医療機器規制における製造及びサービスの提供入門

設計が固まり、部材が入荷したあとに始まるのが「製造及びサービスの提供」である。この領域は条文の分量が最も多く、工程管理、清浄・汚染管理、据付け、附帯サービス、そしてプロセスバリデーションまでを含む。本稿ではQMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)第40条から第53条、ISO 13485:2016箇条7.5、および2026年2月2日施行の米国QMSR(21 CFR Part 820)を対照し、実務で押さえるべき要点を整理する。

1. 三極対照 ― 条文はほぼ一対一で対応する

QMS省令は令和3年改正によりISO 13485:2016と整合化されている。製造及びサービスの提供についても、条文の並びは箇条7.5の細分箇条とほぼ一致する。

製造及びサービスの提供に関する三極対照
要求事項の内容QMS省令ISO 13485:2016米国QMSR
製造及びサービス提供の管理第40条7.5.1§820.10(a)経由でISO 13485を適用。加えて§820.45が表示・包装の管理を上乗せ
製品の清浄管理第41条7.5.2§820.10(a)経由でISO 13485を適用。QMSR独自の上乗せ条文は置かれていない
設置業務(据付け)第42条7.5.3
製造工程等のバリデーション第45条7.5.6
滅菌工程・無菌バリアシステムのバリデーション第46条7.5.7
附帯サービス業務第43条7.5.4§820.35(b)がサービス記録に記載すべき項目を上乗せ
滅菌医療機器等に係る特別要求事項第44条7.5.5§820.10(a)経由でISO 13485を適用
設備及び器具(監視・測定機器)の管理第53条7.6§820.10(a)経由でISO 13485を適用

2. 第40条 ― 工程を「管理された条件」に置く

第40条第1項は、製品の製造及びサービスの提供について、製品の仕様に係る要求事項に適合させるための計画を策定したうえで、次の条件その他の適切な条件の下で実施・監視・管理せよと定める。

第40条第1項が求める管理された条件
条件
製造手順書および製造管理方法を定めた文書を利用できること
当該製造およびサービスの提供に見合う業務運営基盤を整備していること
工程指標値および製品の特性の監視および測定を実施していること
監視および測定のための設備および器具が利用でき、かつ、これを使用していること
手順書および要求事項を記載した文書に定められた包装および表示に係る作業を実施していること
工程の次の段階に進むことの許可、市場への出荷の決定、製品受領者への送達および受領後の業務を、省令の規定に基づいて行っていること

第2項は、製品の各ロットについて、追跡可能性を確保できる範囲の記録と、製造数量および出荷決定数量を識別できる記録の作成・保管を求める。第3項はその記録を検証し承認せよと定める。ロット記録は「作れば足りる」ものではなく、検証と承認まで含めて一つの要求である。なお五号の包装・表示作業については、表示物そのものの管理と併せて医療機器規制におけるラベリング・UDI・保管入門で扱う。

3. 清浄管理と汚染管理は別の条文である

第41条(製品の清浄管理)は、五つの場合のいずれかに該当するとき、製品の清浄および汚染管理に係る要求事項を文書化せよと求める。滅菌または使用前に自社もしくは製造者が清浄を行う場合、未滅菌で供給し使用者が清浄を行う場合、事前の清浄ができないが使用中の清浄が重要な場合、未滅菌で使用するが使用中の清浄が重要な場合、そして製造中に製造用物質を除去することとしている場合である。

混同されやすいが、作業環境そのものの汚染管理は第25条(作業環境)および第25条の2(汚染管理)が扱う別系統の要求であり、第41条は「製品に対する清浄」を対象とする。第41条第2項は、一号・二号の清浄を行う場合、第25条第2項・第3項の要求事項を清浄化工程より前の工程に適用しないことができるとしており、両者が別条文であることを前提とした調整規定になっている。洗浄バリデーションの具体論は洗浄バリデーションとISO 13485との関係を参照されたい。

4. 据付けと附帯サービス

第42条(設置業務)は、施行規則第114条の55第1項に規定する設置管理医療機器またはこれに類する医療機器を取り扱う場合、設置および設置の検証に係る可否の決定基準を含む要求事項を明確にし、その運用を文書化することを求める。自社または自社が指定した者以外が設置する場合には、その要求事項を文書化して実施者に提供しなければならない。設置の記録の作成・保管が必要なのは、自社または自社があらかじめ指定した者が実施した場合である。

第43条(附帯サービス業務)で見落とされやすいのは第2項である。実施した附帯サービス業務の記録を分析し、製品受領者からの意見が苦情であるかどうかを判断し、必要な場合は品質管理監督システムの改善への工程入力情報とせよと定める。サービス記録を「作業伝票の束」として保管するだけでは足りず、苦情該当性の判断と改善への還流までが一連の要求である。この分析対象には、他者が実施した附帯サービス業務も含まれる。

米国はサービス記録の記載項目を規則本文で指定している

QMSR§820.35(b)は、ISO 13485箇条7.5.4に上乗せする形で、サービス記録に最低限記載すべき項目として、サービスを行った機器の名称、UDIまたはUPCその他の機器識別、サービスの日付、実施した者、実施したサービスの内容、試験および検査のデータを列挙している。日本のQMS省令およびISO 13485には、ここまで具体的な項目列挙はない。米国向け製品のサービス記録様式は、この6項目を満たすかどうかで点検する必要がある。

5. プロセスバリデーション ― 第45条

第45条第1項は、バリデーションが必要な工程を、それ以降の監視もしくは測定では工程出力情報を検証できない場合、または工程出力情報を検証しない場合と定義する。括弧書きで「製品が使用若しくは操作され、又はサービスが提供された後にのみ不具合が明らかになる場合」を含むと明示している点が重要である。全数検査で品質を確認できない工程が対象だ、という一般的な説明はこの条文に由来する。

第3項は、バリデーションの手順に定めるべき事項を八つ列挙する。工程の照査および承認のための判定基準、設備および器具の承認ならびに構成員に係る適格性の確認、方法・手順・判定基準、統計学的方法(用いる場合。検体数の設定根拠を含む)、記録に係る要求事項、再バリデーション、再バリデーションの判定基準、そして工程の変更の承認である。設備の適格性評価と作業者の適格性確認が、プロセスバリデーションの手順の中に位置づけられている点に注意したい。適格性評価そのものについてはDQ・IQ・OQ・PQとは何かを参照されたい。

製造に用いるソフトウェアのバリデーション

第45条第4項から第6項は、製造およびサービスの提供にソフトウェアを使用する場合の要求である。適用に係るバリデーションおよび再バリデーションの手順を文書化し、初めて使用するときおよびソフトウェアまたはその適用を変更するときは、あらかじめバリデーションを行う。ただし変更前に行う必要がない正当な理由を示せる場合は事後でも足りる。第6項は、当該ソフトウェアの使用が医療機器の機能・性能・安全性に及ぼす影響を含むリスクに応じてバリデーションを行うことを求めており、リスクベースの考え方が条文に組み込まれている。米国におけるCSA(Computer Software Assurance)を巡る議論との関係はCSAガイダンス発出までの長い経緯で扱っている。

6. 滅菌工程と無菌バリアシステム

滅菌医療機器等については、第44条が各滅菌ロットの滅菌工程の工程指標値の記録を求め、その記録を製品の各製造ロットまで追跡可能なものとすることを義務づける。第46条は、滅菌工程および無菌バリアシステムに係る工程のバリデーション手順の文書化と、初回実施時および製品・工程の変更時における事前のバリデーションを求める。無菌バリアシステム(使用時まで微生物汚染を防止することを目的とする包装)が、滅菌工程と並んでバリデーション対象として明記されている点は、包装工程を軽視しがちな現場ほど確認すべきである。

7. 監視・測定のための設備及び器具 ― 第53条

第53条は、適合性の実証に必要な監視・測定とそのための設備・器具を明確にしたうえで、必要な場合には、計量標準まで追跡可能な方法による校正または検証、所要の調整と記録、校正状態の識別、測定結果を無効とする操作からの保護、取扱い・維持・保管の間の損傷および劣化からの保護という五条件に適合させることを求める。標準が存在しない場合は、校正または検証の根拠を記録する。

本稿は製造及びサービスの提供に絞っている。工程仕様の源流である設計移管は医療機器規制における設計管理入門、工程で用いる部材の供給者管理は医療機器規制における購買管理入門、識別・追跡可能性・保管は医療機器規制におけるラベリング・UDI・保管入門で扱う。

まとめ

製造及びサービスの提供は、条文数が多いだけに「どの条文がどの活動を縛っているか」の見取り図を持つことが先決である。QMS省令第40条〜第53条とISO 13485箇条7.5はほぼ一対一で対応し、米国QMSRはこれをISO 13485の取り込みによって受けたうえで、サービス記録(§820.35(b))と表示・包装(§820.45)にのみ独自の上乗せを置いている。FDAが2026年2月2日から運用する査察プログラムCP 7382.850が「Production and Service Provision」を独立した領域として立てていることも、この領域の重みを裏づけている。

2026年時点で取るべき対応

  1. 条文マッピングの作成自社の製造関連SOPを、QMS省令第40条〜第53条およびISO 13485箇条7.5の細分箇条に紐づけた一覧を作り、空白のある領域を特定する。旧QSRの条番号(820.70番台など)を参照している文書は書き換える。
  2. ロット記録の承認プロセス確認第40条第2項のロット記録について、作成だけでなく検証および承認まで運用されているかを点検する。
  3. サービス記録様式の見直し米国向け製品について、サービス記録がQMSR§820.35(b)の6項目(機器名、UDI等の識別、日付、実施者、実施内容、試験・検査データ)を満たす様式になっているかを確認する。
  4. 附帯サービス記録の分析ループ整備サービス記録から苦情該当性を判断し、改善への入力とする手順が実際に回っているかを確認する。外部委託先が実施したサービスの記録も分析対象に含める。
  5. バリデーション対象工程の再選定「以降の監視・測定で検証できない工程」の判断根拠を文書化し、対象外とした工程についてはその理由を記録として残す。
  6. 製造用ソフトウェアの棚卸し製造・検査・出荷判定に用いるソフトウェアを一覧化し、リスクに応じたバリデーションおよび変更時の再バリデーションの手順が整備されているかを確認する。
  7. 無菌バリアシステムの扱いの確認滅菌製品について、包装工程が滅菌工程と同等にバリデーション対象として管理されているかを点検する。

出典

  • 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号、令和3年厚生労働省令第60号による改正)/e-Gov法令検索
  • 21 CFR Part 820 Quality Management System Regulation(§820.10、§820.35、§820.45)/eCFR
  • Medical Devices; Quality System Regulation Amendments(最終規則、2024年2月2日公布、89 FR 7496、施行2026年2月2日)/Federal Register
  • ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes(第3版、2016-03-01。国内対応規格はJIS Q 13485:2018)/ISO

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