FDAの査察の傾向

米国食品医薬品局(FDA)による査察は、医薬品・医療機器製造業者にとって極めて重要な意味を持つ。FDAによる査察は単なる規制対応ではなく、製品の品質保証システム全体の健全性を評価する機会でもある。本稿では、近年のFDA査察の傾向と特に注目すべき「プロセスリンケージ」の概念について解説する。

FDAの査察アプローチの変化

FDAの査察アプローチは年々進化している。かつては単純なチェックリスト方式が中心であったが、現在は「システム思考」に基づく包括的な評価へと移行している。査察官は単に個別の不備を指摘するのではなく、それらの不備が品質システム全体にどのような影響を与えるかを重視する傾向にある。

プロセスリンケージとは何か

プロセスリンケージとは、ある事象に関連する一連の記録や手続きが適切に連携し、一貫性を持って実施されているかを確認するアプローチである。これは、単一の文書や記録を個別に確認するのではなく、関連するプロセス全体の流れを追跡することで、品質システムの実効性を評価するものである。

具体的な査察手法

FDAの査察官は特定の事例(トレーサビリティの起点)を選定し、関連するすべての記録や活動を追跡する。例えば、顧客苦情を起点とした場合、以下の流れで確認が行われる。

  1. 苦情の受領と記録:いつ、どのような形で苦情を受け取ったか
  2. 初期評価と分類:苦情の重大性や緊急性の評価
  3. 原因調査の実施:調査方法、担当者、期間
  4. 有害事象報告の要否判断:規制当局への報告基準の適用
  5. 顧客対応:回答内容、タイミング、対応の適切性
  6. CAPA(是正・予防措置)の実施:対策立案、実施、効果確認
  7. 根本原因分析:問題の本質的要因の特定
  8. 手順書やシステムの変更:再発防止のための改善内容
  9. 変更後の教育訓練:いつ、誰に、どのような内容で実施したか

これらすべてのステップが適切に文書化され、互いに整合性を持って実施されていることが求められる。
つまり、情報の連携が重要となる。

プロセスリンケージの重要性

プロセスリンケージが重視される理由は以下の通りである。

  1. システムの実効性評価:文書上の手順と実際の運用の乖離を発見できる
  2. 問題の再発防止:是正措置の効果を確認できる
  3. データの完全性担保:一連の記録間の整合性を検証できる
  4. 意思決定プロセスの透明性:なぜその決定に至ったかの根拠を確認できる

査察対応のポイント

プロセスリンケージを意識した査察対応のポイントは以下の通りである。

  1. 記録間の一貫性確保
    すべての関連記録(苦情記録、調査報告書、CAPAレポートなど)において、日付、製品情報、ロット番号、関係者情報などの基本データに一貫性があることを確認する。矛盾や不整合がある場合、査察官の疑念を招く原因となる。
  2. タイムラインの適切性
    各プロセスの時間的順序と所要期間が合理的であることが重要である。例えば、重大な苦情に対する対応が不当に遅延している場合や、調査完了前に結論付けられた対策などは問題視される。
  3. 意思決定の根拠の明確化
    「なぜその判断に至ったか」という根拠を明確に文書化しておくことが重要である。特に、有害事象報告の要否判断や是正措置の範囲決定など、重要な意思決定については、その論理的プロセスを記録しておく必要がある。
  4. 教育訓練の効果確認
    単に教育訓練を実施したという記録だけでなく、その効果が確認されていることを示す証拠(テスト結果、フォローアップ監査など)も重要である。

結論

FDAの査察において、プロセスリンケージの概念を理解し対応することは極めて重要である。単に個別の記録や手順を整備するだけでなく、それらが有機的に連携し、品質システム全体として機能していることを示すことが求められる。情報の連携を重視した品質システムの構築と運用が、FDA査察への効果的な対応につながるのである。

参考チェックリスト:プロセスリンケージの検証ポイント

  1. 関連記録間で基本情報(日付、製品、ロット番号等)に不整合はないか
  2. 各プロセスの時間的順序と所要期間は適切か
  3. 重要な意思決定の根拠が文書化されているか
  4. CAPAの有効性評価が行われているか
  5. 手順書等の改訂と教育訓練が適切に実施されているか
  6. 類似事象の再発防止策が講じられているか
  7. 品質システム全体への影響評価が行われているか

これらの点を日常的に確認することで、FDA査察に対する準備態勢を整えることができる。

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