
なぜバリデーションは未来形でベリフィケーションは過去形なのか
なぜバリデーションは未来形でベリフィケーションは過去形なのか
製薬業界、医療機器業界、そしてソフトウェア開発の分野において、品質保証の要となるバリデーションとベリフィケーション。これらの用語が持つ「時制」の違いは、実は品質保証活動の本質を理解する上で極めて重要な鍵となる。
時制が示す品質保証の方向性
バリデーション(Validation)は「将来的に設計品質通りの製品が製造できることを証明すること」として未来形で語られる。一方、ベリフィケーション(Verification)は「設計品質通りの製品が製造できたことを確認すること」として過去形で表現される。
この時制の違いは、単なる文法的な差異ではない。FDAやGMPといった国際的な規制文書でも、バリデーションは「一貫して規格に適合した製品を製造できることを証明する」活動として定義されており、将来にわたるプロセスの妥当性を確認するものとして位置づけられている。

バリデーション:未来への保証
バリデーションの本質は「予測可能性の確立」にある。これは、システムや工程がこれからも継続的に期待される品質を生み出し続けることを科学的に証明する活動である。
具体例で理解するバリデーション
新たに導入する錠剤製造ラインを考えてみよう。バリデーションでは以下のような検証を行う。
- 様々な条件下での性能確認:夏場の高温多湿時でも、冬場の低温乾燥時でも、同じ品質の錠剤が製造できるか
- 長期的な安定性の証明:1年後、2年後も同じ品質を維持できるか
- 異常時の対応能力:停電からの復旧後も正常に動作するか
- 作業者が変わっても品質が保たれるか:Aさんが操作してもBさんが操作しても同じ結果が得られるか
これらすべては「将来起こりうる様々なシナリオ」を想定した検証であり、まさに「未来形」の活動といえる。
ベリフィケーション:過去の確認
ベリフィケーションは「実績の確認」という性格を持つ。既に完了した作業や製造された製品が、定められた仕様や要求事項を満たしていることを確認し、その結果を記録として残す活動である。
具体例で理解するベリフィケーション
同じ錠剤製造ラインで考えると、ベリフィケーションは以下のような場面で実施される。
- 今日製造した錠剤の検査:重量、硬度、溶出性が規格を満たしているか
- システム変更後の動作確認:ソフトウェアをアップデートした後、正しく動作したか
- 定期メンテナンス後の確認:部品交換後、規定通りの性能が出ているか
- 作業記録の照合:作業者が手順書通りに作業を実施したか
これらはすべて「既に行われたこと」の確認であり、「過去形」の活動である。
CSV実務における実践的な使い分け
コンピュータ化システムバリデーション(CSV)の実務では、この時制の違いを理解することで、各作業の目的と実施タイミングが明確になる。
プロジェクトの流れで見る両者の関係
1.システム導入前(バリデーション)
- 「このシステムは今後10年間、GMP要件を満たし続けられるか?」
- リスクアセスメント、設計レビュー、予測的な性能評価を実施
2.システム稼働後(ベリフィケーション)
- 「今月のデータは正確に記録されたか?」
- 「先週のシステム変更は適切に実施されたか?」
- 実際の運用結果を確認し、記録を作成
3.相互補完的な関係
- バリデーションで「将来の品質」を保証
- ベリフィケーションで「その保証が機能していること」を定期的に確認
- この循環により、システムの信頼性が長期的に維持される
業界を超えた普遍的な概念
この「未来形と過去形」の考え方は、製薬・医療機器業界だけでなく、ソフトウェア開発や一般的な品質保証の分野でも広く認められている。英語圏の規制文書やガイドラインでも、この時制的なニュアンスは明確に区別されており、国際的に共通の理解となっている。
まとめ:時制が教える品質保証の本質
「バリデーションは未来形、ベリフィケーションは過去形」という一見シンプルな違いの中に、品質保証活動の深い哲学が込められている。
- バリデーション=予測的保証(これからも大丈夫か?)
- ベリフィケーション=実績の確認(今回は大丈夫だったか?)
この基本的な違いを理解することで、なぜ両方の活動が必要なのか、どのタイミングで何を実施すべきなのかが明確になる。品質保証の専門家として、また品質に関わるすべての人にとって、この時制の違いを意識することは、真の品質保証を実現するための第一歩となるのである。

