根本的原因の重要性とは

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是正処置には必ず根本的原因(Root Cause)の除去がある。逆にいえば、根本的原因が特定できていない是正処置は、名前だけの是正処置である。本記事では、CAPA における原因分析の実務――根本的原因ではないものの見分け方、原因分析手法の選び方、そして法令が求める是正処置の要件――を整理し、2026年8月時点で取るべき対応を示す。不適合を検出する側の活動は 品質管理(QC)とは、仕組みを保証する側の活動は 品質保証(QA)とは を参照されたい。

表記について。QMS省令・GMP省令の法令用語は「是正措置」「予防措置」である。一方、品質マネジメントの実務では「是正処置」「予防処置」の表記が用いられることが多い。本記事では原則として「是正処置」「予防処置」で統一し、条文の名称を指す箇所のみ条番号で示す。

原因の究明と再発防止が最重要である

1985年(昭和60年)8月12日、日本航空123便(ボーイング747SR-100型機、JA8119)が羽田空港を離陸した後、群馬県多野郡上野村の山中に墜落した。単独機の航空事故として世界最大級の犠牲者を出した事故である。事故調査報告書は、後部圧力隔壁の修理が適切に行われていなかったことを原因として挙げている。

この事故が品質保証の文脈で繰り返し引用されるのは、犠牲の大きさゆえだけではない。原因の究明と、犯人捜しは両立しにくいという構造を示しているからである。事故の原因を「誰の責任か」という問いに置き換えると、多くの証拠書類は秘匿され、関係者の証言を得ることは困難になる。事実が集まらなければ、根本的原因にはたどり着けない。そして根本的原因が見つからなければ、事故は再発する。

企業内の CAPA でも同じことが起こる。不適合の報告が上がってこない組織では、報告した者が責められる文化が形成されている。原因分析の前提は、事実が正直に出てくる仕組みである。

用語の整理 ―― 修正・是正処置・予防処置

三つの語は日常語としては似ているが、法令上は明確に区別される。QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)は第2条で、是正措置を「不適合の再発を防止するために不適合の原因を除去する措置」、予防措置を「起こり得る不適合の発生を防止するために、その原因を除去する措置」と定義している。さらに同令は「修正」を「発見された不適合を除去するための措置」として、是正措置と区別している。

観点修正是正処置予防処置
対象目の前で発見された不適合そのものすでに発生した不適合の原因まだ発生していない不適合の潜在的な原因
目的不適合を取り除く再発を防止する発生を未然に防止する
原因分析不要必須必須(潜在的原因の特定)
典型例不良品の廃棄、記録の訂正、再作業手順書の欠陥を是正し、システムに組み込む類似工程・類似製品へ水平展開する
QMS省令第2条、第60条の2第63条第64条
GMP省令第15条(逸脱の管理)ほか第11条第1項第8号、第15条、第16条、第20条第2項第4号同左

「不良品を廃棄した」「記録を訂正した」で CAPA を閉じている事例は少なくない。それは修正であって是正処置ではない。原因分析の記録がない CAPA は、条文上の是正処置の要件を満たさない。

根本的原因ではないもの

根本的原因を特定するといっても、そう簡単ではない。CAPA の実習を行うと、多くの受講者は根本的原因を抽出できない。多くの場合、根本的原因を人や製品固有の問題としてしまう。次のような記載は、その典型である。

  • 教育訓練が不足していた
  • 理解(認識)が不足していた
  • ~と思っていた
  • ~ができていなかった
  • 担当者の注意力が足りなかった

これらは原因ではあるが、根本的原因ではない。根本的原因を抽出する際の最も多い間違いである。是正処置が、個人的なもの(人の規律・注意力・自覚などの人為的要素)や製品単独のものに終わってしまっては、また再発するおそれがある。

「教育訓練を徹底させた」という是正処置はあり得ない

教育を受けたり厳重注意を受けた者は、ミスを繰り返さないかもしれない。しかしながら、企業における組織では常に要員が交代する。交代した場合、前例は生かされず、同じミスを繰り返す(つまり再発する)可能性がある。人間の本質は怠惰であり、規律や注意力に依存する仕組みは、いつまでも同じ品質を持続できない。どこかで誰かが同じような問題を再発させる。

では何を追求すべきか。仕組み的な欠陥・弱点・不備・矛盾・曖昧さである。是正処置(再発防止)の核心は、仕組み(QMS)の欠陥・弱点・不備・矛盾・曖昧さに対して対処し、組織のノウハウとしてシステムに組み込むことにある。再発しないようにチェックがなされる仕組みをつくること、顧客苦情・不適合・ミス・ロスなどを未然に防ぐように確実に仕組みへ組み込む方法を構築すること――これが是正処置である。

表層の原因(よくある記載)掘り下げるべき問い仕組みとしての是正処置の例
担当者が手順を知らなかったなぜ知らないまま作業に着手できたのか作業着手時の資格確認をシステム上の必須条件とする
記録の記入漏れがあったなぜ未記入のまま次工程へ進めたのか必須項目未入力では次工程へ進めない設計に変更する
手順書の解釈が人によって違ったなぜ複数の解釈を許す書き方になっていたのか判定基準を数値化し、判断例と非該当例を手順書に明記する
設定値を間違えたなぜ誤った値が受け付けられたのか入力範囲の制限、二重承認、設定変更の監査証跡レビュー
連絡が行き渡らなかったなぜ伝達の完了を確認する仕組みがないのか変更管理に受領確認と教育記録の紐づけを組み込む
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原因分析手法の選び方

根本的原因を除去するためには、あらゆる原因を究明しなければならない。原因を究明して特定することが是正処置には欠かせない。原因の究明なくして是正処置はあり得ない。なぜこのような事態を引き起こすようになったのか、その「なぜ」を見極める必要がある。

主な原因分析手法には次のようなものがある。目的に応じて使い分けることである。

手法向いている場面強み陥りやすい落とし穴
5Whys(なぜなぜ分析)単一の事象について因果の連鎖をたどる準備が不要で、誰でも着手できる一本道になりやすく、人の問題に着地しがち。分岐を許す運用が必要
特性要因図(フィッシュボーン分析)原因の候補を広く洗い出す要因を体系的に分類でき、見落としが減る洗い出しで満足し、検証まで進まない
KJ法断片的な情報が多く、構造が見えない質的な情報を構造化できる参加者の先入観がそのまま構造に反映される
FTA(故障の木解析)設計問題・製造問題の原因を論理的に絞り込むトップ事象から下位事象へ論理演算で展開でき、経路を網羅的に検討できる展開に技量と工数を要する。前提となる事象の定義が甘いと結論も甘くなる
FMEA潜在的な故障モードを事前に洗い出す予防処置および設計段階のリスク低減に直結する発生後の原因究明には向かない。評点の付け方が主観に流れやすい
複数人による討議いずれの手法と併用しても有効単独では見えない視点が出る職位の上下がある場ではバイアスがかかる

特に設計問題や製造問題を解決する際に強力なのが FTA である。トップ事象を明確に定義したうえで、それを引き起こし得る下位事象を論理積・論理和で展開していくため、「思いつかなかった経路」を減らすことができる。

再現できなければ、原因は特定できない

医療機器企業のコンサルテーションでしばしば残念に思うのは、顧客苦情を受けた際に再現実験を十分に実施していないことである。苦情を受けた故障を再現させることができず(または当初から諦めて)、修理のみを実施して顧客へ返却しているケースを多く見受ける。

再現できない場合、根本的原因は見つからず、同じ故障が繰り返されることとなる。このような不適切な根本的原因の調査を行っている限り、顧客苦情は絶えないであろう。

QMS省令は、この点について複数の条文を置いている。第55条の2は苦情を遅滞なく処理するための手順の文書化を求め、その中に修正または是正処置の必要性の評価を含めている。第55条の3は不具合等の報告に係る手順の文書化を、第60条の3は出荷後に不適合製品を発見した場合の措置と通知書の発行手順を求めている。苦情処理を「修理して返す業務」として設計している限り、これらの条文の要求には応えられない。

法令が求める是正処置の要件

QMS省令第63条は、発見された不適合による影響に応じて、再発を防ぐために必要なすべての是正処置を遅滞なくとることを求め、第2項で手順に定めるべき事項を列挙している。実務上、次の三点が特に重要である。

  1. 影響に応じた措置であること(第63条第1項)すべての不適合に同じ重さの是正処置を課す必要はない。影響の大きさに応じて措置の深さを決める。この考え方は ICH Q9(R1)(2023年1月)の品質リスクマネジメントと整合する。
  2. 悪影響の検証(第63条第2項第5号)是正処置が、法令の規定等への適合性や、医療機器等の意図した用途に応じた機能・性能・安全性に悪影響を及ぼさないことを検証しなければならない。是正処置そのものが新たなリスクを生むことがあるためである。
  3. 実効性の照査(第63条第2項第6号)是正処置をとった場合には、その実効性を照査しなければならない。実施したことの記録ではなく、効いたかどうかの確認が求められている。CAPA の実務でもっとも省略されやすい工程である。

医薬品では、GMP省令(平成16年厚生労働省令第179号)第11条第1項第8号が、試験検査で規格に適合しない結果となった場合の原因究明と是正処置・予防処置を求めている。第15条は逸脱の管理を、第16条は品質情報および品質不良等の処理を定める。さらに令和3年厚生労働省令第90号による改正で新設された第20条第2項第4号は、手順書等または記録に欠落があった場合、あるいはその内容に不正確または不整合な点が判明した場合に、その原因を究明し、所要の是正処置および予防処置をとることを求めている。データインテグリティ上の問題にも CAPA が必要であることが、条文上明記されている。電子記録の信頼性をどう担保するかは CSVにおける信頼性保証とは を参照されたい。

国際的な枠組みでは、ICH Q10「Pharmaceutical Quality System」(Step 4 到達日 2008年6月4日)が第3.2.2節で CAPA システムを医薬品品質システムの四要素の一つとして位置づけている。

米国 ―― 2026年2月2日以降の査察

米国では、21 CFR Part 820 が Quality Management System Regulation(QMSR)へ全面改正され、2026年2月2日に施行された(最終規則は2024年2月2日公布、89 FR 7496)。査察プログラムも、QSIT が同日で運用を終了し、Compliance Program 7382.850 へ移行した。同プログラムは六つの QMS 領域で構成されており、CAPA に関わる領域は「Measurement, Analysis and Improvement」である。従来の CAPA サブシステムを前提とした査察準備は、この構成に置き換える必要がある。

内部監査記録の扱いが変わった

旧 §820.180(c) は、内部監査報告書・供給者監査報告書・管理監督者照査記録を FDA 査察官の閲覧対象から除外していた。この除外規定は QMSR に承継されていない。内部監査で摘出した不適合と、それに対する CAPA の記録は、閲覧され得る前提で作成する必要がある。詳細は 品質保証(QA)とは を参照されたい。

2026年時点で取るべき対応

  1. 直近1年の CAPA 記録を抜き取り、根本的原因欄に「教育訓練不足」「認識不足」「注意力不足」と書かれた件数を数える。多ければ、原因分析の運用そのものが機能していない。
  2. CAPA 手順書に「修正」と「是正処置」の定義を置き、修正のみで CAPA を閉じられない運用に改める。QMS省令第2条の定義を出発点とするとよい。
  3. 是正処置の実効性の照査(QMS省令第63条第2項第6号)を、期限と判定基準つきの独立した工程として手順に組み込む。実施完了をもって CAPA を閉じない。
  4. 是正処置が新たなリスクを生まないことの検証(同第5号)を手順に明記する。
  5. 顧客苦情に対する再現実験の要否判断基準を定める。再現できなかった場合は、その事実と実施した試験内容を記録し、原因未特定として扱う。「修理して返却」で閉じない。
  6. 原因分析手法を用途別に選べるよう、手順書に手法の一覧と適用場面を示す。設計・製造問題には FTA、潜在故障の洗い出しには FMEA を割り当てるなど、方針を定める。
  7. データインテグリティに起因する事象(記録の欠落・不正確・不整合)も CAPA の対象であることを手順書に明記する。GMP省令第20条第2項第4号の要求である。
  8. 米国向け製品を扱う企業は、CAPA 関連の査察対応資料を Compliance Program 7382.850 の「Measurement, Analysis and Improvement」領域に沿って再編する。

出典

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