設計管理と設計開発の違いとは

医療機器業界で働く方であれば「設計管理」という言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、この「設計管理」と「設計開発」の違いを明確に説明できる人は意外と少ない。この違いを理解することは、規制遵守の観点からも、効率的な製品開発の観点からも非常に重要である。本稿では、この2つの概念の違いを初心者にも分かりやすく解説していく。

「設計開発」と「設計管理」:似て非なる2つの概念

設計開発とは何か

設計開発とは、製品の仕様を決定し、それを実現するための技術的な活動そのものを指す。具体的には以下のような活動が含まれる。

  • 製品の機能仕様の決定
  • 回路図や機械図面の作成
  • ソフトウェアのプログラミング
  • 試作品の製作
  • 性能試験の実施

これらは、エンジニアとしての専門的な知識と経験に基づいて行われる創造的な活動である。どのような設計手法を用いるか、どのような図面の書き方をするかといった技術的な選択は、基本的に各企業のプロフェッショナルな判断に委ねられている。

設計管理とは何か

一方、設計管理は、設計開発のプロセスを適切に管理・記録し、品質を保証するための体系的な仕組みである。設計開発という「活動」に対して、設計管理は「プロセスの管理方法」と言える。
重要なのは、医療機器規制において厳格に規制されているのは、この「設計管理」の方であるという点だ。設計開発の技術的な内容そのものは規制対象ではないが、それをどのように管理するかは法的要求事項として定められている。

規制が求める設計管理の9つのステップ

ISO 13485やFDAの21 CFR Part 820では、設計管理について具体的な要求事項が定められている。主要な9つのステップを見ていこう。

  1. 設計開発計画書の作成
    プロジェクトの開始時に、設計開発をどのように進めるかの計画を文書化する。この計画書は、単なる形式的な文書ではなく、実際の活動の指針となる重要なものである。
  2. 設計インプット
    顧客要求、法規制要求、安全性要求など、設計に必要な入力情報を明確に定義し、文書化する。
  3. 設計アウトプット
    設計インプットに基づいて作成された図面、仕様書、手順書などの設計成果物を指す。
  4. デザインレビュー
    設計開発の各段階で、計画通りに進んでいるか、要求事項を満たしているかを体系的に評価する。
  5. 設計検証
    設計アウトプットが設計インプットの要求事項を満たしているかを確認する活動である。
  6. 設計バリデーション
    製品が実際の使用環境において意図した用途を満たすことを確認する活動である。
  7. 設計変更管理
    設計変更が発生した際の承認プロセスや影響評価を管理する。
  8. 設計移管
    設計部門から製造部門へ、製品を作るための情報を適切に引き継ぐプロセスである。
  9. 設計開発ファイル(DHF)の作成と維持
    設計開発の全記録を体系的に保管する。

計画と実際の乖離:柔軟性と規律のバランス

設計開発計画書の重要なポイントの1つは、計画と実際の活動が一致していなければならないという点である。プロジェクトを進める中で、当初の計画通りに進まないことは珍しくない。技術的な課題が発見されたり、市場要求が変化したりすることもある。
このような場合、重要なのは計画書を改訂することである。計画と実態が乖離したまま進めることは、規制上の問題となる。逆に言えば、適切に計画を更新し続ければ、柔軟にプロジェクトを進めることができる。
例えば、当初3回を予定していたデザインレビューを、技術的な課題が見つかったために5回に増やす必要が生じたとする。この場合、計画書を改訂して5回に変更し、その変更を承認・記録することで、規制要求を満たしながら適切な開発を進めることができる。

設計開発ファイル(DHF)の重要性

設計開発ファイルは、製品の設計に関するすべての記録を保管したものである。これには以下のような情報が含まれる。

  • 設計開発計画書とその改訂履歴
  • 設計インプット・アウトプットの文書
  • デザインレビューの議事録
  • 検証・バリデーションの報告書
  • 設計変更の記録

DHFの存在は、単なる規制対応以上の実務的価値を持っている。

故障対応における価値

製品が市場で故障した場合、その原因究明にはDHFが不可欠である。過去の設計変更履歴を辿ることで、どの時点からその問題が存在していた可能性があるか、どのロット番号の製品が影響を受けるかを特定できる。
例えば、ある部品の仕様を3年前に変更していたとする。その変更履歴がDHFに記録されていれば、現在発生している不具合がその変更に起因する可能性を速やかに検証できる。影響を受ける製品の範囲も正確に特定できるため、必要最小限の回収や修正で済む。

実践的な導入アプローチ

ステップ1:現状の把握

まず、自社の設計開発プロセスを可視化することから始める。どのような活動が行われているか、どのような文書が作成されているかを棚卸しする。

ステップ2:ギャップ分析

現状のプロセスと規制要求事項を比較し、不足している要素を特定する。多くの企業では、技術的な活動自体は適切に行われているが、それを体系的に管理・記録する仕組みが不十分であることが多い。

ステップ3:段階的な導入

すべてを一度に完璧にしようとせず、重要度の高い要素から段階的に導入していく。例えば、まず設計開発計画書とデザインレビューの仕組みを確立し、次に検証・バリデーションのプロセスを整備するといった具合である。

ステップ4:継続的な改善

設計管理の仕組みは、一度構築すれば終わりではない。実際に運用する中で見えてくる課題を継続的に改善していくことが重要である。

今後の展望:デジタル化と設計管理

電子DHFの普及

従来、DHFは紙の文書として管理されることが多かったが、近年では電子化が急速に進んでいる。文書管理システムやPLM(Product Lifecycle Management)システムを活用することで、設計変更の履歴管理や文書の検索性が大幅に向上している。

AIとの協働時代における設計管理

AIやエージェント型システムが設計開発に参画する時代が近づいている。このような状況下では、設計管理の重要性はさらに増すだろう。AIが生成した設計案をどのようにレビューするか、どのように検証・バリデーションを行うか、新たな課題に対応した設計管理の枠組みが必要になってくる。

まとめ

設計開発と設計管理の違いを理解することは、医療機器開発において極めて重要である。設計開発は創造的な技術活動であり、企業の専門性に委ねられている。一方、設計管理は規制要求事項として定められた体系的なプロセスであり、製品の品質と安全性を保証するための仕組みである。
重要なのは、設計管理を単なる規制対応の負担と捉えるのではなく、製品品質の向上と効率的な開発を実現するための有効なツールとして活用することである。適切な設計管理の仕組みは、故障対応の迅速化、開発プロセスの可視化、組織的な知識の蓄積など、多くの実務的価値をもたらす。
技術の進化とともに、設計開発の手法は今後も変わっていくだろう。しかし、それをどのように管理し、品質を保証するかという設計管理の本質的な重要性は変わらない。むしろ、AIなどの新技術が導入される中で、その重要性はさらに高まっていくと考えられる。

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