第6章 ：保険収載戦略

6.1 保険収載の重要性と影響

医療機器ビジネスにおいて、保険収載は製品の市場性を左右する極めて重要な要素です。日本の医療制度では、保険収載されていない医療機器の使用は、一部の自由診療を除き、実質的に困難です。そのため、保険収載の可否は、製品の事業性を大きく左右することになります。

保険収載による市場への影響は多岐にわたります。まず、医療機関における採用判断に大きく影響します。保険収載により、医療機関は保険診療の一環として製品を使用することができ、患者の経済的負担も軽減されます。これは製品の普及において極めて重要な要素となります。

また、保険償還価格は製品の収益性を直接的に決定づけます。新規性の高い医療機器では、開発コストや製造コストを十分に考慮した保険償還価格の設定が重要です。私の経験では、保険収載の戦略を誤ると、たとえ優れた製品であっても、事業として成立しない事態に陥ることもあります。

6.2 収載プロセス

保険収載のプロセスは、製品の特性や新規性によって異なります。既存の診療報酬項目に分類できる製品の場合は、比較的スムーズに保険収載されますが、新規性の高い製品では、新たな保険償還価格の設定や、場合によっては新しい技術料の設定が必要となります。

区分の選択は慎重に行う必要があります。既存の機能区分への収載を目指す場合は、類似機能区分の選定と、既存製品との機能比較が重要です。一方、新機能区分の設定を目指す場合は、既存区分との違いを明確に示し、臨床的有用性を証明する必要があります。

申請から収載までのプロセスには、通常、相当の時間を要します。特に新規性の高い製品の場合、中医協での審議に時間がかかることも少なくありません。そのため、薬事承認の取得時期と保険改定のタイミングを考慮した、綿密な計画が必要です。

6.3 戦略的アプローチ

保険収載を成功させるためには、製品開発の早期段階から戦略的なアプローチが必要です。まず重要なのは、類似製品の徹底的な調査です。既存製品の保険償還価格や算定方法、臨床的位置づけなどを詳細に分析し、自社製品の位置づけを明確にする必要があります。

医療経済性の考慮も重要です。新規の医療機器では、従来の治療法と比較した費用対効果の証明が求められることが増えています。医療費全体の削減効果や、治療期間の短縮効果など、経済的なメリットを具体的に示すことが重要です。

開発初期段階から保険収載を見据えた戦略を立てることで、製品仕様や臨床試験デザインにも適切な判断を下すことができます。例えば、保険収載に必要なエビデンスを臨床試験で収集することや、製造コストを保険償還価格の範囲内に収めるための設計上の工夫なども重要な検討事項となります。

市場参入のタイミングも慎重に検討する必要があります。保険改定は原則として2年に1回行われるため、承認取得から保険収載までの期間を最小限に抑えるための計画が重要です。場合によっては、承認取得のタイミングを保険改定時期に合わせて調整することも検討に値します。

保険収載後も継続的な戦略の見直しが必要です。市場での使用実績や臨床データの蓄積、医療現場からのフィードバックなどを基に、次期改定に向けた戦略を立てていく必要があります。特に、新規収載された製品は、数回の改定を経て価格が大きく変動する可能性があることを念頭に置く必要があります。

製品の革新性や市場における価値を適切に評価してもらうためには、関連学会や医療機関との連携も重要です。医療現場での有用性や必要性を示すエビデンスの蓄積、医療経済性の実証など、保険収載の判断に影響を与える要素について、包括的なアプローチを取ることが求められます。

本稿に関するご質問は下記まで。