医薬品産業はCSVで技術革新に遅れた

~この轍を、生成AIで繰り返してはいけない~

2003年、Wall Street Journalにこんな記事が出た。

「医薬品産業の小さな秘密ーー画期的な新薬を発明しても、その製造方法はポテトチップスやランドリーソープよりはるかに劣る」。

食品工場や化学品工場に行くと、ほぼ人がいない。自動化されているからだ。ところが製薬・医療機器の工場には、まだ人があふれている。なぜかーー。

理由は、CSV(Computerized System Validation)という規制が「文書、文書、文書」を要求し、新規システム導入のハードルを上げ続けてきたからである。

しかもその文書の多くは、患者の安全性や製品の品質ではなく、査察対応のためだけに作られている。

これでは本末転倒である。

実はFDAもこの問題を認識し、2002年からPAT(Process Analytical Technology)など、リスクベースで規制を見直す動きを始めた。

今般の2025年9月の最終CSAガイダンスもその延長線上にある。

過去の失敗パターンは明確だ。

「査察で叩かれたくない」が先に立ち、文書の厚みで安心しようとする。

結果、新システム導入の意思決定が遅れ、競合は他産業の自動化を取り込み、製薬は周回遅れになる。これが20年続いた構図である。

そしていま、生成AIの導入を前にして、同じ轍を踏もうとしている企業がある。筆者はこれに強い危機感を抱いている。

「拙速なAI導入」はリスクである。だが、「AIを導入しないこと」もまた、立派なリスクなのだ。

ブレーキとアクセルを、バランスよく踏むこと。

これが今、医薬品・医療機器業界に求められる経営判断である。

リスクベースアプローチに基づき、低リスク領域(社内文書ドラフト、教育コンテンツ作成等)から先に解禁し、高リスク領域(GxP記録の自動生成等)は段階的に検証を積み重ねるーーこの二段階戦略が現実解である。

読者へのアクション:自社のAI活用領域を「低/中/高リスク」に分類した一覧を作成し、低リスク領域から確実に運用実績を積むロードマップを描いていただきたい。

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