
薬機法改正のインパクト
薬機法改正のポイントと製薬企業に与える影響
~令和7年法律第37号が製薬企業に与える影響と対応戦略~
令和7年に成立した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」は、製薬業界にとって大きな転換点となる改正である。近年の品質問題や供給不足の課題を受け、規制強化と新たな責任体制の構築が求められている。
1. ガバナンス強化による責任の明確化
新設される責任者制度のインパクト
今回の改正で最も注目すべきは、製造販売業者における品質保証責任者と安全管理責任者の設置が法定化されることである。これまで任意だった責任者制度が義務化され、厚生労働大臣による変更命令の対象となる。
製薬企業への影響
- 既存の総括製造販売責任者に加え、新たに2名の専任責任者の配置が必要
- 責任者間の連携体制の構築と報告ラインの明確化
- 教育訓練体制の整備と継続的な能力向上の仕組み作り
責任役員への監督権限強化
責任役員(代表取締役、薬事関連業務担当取締役等)に対する厚生労働大臣の変更命令権が新設される。これは、企業トップレベルでの薬事コンプライアンス責任を明確化するものである。
留意点
- 役員レベルでの薬事法令遵守体制の構築
- 内部統制システムの見直しと強化
- 定期的なコンプライアンス監査の実施
2. 医療用医薬品の安定供給体制構築
供給体制管理責任者の新設
現在、医療用医薬品の約20%が限定出荷・供給停止の状況にある中、供給体制管理責任者の設置が義務化される。この責任者は、企業内の連絡調整体制の整備から原薬確保、在庫管理まで幅広い業務を担う。
製薬企業が取り組むべき事項
- 供給不安発生の早期把握システムの構築
- 原薬調達先の多様化とリスク分散
- 製造計画と需要予測の精度向上
- 他社との連携・協力体制の構築
後発医薬品製造基盤整備基金の活用
後発医薬品企業の「少量多品目生産」による生産効率低下の課題に対応するため、5年の時限措置として基金が設置される。企業間の連携・協力・再編を後押しし、品目統合や事業再編の経費を支援する。
戦略的な活用方法
- 同業他社との品目統合による効率化
- 設備投資による生産性向上
- 事業再編による競争力強化
3. 創薬環境の改善と新たな機会
条件付き承認制度の適用拡大
希少・重篤な疾患を対象とした条件付き承認制度が拡大され、探索的臨床試験で一定の有効性・安全性が確認された場合、市販後の検証的臨床試験を条件に承認が可能となる。
製薬企業にとってのメリット
- 開発期間の短縮と早期市場参入
- 希少疾患治療薬の開発促進
- 患者アクセスの改善による社会的意義の実現
革新的医薬品等実用化支援基金の創設
10年の時限措置として、国庫と民間出えん金による基金が創設される。創薬クラスターキャンパス整備事業者の取組を支援し、より活発な創薬環境を整備する。
活用のポイント
- インキュベーション施設の整備・活用
- 産学官連携の強化
- スタートアップ企業との協業機会の拡大
4. 薬局機能強化による新たなビジネスモデル遠隔管理下での一般用医薬品販売
薬剤師等の遠隔管理下で、薬剤師が常駐しない店舗での一般用医薬品販売が可能となる。これは、OTC医薬品メーカーにとって新たな販売チャネルの拡大機会である。
要指導医薬品のオンライン販売解禁
薬剤師の判断に基づき、オンライン服薬指導による要指導医薬品の販売が可能となる。適正使用のために対面確認が必要な品目は除外される仕組みも整備される。
5. 製薬企業が今すぐ取り組むべき対応策短期的対応
責任者体制の整備
- 品質保証責任者・安全管理責任者の人選と育成
- 役割分担と権限の明確化
- 報告・連携体制の構築
供給体制の見直し
- 供給体制管理責任者の選任
- 手順書の作成と社内体制の整備
- 原薬調達リスクの評価と対策
まとめ
今回の法改正は、製薬業界にとって規制強化の側面がある一方で、新たなビジネス機会の創出や業界全体の健全化を促進する重要な改革である。企業は単なる法令遵守にとどまらず、これらの変化を競争優位性の確立に活用する戦略的な視点が求められる。
特に、責任者制度の法定化や供給体制の強化は、企業の信頼性向上と持続可能な経営基盤の構築に直結する。また、創薬支援基金や承認制度の柔軟化は、イノベーション創出の加速化につながる貴重な機会である。
製薬企業は、これらの制度変更を前向きに捉え、より強固で責任ある企業体制の構築と、患者・医療現場のニーズに応える製品・サービスの提供に取り組むことが期待される。
