査察官は医療機器企業に勤めたことがない

~監査・査察の力量とは、結局のところ「他社を知っている」こと~

PMDA や FDA の査察官は、ほぼ例外なく、医療機器企業に勤めた経験を持っていない。製薬企業に勤めた経験もない。にもかかわらず、彼らは現場に来訪して指摘を出し、改善命令を発する。なぜそれができるのか。

答えは一つしかない。多くの会社を知っているからである。

監査・査察の力量の本質は、業界経験だけではない。比較対象の数である。他社が当然のようにやっていることを、ある会社がやっていない――それが査察官の目に「リスク」として映る。

他社が気づいていることを、ある会社が気づいていない――それも「リスク」だ。

比較軸を持っているからこそ、現場初日でも指摘できる。

外部コンサルタントが多くの会社の監査を引き受けて指摘を出せるのも、まったく同じ仕組みである。

「自社で長年働いてきたから分かる」のではなく、「他社をたくさん見てきたから比較できる」――この構造が監査の根幹である。

ここから帰結するのは、内部監査員に求められる力量の冷徹な定義だ。

自社しか知らない人には、内部監査はできない。

前職の経験、供給者監査の経験、他社見学、業界団体での情報交換、業界誌・規制動向のキャッチアップ――比較軸を作る活動を業務時間として確保しなければ、監査員は育たない。

ISO 13485 8.2.4 は内部監査について、独立性と客観性を要求する。

独立性は組織図上の話だが、客観性は知的な比較能力に支えられる。

比較対象を持たない監査員に客観性は宿らない。

組織として打てる手は明快である。

第一に、内部監査員の育成計画に「外部経験」を組み込むこと。供給者監査、相互監査、業界セミナーでの他社情報交換、いずれかを年間プログラムに据える。
第二に、転職経験者・他業界経験者を積極的に内部監査チームに登用すること。
第三に、規制動向の継続的なウォッチを内部監査員の業務時間として認めること。

「内部監査員に医療機器業界の経験がないと務まらない」という前提を逆さにしてみてほしい。

査察官は業界経験がなくとも務まっている。

問われているのは業界年次ではなく、比較軸の数である。

組織として、その比較軸をどれだけ提供できるか――これが内部監査の力量設計の本丸である。

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