改正GMP省令 バリデーションの要点

GMP省令(平成16年厚生労働省令第179号)は、令和3年厚生労働省令第90号により大きく改正された。公布は2021年(令和3年)4月28日、施行は同年8月1日である。実務者がまず知りたいのは「第13条は何が変わったのか」であろう。結論から言えば、第13条の条文そのものの変化は驚くほど小さい。変わったのはその周囲——報告先の組織、変更管理の要求、医薬品品質システムという受け皿、そして施行通知の位置づけである。本稿は改正で何が変わり実務で何をすべきかに絞る。用語の定義と資料間の対応関係はバリデーションと適格性評価 用語の定義で扱う。

1.改正の全体像

令和3年改正は、PIC/S加盟後のGMPガイドライン改訂を踏まえ、一層の国際整合を図る観点から行われた。従来は通知で示していた事項を省令本文に格上げした部分が多く、これがバリデーション実務にも波及している。

まず押さえるべきは、バリデーションの定義自体は一字も変わっていないという事実である。改正前は第2条第5項にあった定義が、定義規定の追加に伴って第2条第13項へ移動しただけである。

この省令で「バリデーション」とは、製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法(以下「製造手順等」という。)が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすることをいう。 出典:GMP省令 第2条第13項(e-Gov法令検索・現行版)

なお、GMP省令はその後も改正を受けているが、e-Gov法令検索で令和3年8月1日施行版と現行版を条文単位で対照したところ、第2条・第13条・第14条・第11条の3・第3条の3に変更はない。令和3年改正の枠組みは2026年8月現在もそのまま生きている。

2.第13条・第14条は改正前後でどう違うか

表1 バリデーション関連条文の改正前後(e-Gov法令検索で新旧を対照)
論点改正前(平成26年11月25日施行版)改正後(令和3年8月1日施行〜現行)
実施契機新規製造開始/品質へ大きな影響を及ぼす変更/その他必要と認められる場合同左(表現のみ調整)
計画・結果の報告先品質部門品質保証に係る業務を担当する組織
変更管理の対象製造手順等の変更のうち品質に影響を及ぼすおそれのあるもの原料・資材・製品の規格、又は製造手順等の変更
変更管理で求める業務影響評価と品質部門の承認、文書改訂・教育訓練承認事項への影響評価、製造販売業者等への連絡・確認、QA組織の承認、実施状況の報告、記録
変更実施後の確認製品品質の再確認と変更目的の達成の評価を義務化(第14条第2項)
定期照査からの起動照査の結果バリデーションを要する場合の措置を規定(第11条の3第2項)

見落とされやすい変更点

報告先が「品質部門」から「品質保証に係る業務を担当する組織」へ変わった意味は小さくない。試験検査を担う品質部門ではなく、品質保証機能を担う組織が計画と結果を受け取る建付けになった。手順書の宛先・承認欄が旧来のままになっていないか確認したい。

また第14条第2項は、変更を実施した後に「当該変更の目的が達成されていること」を評価せよと求める。変更前の影響評価だけで完結させる旧来の運用は、この項に照らすと不足である。変更管理の考え方は意図した変更とはも併せて参照されたい。

3.「バリデーション基準」は「バリデーション指針」になった

実務上もっとも影響が大きいのは施行通知の側である。改正前は平成25年8月30日 薬食監麻発0830第1号の「別紙2 第3章 第4 バリデーション基準」が拠り所であった。改正後は令和3年4月28日 薬生監麻発0428第2号の「第4 バリデーション指針」に置き換わっている。「基準」から「指針」へ名称が変わった点に注意したい。

指針は、第13条のバリデーションを行うに当たり、この指針又はこれと同等以上の海外のガイドラインを参照することを求める。さらに、医薬品の製造業者等についてはバリデーションマスタープラン(VMP)が明文化された。VMPとは、施行通知が第8条第1項第9号の解説として挙げるア〜キの事項——全体方針、職員の責務と管理体制、検証する事項、変更管理手順、逸脱管理手順、計画書・報告書の管理手順等——をあらかじめ文書としたものを指す。

表2 バリデーション指針が挙げる「検証する事項」
区分対象
設備製造設備、作業所の環境制御設備、無菌操作のための閉鎖式操作設備等
支援システム製造用水を供給する装置・システム、空調処理の装置・システム等(計測器を含む)
工程製造工程(保管を含む)
洗浄製造設備の洗浄作業
試験検査原料・資材・製品(中間製品を含む)の試験検査の方法及びその装置・システム

これら以外にも、工業化研究の結果や類似製品の製造実績等を踏まえ、製造業者等が自らVMPにおいて特定することが求められる。「五つだけやればよい」という読み方は誤りである。

4.バリデーションの種類——五分類の使い分け

指針はバリデーションを五つに大別する。それぞれの起動条件を取り違えないことが実務の要である。

表3 バリデーション指針が定める五分類
種類いつ行うか何を確かめるか
適格性評価(DQ・IQ・OQ・PQ)設備等を新たに据え付ける又は変更するとき設計・据付・運転・性能の各段階が要求どおりであること。順次段階的に行う
プロセスバリデーション(PV)商業生産の開始時(予測的)/商業生産と並行する例外的な場合(コンカレント)設定した許容条件の下で工程が稼働し、求められる品質の製品が恒常的に得られること
洗浄バリデーション残留・キャリーオーバーが問題となるとき成分残留と洗浄剤等の除去が期待される効果を与えること
再バリデーション定期的に(時期・項目は製造業者等が定める)据付時に検証された管理状態を維持していること
変更時のバリデーション製品品質に大きな影響を及ぼす変更があるとき(第13条第1項第1号ロ)変更後もなお期待される効果が得られること。第14条の変更管理の一環として行う

適格性評価の各段階の定義と役割についてはDQ・IQ・OQ・PQとは何か – 適格性評価の本質に詳しいため、本稿では深入りしない。

プロセスバリデーションの実施要件

指針はPVについて四点の考慮を求める。PV開始前に設備等の適格性評価を済ませること、PVで用いる試験方法の妥当性評価を済ませること、原則として商業生産スケールで製品3ロットを繰り返し製造した結果に基づく又はそれと同等以上の手法によること、通常は出荷可否決定の前までにPVを完了していることである。

「3ロット」の運用はGMP事例集(2022年版)(令和4年4月28日 事務連絡)が具体化している。GMP13―37は原則3ロット連続して適合していることを求め、不適合が生じた場合は原因究明のうえ原因を除いた条件で再度連続3ロットを実施すべきとする。ただし明らかな操作ミスや停電・設備故障など工程管理と関連しない事情が原因のときは、そのロットを除き改めて製造したロットと合わせて3ロットとみなす余地を認める。

洗浄バリデーション

指針は、残留許容限度値を製造設備の材質や当該成分の薬理学的・毒性学的評価等の科学的な根拠に基づいて設定することを求め、試験方法には十分な感度と特異性を要求する。GMP事例集GMP13―56は算出方法として一日許容曝露量(PDE/ADE)、職業曝露限界(OEL)、混在濃度10ppm以下、一日最小投与量の1/1000を挙げ、これらに限らないとする。同13―57は原則3回の繰返しデータを求める。

再バリデーションと変更時のバリデーション

再バリデーションの必要性・時期・項目は、製造頻度のほか安定性モニタリングの評価(第11条の2第1項第4号)や製品品質の照査(第11条の3第1項第1号)の結果を踏まえて製造業者等が定める、というのが指針の建付けである。ただし無菌性保証のための培地充填試験のように製品品質に大きな影響を及ぼすものは、照査等の結果によらず定期的に行うことが求められる。照査結果が良好だから培地充填試験を省く、という論法は通らない。

5.継続的工程確認(CPV)はどこに書かれているか

戸惑いやすい点だが、令和3年施行通知のバリデーション指針には「継続的工程確認」という語が一度も現れない。指針が触れるのは「商業生産時の日常的な工程確認」という表現にとどまる。CPVを正面から扱うのはGMP事例集(2022年版)である。

GMP事例集GMP13―50〜54は、CPVを「製剤開発に関するガイドラインの改定について」(平成22年6月28日 薬食審査発0628第1号)の「より進んだQbD手法」に基づいて開発した品目に導入し得る手法と位置づける。GMP13―53はCPVを導入した工程に必ずしも商業生産スケール3ロットのPVを求めないとする一方、GMP13―54はCPVを適用しない工程が混在する場合、その工程は従来どおり商業生産スケールで3ロット実施すべきとしている。

つまりCPVは「3ロット免除の抜け道」ではなく、製剤開発段階で管理戦略を構築していることを前提とした選択肢である(GMP13―51)。

6.医薬品品質システムとの関係

令和3年改正では第3条の3(医薬品品質システム)と第3条の4(品質リスクマネジメント)が新設された。バリデーションはこの二つの上に乗る。指針がVMPに基づく実施に当たって「当該医薬品のライフサイクルにわたって集積された知見」——工程デザイン、日常的な工程確認、品質リスクマネジメント、製品品質の照査の結果を含む——の活用を求めるのは、この構造を反映したものである。詳細はICH Q10における医薬品品質システムを参照されたい。

また第11条の3第2項は、照査の結果バリデーションを要する場合に所要の措置をとり記録を保管することを求める。照査がバリデーションを起動する経路が省令上に明記されたのは令和3年改正の重要な帰結である。

用語の注記:GMP省令は第2条第14項・第15項で「是正措置」「予防措置」を定義し、条文でも一貫して「是正措置」を用いる。令和3年施行通知も同様である。一方、ISO 9001やISO 13485の日本語訳(JIS)では「是正処置」を用いる。省令の要求を述べる箇所とISO/JISの箇条を述べる箇所とで書き分けること。

まとめ

令和3年改正でバリデーションの定義は変わっていない。変わったのは、報告先がQA組織になったこと、変更管理が変更後の有効性確認まで含むこと、施行通知が「基準」から「指針」へ改まりVMPが明文化されたこと、そして医薬品品質システムと品質リスクマネジメントが土台として省令に位置づけられたことである。

2026年時点で取るべき対応

  1. VMPの有無と内容を点検する施行通知が求めるア〜キの七項目が文書化されているかを確認する。「バリデーション手順書」はあるがVMPがない、という製造所は珍しくない。
  2. 報告先の記載を改めるバリデーション計画書・報告書の承認欄と報告先が「品質部門」のままになっていないか。第13条第1項第2号は「品質保証に係る業務を担当する組織」への報告を求めている。
  3. 変更管理に「変更後の評価」を組み込む第14条第2項に対応する手順——製品品質への影響の再確認と変更目的の達成の評価——が手順書にあるかを確認し、なければ様式ごと追加する。
  4. 再バリデーション計画を照査と接続する安定性モニタリングと製品品質の照査の結果を時期・項目の決定に反映する。ただし培地充填試験のように定期実施が求められるものは計画に固定する。
  5. 洗浄の限度値の根拠を再確認する10ppmや一日最小投与量の1/1000といった経験則のみで設定していないか。健康被害に基づく曝露限界(PDE/ADE)への移行状況を点検する。
  6. CPVを名乗るなら開発根拠を揃える根拠文書なしに日常のモニタリングをCPVと呼び替えているだけであれば、3ロットPVの省略は正当化できない。
  7. 引用元を「バリデーション指針」に改める社内SOPが平成25年通知の「バリデーション基準」を引用したままになっていないか。ただし文脈依存の用語を巻き込む機械的な一括置換は行わないこと。

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