中国IVD製造バリデーション要件

中国で体外診断用医薬品(IVD)を製造する日本企業にとって、2026年11月施行の新GMP規制への対応が最重要課題となっている。NMPAは132条からなる大幅改訂版GMPを発表し、バリデーション専用章を新設するなど、国際基準との整合性を大幅に強化した。本報告書では、設備・工程・ソフトウェア・滅菌・洗浄の5つのバリデーション領域について、NMPA規制要件、実務的アプローチ、査察対応のポイントを包括的に解説する。

第1章:中国IVD規制の全体像と新GMP体制

中国のIVD規制体系は2021年以降急速に近代化が進み、ISO 13485:2016との整合性が大幅に強化された。新GMP(2025年発表、NMPA公告第107号)は2026年11月1日に施行され、従来の84条から132条へ拡充される。特筆すべきは「品質保証」「バリデーション」「委託製造」の3章が新設されたことである。

主要規制文書の構成

規制文書 概要 施行状況
医療機器生産品質管理規範(新GMP) 15章132条、リスクベースアプローチ統合 2026年11月施行
体外診断試剤附録(2015年第103号公告) IVD特有の要件(クリーンルーム等) 現行有効
GB/T 42061-2022 ISO 13485:2016の中国版 2023年11月施行
体外診断試剤注册与備案管理弁法 登録・届出手続き 2021年10月施行

IVD製品はリスク分類(クラスI/II/III)に基づき規制され、クラスIは届出制(備案)、クラスII/IIIは登録制(注册)となる。クラスIII製品は3連続生産ロットからのサンプルによる型式試験が必要であり、バリデーションの重要性が高い。

NMPAの海外査察は2024年から本格再開しており、日本企業も対象となっている。査察での指摘事項で最も多いのは設計開発管理の不備であり、設計変更管理文書の欠如、設計移転記録の不備、設計アウトプットとインプットの不整合が頻繁に指摘される。

第2章:設備バリデーション(Equipment/Facility Validation)

バリデーション計画作成の重要ポイント

設備バリデーションはIQ/OQ/PQの3段階アプローチが基本であり、これはNMPA新GMPおよびGB/T 42061-2022で明確に要求される。バリデーションマスタープラン(VMP)には以下を含めなければならない:

  • バリデーション対象プロセスの特定
  • アプローチと方法論
  • タイムラインとリソース配分
  • 責任と組織体制
  • 再バリデーション基準とトリガー
  • リスクアセスメント方法論

IQ(設置適格性確認)では、機器の識別情報、設置条件、環境条件、校正状態、安全機能、スペアパーツリストを検証する。特に製品接触部品の材料証明書電気接地の確認が重要である。

OQ(運転適格性確認)はIQ完了後に実施し、パラメータ範囲の上下限での試験、ワーストケース条件でのチャレンジ試験、緊急停止機能とインターロックの検証を行う。

PQ(性能適格性確認)では最低3回の連続生産が必要とされ、実際の生産材料と条件を使用する。統計的なプロセス能力評価も求められる。

IVD製造のクリーンルーム要件

IVD附録(2015年第103号公告)により、以下の作業はクラス100,000以上のクリーンルームで実施しなければならない:

  • ELISA試薬の調製・分注
  • 免疫蛍光・化学発光試薬
  • PCR試薬調製
  • 金コロイド(イムノクロマト)試薬
  • 乾式化学試薬
  • 酵素・抗原・抗体活性成分の調製
  • コーティング、分注、膜スポッティング、乾燥、切断、ラミネート、内包装

陽性血清・プラスミド・血液製剤を取り扱う場合は、クラス10,000以上かつ隣接区域に対して陰圧を維持しなければならない。PCR試薬の製造と試験は独立した建物または完全に分離された空間で行い、空気が直接接続されてはならない。

環境モニタリング要件

パラメータ 基準 頻度
温度 18-28°C 各シフト1回
相対湿度 45-65% 各シフト1回
圧力差 等級間≥5Pa、外部≥10Pa 月次
浮遊粒子数 等級基準に従う 四半期
浮遊菌 等級基準に従う 四半期
落下菌 等級基準に従う 週次

査察での指摘事項と対策

NMPA査察で頻出する設備関連の不備:

  1. 設備適格性確認文書の欠如または不完全:IQ/OQ/PQの各段階で承認署名入りの報告書を作成し、生データと統計分析を含める
  2. 校正記録のギャップ:すべての測定機器について校正証明書を維持し、有効期限を管理する
  3. クリーンルーム要員数の超過:バリデーション時に最大要員数を検証し、その制限内で運用する
  4. 環境モニタリングプログラムの不備:GB/T 16292/16293/16294に基づく適切な試験方法を確立する

第3章:工程バリデーション(Process Validation)

NMPAにおける工程バリデーションの定義

工程バリデーションは「プロセスが所定の要件を満たす結果または製品を一貫して生産することの客観的証拠を提供する」ことと定義される。中国規制下では以下のプロセスが特にバリデーション対象となる:

  • 特殊工程(特殊过程):結果を後続の検査で完全に検証できないプロセス
  • 重要工序(関键工序):製品品質と性能に決定的な影響を与えるプロセス

IVD製造において典型的なバリデーション対象:

  • 試薬の配合・混合(称量和配制)
  • コーティング・固定化工程(包被工艺)
  • 凍結乾燥(冻干)
  • 無菌充填・分注(分装)
  • 滅菌工程
  • 表示・包装

バリデーションロット数の要件

PQでは通常条件下での最低3回の連続バッチが要求される。「連続バッチ」の解釈について重要な点:

  • バッチ番号は連番であること
  • 人員・季節要因による変動を避けるため、定義された期間内に完了すること
  • バッチ間に他製品を挟むパターン(D-D-F-D等)は許容される場合がある
  • 4バッチ製造して3バッチのみ選択(チェリーピッキング)は不可
  • 初回バリデーションでは各バッチが合格してから次に進むこと

クラスIII製品の登録では、3連続生産ロットからのサンプルによる試験が必要である。

IVD特有の工程バリデーション考慮事項

ELISAキット製造の重要パラメータ:

  • プレートコーティング(温度、時間、濃度、pH)
  • ブロッキング効率
  • 酵素結合物調製(酵素-抗体比、活性保持、安定性)

金コロイド(イムノクロマト)製造:

  • コロイド金調製(粒子径制御が重要)
  • 標識・結合
  • テスト/コントロールラインのディスペンシング
  • 乾燥時の湿度管理

PCR試薬製造:

  • マスターミックス調製
  • プライマー/プローブ合成のバリデーション
  • 陽性コントロール(プラスミド)取扱い
  • 増幅エリアの施設分離要件

再バリデーショントリガー

以下の場合に再バリデーションが必要:

  • 生産拠点の移転
  • バリデーション範囲を超えるプロセスパラメータ変更
  • 重要パラメータに影響する設備変更
  • バッチサイズの増減
  • 重要原材料のサプライヤー変更
  • バッチ失敗またはOOS結果の繰り返し
  • 長期生産停止後

FDA・EUとの比較

項目 中国NMPA 米国FDA EU IVDR
バッチ数要件 一般に3連続バッチ 最小数は規定なし(データ駆動) ISO 13485に基づく
フレームワーク IQ/OQ/PQモデル 3段階ライフサイクル ISO 13485プロセス
統計的根拠 重視度増加中 強く強調 リスクベース
継続的検証 継続的モニタリングで暗示 ステージ3として明示 市販後監視連携

第4章:ソフトウェアバリデーション(Software Validation)

中国CSVの規制フレームワーク

中国のソフトウェアバリデーション要件は以下の主要文書で構成される:

  • 医療機器軟件注册審査指導原則(2022年修訂版):IVD含む全医療機器ソフトウェアの核心ガイダンス
  • YY/T 0664-2020:IEC 62304:2015の中国版(ソフトウェアライフサイクル)
  • GB/Z 42217-2022:ISO/IEC 80002-2相当(QMSソフトウェアバリデーション)
  • GB/T 25000.51-2016:ソフトウェア品質評価(SQuaRE)

新GMP(2025年)第75条では、生産・試験に使用され製品品質に影響するコンピュータソフトウェアのバリデーションが明示的に要求され、初回使用前のバリデーションと変更後の再バリデーションが義務付けられている。

ソフトウェア分類と要件

IVD製品ソフトウェアの種類:

種類 説明
独立軟件(SaMD) それ自体が医療機器であるソフトウェア IVDデータ解析ソフト、診断アルゴリズム
軟件組件(SiMD) 医療機器の組込み部品 分析装置制御ソフト、ファームウェア

ソフトウェア安全分類(YY/T 0664-2020):

  • クラスA:健康への傷害の可能性なし
  • クラスB:非重篤な傷害の可能性あり
  • クラスC:死亡または重篤な傷害の可能性あり

トレーサビリティ要件

以下の追跡関係を文書化しなければならない:

  1. ソフトウェア要件 ↔ 製品要件
  2. ソフトウェア要件 ↔ リスク分析
  3. ソフトウェア設計 ↔ ソフトウェア要件
  4. ソフトウェア設計 ↔ リスク管理措置
  5. ソースコード ↔ ソフトウェア設計(ユニットレベルまで)
  6. ソースコード ↔ テストケース
  7. システムテスト ↔ ソフトウェア要件
  8. ユーザーテスト ↔ 製品要件
  9. すべてのテスト ↔ リスク管理

データインテグリティ要件

2020年施行の「薬品記録与数据管理要求」により、ALCOA+原則が中国でも適用される:

  • Attributable(帰属性):データは操作者のIDにリンク
  • Legible(判読性):記録は明確で読み取り可能
  • Contemporaneous(同時性):活動時にデータを記録
  • Original(原本性):最初の記録または認証された真正なコピー
  • Accurate(正確性):エラーのないデータ

電子記録システムの要件(第21条):

  • 帰属性のための一意のユーザー識別
  • 役割に基づくアクセス制御
  • 操作者ID、操作時間、操作プロセス、変更理由を記録する監査証跡
  • タイムスタンプ付き記録
  • 定期的なパスワード変更と複雑性要件
  • 非アクティブ時の自動ログアウト

中国には21 CFR Part 11の直接的な同等規制はないが、これらの要件が複数の規制に分散して規定されている。

ソフトウェア変更管理

重大ソフトウェア更新(重大软件更新):

  • 機能、アーキテクチャ、UI、コアアルゴリズム、診断ワークフローの変更
  • 変更登録申請が必要

軽微ソフトウェア更新(轻微软件更新):

  • 安全性・有効性に影響しない変更
  • QMSで管理、登録不要
  • 次回登録変更時に文書提出

査察での指摘事項(全体の59%を占める)

ソフトウェア要件関連:

  • 実装されたすべての機能をカバーしない不完全な要件
  • インターフェース、性能、リスク分析要件の欠落
  • 不適切な要件追跡性

ソフトウェアテスト関連:

  • リスクカバレッジが不足した単純すぎるテストケース
  • テスト計画に従わないテスト実施
  • テストレポートとレビュー記録の欠落

人員関連:

  • 開発者が自らのブラックボックステストを実施
  • 開発とテストの役割分離が不明確

第5章:滅菌バリデーション(Sterilization Validation)

IVD製品における滅菌の適用範囲

重要な点として、ほとんどのIVD試薬(試剤盒)は滅菌されず、無菌的生産条件を必要とする。滅菌が適用されるのは主に以下のアクセサリーと採取器具である:

製品カテゴリー 滅菌要件 典型的な方法
採血管 滅菌(SAL 10⁻⁶) 放射線(ガンマ線)
採取針 滅菌(SAL 10⁻⁶) EOまたは放射線
検体スワブ 滅菌 EOまたは放射線
液体試薬 無菌濾過 0.22μm濾過
固形試薬 非滅菌(生菌数管理) 該当なし

中国滅菌規格体系

中国の滅菌規格はISO規格と整合しており、「同一採用(IDT)」方式で策定されている:

中国規格 ISO同等規格 内容
GB 18278.1-2015 ISO 17665-1:2006 湿熱滅菌
GB 18279-2023 ISO 11135:2014 エチレンオキサイド滅菌
GB 18280.1-2015 ISO 11137-1:2006 放射線滅菌
GB/T 19974-2018 ISO 14937:2009 滅菌因子一般要件
GB/T 19973.1-2023 ISO 11737-1:2018 微生物学的方法-バイオバーデン
YY/T 0567シリーズ ISO 13408シリーズ 無菌加工

滅菌方法別バリデーションアプローチ

エチレンオキサイド(EO)滅菌(GB 18279-2023):

適用製品:採血管、採取針、プラスチック消耗品

検証すべき重要パラメータ:

  • 前処理:温度、湿度、期間
  • EO曝露:ガス濃度、温度、湿度、圧力、時間
  • エアレーション:温度、時間、換気回数

バイオロジカルインジケーター:Bacillus atrophaeus (ATCC 9372) EO残留要件:GB/T 16886.7(ISO 10993-7)に従い、典型的には≤10 μg/g

放射線滅菌(GB 18280シリーズ):

線量設定方法(GB 18280.2):

方法 説明 バイオバーデン制限
VDmax 25 25 kGyでの実証 ≤1,000 CFU/デバイス
VDmax 15 15 kGyでの実証 ≤1.5 CFU/デバイス
方法1 バイオバーデンに基づく製品固有線量 変動

線量監査:3ヶ月以内、その後四半期ごと

濾過滅菌(YY/T 0567.2-2021):

適用製品:液体試薬、緩衝液、感受性溶液

バリデーション要件:

  • フィルター選択:22 μm膜(滅菌グレード標準)
  • 細菌チャレンジ試験:Brevundimonas diminuta (ATCC 19146)、有効フィルター面積あたり≥10⁷ CFU/cm²
  • 完全性試験:バブルポイント、拡散流、または圧力保持
  • フィルター適合性:製品との化学的適合性

重要注意事項:濾過滅菌は定義されたSALを達成できない。製品は「終末滅菌」ではなく「濾過処理」として表示される。

委託滅菌の考慮事項

2024年第38号公告による委託滅菌要件:

製造者の責任:

  1. サプライヤー適格性評価
  2. 品質協定:滅菌パラメータ、バリデーション責任、文書要件、変更管理、品質出荷基準を規定
  3. 継続的監督:定期監査、モニタリング、性能レビュー

重要ポイント:

  • 製品品質に対する責任は製造者が保持
  • 滅菌パラメータは製品製造者が指定
  • 製品固有のバリデーションが必要(汎用滅菌バリデーションでは不十分)
  • 年次監査を推奨

査察での重大指摘事項

Critical Deficiencies(関键項):

  • 滅菌バリデーション文書なし
  • SAL未達成/未証明
  • バイオバーデンがバリデーション限度超過
  • BI陽性結果の未調査
  • EO残留が限度超過

Major Deficiencies

  • IQ/OQ/PQ文書の不完全
  • 変更後のバリデーション未更新
  • バイオバーデンモニタリングプログラムの不備
  • 委託滅菌業者の未監査
  • モニタリング機器の校正失効

第6章:洗浄バリデーション(Cleaning Validation)

NMPAにおける洗浄バリデーション要件

IVD附録およびGMP規制により、以下の洗浄要件が適用される:

設備洗浄バリデーション要件:

  • すべての生産設備に対する洗浄手順の確立
  • 交差汚染防止の義務化(特にPCR試薬製造)
  • 使用後の厳格な洗浄・消毒プロトコル

クリーンルーム洗浄:

  • 表面(壁、床、天井、作業台)は平滑、継ぎ目なし、耐腐食性、洗浄・消毒が容易
  • SOPに文書化された洗浄方法

2025年1月発行のCFDI清洁验证技术指南により、中国でも健康ベース曝露限度(HBEL)アプローチが導入されつつある。

残留限度計算方法

健康ベース曝露限度(HBEL)/ADE/PDEアプローチ:

 

MACO = (ADE × MBS) / (TDD × SF)

 

ADE = 許容1日曝露量(mg/日)

MBS = 次製品の最小バッチサイズ(kg/L)

TDD = 次製品の最大1日投与量

SF = 安全係数

従来のデフォルト限度(10 ppm基準):

 

MACO = (10 ppm × MBS) / 1000

スワブ限度 = (MACO × スワブ面積) / 総設備表面積

IVD試薬(非投与製品)の場合: 治療用量が定義されていないため、残留限度は以下を考慮:

  • 標的残留物の製品性能への影響
  • アッセイ結果への干渉
  • 試験精度への交差汚染影響
  • 抽出物/浸出物に基づく生物学的安全性評価

サンプリング方法

スワブサンプリング(直接法):

  • アクセス可能な表面に最適
  • 典型的スワブ面積:25 cm²(5×5 cm)
  • 回収率バリデーション必要(通常>50-90%)
  • 適用:リアクター内部、ミキサー、充填ライン

リンスサンプリング(間接法):

  • 複雑な設備、内部チャネル、配管システム向け
  • 最終リンス水からサンプル採取
  • 表面残留レベルとの相関確立が必要

分析方法バリデーション要件

パラメータ 要件
特異性 干渉なしで標的残留物を検出
直線性 R² ≥ 0.99
正確性(回収率) 70-130%が許容範囲
精度 %RSD 通常<15%
検出限界(LOD) 許容限度の1/10未満を検出可能
定量限界(LOQ) 許容限度での定量が可能

受入基準の設定

北京市医療機器製品洗浄工程確認検査ガイド(2024年)による:

試験項目 受入基準
目視検査 油脂、フラックス、スラグ、酸化スケール、粉塵、金属粒子なし
ワイプテスト 清浄布で拭いた後、変色なし
生菌数 中国薬局方2020またはGB/T 19973.1-2023参照
洗浄剤残留 バリデーション限度未満、通常<10 ppmまたは検出限界

微生物限度ガイドライン:

  • スワブサンプリング:1-2 CFU/cm²(典型的限度);25-100 CFU/25cm²(標準)
  • リンスサンプリング:精製水≤100 CFU/mL;WFI ≤10 CFU/100mL

ワーストケース選択

ワーストケース製品の選択基準:

  1. 溶解性リスク – 最も溶解しにくい化合物
  2. 毒性 – 最も毒性/薬理活性の高い物質
  3. 設備付着性 – 設備表面に付着する製品
  4. 製剤複雑性 – 洗浄困難な油脂、染料を含む製品
  5. 生産頻度 – 大量生産品

ワーストケース設備の選択:

  • デッドエンド、シール、狭い通路のある設備
  • 圧力/流量が急変する領域
  • 内面の平滑度が低下した領域
  • 洗浄液接触が困難な領域

査察での指摘事項

文書関連の問題:

  1. 生産設備/器具の洗浄バリデーション未実施
  2. 洗浄剤の有効性と残留のバリデーション未実施
  3. バリデーションプロトコルまたはレポートの不完全
  4. ワーストケース製品の根拠欠如
  5. サンプリング場所の正当化なし

技術的問題: 6. スワブサンプリングの回収率未決定 7. 分析方法バリデーションの不完全 8. 許容限度の科学的根拠なし 9. 変更後の再バリデーションなし 10. 目視検査のみを受入基準とする

IVD特有の不備:

  • クリーンルーム適格性確認の不備
  • UV灯有効性のバリデーション未実施
  • ガラス器具洗浄バリデーションの欠如
  • PCR製造/試験エリアの不適切な分離

FDA/EMA/PIC/Sとの比較

要素 中国 FDA EMA/PIC/S
HBEL/PDE要求 導入中 正式要求なし 必須
10 ppm/1000用量 一般的に使用 許容 段階的廃止中
統計的工程管理 導入中 オプション 推奨
毒性学者要求 規定なし 規定なし HBEL算出に必要
ライフサイクルアプローチ 導入中 推奨 義務化

第7章:日本企業への実務的推奨事項

規制対応の優先事項

2026年11月新GMP施行に向けた準備:

  1. ギャップ分析の実施:現行システムと新GMP 132条の差異を特定
  2. バリデーションマスタープラン更新:新規要求(品質保証章、バリデーション章)への対応
  3. 設計管理強化:最頻出指摘事項への対策
  4. コンピュータシステムバリデーション整備:新GMP第75条への対応
  5. ライフサイクルリスクマネジメント導入:新GMPの核心原則

日中欧米規制の主要差異

項目 中国NMPA 日本PMDA FDA EU
QMS規格 GB/T 42061 ISO 13485(QMS省令) 21 CFR 820 → QMSR ISO 13485
バリデーションバッチ数 3バッチ 通常3バッチ データ駆動 リスクベース
登録証有効期間 5年 無期限 無期限 5年
文書言語 中国語必須 日本語 英語 各国語
海外査察 増加中 必要時 頻繁 NB経由

中国進出時のバリデーション戦略

Phase 1:事前準備(登録申請前)

  • 中国規制要件の詳細調査
  • 既存バリデーション文書の中国語翻訳準備
  • ギャップ分析と是正計画策定
  • 中国での試験機関・コンサルタント選定

Phase 2:登録準備(申請準備段階)

  • 3連続バッチ製造によるPQデータ取得
  • 型式試験用サンプルの製造
  • 中国語技術文書の作成
  • MAH(市場承認取得者)体制の構築

Phase 3:生産開始後

  • 継続的プロセス検証の実施
  • 定期的再バリデーション
  • 変更管理の厳格な運用
  • 年次自己検査報告書の提出(3月31日まで)

品質システム構築のベストプラクティス

文書管理:

  • 電子文書管理システムに監査証跡機能を実装
  • 厳格な変更管理手順の確立
  • 設計から生産までの完全なトレーサビリティ維持
  • 中国規制要件に基づく人員教育訓練

査察対応準備:

  • 整理されたアクセス可能な文書体系
  • 査察手順に関するスタッフ教育
  • 飛行検査(飛行检查)への即応体制
  • 30日以内の根本原因分析、90日以内の技術改善対応能力

結論

中国でIVD製造を行う日本企業は、2026年11月施行の新GMPに向けた準備を早急に開始すべきである。特に設計管理の強化ソフトウェアバリデーションの整備ライフサイクルリスクマネジメントの導入が重要となる。

中国規制は国際基準との整合性を急速に高めており、ISO 13485をベースとしたQMSを既に運用している日本企業は、中国固有要件(中国語文書、3バッチバリデーション、5年更新登録、年次自己検査報告等)への対応に注力することで、効率的な市場参入が可能である。

バリデーションにおいては、リスクベースアプローチを基本とし、科学的根拠に基づく限度設定、完全なトレーサビリティの確保、継続的なプロセス検証を実施することが、NMPA査察対応と製品品質確保の両面で不可欠である。

付録:主要規制文書リスト

中国NMPA規制

  1. 医療機器生産品質管理規範(2025年)(NMPA公告第107号)
  2. 体外診断試剤附録(2015年第103号公告)
  3. GB/T 42061-2022(ISO 13485:2016中国版)
  4. 体外診断試剤注册与備案管理弁法(2021年第48号)
  5. 医療機器軟件注册審査指導原則(2022年修訂版)
  6. 薬品記録与数据管理要求(試行)(2020年第42号)

技術規格

  1. GB 18278.1-2015(湿熱滅菌)
  2. GB 18279-2023(エチレンオキサイド滅菌)
  3. GB 18280.1-2015(放射線滅菌)
  4. YY/T 0664-2020(医療機器ソフトウェアライフサイクル)
  5. GB/Z 42217-2022(QMSソフトウェアバリデーション)
  6. GB/T 16292/16293/16294(医薬品潔浄室基準)

検査ガイドライン

  1. 体外診断試剤生産品質体系検査要点指南(2017年修訂版)
  2. 北京市医療機器製品洗浄工程確認検査ガイド(2024年版)
  3. CFDI清洁验证技术指南(2025年1月)

 

 

作成日: 2025年12月12日