「苦情ゼロ」を掲げる会社は、必ず嘘をつく

~達成不能な目標が、組織のモラルハザードを呼び込む~

品質目標を立てる際、こう宣言する経営者がたまにいる。「今年は顧客苦情ゼロを目指す」。意気込みとしては立派だが、実務的には致命的な誤りである。なぜなら、苦情ゼロは原理的に達成できないからだ。

ISO 13485 5.4.1 は品質目標について「その達成度が判定可能で、品質方針との整合が取れていなければならない」と要求する。

判定可能とはすなわち定量的、数値で測れるという意味である。

同時に、達成可能であることが暗黙の前提だ。達成不能な目標を掲げ、毎年「未達成」と総括し続ければ、組織にモラルハザードが起きる。

最初の数年は「やれるだけやろう」という熱意があるかもしれない。

だが二年、三年と未達成が続くと、人は学習する。「どうせ達成できない」「どうせ毎年同じ報告を書くだけだ」ーーこうして品質目標は形骸化する。形骸化したものに従業員は熱意を傾けない。やがて報告自体が怪しくなる。「苦情件数」を意図的に小さく見せる操作、苦情の定義を狭める言い換え、現場で揉み消すインセンティブ。

「ゼロ」を掲げた瞬間に、組織は嘘の温床になる。

正しい目標設計はこうだ。今年の実績が苦情率3.0%なら、来年は2.5%、再来年は2.0%、その次は1.5%ーーしんどいけれど、ちょっと頑張れば手が届く水準を毎年積み上げていく。これが継続的改善であり、PDCAそのものである。達成すれば組織は次のしんどさに向かう自信を蓄え、未達でも改善の方向性は示せる。

データの正直な計上が前提となる。苦情の定義は、ISO 13485 8.2.2 の苦情処理の手順で明文化し、ユーザビリティに関する申立ても含めること。「使い勝手が悪い」も医療機器では事故に直結し得るため、苦情として扱う必要がある。サービスマンが定期保守で気づいた異常も、顧客がまだ気づいていなくても、苦情のインプットとなる。範囲を広めに、目標は現実的にーーこれが原則である。

経営者が品質目標を承認する際、自問してほしい。「この目標は、ちょっと頑張れば達成できる水準か。達成不能な精神論を掲げていないか」と。掲げた瞬間にモラルハザードを呼び込むのか、それとも組織を一段引き上げる踏み台になるのかーーこの見極めが品質方針との整合の本質である。

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