
ラベルとラベリングの違いとは
医療機器業界や製造業において、「ラベル」と「ラベリング」という用語は日常的に使われているが、この二つの概念は明確に区別される必要がある。さらに重要なことは、「ラベリング」と「広告」という異なる規制体系が存在することである。本稿では、これらの違いを規制文書に基づいて正確に解説し、実務上の適切な管理方法について説明する。
「ラベル」とは何か
基本的な定義
ラベルとは、機器本体や容器に直接貼付される表示を指す。FDA(米国食品医薬品局)の21 CFR Section 201(k)では、「物品の直接的な容器に表示される文字、印刷物、または図案による情報」と定義されている。
日本においても、薬機法第63条で、医療機器本体への以下の表示義務が規定されている。
- 名称
- 製造番号または製造記号
- 製造販売業者の氏名または名称および住所
具体例
例えば、医療機器であれば以下のような表示がラベルに該当する。
- 機器本体に貼付された製造者名と型番
- 滅菌包装に印刷された有効期限
- 容器に直接印刷された使用上の注意事項
- 製品に貼られた認証マーク
これらはすべて製品と一体化しており、ユーザーが製品を手に取った時に直接目にする情報である。
「ラベリング」とは何か
製品に付随する情報としてのラベリング
ラベリングとは、ラベルを含むより広範な概念である。FDA(21 CFR Section 201(m))では、
「すべてのラベルおよびその他の文字、印刷物、または図案による情報で、(1)物品またはその容器・包装に表示されているもの、または(2)製品に付随する(accompanying)もの」
と定義されている。
「accompanying(付随する)」の重要性
ここで重要なのは「accompanying(付随する)」という概念である。FDAは、この用語を「製品と物理的または電子的に一体となって提供される情報」と解釈している。つまり、製品の出荷時または販売時に製品と結び付けられる文書がラベリングに該当する。
ラベリングに含まれるもの
具体的には、以下のものがラベリングに該当する。
- 製品本体のラベル
- 容器・包装の表示
- 取扱説明書(IFU: Instructions For Use)
- パッケージインサート(添付文書)
- 製品に物理的に同梱される文書
- 製品から直接アクセスできる電子的取扱説明書(QRコード等でアクセスするもの)
ISO 13485:2016では、「ラベル、使用説明書、および医療機器の識別、技術的説明、意図された目的、適切な使用に関連するその他の情報。送り状を除く」と規定されている。
送り状の扱い
ISO 13485では送り状(shipping documents)は明確にラベリングから除外されている。FDAの解釈では状況により含まれる場合もあるが、一般的には除外される。
ラベリングと広告の重要な区別
規制上の明確な境界線
ここで極めて重要なのは、「ラベリング」と「広告」は異なる規制体系の対象であるという点である。製品とは独立して提供されるマーケティング情報は「ラベリング」ではなく「広告」に分類される。
マレーシアMDA(医療機器局)のガイダンスでは、「プロモーション資料と製品パンフレットはラベリング要件の範囲から除外される」と明確に規定されている。
広告に分類されるもの(ラベリングではない)
以下のものは「ラベリング」ではなく「広告」として扱われる。
- 製品カタログ
- 企業ホームページの製品情報
- 展示会のプロモーションビデオ
- 販売促進資料(製品に同梱されないもの)
- レーニング教材(製品に同梱されないもの)
日本における規制の違い
日本では、ラベリングと広告は以下のように異なる法規制の対象となる。
分類 適用法規 対象 管理プロセス
ラベリング 薬機法第63条、 製品本体・容器の表示、 設計管理(QMS)
第63条の2 添付文書(IFU)
広告 薬機法第68条 カタログ、 広告審査プロセス
ウェブサイト、
プロモーションビデオ
薬機法第68条では「承認又は認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」と規定されている。
広告の定義(3要件)
日本における広告は、以下の3要件を満たすものとされている。
- 顧客を誘引する(購入意欲を昂進させる)意図があること
- 医療機器の特定の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
ラベリングの規制上の重要性
設計管理の一部として
ラベリング(製品本体のラベルや取扱説明書など)は、規制当局の観点から製品設計の一部として扱われる。21 CFR 820.120では、「各製造業者は、ラベリング活動を管理する手順を確立し維持すること」と規定されている。
ラベリングは設計のアウトプットであり、以下のプロセスの対象となる。
- デザインレビュー
- 設計検証(Verification)
- 設計妥当性確認(Validation)
- DHF(Design History File:設計開発ファイル)への保存
ラベリングの変更管理
ラベルや取扱説明書などのラベリングを変更する際は、21 CFR 820.30の設計変更管理に従う必要がある。これには以下のプロセスが含まれる。
- 変更要求の文書化
- リスク評価(ユーザー・患者への影響度合いの調査)
- デザインレビュー
- 適切な承認プロセス
- 関連文書の更新(リスクマネジメント報告書、IFU等)
- DHFへの記録
広告資料の管理との違い
一方、製品カタログやホームページなどの広告資料の変更は、設計変更管理の対象ではない。これらは広告規制(薬機法第68条、21 CFR 801.109等)に基づく社内審査プロセスが必要となる。
ただし、広告資料に記載される製品情報(性能、仕様等)は、承認・認証された内容と一致している必要があり、誤った情報や誇大広告は禁止されている。
デザインレビューの必要性
ラベリングはデザインレビューを通過する必要がある。このレビューでは以下のような点が確認される。
- 情報の正確性:記載された性能や仕様が実際の製品と一致しているか
- 表現の明確性:ユーザーが誤解なく理解できる表現になっているか
- 安全情報の適切性:警告や注意事項が適切に記載されているか
- 規制要件の遵守:各国の規制要件を満たしているか
このプロセスを経ることで、ラベリングの品質が担保される。
誤ったラベリングがもたらすリスク
事故につながる可能性
誤った情報や曖昧な表現は、重大な事故につながる可能性がある。例えば、以下のようなケースが考えられる。
取扱説明書に記載された使用方法が不明確だったため、ユーザーが誤った操作を行い、機器の故障や患者への危害が発生する可能性がある。また、添付文書に記載された性能が実際の製品と異なっていた場合、ユーザーが不適切な用途で製品を使用してしまう危険性がある。
情報管理の重要性
デジタル媒体の情報は容易に更新できる反面、適切な管理が行われないと、古い情報が残っていることで誤った使用法につながる可能性がある。ウェブサイトの製品情報は広告として管理され、承認内容との整合性を保つことが重要である。また、電子的なラベリング(eIFU等)についても、最新版へのアクセスを保証し、バージョン管理を厳格に行う必要がある。
実務における管理アプローチ
ステップ1:ラベリングの範囲を正確に特定する
まず、自社の製品に関連する真の「ラベリング」を正確に洗い出す必要がある。製品本体のラベル、取扱説明書、添付文書など、製品に付随する文書を包括的にリストアップする。製品カタログやホームページは「広告」として別途管理する。
ステップ2:設計変更管理プロセスの確立
ラベリングの内容を変更する際は、必ず正式な設計変更管理プロセスを経るようにする。軽微な表現の修正であっても、影響評価とレビューを実施することが重要である。
ステップ3:広告審査プロセスの確立
カタログ、ホームページ、プロモーションビデオなどの広告資料については、設計変更管理とは別に、広告審査委員会等による社内審査プロセスを確立する。承認内容との整合性確認と、薬機法第68条等への適合性確認を行う。
ステップ4:一貫性の確保
ラベリングと広告資料の両方において、製品情報の一貫性を保つ仕組みを構築する。例えば、製品仕様を変更した場合は、取扱説明書(ラベリング)だけでなく、カタログやホームページ(広告)も同時に更新する必要がある。
ウェブサイトと展示会における注意点
ウェブサイトの製品情報
企業ホームページの製品情報は「広告」として扱われる。2018年の医療法改正により、医療機関のウェブサイトも広告規制の対象となり、医療機器についても同様の考え方が適用される。ウェブサイトの製品情報は、承認・認証された内容と一致している必要があり、誇大広告や虚偽・誇大な記載は禁止されている。
展示会における広告規制
展示会でのプロモーションビデオや資料配布は、明確に広告規制の対象である。
- 未承認医療機器の展示には主催者への「出展要請書」等の手続きが必要
- 学術目的であっても、販売促進的な表現は制限される
- 配布資料は医師等の求めに応じてのみ提供
デジタル化の進展
電子的ラベリングの登場
今後、ラベリングはますますデジタル化していくと予想される。EU Regulation 2226/202は電子的な使用説明書(eIFU)を規制している。
ISO 13485:2016では、「ラベリングは印刷または電子形式であってもよく、医療機器に物理的に付随するか、ユーザーをラベリング情報にアクセスできる場所(ウェブサイトなど)に誘導してもよい」と規定されている。
電子的ラベリングの条件
ただし、電子的ラベリングが認められるのは、以下の条件を満たす場合である。
- 製品から直接アクセスできること(QRコード等)
- ユーザーが必要な時に確実にアクセスできること
- 印刷版と同等の情報が含まれていること
製品から直接アクセスできる電子的取扱説明書はラベリングに該当するが、独立したトレーニングプログラムやオンライン学習プラットフォームは、教育資料として扱われ、ラベリングとは区別される。
バージョン管理の重要性
デジタル媒体は更新が容易であるからこそ、厳格なバージョン管理と変更管理が一層重要になる。電子的ラベリングについても、設計変更管理の対象として、適切なプロセスを経て更新する必要がある。
準備すべきこと
今後、適切なラベリング管理と広告管理を実現するために、以下の準備が必要である。
- 社内教育の実施:ラベル、ラベリング、広告の違いを全社員が正確に理解する
- 管理体制の構築:ラベリング(設計管理)と広告(広告審査)を適切に区別して管理する仕組みを整備する
- 監査プロセスの確立:定期的にすべてのラベリングと広告資料をレビューし、正確性と一貫性を確認する
- 専門家の配置:Regulatory Affairs(RA)専門家とQuality Assurance(QA)マネージャーによる適切な監督体制を構築する
まとめ
ラベルとラベリングは明確に区別される概念である。ラベルは製品に直接貼付される表示に限定されるのに対し、ラベリングは製品に付随して提供される取扱説明書や添付文書などを含む広範な概念である。
さらに重要なのは、「ラベリング」と「広告」の区別である。製品カタログ、ホームページ、プロモーションビデオなどは「ラベリング」ではなく「広告」に分類され、異なる規制体系の対象となる。
ラベリングは規制対象であり、設計管理の一部として扱われる。したがって、取扱説明書や添付文書の内容を変更する際は、デザインレビュー、検証、妥当性確認などの正式なプロセスを経て、正確性と明確性を確保する必要がある。
一方、広告資料については、設計変更管理ではなく、広告規制(薬機法第68条等)に基づく社内審査プロセスが必要となる。ただし、広告資料であっても、承認・認証された内容との一貫性を保ち、誤った情報や誇大広告を避けることが重要である。
ユーザーの安全を守るという本質的な目的を見失わず、規制要件を正確に理解し、適切な管理体制を構築することが、これからの時代を生き抜く鍵となるであろう。
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