
査察妨害行為に関するガイダンス ―2014年FDAガイダンスを踏まえて―
序章:査察妨害行為とは
医薬品や医療機器などを製造・取り扱う事業者は、米国食品医薬品局(FDA)による査察(インスペクション)を受ける義務がある。査察は製品の安全性や品質を保証するための重要な手続きである。しかし、時に事業者が意図的または非意図的に査察の遂行を妨げる行為を行うことがある。これらは「査察妨害行為」と呼ばれ、FDAは2014年にその具体例や法的影響についてガイダンスを発行した。本稿では、同ガイダンスに基づき、査察妨害行為の代表例とその法的影響について解説する。
第一章:査察妨害行為の類型
FDAガイダンスでは、以下の行為が査察の遅延、拒否、制限、拒絶として該当する可能性があるとされている。
1. 査察の遅延(Delay)
査察官が施設内に立ち入る前に長時間待たせる、査察に必要な資料や担当者の提示を意図的に遅らせる、あるいは重要記録の準備が整っていないことを理由に査察開始を先延ばしにする行為が該当する。このような遅延行為は、査察の本来の目的達成を妨げるものである。
2. 査察の拒否(Denial)
施設への入場を直接的に拒否する、あるいは査察官の立ち入り自体を明確に不許可とする行為がこれに当たる。たとえば、受付で「今は対応できない」と断ることも明示的な拒否と見なされる場合がある。
3. 査察の制限(Limitation)
査察時に確認可能なエリアの範囲を制限する、必要な記録へのアクセスを一部拒む、写真撮影やサンプル採取を認めないなどの行為が挙げられる。また、査察官が話を聞きたい従業員との面会を制限することも含まれる。
4. 査察の拒絶(Refusal)
遅延や制限などを繰り返し、実質的に査察を不可能にした場合や公式な通知に対し対応を断固拒否した場合などがこれにあたる。
第二章:ガイダンスが示す具体例
FDAガイダンスは、判断に迷いやすい事例についても具体的な指針を示している。
- データ改ざんや削除は明確な拒絶行為に相当
- 説明の名目で査察官の質問対応を過度にコントロールする場合も制限行為とされる可能性
- 合理的な理由なく特定時間のみ査察可能と主張するのも妨害行為
これらを未然に防ぐため、事業者側は査察対応マニュアルの整備や担当者の教育が求められる。
第三章:法的影響
査察妨害行為は、アメリカ合衆国連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C法)セクション 704(a)(1)により禁止されている。FDAが査察妨害を認定した場合、以下の措置が講じられる可能性がある。
- 製品の差止め・輸入拒否
- 警告書(Warning Letter)の発出
- 許認可の停止、取消
- 刑事罰や追加の行政処分
また、これらの情報はFDA公開データベースにも記載されるため、企業の信用失墜につながるリスクも考慮しなければならない。
終章:ガイダンス遵守の重要性
査察は規制順守を実証する貴重な機会であり、誠実かつ積極的な対応が企業の社会的責任である。2014年FDAガイダンスが示す通り、遅延・拒否・制限・拒絶などの査察妨害行為は厳重に取り扱われ、時には深刻な法的ペナルティにつながる。事業者は日頃から査察対応体制を整備し、適切なコンプライアンス意識を持つことが望ましい。今後も国際的な規制・監査要件の変化を注視し、石橋を叩いて渡るような慎重な対応を心掛けていきたい。

