
CFRとは何か
CFRとは何か:米国の法規制体系の基礎 CFRの正式名称と役割
製薬業界やライフサイエンス分野で働く方であれば、「21 CFR Part 11」という言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。電子記録や電子署名に関する重要な規制として知られるこの規則だが、そもそも「CFR」とは何を意味するのか、そして「Part 11」がどのような体系の中に位置づけられているのかを正確に理解している人は意外と少ない。本コラムでは、CFRの全体像から21 CFR Part 11の位置づけまでを、初心者にも分かりやすく解説する。
CFRとは何か
CFRは「Code of Federal Regulations(連邦行政規則集)」の略称である。これは、米国連邦政府の行政機関が制定した規則を体系的にまとめた公式文書集であり、米国における行政法規の根幹をなすものである。
米国の法体系は階層構造になっている。最上位には憲法があり、その下に議会が制定する法律(Statute)が存在する。そして、これらの法律に基づいて、各行政機関が具体的な運用規則を定める。この行政機関が定める規則がCFRとして編纂されているのである。
CFRの構成:50のタイトルによる分類
CFRは全体が50のタイトル(Title)に分類されている。各タイトルは特定の行政分野を担当しており、関連する規則が集約されている。主要なタイトルには以下のようなものがある。
- Title 7:農務省が管轄する農業関連規則
- Title 21:食品医薬品局(FDA)が管轄する食品・医薬品関連規則
- Title 40:環境保護庁(EPA)が管轄する環境保護関連規則
- Title 49:運輸省が管轄する運輸関連規則
このように、各タイトルは担当する行政機関と密接に結びついている。製薬・医療機器・食品業界に関わる方にとって最も重要なのが、FDAが管轄するTitle 21である。
Title 21の構造:食品医薬品分野の規制体系 Title 21の範囲
Title 21は「Food and Drugs(食品および医薬品)」というタイトル名が示す通り、FDAが所管する広範な分野をカバーしている。具体的には、医薬品、医療機器、生物学的製剤、食品、化粧品、放射線を放出する電子機器などに関する規制が含まれている。
Partによる細分化
Title 21はさらに細かく「Part(章)」に分割されている。各Partは特定のトピックや製品カテゴリーに関する規則をまとめたものである。代表的なPartには以下がある。
- Part 11:電子記録および電子署名に関する規則
- Part 210および211:医薬品の製造管理および品質管理(cGMP)に関する規則
- Part 312:治験薬(IND)に関する規則
- Part 314:新薬承認申請(NDA)に関する規則
- Part 820:医療機器の品質システム規則(QSR)
※2026年2月2日より「QMSR: Quality Management System Regulation」へ移行し、ISO 13485:2016が組み込まれる予定
このように、各Partが特定の規制領域を担当することで、膨大な規則が整理された構造になっている。
21 CFR Part 11の位置づけ
Part 11が生まれた背景
1997年にFDAが制定した21 CFR Part 11は、電子記録と電子署名の使用に関する規則である。医薬品業界では長年、紙ベースの記録と手書きの署名が標準であったが、コンピュータ技術の発展により電子システムへの移行が進んでいた。しかし、電子記録は改ざんが容易であり、その信頼性をどのように担保するかが課題となっていた。
FDAはこの課題に対応するため、電子記録と電子署名が紙の記録や手書きの署名と同等の信頼性と法的効力を持つための要件を定めた。それがPart 11である。
Part 11は1997年3月20日に最終規則として公示され、同年8月20日に発効した。
Part 11の適用範囲
Part 11は、FDAに提出される記録や、FDAが査察において確認する記録に適用される。つまり、Title 21の他のPartで要求される記録を電子的に作成・保管する場合、Part 11の要件を満たす必要がある。
例えば、医薬品製造においてPart 211で要求される製造記録を電子システムで管理する場合、そのシステムはPart 11の要件に準拠しなければならない。このように、Part 11は他のPartと連携して機能する横断的な規則である。
Part 11の主要要件
Part 11は3つのサブパート(Subpart)で構成されている。
Subpart A:一般規定(General Provisions)
電子記録の範囲と定義、電子記録と電子署名が紙の記録や手書き署名と同等とみなされる条件などを規定している。
Subpart B:電子記録に関する要件(Electronic Records)
システムの検証(バリデーション)、監査証跡、記録の正確なコピーの作成能力、記録の保護などの技術的要件を定めている。
Subpart C:電子署名に関する要件(Electronic Signatures)
電子署名の固有性、署名者の本人確認、生体認証やパスワード管理、署名の意味の明確化など、電子署名に特化した要件を独立して規定している。
CFR体系を理解する実践的意義 規制の関連性を把握する
CFRの構造を理解することで、個別の規則がどのような文脈に位置づけられているかが明確になる。例えば、Part 11を理解する際には、それが単独で存在するのではなく、Part 210、211、312などの製造や治験に関する規則と密接に関連していることが分かる。
この関連性の理解は、コンプライアンス対応において極めて重要である。Part 11に準拠した電子システムを導入する際には、そのシステムが最終的に何の規則(例えばcGMP)に基づく記録を管理するのかを明確にする必要がある。
規制動向の追跡
CFRは年4回、段階的に更新される。具体的なスケジュールは以下の通りである。
- Title 1-16:毎年1月1日時点の内容に更新
- Title 17-27:毎年4月1日時点の内容に更新
- Title 28-41:毎年7月1日時点の内容に更新
- Title 42-50:毎年10月1日時点の内容に更新
新たな規則の追加や既存規則の改訂が行われるため、最新の規制動向を把握するためにはCFRの構造理解が不可欠である。Title 21のどのPartが改訂されたかを追跡することで、自社の業務への影響を迅速に評価できる。
グローバル規制との整合性
現在、多くの国や地域がFDAの規制を参考にした独自の規制を導入している。例えば、欧州のEudraLex Volume 4 Annex 11や、日本のER/ES指針(2005年4月発出)は、いずれも21 CFR Part 11を参考に策定されている。CFRの構造を理解することは、グローバルな規制環境を理解する第一歩となる。
CFR活用のための実践的アプローチ 公式リソースの活用
CFRの全文は、米国政府印刷局(GPO)が運営するウェブサイト(ecfr.gov)で無料で閲覧できる。このサイトでは、最新版だけでなく過去の版も確認でき、規則の変遷を追跡することが可能である。
また、FDAの公式ウェブサイトでは、各規則に関するガイダンス文書が公開されている。特にPart 11については、2003年に発行されたガイダンス「Guidance for Industry: Part 11, Electronic Records; Electronic Signatures — Scope and Application」が実務上の解釈を理解する上で重要である。
社内での知識共有
CFRの体系的理解は、品質保証部門だけでなく、製造、研究開発、ITなど様々な部門で必要とされる。定期的な社内研修を実施し、関連部門がCFRの基本構造と自部門に関連する規則を理解できるようにすることが望ましい。
特に、新たな電子システムを導入する際には、システム開発担当者がPart 11の要件を正確に理解していることが成功の鍵となる。
まとめ
CFRは米国の行政規則を体系化した文書集であり、50のタイトルに分類されている。その中でTitle 21は食品医薬品分野を担当し、さらに複数のPartに細分化されている。21 CFR Part 11は、電子記録と電子署名に関する規則として、Title 21の第11章に位置づけられる。
Part 11を理解するためには、それが単独で存在するのではなく、医薬品製造や治験に関する他のPartと密接に関連していることを認識する必要がある。CFRの全体構造を把握することで、個別の規則の意味や適用範囲がより明確になり、効果的なコンプライアンス対応が可能となる。
規制環境は常に変化している。CFRの構造を理解し、継続的に最新情報を追跡することが、製薬・医療機器業界で活躍するすべての専門家に求められる基本的なスキルである。技術の進化とともに規制も進化していく中で、その根幹となるCFRの理解は、今後ますます重要性を増していくであろう。

