ベテランほど間違える-なぜ熟練が落とし穴になるか

理由は明快である。ベテランは手順書を読まないからだ。長年やっている、感覚で分かる、目を瞑ってもできるーーそう自負した瞬間から、SOP は眼前を通り過ぎていく。手順書から目を離した作業は、必ず勘と経験に依存し、勘と経験は必ずどこかで外れる。

初心者は逆に、毎回手順書を律儀に開いて確認する。だから間違いが少ない。仮に間違えても、手順書と照合すればすぐに発見できる。ベテランの間違いは手順書を経由していないから、第三者がチェックに入っても照合の基準がなく、発見が極めて困難になる。

規制要件等が文書化を要求する根本理由はここにある。

「記憶に基づいて作業してはいけない、記録に基づかなければならない」ーーこれが文書管理の哲学である。記憶は揺らぐ、記録は揺らがない。

トレーサビリティを確保し、誰がやっても同じ結果を出すには、文書という共通言語が要る。

飛行機のパイロットを例に考えれば分かりやすい。

世界中のどんな熟練パイロットも、離陸前のチェックリストを必ず読み上げる。

何万時間飛んでいる機長でも、マニュアルを飛ばすことは絶対に許されない。

なぜか。一度の飛び抜かしが乗客の命を奪うからである。

医薬品・医療機器の現場も、本質的にはこれと同じ重さを持つ。

ではマネジメント側に何ができるか。

第一に、ベテランほど手順書遵守の模範を示すよう求めること。背中を見せる立場の人間が手順書を飛ばす姿を見せれば、組織全体が同じ振る舞いに収束する。
第二に、力量評価項目に「手順書遵守」を入れること。経験年数だけで力量を判定しないこと。
第三に、手順書自体を不断に改訂し、現場の実態と乖離しないよう保つこと。乖離した手順書は誰も守らない。

「自分は読まなくても分かる」と発言したベテランがいたなら、その瞬間が黄信号である。長年の経験は組織の財産だが、手順書から離れた経験は組織のリスクに転じる。

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