バックアップがなぜ真正性の要件なのか

バックアップが真正性の維持に不可欠である理由 

電子帳簿保存法や各種コンプライアンス要件において、「真正性」という言葉を耳にする機会が増えている。真正性とは、簡単に言えば「記録が正しく、改ざんされていないことを証明できる」という性質である。多くの人は、真正性の要件として「タイムスタンプ」や「電子署名」を思い浮かべるだろう。しかし実は、「バックアップ」もまた真正性を維持するために不可欠な実装手段である。なぜバックアップが真正性と深く関係するのか。この一見不思議な関係性について、本稿では分かりやすく解説していく。

真正性とは何か:基本的な理解

真正性の3つの側面

真正性を考える上で、以下の3つの側面を理解することが重要である。

  • 作成時点の証明
    文書や記録が「いつ」作成されたかを証明できること。これにより、後から日付を遡って作成したのではないことを示せる。
  • 完全性の保証
    記録が作成後に改ざんや削除されていないことを証明できること。元のデータが損なわれずに保存されている状態を指す。
  • 継続的な保存
    一時的ではなく、必要な期間にわたって記録が維持されていること。特に法定保存期間を満たす必要がある場合、この要件は極めて重要である。

なぜ真正性が求められるのか

企業活動において、取引記録や監査証跡は、税務調査や法的紛争の際に重要な証拠となる。もし記録が改ざんされていたり、都合の悪い部分だけが削除されていたりすれば、その記録は証拠としての価値を失う。真正性の要件は、こうした事態を防ぎ、記録の信頼性を担保するために存在している。

「消失」という見落とされがちなリスク

改ざんだけが問題ではない

多くの人は真正性と聞くと「改ざん防止」を連想する。確かに、データを不正に書き換えることは真正性を損なう典型的な行為である。しかし、真正性を脅かすのは改ざんだけではない。
データの消失もまた、真正性を損なう重大な脅威である。
なぜなら、記録が存在しなければ、その作業や行為が正しく行われたことを証明できないからである。特に問題となるのは、以下のような状況である。

災害による消失

火災、地震、水害などによってサーバーやストレージが物理的に損壊し、データが失われるケース。2011年の東日本大震災では、多くの企業がデータセンターの被災によって重要な記録を失った。

システム障害による消失

ハードウェアの故障、ソフトウェアのバグ、ランサムウェア攻撃などによってデータが破損または暗号化され、アクセス不能になるケース。

人為的ミスによる消失

誤操作による削除、設定ミスによるデータ上書きなど、意図せずにデータが失われるケース。

監査証跡の不可逆性

ここで重要なポイントがある。一度消失した監査証跡は、二度と復元できないということである。
例えば、3年前の取引記録が災害で失われたとしよう。その取引に関する請求書や契約書は紙で残っているかもしれない。しかし、システム上の処理ログ、承認履歴、変更履歴といった電子的な監査証跡は、元のシステムから失われれば再現することはできない。
「後から作り直せばいいのでは」と考える人もいるかもしれない。しかし、それこそが真正性を損なう行為である。後から作成した記録は、作成時点のタイムスタンプを持たないため、「本当にその時点で存在していた記録なのか」という疑念を生む。税務調査や法的紛争の場面では、このような記録は証拠としての価値を認められない可能性が高い。

バックアップが真正性維持に不可欠な理由

継続的な保存を実現する実装手段

ここまでの議論から、真正性の第3の側面である「継続的な保存」を実現するために、バックアップが不可欠であることが見えてくる。
バックアップは、災害やシステム障害が発生した場合でも、記録を復元可能な状態で保持する仕組みである。つまり、バックアップがあることで、以下を保証できる。

  • 記録の連続性
    過去から現在まで、記録が途切れることなく存在していることを示せる。
  • 改ざん不能性の維持
    元の記録が失われると、改ざんされていないことの証明も失われる。バックアップがあれば、元の記録と照合することで改ざんの有無を検証できる。
  • 法定保存期間の遵守
    多くの法令では、記録を一定期間保存することが義務付けられている。バックアップなしでは、この義務を確実に履行できない。

真正性を維持するための実装要件

電子帳簿保存法をはじめとする各種規制や、FDA、MHRA、PIC/Sなどの国際的なデータインテグリティガイダンスにおいて、バックアップは以下のような形で要件化されている。

  • 可用性の確保
    システムが常に稼働し、必要な時に記録にアクセスできる状態を維持すること。バックアップは、主系統が停止した場合の代替手段として機能する。
  • 災害対策(BCP)
    事業継続計画の一環として、重要なデータを遠隔地にバックアップすることが求められる。これにより、局地的な災害でもデータが失われないようにする。
  • 監査対応
    監査人が過去の記録を確認する際、バックアップから復元したデータも含めて検証できる体制が求められる。

実務における適切なバックアップ戦略

バックアップの基本原則

真正性を担保するバックアップには、いくつかの重要な原則がある。

3-2-1ルール

データのコピーを3つ作成し、2つの異なる媒体に保存し、1つは遠隔地に配置する。この原則に従うことで、多重障害に対する耐性が高まる。

定期的な実行

バックアップは一度行えば終わりではない。新しい取引や記録が日々生成されるため、定期的にバックアップを実行する必要がある。一般的には、日次、週次、月次など、データの重要度や更新頻度に応じて設定する。

復元テストの実施

バックアップが正常に機能しているかを確認するため、定期的に復元テストを行うことが重要である。バックアップを取得していても、いざという時に復元できなければ意味がない。

バックアップとタイムスタンプの連携

バックアップ単体でも一定の効果はあるが、タイムスタンプと組み合わせることで、真正性の証明力が格段に高まる。
例えば、以下のような運用が考えられる。

  1. 取引記録を作成した時点でタイムスタンプを付与
  2. その記録を含むデータベース全体を定期的にバックアップ
  3. バックアップデータにもタイムスタンプを付与

この方式により、「いつ記録が作成され」「いつバックアップが取得されたか」が明確になり、改ざんや後付けでないことを客観的に証明できる。

クラウド時代のバックアップ戦略

近年、多くの企業がクラウドサービスを利用するようになっている。クラウド環境でのバックアップには、従来とは異なる考慮点がある。

クラウドプロバイダーの責任範囲

多くのクラウドサービスでは、インフラの可用性はプロバイダーが保証するが、データのバックアップは利用者の責任とされることが一般的である。ただし、これは契約内容によって異なるため、サービス利用前に責任範囲を十分に確認し、必要に応じて追加のバックアップサービスを利用する必要がある。

マルチリージョン構成

クラウドの利点を活かし、地理的に離れた複数のデータセンター(リージョン)にデータを分散配置することで、災害リスクを軽減できる。

規制強化への対応

世界的にデータガバナンスの規制が強化される傾向にある。バックアップについても、より厳格な要件が課される可能性がある。

バックアップの監査証跡

バックアップ自体の実行履歴や復元履歴も監査証跡として求められるようになる可能性がある。いつ、誰が、どのデータをバックアップ・復元したかを記録する体制が必要になる。

まとめ

バックアップが真正性の維持に不可欠である理由は、「記録の継続的な保存」という真正性の本質的な側面を実現するためである。災害やシステム障害によって監査証跡が消失すれば、それは二度と復元できない。改ざんを防ぐだけでなく、消失を防ぐこともまた、真正性を担保する上で不可欠な要素なのである。
バックアップは単なるデータ保護の手段ではなく、真正性を維持するための重要な実装要件として位置づけられる。適切な体制を構築することが、これからの時代を生き抜く企業にとって必須の取り組みとなる。技術の進化とともにバックアップの手法も高度化していくが、その根底にある「記録を守り、証明する」という目的を忘れてはならない。
重要なのは、バックアップを「もしもの時の保険」として捉えるだけでなく、日常的なコンプライアンス活動の一環として組織に定着させることである。真正性という観点からバックアップの価値を再認識し、より確実な記録管理体制を実現していくことが、信頼される企業としての基盤を築く鍵となるであろう。

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