CAPAの根本原因を「教育不足」にしてはならない
「再発防止のため、教育訓練を徹底する」ーーCAPA報告書でこの一文を見ない日はない。
しかしFDAは、約15年位前から「教育訓練」を根本的原因としたCAPAに対して指摘を出すようになった。
ワーニングレターでは、retraining(再教育)だけを是正処置としたCAPAが「根本原因に対処していない」と繰り返し否定されてきた。
なぜか。答えは単純で、教育不足は原因ではなく症状だからである。
人がミスをするのは、たいてい本人の不注意ではない。間違えやすい手順、紛らわしいラベル、無理なスケジュール、曖昧な責任分担ーーそうした”仕組み”がミスを誘発している。
航空業界はとうにこの考え方(ヒューマンファクター)へ切り替えた。
パイロットに「気をつけろ」と精神論を説くのではなく、計器やコックピットの設計そのものを変え、エラーが起きにくく、起きても致命傷にならないようにしてきた。
医療機器も同じであって「以後注意する」「教育する」で終わる是正は、仕組みを一切変えていないため、ほぼ確実に再発する。
失敗した者をこっぴどく叱って再教育したらその者は二度と間違わないかも知れない。しかし、組織が代わり人員が代わればまた再発するのである。
そもそも「教育訓練を徹底する」という対策には、致命的な欠陥がある。
検証できないのだ。
教育を実施したことは記録に残せても「その教育によって再発が止まった」とは証明しようがない。
一方、紛らわしい二つのボタンの配置を変えた、取り違えやすい二品目の保管場所を離した、といった仕組みの変更であれば、効果を後から測定できる。
是正処置は、効果を確かめられる形にして初めて意味を持つ。
“気合い”は測定できないが、”モノ”は測定できる。
この差は決定的である。
根本原因を書くときは「なぜ教育が足りなかったのか」をもう一段掘るべきである。
手順書が現場の実態と合っていないなら、直すべきは作業者の頭ではなく手順書だ。
教育訓練は、仕組みを変えた”後に”その新しいやり方を定着させる手段として位置づける。
この順番を逆にした瞬間、そのCAPAは死ぬ。
実務での見分け方は簡単である。是正処置を読んで、変えた”モノ”ーー手順、治具、帳票、レイアウト、チェック方法ーーが一つも書かれていなければ、それは是正ではなく作文だ。
査察官は必ず「で、結局何を変えたのか」と訊いてくる。
そのとき「教育した」としか答えられない会社は、半年後にまったく同じ不適合で、まったく同じ会話を繰り返すことになる。
ここで、ありがちな失敗例を一つ挙げよう。ある工程で部品の取り付け間違いが起きたとする。
「なぜ間違えたのか」と問えば「作業者が確認しなかったから」、「ではどうするか」と問えば「確認を徹底させる」ーーこの流れで原因分析を終える会社は非常に多い。
しかしこれは”なぜ”を一回しか問うていない。
なぜ確認しなかったのか。手順書に確認の記載がなかったのか、二つの部品が見分けにくかったのか、ラインの速度が速すぎて確認の時間がなかったのか。
一段掘るごとに、対策の対象が”人”から”仕組み”へ移っていく。
トヨタの「なぜを五回繰り返せ」が今も語り継がれるのは、まさにこの理由による。
誤解してはならないのは、教育が不要だと言っているのではない、という点である。
教育は重要だ。ただし、それは”原因を取り除いた後”の定着策としての教育であって、原因分析の結論としての教育ではない。
CAPAの巧拙は、根本原因を”人”で終わらせるか、”仕組み”まで掘るかで決まる。
人を責めても再発は止まらない。仕組みを変えて初めて、不具合は過去のものになるのである。