• MDCG 2024-10

Clinical evaluation of orphan medical devices

この文書は、欧州医療機器規則(MDR)に基づくオーファン医療機器の臨床評価に関するガイダンスです。

オーファン医療機器の定義と基準を示しています。
オーファン医療機器の臨床評価における考慮事項を説明しています。

  • 市販前の臨床データの制限の許容性
  • 非臨床データの役割
  • 臨床評価の概要
  • 市販前臨床データの生成
  • 市販後調査とPMCF

手続き上の考慮事項について説明しています。

  • 公認機関の活動と責任
  • 専門家パネルの関与

付録では以下の内容を提供しています。

  • 臨床評価報告書に含めるべき情報
  • オーファン医療機器の臨床試験の考慮事項
  • オーファン適応への臨床データの外挿

オーファン医療機器の特殊性を考慮しつつ、MDRの要件を満たすための柔軟なアプローチを提案しています。

このガイダンスは、オーファン医療機器の開発者、製造業者、公認機関向けに、臨床評価の実施と評価に関する指針を提供することを目的としています。

1章 Abbreviations and terminology

1章では、この文書で使用される略語と用語の定義が示されています。

  • MDR、AIMDD、MDD、IVDRなどの規制関連の略語の定義
  • 臨床評価、臨床データ、臨床証拠、臨床調査などの臨床関連用語の定義
  • オーファン機器(OD)、オーファン適応、オーファン集団などのオーファン関連用語の定義
  • リスク、ベネフィット・リスク判定、性能などの一般的な用語の定義

特に重要な定義として:

  • オーファン機器(OD): 年間12,000人以下のEU患者を対象とし、代替選択肢が不十分か、期待される臨床的ベネフィットを提供する機器
  • オーファン適応: 機器の特定の使用目的/適応がオーファン集団を対象とするもの
  • オーファン(サブ)集団: 年間12,000人以下のEU患者からなる、機器の対象となる集団

これらの定義は、本ガイダンス文書全体を通して使用される重要な概念を明確にしています。

2章 Introduction

2章では、オーファン医療機器に関する本ガイダンス文書の背景と目的が説明されています。

  • MDRにより医療機器の市販前の臨床エビデンス要件が厳格化されたが、これは希少疾患向けの「オーファン機器」にとって課題となっている。
  • オーファン機器は年間使用患者数が少なく、臨床データ収集が困難だが、未充足の医療ニーズを満たす重要な役割を果たす。
  • MDRにはオーファン機器に関する特別規定がないため、要件適用にあたってはバランスと比例性が必要。
  • 本ガイダンスの目的は、オーファン機器の臨床評価に関する指針を提供すること。
  • オーファン機器の定義基準を設定し、対象となる機器を明確化。
  • 本文書は2部構成で、臨床評価の考慮事項と手続き上の考慮事項を提供。
  • 3つの付録では、臨床評価報告書、臨床試験、データ外挿に関する追加ガイダンスを提供。

このガイダンスは、オーファン機器の特殊性を考慮しつつ、MDRの要件を満たすための柔軟なアプローチを提案することを目的としています。

3章 Scope

3章では、このガイダンス文書の適用範囲について説明されています。

  • このガイダンスは、「オーファン機器」(OD)として認定される医療機器および付属品、またはオーファン適応を持つ医療機器および付属品のMDRに基づく臨床評価に関するものです。
  • すべてのリスククラスの機器に関連しています。
  • 特に、MDR第VI章および附属書XIVに記載されている臨床評価および臨床調査の要件に焦点を当てています。
  • 他のMDCGガイダンス(MDCG 2020-5、MDCG 2020-6、MDCG 2023-7など)と併せて読むべきとされています。
  • カスタムメイド機器、院内製造機器、MDR附属書XVIに記載された医療目的のない製品、体外診断用医療機器は対象外です。
  • MDR第61条(10)が適用される特定の状況については、このガイダンスでは扱っていません。

このガイダンスは、オーファン機器の特殊性を考慮しつつ、MDRの要件を満たすための臨床評価に関する指針を提供することを目的としています。

4章 Orphan device status and orphan indication

4章では、オーファン医療機器(OD)の定義基準と、そのステータスの正当化について説明されています。

オーファン医療機器の定義基準:

  • EUで年間12,000人以下の患者を対象とする機器
  • 利用可能な代替選択肢が不十分、または
  • 既存の選択肢と比較して期待される臨床的ベネフィットを提供する機器

オーファン医療機器ステータスの正当化:

  • 製造業者は、機器がOD基準を満たすことを示す情報を提供する必要がある
  • この情報は臨床評価報告書(CER)に含める必要がある
  • 疫学的考慮事項と機器関連の考慮事項に基づく科学的根拠が必要

疫学的考慮事項:

  • 対象疾患/状態の説明
  • EU年間12,000人以下の発生率の文書化
  • オーファンサブ集団の正当化(該当する場合)

機器の説明と期待される臨床的ベネフィット:

  • 機器の説明、使用目的、必要性の根拠
  • 現在の最先端技術と代替療法の説明
  • 期待される臨床的ベネフィットの説明

オーファン適応:

  • 機器が非オーファンと オーファン両方の適応を持つ場合の考慮事項
  • オーファン適応のみに本ガイダンスの原則を適用可能

この章は、オーファン医療機器の定義と、そのステータスを正当化するために必要な情報を明確にしています。

5章 The acceptability of limitations in pre-market clinical data

5章では、オーファン医療機器の市販前臨床データの制限の許容性について説明されています。主な内容は以下の通りです:

  1. オーファン機器は、適切な措置が実施される場合、市販前臨床データの量と質に制限があっても市場アクセスが認められる可能性がある。
  2. 臨床的ベネフィットが期待でき、意図した性能と許容可能な安全性レベルを示す十分な臨床的証拠が必要。
  3. 市販前の臨床的証拠の制限に対処するため、適切なPMCF計画を策定する必要がある。
  4. オーファン機器も関連するGSPRを満たす必要がある。
  5. 臨床的証拠の必要レベルは、機器の特性や使用目的を考慮して指定・正当化する必要がある。
  6. 市販前臨床データの制限が許容される条件:
  • 利用可能な非臨床・臨床データがすべて評価されている
  • 既存のデータでGSPRへの適合性、ベネフィット・リスク比の許容性、臨床的ベネフィットの期待が示せる
  • 市販前にさらなる臨床データを生成することが実現不可能または不釣り合い
  • 適切なPMCF計画がある
  • ユーザーに適切な情報提供がなされる

このアプローチにより、オーファン機器の特殊性を考慮しつつ、MDRの要件を満たすための柔軟性が提供されています。

6章 The role of non-clinical data

6章では、オーファン医療機器の臨床評価における非臨床データの役割について説明されています。主な内容は以下の通りです:

非臨床データの定義:

  • MDRの臨床データの定義に該当しない関連データ全て
  • 前臨床データを含む

非臨床データの重要性:

  • 市販前臨床データの制限がある場合、非臨床データの役割が増大
  • 安全性、性能、ベネフィット・リスク比の評価を支援

有用な非臨床データの例:

  • 実験室および動物試験の結果
  • コンピューターモデリングやシミュレーション試験のデータ
  • エックス線試験や死体試験のデータ
  • 類似機器からのデータ(同等性が証明されていないもの)
  • 技術の最新状態に関する情報
  • 患者の健康情報に関する既存のデータセット
  • その他の関連する人間に関するデータ

非臨床データの使用:

  • オーファン機器との関連性を明確に説明する必要がある
  • 高品質で頑健な非臨床データは、市販前臨床データの制限を正当化し、PMCFを通じて対処できる可能性がある

このように、6章は非臨床データがオーファン医療機器の臨床評価において重要な補完的役割を果たすことを強調しています。

7章 Clinical evaluation overview

7章では、オーファン医療機器の臨床評価の概要について説明されています。

臨床評価計画(CEP)に含めるべき重要な要素:

  • 疾患特有の要因(疫学、患者集団、疾患の重症度など)
  • 機器特有の要因(オーファン機器の基準を満たす根拠、非臨床データの概要など)

臨床データの特定、評価、分析:

  • 既存の非臨床・臨床データを評価し、GSPRへの適合性を判断
  • 臨床データの制限を特定し、追加データ収集の必要性を判断

レガシーオーファン機器の臨床評価:

  • 市販後のデータ収集が正当化される可能性
  • 過去の使用データや同等性の利用に関する考慮事項
  • オフラベル使用からのデータ利用に関する考慮事項

臨床データの外挿:

  • 非オーファン適応からオーファン適応へのデータ外挿の可能性
  • 完全外挿と部分外挿の概念
  • 外挿の適切性を判断するための決定プロセス

このように、7章はオーファン医療機器の臨床評価における特殊な考慮事項と、限られた臨床データを最大限活用するためのアプローチを提供しています。

8章 Generating pre-market clinical data for orphan devices

8章では、オーファン医療機器の市販前臨床データの生成について説明されています。

埋め込み型および/またはクラスIIIのオーファン機器には、MDR第61条(4)に基づき臨床調査の実施が求められる。ただし、第61条(4)、(5)、(6)に定められた例外が適用される場合を除く。
オーファン機器の臨床調査は、対象患者数が限られているため課題がある。
臨床調査の設計には、適切な臨床専門家の関与を求めるべき。患者、患者団体、保護者などの意見を取り入れることも有用。
調査設計では、リクルートの課題やサンプルサイズの影響を考慮する必要がある。
可能な場合は複数の施設と協力し、十分な参加と結果の一般化可能性を高めるべき。
付録A.2では、オーファン機器の臨床調査設計に関する以下の考慮事項が提供されている:

  • 研究対象集団の定義
  • 適切な目的とエンドポイントの選択
  • 研究デザインの選択
  • 比較対照の選択
  • 研究モニタリング

オーファン適応の臨床評価では、非オーファン集団での使用データの外挿が適切な場合がある。データ外挿に関する考慮事項は付録A.3に記載されている。

このように、8章はオーファン医療機器の臨床調査設計における特殊な考慮事項と課題に焦点を当てています。

9章 Post market surveillance and PMCF for orphan devices

9章では、オーファン医療機器の市販後調査(PMS)と市販後臨床フォローアップ(PMCF)について説明されています。

オーファン機器の特性と市販前臨床データの制限により、PMSとPMCFプロセスがより重要になる。
製造業者は詳細なPMCF計画を作成し、公認機関の審査を受ける必要がある。
PMCF計画には以下の情報を含める必要がある:

  • 市販前に特定された臨床データの制限
  • PMCF活動がこれらの制限にどう対処するかの正当化
  • 生成すべき臨床データの種類と生成方法
  • データ収集の時間枠と分析のマイルストーン

公認機関は、機器の認証に特定の条件や規定を定める場合がある。
PMCFデータは、ベネフィット・リスクプロファイルの継続的評価に重要。
PMCF調査の設計に関する考慮事項:

  • 長期フォローアップの重要性
  • 可能な限り多くの患者を登録する必要性
  • 実世界での使用可能性データの収集

レジストリの活用が推奨される。
その他の市販後臨床データ(実世界データ)も評価の対象となる。

このように、9章はオーファン医療機器の市販後の臨床データ収集と評価の重要性を強調し、具体的なアプローチを提案しています。

10章 Notified body activities and responsibilities

10章では、オーファン医療機器に関する公認機関の活動と責任について説明されています。

認証前の公認機関の活動:

  • できるだけ早い段階でオーファン機器のステータスを確認する
  • 製造業者の臨床評価計画と臨床評価報告書を評価する際に、本ガイダンスの内容を考慮する

認証のための特定条件/規定:

  • 市販前の臨床的証拠が十分だが、PMCFを通じて補完・確認が必要な場合に適用可能
  • 例:特定のPMS/PMCF活動の実施要求、ユーザーへの適切な情報提供の要求など

公認機関による監視:

  • PMSデータ、特にPMCFの主な知見を考慮する
  • 機器のベネフィット・リスク比が市場投入を引き続き支持するかを確認する
  • 認証に関連する条件/規定の遵守を監視する
  • 必要に応じて、製造業者が更新した臨床評価をレビューする

条件/規定が満たされない場合の対応:

  • 認証の有効性への影響を考慮する
  • 最終的には認証の一時停止や取り消しにつながる可能性がある

このように、10章は公認機関がオーファン医療機器の評価と監視において果たすべき重要な役割を概説しています。

11章 Involvement of expert panels: advice on orphan device status and clinical evidence

11章では、オーファン医療機器に関する専門家パネルの関与について説明されています。

専門家パネルへの相談は任意であり、MDR第54条(1)の臨床評価協議手続き(CECP)とは独立している。

専門家パネルへの相談には3つのシナリオがある:
a) MDR第61条(2)に基づく早期科学的助言
b) 臨床評価が進んだ段階または完了後の公認機関による助言要請
c) 臨床評価が進んだ段階または完了後の製造業者による助言要請

早期科学的助言は、クラスIII機器とクラスIIb能動機器が対象。
公認機関による助言要請は、適合性評価手続きの一環として行われる。
製造業者による助言要請は、MDR移行期間中の特別措置として認められる。
専門家パネルの助言提供期間:

  • オーファン機器ステータスのみの場合、60日以内
  • オーファン機器ステータスと臨床データの両方の場合、90日以内(単純な助言の場合)

CECPとの関係:

  • 専門家パネルの助言とその考慮方法を臨床評価評価報告書に反映させる必要がある
  • 公認機関はCECP提出時に任意の助言手続きを受けたことを示す必要がある

このように、11章は専門家パネルの関与プロセスと、その助言がオーファン医療機器の評価に果たす役割を詳細に説明しています。

A.1. Clinical Evaluation Report

A.1では、オーファン医療機器の臨床評価報告書(CER)に含めるべき特定の情報について説明されています。

CERに含めるべきオーファン機器固有の情報:

  • オーファン機器の基準を満たす根拠
  • 臨床データの制限と残存リスクの概要
  • 臨床データの制限の許容性の正当化
  • 評価された非臨床データの概要
  • 市販前臨床データの概要
  • 詳細なPMCF計画
  • 専門家パネルとの対話の概要
  • CER更新計画

市販後のCER更新に含めるべき情報:

  • オーファン機器ステータスの最新情報
  • EU内外での総販売数
  • 最新の技術水準の概要
  • 臨床的証拠の更新
  • 最新のベネフィット・リスク比の決定
  • 進行中のPMCF活動の概要レポート

このセクションは、オーファン医療機器のCERに特有の要素を強調し、市販前と市販後の両方の段階で必要な情報を明確にしています。

A.2. Considerations for Clinical Investigations of Orphan Devices

A.2では、オーファン医療機器の臨床調査に関する考慮事項について説明されています。

研究対象集団の定義:

  • 包含・除外基準を慎重に設定し、最大数の対象患者を登録する必要がある
  • 脆弱な集団(小児など)の包含に関する考慮事項

目的とエンドポイントの選択:

  • 短期〜中期的な臨床的ベネフィット、安全性、ベネフィット・リスク比に焦点を当てる
  • 代替エンドポイントの使用可能性
  • 患者報告アウトカム(PRO)の役割

研究デザインの選択:

  • ランダム化比較試験(RCT)の課題
  • クロスオーバー試験、適応的デザイン、逐次的デザインなどの代替デザイン
  • 観察研究やヒストリカルコントロールを用いた研究の可能性

統計学的考慮事項:

  • 頻度論的アプローチの課題
  • ベイズ流アプローチの可能性と留意点

比較対照の選択:

  • 同時対照の使用が困難な場合の対応
  • シャム手技や無治療対照の考慮事項

研究モニタリング:

  • 独立したデータ安全性モニタリング委員会(DSMB)や臨床イベント委員会(CEC)の役割
  • リアルタイムでの有害事象モニタリングの方法

このセクションは、オーファン医療機器の臨床調査設計における特殊な考慮事項と課題に焦点を当てています。

A.3. Extrapolation of clinical data to orphan indications

A.3では、オーファン適応への臨床データの外挿について説明されています。

臨床データの外挿の適切性は、以下の要因に基づいて判断される:

  • データの関連性
  • データの質と科学的妥当性
  • 安全性、性能、臨床的ベネフィットを評価するのに十分な臨床的証拠を提供できる程度

外挿の程度:

  • 部分的外挿: 他の臨床・非臨床データと組み合わせて使用
  • 完全外挿: 主要または唯一の臨床データ源として使用

外挿の適切性を判断するための決定プロセス

a) 外挿のための臨床データの適合性評価
b) 外挿の程度の決定
c) 完全外挿の適合性評価
d) 部分的外挿の適合性評価

考慮すべき要因:

  • 機器の特性
  • 患者の特性
  • 疾患の特性
  • その他の関連する差異や要因

このセクションは、オーファン適応への臨床データの外挿を検討する際の構造化されたアプローチを提供しています。

日本語訳