
米国におけるラベリングの定義について
医療機器の国際展開を考える際、米国市場は非常に重要な位置を占めている。しかし、米国市場へ参入するためには、米国食品医薬品局(FDA)の厳格な規制要件を満たす必要がある。特に医療機器のラベリングに関する要件は、製品の安全性と有効性を確保するうえで極めて重要な役割を担っている。本稿では、米国連邦食品・医薬品・化粧品法(FDC法)および品質システム規則(QSR)、そして2026年に施行される品質マネジメントシステム規則(QMSR)におけるラベリングの定義と要件について解説する。
FDC法におけるラベリングの定義と例外
米国のFDC法(The Federal Food, Drug and Cosmetic Act)では、ラベリングについて明確な定義が設けられている。具体的には、FDC法のセクション201(m)において、ラベリングとは
- あらゆる物品、あるいはその容器または包装材に表示される
- またはこれらの品物に付随する、全てのラベル、およびその他の文字、印刷、または図案による表示を含む
と定義されている。
一方、ラベルについては、同法のセクション201(k)で
と定義されている。
つまり、FDC法においては以下のように整理することができる。
- ラベル:機種銘板(UDIを含む)および一次包装(プライマリパッケージ)や二次包装(包装箱)に貼付または刻印するもの
- ラベリング:ユーザー・患者の目に触れるすべての印刷物(取扱説明書、添付文書、カタログなどを含む)
この定義から明らかなように、ラベリングの概念はラベルよりも広範であり、製品に関連するあらゆる文書や表示物を包含している。この広範な定義によって、FDAはラベリングを通じて製品の安全性と有効性に関する重要な情報を確実に伝達させることを意図している。
ラベリングとみなされない例外
ラベリングの定義は広範であるが、全ての文書がラベリングとみなされるわけではない。代表的な例外として、運送業者の伝票(送り状)が挙げられる。これらの文書は以下の理由からラベリングとはみなされないのが一般的である。
- 運送業者の伝票は通常、製品の輸送過程の管理に使用される商業的文書であり、最終的にユーザーや患者が目にするものではないため
- 製品の使用方法、性能、効能・効果などに関する情報を含まない純粋に物流上の目的で使用される文書であるため
- 「製品に付随する」という要件を満たさず、輸送過程で用いられるだけで製品の一部として最終ユーザーに提供されるものではないため
ただし、もし運送業者の伝票が製品の安全性や使用に関する情報を含み、かつ最終ユーザーに提供される場合は例外的にラベリングとみなされる可能性がある点に注意が必要である。
また、純粋に商業的な目的で使用される他の書類(例:注文書、請求書など)も、それらが製品の使用方法や性能に関する情報を含まない限り、通常はラベリングとはみなされない。ここでも同様に、これらの書類に製品の使用方法、効能・効果、性能などに関する情報が含まれる場合は、FDAがラベリングとして解釈する可能性がある。
このように、ラベリングの定義は包括的でありながらも、その解釈と適用は製品と文書の関係性や内容によって判断される部分があることを理解しておくべきである。
ラベリング管理における一般的な問題と対応
医療機器のラベリング管理において、実務上しばしば発生する問題として、非公式文書の作成と配布が挙げられる。例えば、取扱説明書が分厚く読みにくいという理由で、営業部門が独断で簡易マニュアルを作成して配布するケースがある。このような行為は品質管理上の重大な問題であり、許容されない。その理由は以下の通りである。
- 規制上の問題:簡易マニュアルも「ラベリング」としてFDC法およびQSR/QMSRの規制要件の対象となる。正式な承認プロセスを経ていない文書の配布は規制違反となる可能性が高い。
- 設計管理プロセスの欠如:ラベリングは設計アウトプットの一部であり、デザインレビュー、検証、妥当性確認などの厳格なプロセスを経ることが要求される。独断で作成された文書はこれらのプロセスを経ていない。
- リスク管理上の問題:非公式の文書は誤った情報や不完全な情報を含むリスクがあり、患者や使用者の安全に直接影響する可能性がある。
- 一貫性の欠如:公式の取扱説明書と非公式の簡易マニュアルの間で情報の不一致が生じる可能性があり、ユーザーの混乱を招く恐れがある。
このような問題を防止するためには、以下の対策が重要である。
- 全ての部門(特に営業・マーケティング部門)に対して、ラベリングの定義と規制上の重要性に関する教育を実施する
- 文書作成のプロセスを明確化し、全ての製品関連文書が適切な承認プロセスを経るよう手順を確立する
- 取扱説明書自体の使いやすさを向上させ、簡易マニュアルを作成したいというニーズそのものに対応する
- デジタルツールを活用して、正式な取扱説明書の中から必要な情報を容易に検索・参照できる仕組みを構築する
QMSRへの移行に際しては、このような非公式文書の問題にも焦点を当て、ラベリング管理の体制を強化することが重要である。
ラベルとラベリングの設計管理
QSR(品質システム規則)においては、ラベルとラベリングは設計からのアウトプットとして明確に位置づけられている。これは、単なる製品情報の伝達手段ではなく、医療機器の品質と安全性を確保するための重要な要素として扱われることを意味する。
具体的には、以下の要件が適用される。
- 設計アウトプットとしての位置づけ:ラベルおよびラベリングは設計開発プロセスのアウトプットとして扱われ、他の設計要素と同様に厳格な管理が求められる。
- DHFへの包含:ラベルおよびラベリングの設計に関する記録は、設計開発ファイル(DHF:Design History File)に含めなければならない。これには初期の設計案から最終版に至るまでの変更履歴や根拠も含まれる。
- デザインレビューの必須化:ラベルおよびラベリングは、他の設計要素と同様に正式なデザインレビューのプロセスを経なければならない。これにより、適切性、正確性、完全性が確保される。
- 検証と妥当性確認:ラベルおよびラベリングの内容が意図した目的を達成するか、ユーザーが適切に理解できるかなどの検証と妥当性確認が必要となる。
QMSRへの移行後も、これらの基本的な要件は維持される。ISO 13485:2016では「設計開発ファイル」という用語が使用され、QSRの「DHF」に相当するものとして扱われる。重要なのは、QMSRの下でもラベルとラベリングは設計管理プロセスの不可欠な一部として扱われ続けるという点である。
医療機器メーカーとしては、ラベルとラベリングの開発を製品開発の初期段階から計画し、適切な設計管理の下で進めることが求められる。これにより、最終的なラベルとラベリングが規制要件を満たし、ユーザーに正確な情報を効果的に伝えることができる。
デジタルコンテンツとラベリング
FDC法における広範なラベリングの定義に基づき、デジタルコンテンツも規制の対象となる点に注意が必要である。特に、医療機器メーカーのウェブサイト上の製品情報は「ラベリング」としてFDAに解釈されることがある。
FDAは医療機器企業のウェブサイトを定期的に監視しており、規制要件に違反する内容を発見した場合、警告書(Warning Letter)を発行することがある。このような監視の対象となるのは主に以下のような内容である。
- 承認された適応外の使用法(オフラベル使用)の推奨
- 未承認または意図されていない使用法の推奨
- リスクの軽視と効果の誇張
- 誤解を招く比較広告
- 根拠不十分な効能・効果の主張
医療機器メーカーはデジタルコンテンツも「ラベリング」として適切に管理する必要がある。実務上は、ウェブサイト上の情報も品質管理システムの範囲に含め、適切なレビューと承認のプロセスを経ることが重要である。QMSRへの対応において、デジタルコンテンツの管理も考慮に入れた包括的なラベリング管理体制を構築することが推奨される。
ISO 13485とFDC法におけるラベリング定義の比較
ISO 13485:2016では、「ラベリング(labelling)」は製品識別、技術情報、および安全情報を伝えるために製品そのもの、容器、または包装に付けられた書面、印刷、または図表として定義されている。この定義はISO 9000:2015の用語定義を参照している点に注意が必要である。
一方、前述のFDC法における「ラベリング(labeling)」の定義と比較すると、以下の主要な違いが存在する。
1.範囲の広さ
- FDC法のラベリングは非常に広範囲で、製品に「付随する」あらゆる文書も含む。これには取扱説明書、添付文書、パンフレット、ウェブサイト、プロモーション資料まで含まれる場合がある。
- ISO 13485では、ラベリングは主に製品自体、その容器、または包装に直接付けられた識別・情報に焦点を当てており、より限定的な定義となっている。
2.スペルの違い
- FDC法では「labeling」(米国式スペル)を使用
- ISO 13485では「labelling」(英国式スペル)を使用 この違いは単なるスペルの問題ではなく、法的文書では重要な区別となる。
3.法的位置づけ
- FDC法におけるラベリングの定義は法的拘束力があり、規制の基盤となる
- ISO 13485のラベリング定義はガイダンス的な性格が強く、国際標準としての合意に基づいている
QMSRでは、ISO 13485:2016を参照して取り入れているものの、「labeling」の定義についてはFDC法の定義が優先されることが明確にされている。これにより、法的整合性を保ちつつ、ISO 13485との調和を図っている点が特徴的である。
QSRにおけるラベリング要件
現行のQSR(Quality System Regulation、21 CFR Part 820)では、ラベリングに関する要件が明確に規定されている。QSRは医療機器の製造プロセス全体の品質管理を対象としているが、その中でもラベリングは重要な位置を占めている。QSRにおけるラベリングに関する主な要件は以下の通りである。
- ラベリングは設計からのアウトプットでなければならず、デザインレビューを経たうえでDHF(設計開発ファイル)に保存しておかなければならない
- ラベルと包装の完全性を確保するための詳細な手順を文書化し、実施しなければならない
- ラベリングに関する活動の検査、保存、および作業に関する手順を確立しなければならない
特に注目すべき点として、QSRではラベリングおよび包装に関する厳格な管理が求められている。これは、製品の取り違えやラベルミスが重大な製品リコールや安全上の問題につながる可能性があるためである。
ラベリング検査要件の違い
ISO 13485:2016では、条項7.5.1(e)において「ラベリングおよび包装のための定義された作業を実施しなければならない」とされているが、FDA(米国食品医薬品局)はこの要件だけでは不十分と判断した。具体的には、ラベリングの検査に関する要件が十分に記載されていないとFDAは考えており、これはQMSRの前文(preamble)でも言及されている。
FDAは特にラベリングと包装の管理については、製品の識別と安全性に直結する重要な要素と位置づけており、誤ったラベリングや包装が多くの医療機器リコールの原因となっていることを踏まえ、より詳細かつ厳格な要件を維持する方針を示している。
このような背景から、QMSRでは条項7.5.1に加えて、追加的なラベリング検査要件を設けることとなった。これは、米国市場特有の要件として医療機器メーカーが特に注意すべき点である。
QMSRにおけるラベリング要件の変更点
2024年2月2日、FDAは品質マネジメントシステム規則(Quality Management System Regulation、QMSR)の最終規則を公表した。QMSRは、国際標準化機構(ISO)が定めた医療機器品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 13485:2016を参照として取り入れている。この規則は2026年2月2日に発効する予定であり、それまでの間、製造業者は引き続き現行のQSRを遵守する必要がある。
QMSRにおけるラベリングに関する要件は、基本的にISO 13485:2016の要件に基づいているが、FDAはラベリングの検査に関する部分についてISO 13485では十分に対応できていないと判断し、現行のQSRから一部の規定を残している。具体的には、以下の点が注目される。
- QMSR 820.45では、「ラベリングおよび包装活動の完全性、検査、保存、および操作を確保するための詳細な説明を提供する手順」が引き続き要求される
- ISO 13485:2016の条項7.5.1(e)では「ラベリングおよび包装のための定義された作業を実施しなければならない」とされているが、FDAはこれだけでは不十分と判断している
- QMSRの施行後も、21 CFR Part 801(ラベリング)に規定されている医療機器のラベリングに関する具体的な要件は引き続き適用される
このように、QMSRへの移行に伴い、ラベリングに関する要件はISO 13485:2016に準拠する形で整理されるが、FDA特有の重要な要素は維持されることになる。
QMSRにおける記録管理の変更とラベリングへの影響
QMSRでは、記録の種類に関する用語にも変更が見られる。現行のQSRで使用されている「設計履歴ファイル(DHF)」「機器製造記録(DMR)」「機器履歴記録(DHR)」などの用語は、QMSRでは使用されなくなる。ただし、これらの記録に含まれる要素は、ISO 13485:2016の「医療機器ファイル(Medical Device File)」などの概念に包含される形で引き続き要求される。
ラベリングに関する記録についても、この変更の影響を受けることになるが、記録の保持に関する基本的な要件は維持される。ラベリングは引き続き設計からのアウトプットとして位置づけられ、適切に文書化・管理される必要がある。
グローバル調和とラベリング要件の今後
QMSRの導入は、FDAの規制要件をグローバルスタンダードと調和させる取り組みの一環である。ISO 13485:2016は既に欧州連合の医療機器規則(EU MDR)の下で調和が図られており、QMSRの導入によって、医療機器メーカーは複数の規制枠組みに対応するための重複作業を削減できることが期待される。
ラベリングに関しては、地域によって要求される具体的な内容に違いがあるものの、基本的な管理アプローチについては国際的な調和が進んでいる。ただし、FDAは特にラベリングと包装に関する管理については独自の厳格な要件を維持していることに注意が必要である。これは、ラベリングと包装の不備が米国における医療機器のリコールの主要な原因となっているという背景がある。
実務上の対応策
医療機器メーカーにとって、QMSRへの移行に備えた実務上の対応策としては、以下の点が重要である。
- 現行のラベリング管理手順をISO 13485:2016の要件と比較し、ギャップ分析を行う
- QMSR 820.45で要求される追加的なラベリングおよび包装に関する手順を確認し、必要に応じて手順を更新する
- ラベリングに関する記録の保持方法を見直し、QMSRの要件に適合するよう調整する
- ラベリングの設計・レビュープロセスを確認し、リスク管理の観点も含めて適切に実施されているか評価する
- FDC法の広範なラベリング定義に基づき、製品に関連するすべての文書・情報(取扱説明書、添付文書、プロモーション資料など)を適切に管理する体制を構築する
- 「広告」や「プロモーション資料」が米国市場ではラベリングとみなされ、規制対象となる可能性がある点に特に注意し、これらの資料も品質管理システムの範囲に含める
これらの対応を計画的に進めることで、2026年2月のQMSR施行に向けて円滑な移行が可能となる。QMSRへの対応は単なる形式的な文書変更ではなく、ラベリングの定義の違いを十分に理解した上での実質的な対応が求められる点に留意すべきである。
スペルの違いと法的影響
ISO 13485とFDC法の間にはラベリングのスペルにも違いがある点に注意が必要である。ISO 13485では英国式スペルの「labelling」を使用しているのに対し、FDC法では米国式スペルの「labeling」を使用している。これは単なる表記の違いに見えるが、法的文書においては重要な区別となる。
QMSR最終規則の前文では、この違いについても言及しており、FDC法のスペルと定義が優先されることを明確にしている。医療機器メーカーは社内文書や手順書を整備する際にも、米国市場向けの文書ではFDA準拠の「labeling」スペルを使用することが望ましい。
おわりに
米国のFDC法およびQSR(QMSR)におけるラベリングの定義と要件は、医療機器の安全性と有効性を確保するうえで極めて重要である。QSRからQMSRへの移行に伴い、基本的な枠組みはISO 13485:2016に準拠する形で整理されるが、FDAはラベリングと包装に関する独自の厳格な要件を維持している。
特に注目すべき点として、FDC法におけるラベリングの定義とISO 13485におけるラベリングの定義には範囲の広さや法的位置づけに大きな違いがある。FDC法ではラベリングを非常に広範に捉え、製品に付随するあらゆる文書や情報を含んでいるのに対し、ISO 13485ではより限定的に定義している。この違いを理解することは、QMSRへの適切な対応において極めて重要である。
医療機器メーカーは、これらの変更点や定義の違いを十分に理解し、適切な対応策を講じることで、規制要件への適合を確保するとともに、国際的な展開をより効率的に進めることが可能となる。QMSRの施行まで約1年半の準備期間があるが、ラベリング管理に関する手順や記録の見直しは早期に着手することが望ましい。
FDA規制の変更に適切に対応することは容易ではないが、グローバルな規制調和の流れを理解し、計画的に取り組むことで、より効率的かつ効果的な品質管理システムの構築が可能となるだろう。
- あらゆる物品の直接の容器の上における文字、印刷、または図案による表示
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