や新製品開発にも活用できる貴重な情報源となる。
  • 患者安全の更なる向上
    医療機器の識別精度が高まることで、誤使用や取り違えなどのリスクが低減される。また、電子カルテとの連携により、患者ごとにどの機器が使用されたかを正確に記録できるようになる。

まとめ

UDIは、医療機器の安全管理における重要なインフラである。DIとPIという2つの要素により機器を正確に識別し、プレーンテキストと機械読取可能な形式での表示により、人間とシステムの両方が情報を活用できる仕組みとなっている。
この制度の導入により、回収時のトレーサビリティ確保や迅速な機器特定が可能になり、結果として患者の安全性向上につながっている。製造業者、流通業者、医療機関のすべてが協力してUDIを適切に運用することで、より安全で効率的な医療機器管理が実現される。
規制対応という側面だけでなく、業務効率化や患者安全向上という価値を生み出すツールとしてUDIを捉え、積極的に活用していくことが、これからの医療機器業界において重要となるであろう。

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