転職経験のない人に、内部監査はできない
~「自社のQMSを是とする」最大の落とし穴~
これは多くの品質責任者が口にしたがらない事実である。
内部監査は、未経験者にはできない。とりわけ、転職を経験したことのない人には、まず務まらない。
理由は単純である。
最初に学んだQMSを「これが正しいやり方だ」と無意識に信じ込んでしまうからだ。
三つ子の魂百までの言葉どおり、生え抜き一本の人にとって、自社のQMSは空気のように当たり前の存在になる。
当たり前のものに違和感を抱くことなどできない。だからリスクが見つからないのである。
逆に、二社以上を経験してきた監査員は「前の会社ではこれをやっていた。この会社はやっていない。これは危ない」と気づける。
比較対象を持っているからだ。これが内部監査における力量の本質である。
ではPMDAやFDAの査察官はどうか。
彼らの多くは医療機器企業に勤めた経験がない。
それでも来訪して指摘を出し、改善を命令する。なぜか。
多くの会社を見ているからである。
他社で当然のようにやっていることを、ある会社が見落としていれば、それは即ちリスクである。
査察官は他社事例という比較軸を持っているからこそ指摘できる。
監査・査察はまさに比較の作業なのだ。
では生え抜きしかいない組織はどうすればよいか。
打開策は一つしかない。
供給者監査として外に出ることである。
他社のQMSを実地で見ることでしか、自社のQMSを相対化できない。
月に一本でも二本でも他社の現場を見れば、勘所は確実に磨かれる。
ISO 13485 第6章(6.2 人的資源)は、力量を「意図した結果を達成するために知識および技能を適用する能力」と定義する。
知識ではなく能力、すなわち結果を出せるかどうかである。
内部監査員に必要な知識を社内研修で詰め込んでも、比較軸という技能は外でしか身につかない。
「自社の中でだけ育てた監査員」という肩書きを掲げているなら、その制度自体が最大のリスクである。
組織として打てる手は明確だ。中途採用、転職経験者、外部コンサルタントの一時的な参画、そしてもう一つ — 供給者監査である。
生え抜き社員にも、他社のQMSを実地で見る機会を業務として与える。
月に一本でも他社の現場に立てば、勘所は確実に磨かれる。
長年同じQMSの中で過ごしてきた人にとって、外を見ることは唯一の解毒剤である。