なぜソフトウェアカテゴリー分類が必要なのか

現代の企業活動において、ソフトウェアは欠かせない存在となっている。しかし、すべてのソフトウェアを同じように扱うことは、品質管理やリスク管理の観点から適切ではない。そこで重要となるのが、ソフトウェアのカテゴリー分類である。
この分類方法は、GAMP 5(Good Automated Manufacturing Practice)という国際的なガイドラインでも推奨されており、世界中の企業で採用されている実践的なアプローチである。

ソフトウェアカテゴリーの3つの分類

ソフトウェアは、その性質と使用方法により、主に以下の3つのカテゴリーに分類される。それぞれのカテゴリーには明確な特徴があり、管理方法も大きく異なる。

カテゴリー3:構成設定なしソフトウェア(既製品ソフトウェア)

このカテゴリーに属するソフトウェアは、インストール後すぐに使用できる「既製品」である。市販のパッケージソフトウェアがこれに該当し、ユーザーによる設定変更や調整を必要としない。

具体例

  • Microsoft Officeなどのオフィスソフト
  • 電卓アプリケーション
  • PDFリーダー
  • 画像ビューアソフト

これらのソフトウェアは、メーカーが既に十分なテストを実施しているため、導入時の検証作業は最小限で済む。

カテゴリー4:構成設定ありソフトウェア(設定可能なソフトウェア)

構成設定が必要なソフトウェアは、使用開始前に各種パラメータの設定や初期構成が必要となる。ユーザーの要求に応じて、動作環境や機能の有効化・無効化などを設定する必要がある。

具体例

  • データベース管理システム(Oracle、SQL Server など)
  • 会計ソフトウェア(勘定科目の設定が必要)
  • 生産管理システム(工程や部品マスタの設定が必要)
  • セキュリティソフトウェア(スキャンレベルの設定)

設定内容によってソフトウェアの動作が変わるため、カテゴリー3よりも慎重な検証が必要となる。

カテゴリー5:カスタマイズソフトウェア(カスタム開発ソフトウェア)

最も複雑なカテゴリーであり、ユーザーの特定のニーズに合わせて大幅な改変や新規開発が必要となる。既存のソフトウェアをベースに、新たな機能を追加したり、インターフェースを変更したりする場合がこれに該当する。

具体例

  • 企業独自の業務に合わせて開発された受発注システム
  • 既存のERPシステムに追加された特殊機能
  • マクロやスクリプトで自動化された業務プロセス
  • APIを使用して他システムと連携するカスタムプログラム

最も高いリスクを伴うため、開発プロセス全体の詳細な管理が不可欠である。

カテゴリー分類の必要性

なぜこのような分類が必要なのか。それは、すべてのソフトウェアを同一基準で管理することが、非効率かつ過剰なコストにつながるためである。

1. バリデーション(妥当性確認)の深さの違い

各カテゴリーによって、品質保証のために必要なバリデーションの深さが大きく異なる。

カテゴリー3の場合

  • インストール確認(正常に起動するか)
  • 基本機能の動作確認(計算結果は正しいか)
  • ウイルススキャンの実施

カテゴリー4の場合

  • 設定値の妥当性確認(なぜその値に設定したか)
  • 設定後の動作確認(期待通りに動作するか)
  • 他システムへの影響確認
  • 設定変更時の手順確認

カテゴリー5の場合

  • 要件定義の妥当性確認
  • 設計レビューの実施
  • ソースコードレビュー
  • 単体テスト、結合テスト、システムテスト
  • ユーザー受入テスト
  • 性能テスト、セキュリティテスト

2. 必要文書の違い

文書化の要求も、カテゴリーによって大きく異なる。これは、問題発生時の原因究明や、規制当局への説明責任を果たすために重要である。

カテゴリー3

  • メーカー提供の取扱説明書
  • インストール記録
  • 基本的な動作確認記録

カテゴリー4

  • 構成設定書(どのような設定をしたか)
  • 設定根拠書(なぜその設定にしたか)
  • 運用手順書(日常的な操作方法)
  • 変更管理記録(設定変更の履歴)

カテゴリー5

  • 要件定義書(何を作るか)
  • 基本設計書・詳細設計書(どのように作るか)
  • テスト仕様書・結果報告書
  • ソースコード管理記録
  • 変更管理記録(プログラム変更の履歴)
  • トレーニング記録

3. コストとリソースの最適化

適切なカテゴリー分類により、以下のような最適化が可能となる。

  • 過剰管理の防止:カテゴリー3のソフトウェアに対して、カテゴリー5レベルの管理を行うことによる無駄なコストを削減
  • リスクに応じた管理:高リスクな部分に集中的にリソースを投入
  • 効率的な品質保証:必要十分な検証により、品質とスピードを両立

ITアプリケーションにおける複雑性への対応

複数カテゴリーの混在という現実

現代のITアプリケーションは、単一のカテゴリーに収まらないことが多い。例えば、ERPシステムを詳しく見てみよう。

ERPシステムの構成例

1.基本機能モジュール(カテゴリー3)

  • 標準の会計機能
  • 標準の在庫管理機能
  • 標準レポート機能

2.設定による機能(カテゴリー4)

  • 組織構造の設定
  • 承認ワークフローの設定
  • 勘定科目体系の設定

3.カスタマイズ機能(カテゴリー5)

  • 独自の業績評価レポート
  • 他システムとの自動連携機能
  • 業界特有の特殊処理

機能ごとの分類の重要性

このような複雑なシステムでは、システム全体を一つのカテゴリーに分類するのではなく、機能単位での分類が重要となる。この「機能別アプローチ」により、以下のメリットが得られる。

メリット1:適切な管理レベルの適用

  • 標準機能は簡易な確認で済ませる
  • カスタマイズ部分には十分な検証を行う
  • 設定部分は設定値の妥当性を重点的に確認

メリット2:変更時の影響範囲の明確化

  • どの機能がどのカテゴリーに属するか明確
  • 変更時に必要な作業範囲が明確
  • 他機能への影響評価が容易

メリット3:効率的なリソース配分

  • 高リスク機能に専門家を配置
  • 低リスク機能は標準手順で対応
  • プロジェクト全体の効率化

リスクベースアプローチとの関係

ソフトウェアのカテゴリー分類は、「リスクベースアプローチ」という考え方の一環として位置づけられている。これは、リスクの高さに応じて管理の厳格さを変える、という合理的な考え方である。

リスク評価の観点

ビジネスへの影響度

  • 売上に直結する機能か
  • 顧客データを扱う機能か
  • 法規制に関わる機能か

技術的な複雑さ

  • 他システムとの連携の多さ
  • データ処理の複雑さ
  • カスタマイズの程度

実践的な適用例

高リスク機能の例

  • 金融取引を処理する機能 → カテゴリー5として厳格管理
  • 個人情報を扱う機能 → 詳細なセキュリティテスト実施
  • 製造ラインを制御する機能 → 包括的な動作検証

低リスク機能の例

  • 社内向けの簡易集計ツール → カテゴリー3として基本確認
  • 参照のみのレポート機能 → 最小限の動作確認
  • バックアップ用のデータ出力機能 → 標準的な検証

実践的な分類のポイント

1. 初期評価の重要性

ソフトウェア導入の初期段階で、各機能がどのカテゴリーに属するかを明確にすることが重要である。

初期評価のチェックポイント

  • □ 標準機能として提供される部分はどこか
  • □ 設定が必要な部分はどこか
  • □ カスタマイズが必要な部分はどこか
  • □ 各部分のビジネス上の重要度はどの程度か

この評価により、プロジェクトの規模感や必要なリソース、スケジュールが明確になる。

2. 変更管理との連携

運用開始後も、システムの変更や更新に伴い、カテゴリーが変化する可能性がある。

カテゴリー変化の例

  • 標準機能(カテゴリー3)にマクロを追加 → その部分はカテゴリー5へ
  • 設定のみの機能(カテゴリー4)をカスタマイズ → カテゴリー5へ
  • カスタム機能(カテゴリー5)が標準化 → カテゴリー3へ

3. 文書化のベストプラクティス

効果的な文書化のコツ

  • カテゴリー分類表を作成し、常に最新化
  • 変更時は必ずカテゴリーの見直しを実施
  • 機能一覧とカテゴリーの対応表を維持
  • 定期的なレビューでカテゴリーの妥当性を確認

まとめ

ソフトウェアカテゴリー分類は、単なる形式的な作業ではない。GAMP 5などの国際ガイドラインでも推奨されるこの手法は、以下の実践的な価値をもたらす。

  1. 品質保証活動の効率化:必要十分なバリデーションの実施
  2. コスト削減:過剰な管理の排除
  3. リスク管理の最適化:リスクに応じた適切な対応
  4. 規制対応の明確化:監査時の説明責任の履行

特に複雑なITアプリケーションにおいては、機能単位での細かな分類が、プロジェクトの成功に直結する。組織がソフトウェアを導入・運用する際は、このカテゴリー分類の考え方を理解し、自社の状況に応じた適切な管理体制を構築することが重要である。
これにより、過剰な管理によるコスト増大を避けつつ、必要な品質とコンプライアンスを確保することができる。カテゴリー分類は、現代のソフトウェア品質管理において必須の考え方なのである。

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