ISO-13485改定の要点

ISO 13485 の2016年版は、2003年版から13年ぶりの改定であった。改定作業は2011年12月に開始され、2014年の DIS(国際規格案)投票が否決されて再度 DIS 投票をやり直すという異例の経過をたどっている。本稿は、2003年版から2016年版へ何がどう変わったのか、そしてなぜそうなったのかという改定の経緯を扱う。規格の箇条構成そのものは【徹底解説】ISO-13485:2016 対応セミナー【第1講】、2026年時点の実務対応はISO-13485:2016(要点と実務対応)に分けて記載しているので、そちらを参照されたい。

本稿は「過去の経緯」を記録するものである。2026年8月時点で有効な版は ISO 13485:2016(第3版)のみであり、認証の移行期間もすでに満了している。旧版に基づく認定認証は存在しない。したがって本稿の内容は、旧版時代に整備された社内文書を棚卸しする際の手がかりとして読まれたい。なお、業界内で散見される「ISO 13485:2015」という表記は誤りである。そのような版は発行されていない。2015年は DIS 第2版の投票と FDIS 発行が行われた年であり、規格として世に出たのは2016年である。

改定の時系列 ― ISO の手続段階記録から

ISO は各規格について、プロジェクトの進行段階(stage)を日付付きで公開している。ISO 13485 の改定は次の経過をたどった。伝聞ではなく ISO の公式記録に基づく事実である。

日付ステージ内容
2011-12-0810.99新規プロジェクト承認(改定作業の開始)
2011-12-0830.00委員会原案(CD)登録
2011-12-0930.20CD 意見照会開始
2012-03-1130.60コメント期間終了
2013-12-1930.99CD が DIS 登録へ進むことを承認
2014-01-0840.00DIS 登録
2014-02-2040.20DIS 投票開始(12週間)
2014-07-2240.60投票終了
2014-09-0940.93フルレポート回付 ― 新たな DIS 投票を実施することを決定(=最初の DIS は成立しなかった)
2015-01-2740.00DIS(第2版)登録
2015-02-0640.20DIS 投票開始(12週間)
2015-05-0740.60投票終了
2015-07-2940.99DIS 承認、FDIS 登録へ
2015-10-0550.00FDIS 登録
2015-10-2950.20FDIS 投票開始(8週間)
2015-12-3150.60FDIS 投票終了
2016-01-1160.00国際規格 出版準備
2016-02-2560.60国際規格 発行(カタログ上の刊行は 2016-03。一般には「2016年3月1日発行」として案内されている)
2019-04-15 〜 2020-01-2190.20 → 90.931回目の定期見直し。「確認(Confirmed)」=改定せず現行維持
2025-01-15 〜 2025-10-3190.20 → 90.932回目の定期見直しも「確認(Confirmed)」。改定作業は進行していない

2014年の DIS 否決が意味したこと

ISO の記録が示すのは「最初の DIS 投票の後、新たな DIS 投票を行うことが決定された」という事実である。通常、DIS が承認されればそのまま FDIS へ進むため、DIS をやり直すのは調整が難航した証拠と読める。

この時期、ISO 9001 も並行して改定作業が進んでおり(2015年版として発行)、ISO 13485 を ISO 9001:2015 の新構造に合わせるのか、それとも米国 FDA の QSR との整合を優先するのかという方向性の対立があったとされる。ただし、どの国がどのような理由で反対票を投じたかについては、投票結果の内訳を一次情報源で確認できなかったため、本稿では国名を挙げた記述を行わない。

ISO 9001 との分岐 ― なぜ構造が古いままなのか

ISO 13485:2016 の序文 0.4 は、この規格が独立した規格であること、そしてその土台が ISO 9001:2008 であることを述べている。ISO 9001:2008 がすでに ISO 9001:2015 に置き換えられていることを認めたうえで、利用者の便宜のために附属書Bで ISO 9001:2015 との対応関係を示す、という構成である。

その結果、ISO 13485:2016 は ISO のマネジメントシステム規格に共通の上位構造(Annex SL / High Level Structure)を採用していない。ISO 9001:2015 が導入した「組織の状況」「リスク及び機会への取組み」といった箇条は ISO 13485:2016 には存在せず、逆に ISO 13485:2016 が維持している管理責任者の指名(5.5.2)や予防処置の独立箇条(8.5.3)は、ISO 9001:2015 の構成には見られない。

論点ISO 13485:2016ISO 9001:2015
基礎とする版ISO 9001:2008 を基礎とする(序文0.4)
規格構造箇条1〜8(従来型)。Annex SL 非採用箇条1〜10(Annex SL / HLS 準拠)
「リスク」の定義危害の発生確率と重大さの組合せ(ISO 14971 系)諸目的に対する不確かさの影響(ISO 31000 系)
管理責任者5.5.2 で指名を要求指名の要求はない
予防処置8.5.3 として独立箇条を維持独立箇条として置かれていない
相互参照附属書B に ISO 9001:2015 との対応を掲載
適合宣言の関係ISO 13485 に適合していても、除外した ISO 9001 の要求を満たさなければ ISO 9001 適合は主張できない(0.4 に明記)

両規格の認証を併せて維持する組織では、単一の品質マニュアルで両方を同時に満たそうとすると構造がねじれる。文書体系と規格箇条を切り離し、対応表で管理するのが現実的である。

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2003年版から2016年版へ ― 何が変わったか

改定の目的は、大きく二つに集約される。ひとつは QMS 要求事項の明確化、もうひとつは 各国規制要求事項との整合である。PDCA サイクルを回すうえで旧版に欠けていた部分が補われ、同時に FDA の QSR に近い要求が多数取り込まれた。以下、変更の類型ごとに整理する。

新設・独立した箇条

箇条(2016年版)2003年版での扱い変更の趣旨対応する FDA 概念
4.1.6 QMS で使用するソフトウェアのバリデーション製造設備のソフトウェアが中心QMS を支えるコンピュータシステム全般へ拡張。文書管理、CAPA 管理、教育訓練管理等が対象に入る。リスクに応じた対応を前提とする
4.2.3 医療機器ファイル相当する箇条なし型式または医療機器ファミリごとに、仕様・製造・測定監視・据付け・附帯サービスの文書一式を特定・維持するDMR(Device Master Record)
4.2.5 記録の管理(健康機密情報の保護)記録管理の一般要求のみ患者の健康に関する機密情報の保護を明示
6.4.2 汚染管理「作業環境」の一部独立した箇条として分離。滅菌医療機器では微生物・微粒子の管理を含む
7.3.8 設計・開発の移管設計・開発計画の記載事項の一部独立箇条化。移管前に製造適性を確認し記録する。設計移管と量産移行は別概念であるDesign transfer
7.3.10 設計・開発ファイル相当する箇条なし型式または医療機器ファミリごとに、設計変更を含む記録を追跡可能な形で維持するDHF(Design History File)
8.2.2 苦情処理「製品受領者からの意見」「改善」に分散独立箇条化し、要求を詳細化。調査を行わない場合の正当性の記録を要求Complaint files
8.2.3 規制当局への報告相当する箇条なし不具合報告・回収等の規制当局への通知手順を文書化MDR reporting

要求が強められた点・区分された点

1. 「明確化する」から「文書化する」へ

旧版で「明確化する(define)」とされていた多くの箇所が、2016年版では「文書化する(document)」に改められた。序文 0.2 により「文書化する」は確立・実施・維持を含むと読むため、手順書を作るだけでは要求を満たさない。とりわけ設計管理の領域でこの置き換えが多い。

2. リスクに基づく考え方の全面採用

「リスクに応じて」という条件が規格の各所に置かれた。品質保証にかける資源を、製品のリスクに応じて配分せよという趣旨である。規制を強化しすぎればコンプライアンスコストが製品価格に転嫁され、結果として医療費を押し上げる。この緊張関係を踏まえた設計が、リスクベースドアプローチの背景にある。

3. 統計的手法の要求

データの分析(8.4)に加え、設計検証・設計バリデーション、プロセスバリデーションのサンプルサイズやスケールの妥当性についても、適切な統計的手法によることが求められる。件数を数えるだけの「傾向分析」は要求を満たさない。マネジメントレビューのインプットが生データの束になっている組織は、この観点で見直しが必要である。

4. 「修正」と「是正処置」の併記

2016年版は、あえて「修正(Correction)」と「是正処置(Corrective Action)」を併記することで、両者が異なる概念であることを明確化している。目の前の不適合を直すことと、原因を除去して再発を防ぐことは別である。

5. 不適合製品の時系列区分

8.3 において、引渡し前に発見した不適合製品の処置(8.3.2)と、引渡し後に発見された不適合製品の処置(8.3.3)が区分された。8.3.3 には、必要な場合の通知書(advisory notice)の発行手順が含まれる。

6. CAPA のタイムフレーム管理

是正処置・予防処置に期限管理が求められる。起票からクローズまでの日数を管理していない、長期未クローズ案件が滞留している、という状態は指摘対象となり得る。

7. 箇条の細分化と注記の本文化

指摘がどの箇条に対するものかを明確にできるよう、要求事項が細分化された。マネジメントレビューのインプットで是正処置と予防処置を別項目に分けたのがその例である。また、旧版で注記(NOTE)に置かれていた多くの記述が本文に組み込まれた。これは MDSAP のように複数国の要求を一度の監査で確認する仕組みを念頭に、解釈の国ごとのばらつきを抑える意図があったと考えられる。

用語の定義の拡充

2016年版の箇条3では、3.1 から 3.20 までの20語が定義されている。旧版と比べて語数・記述量ともに大幅に充実した。とりわけ実務上の影響が大きいのは次の3点である。

  • 「苦情」(3.4)の範囲拡大。旧版の「顧客苦情」から、組織の管理下からリリースされた医療機器に関する申立て全般へ広がった。製造工程からの情報や附帯サービス(サービスレポート)に含まれる情報も入口となる。FDA の QSR における complaint の定義に近づいた形である。
  • 供給網上の役割の区別。製造業者(3.10)、ディストリビュータ(3.5)、輸入業者(3.7)、指定代理人(3.2)が区別して定義された。組織はまず自らの役割を特定し、その役割に適用される規制要求事項を QMS に取り込むことが求められる(4.1.1)。
  • ライフサイクル(3.9)と市販後監視(3.14)。規格の視野が設計から廃棄までのライフサイクル全体に及ぶことが定義上も明確になった。「無菌バリアシステム」(3.19)も新たに定義された用語である。

なお「リスク」(3.17)については、ISO 9001:2008 が ISO 31000 に整合させて「諸目的に対する不確かさの影響」へ変更したのに対し、ISO 13485 は ISO 14971 系の定義(危害の発生確率と重大さの組合せ)を維持している。ISO 9001 があらゆる業種を対象とするのに対し、医療機器分野では危害を軸とした定義でなければ機能しないためである。

認証の移行 ― すでに終わっている

ISO 13485:2003 から 2016年版への認証移行期間は3年間とされた。改定後2年を過ぎると新版でしか新規認証を受けられなくなり、3年を過ぎると旧版の認定認証は失効する、という枠組みである。この移行期間は2019年に満了しており、現在、旧版に基づく認定認証は存在しない

失効日の表記について。移行期間の終期については、認定機関により2019年3月1日とするもの、2019年3月31日とするものがあり、本稿の作成時点で決議原文を一次情報源として取得できなかった。よって本稿では「2019年に満了」とのみ記す。移行はすでに完了しているため、実務上、日付の一日の差が問題になる場面はない。

本邦においては、ISO 13485:2016 に対応する日本語規格として JIS Q 13485:2018 が2018年3月1日に改正され、JIS Q 13485:2005 を置き換えた。ISO 13485:2016 を基に、技術的内容および構成を変更することなく作成された規格(IDT)である。2022年10月25日の確認を経て現在も有効である。QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)の令和3年改正(令和3年厚生労働省令第60号、令和3年3月26日公布・施行)が ISO 13485:2016 との整合化を行い、その経過措置は2024年3月25日で終了した

「早期見直し」はどうなったか

2016年版の発行当時、ISO の通常の5年サイクルを待たずに見直しを行い、HLS(Annex SL)との整合を図るべきだという議論があった。一方で、MDSAP の監査モデルが ISO 13485:2016 をベースに構成されていること、審査員の教育も同規格に基づいて行われていること、各国の規制要求事項が2016年版へ収斂しつつあることから、早期改定には慎重論も出されていた。

結果として、早期改定は行われなかった。ISO の記録によれば、定期見直しは2019年から2020年にかけて一度、2025年に二度目が実施され、いずれも「確認(Confirmed)」と判定されている。二度目の確認は2025年10月31日付である。すなわち、2026年8月時点で ISO 13485 の改定作業は進行していない。

この安定は、実務上むしろ好条件である。米国の QMSR が §820.7 で ISO 13485:2016(E) 第3版を参照取り込みし2026年2月2日に施行された今、規格が動かないことは、規制側の参照点が動かないことを意味する。詳細はISO-13485:2016(要点と実務対応)を参照されたい。

2026年時点で取るべき対応

  • 「改定に備える」段階ではない。2025年10月31日の定期見直しで「確認」とされており、次の改定は当面ない。2016年版への適合を前提に、運用の成熟度を上げる段階である。
  • 旧版時代の社内文書を棚卸しする。2003年版・JIS Q 13485:2005 を参照している手順書、附属書番号や箇条番号が旧版のままの様式、「移行期間中」を前提とした記述が残っていないかを全文検索で確認する。
  • 「ISO 13485:2015」という誤記を根絶する。存在しない版であり、社外に出る文書に残っていれば信頼性を損なう。ISO 9001:2015 との併記文脈で混入しやすい。
  • 新設箇条への対応が「形だけ」で終わっていないかを確認する。とくに 4.1.6(QMS ソフトウェアのバリデーション)、4.2.3(医療機器ファイル)、7.3.10(設計・開発ファイル)、8.2.2(苦情処理)は、旧版にない概念であるため、既存文書に名称だけ追加して実体が伴っていない例が多い。
  • 「明確化する」から「文書化する」への置き換えを反映する。手順書はあるが直近の実施記録がない箇条を洗い出す。文書化とは確立・実施・維持を指す。
  • QMS省令は全面適用中である。経過措置は2024年3月25日に終了している。未対応箇所は猶予対象ではなく不適合である。

出典

※本稿は ISO 13485:2016、ISO 13485:2003 および JIS Q 13485:2018 の条文を逐語引用していない。箇条番号と変更の趣旨のみを記載している。正確な要求事項は必ず規格原本を参照されたい。

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