
コンピュータ化システムとコンピュータシステムの違いとは
現代社会において、「コンピュータ化システム」と「コンピュータシステム」という言葉を耳にする機会は多い。しかし、これらの用語の違いを正確に理解している人は意外と少ないのではないだろうか。
実は、この違いは医薬品製造業界では特に重要視されており、GAMP(Good Automated Manufacturing Practice)などの国際ガイドラインでも明確に区別されている。本コラムでは、両者の違いを明確にし、それぞれの特徴と実例を通じて理解を深めていく。
コンピュータ化システム(Computerized System)とは
コンピュータ化システムとは、もともと手作業や機械的な方法で行われていたシステムが、コンピュータ制御に置き換わったものを指す。重要なのは、「既存のシステムがある」という前提である。
英語では「Computerized System」と表記され、特に医薬品業界のGAMPガイドラインやPIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム)ガイドラインでも、この用語が「既存プロセスのコンピュータ化」という意味合いで使用されている。
マイコン炊飯器の例
最も身近な例として、マイコン炊飯器を考えてみよう。従来、釜でご飯を炊くという行為は、人間が火加減を調整し、時間を計りながら行っていた。これが「炊飯システム」である。このシステムにマイクロコンピュータ(マイコン)を組み込み、温度センサーやタイマーと連動させることで、自動的に最適な炊飯を行えるようにしたものがマイコン炊飯器である。
つまり、炊飯という「システム」自体は変わらず、その制御方法がコンピュータに置き換わったのである。

その他の身近な例
- 自動改札機: 従来の駅員による切符確認システムがコンピュータ化
- ATM(現金自動預払機): 銀行窓口での入出金システムがコンピュータ化
- 工場の生産ライン: 手作業による組み立てシステムがロボットとコンピュータによる制御に置換
- 電子カルテ: 紙のカルテから電子記録への移行
- 自動温度記録システム: 手作業での温度チェックから自動モニタリングへの変更
コンピュータシステム(Computer System)とは
一方、コンピュータシステムは、最初からコンピュータを前提として設計・構築されたシステムである。コンピュータなしでは成立しない、純粋にデジタル技術に基づいたシステムを指す。
IT業界や医薬品業界でも「Computer System」という用語は広く使われているが、その特徴は「デジタルネイティブ」であることだ。
代表的な例
- ウェブサイト: インターネット上でのみ存在し、コンピュータなしでは機能しない
- データベース管理システム: デジタルデータの管理に特化したシステム
- クラウドサービス: 分散コンピューティングを前提とした仮想化技術
- 人工知能(AI)システム: 機械学習やディープラーニングなど、コンピュータの計算能力を前提とした技術
- ブロックチェーン: 分散型台帳技術で、デジタル環境でのみ実現可能
両者の決定的な違い
1. 起源の違い
- コンピュータ化システム: アナログ起源(既存の非デジタルシステムが出発点)
- コンピュータシステム: デジタル起源(最初からデジタル技術を前提に設計)
2. 目的の違い
- コンピュータ化システム: 既存プロセスの効率化・自動化が主目的
- コンピュータシステム: コンピュータでしか実現できない新たな価値の創造
3. 設計思想の違い
- コンピュータ化システム: アナログプロセスのデジタル化
- コンピュータシステム: デジタルネイティブな設計
医薬品製造業界における具体例
医薬品製造業界では、この違いが特に重要である。GAMPガイドラインやFDA(米国食品医薬品局)のガイダンスでも、「Computerized System」という用語が頻出し、バリデーションやリスク評価の重要性が強調されている。
コンピュータ化システムの例
- 製造実行システム(MES): 従来の紙ベースの製造記録をデジタル化
- 温度管理システム: 手動での温度チェックを自動モニタリングに置換
- 在庫管理システム: 台帳管理からバーコード管理への移行
- 電子バッチ記録: 紙の製造記録から電子記録への移行
コンピュータシステムの例
- LIMS(ラボ情報管理システム): 最初からデジタルデータの管理を前提に設計
- PAT(プロセス分析技術): リアルタイムデータ解析による品質管理
- 電子署名システム: デジタル認証技術を活用した承認プロセス
- 統計解析ソフトウェア: 複雑な統計計算を前提としたシステム
なぜこの区別が重要なのか
1. バリデーション戦略の違い
- コンピュータ化システム: 従来方式との同等性を証明することが重要。例えば、紙の記録と電子記録が同じ情報を正確に保持していることを検証する必要がある。
- コンピュータシステム: システム自体の信頼性と性能を検証することが中心。設計通りに機能することを証明する。
2. リスク評価の観点
- コンピュータ化システム: 移行リスクの評価が重要。従来方式からの移行時にデータの欠落や誤りが生じないかを評価する。
- コンピュータシステム: システム固有のリスク(セキュリティリスク、可用性リスク、データ完全性リスクなど)が主な評価対象。
3. 規制対応の違い
- コンピュータ化システム: 既存規制の延長線上での対応。従来の規制要件をデジタル環境でどう満たすかが課題。
- コンピュータシステム: 新たな規制枠組みが適用されることがある。例えば、クラウドシステムやAIシステムには特別な規制要件が設けられることがある。
注意すべき点
1. 用語の混同
日本語では「コンピュータ化システム」と「コンピュータシステム」の厳密な区別がなされていない場合がある。また、英語の「Computerized System」を単に「コンピュータシステム」と訳すケースもあるため、文脈に注意が必要である。
2. 境界線の曖昧さ
実際の現場では、両者の境界線が曖昧になることもある。例えば、ERPシステムのように、既存業務のコンピュータ化から始まり、新たな機能が追加されて純粋なコンピュータシステムの要素も含むようになったものもある。
3. 国際標準との整合性
特に規制産業では、GAMPなどの国際ガイドラインに沿った理解が重要である。グローバルな監査や査察に対応するためには、これらの標準的な定義を理解しておく必要がある。
まとめ
コンピュータ化システムとコンピュータシステムの違いは、単なる言葉の違いではない。それぞれが持つ特性を理解することで、適切なシステム設計、リスク管理、規制対応が可能となる。
重要なのは、「コンピュータ化」が既存システムの効率化を目指すものであり、「コンピュータシステム」がデジタル技術でしか実現できない新たな価値を創造するものであるという本質的な違いを理解することである。
特に医薬品製造業界をはじめとする規制産業では、この区別は単なる学術的な議論ではなく、実務上の重要な概念である。GAMPガイドラインに基づいたバリデーション活動を行う際には、対象システムがどちらに分類されるかによって、アプローチが大きく異なってくる。
今後、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中で、この区別はますます重要になるだろう。既存業務のコンピュータ化で満足するのか、それともコンピュータシステムによる新たな価値創造を目指すのか。この選択が、企業の競争力を左右する時代になっている。
