
真正性・見読性・保存性とは
企業が文書を電子化する際、単にペーパーレスにすればよいというわけではない。特に法的な証拠能力が求められる文書や、長期保存が義務付けられている文書を電子化する場合「ER/ES指針」が求める3つの要件を満たす必要がある。この3つの要件とは、「真正性」「見読性」「保存性」である。2025年現在、DXの推進とともに電子帳簿保存法の改正など、電子文書管理の重要性はかつてないほど高まっている。本コラムでは、これらの要件が何を意味し、なぜ重要なのかを初心者にも分かりやすく解説する。
ER/ES指針とは何か
ER/ES指針とは、「電子化された医療情報を扱う際の指針」として厚生労働省が策定したガイドラインである。正式名称は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」であり、医療分野で生まれた概念だが、その考え方は広く一般企業の文書管理にも応用されている。ERは「Electronic Records(電子記録)」、ESは「Electronic Signatures(電子署名)」を意味する。
このガイドラインが重視する3要件は、紙文書が持っていた信頼性を電子文書でも担保するための基準となっている。紙の文書は物理的に存在し、改ざんすれば痕跡が残る。しかし、電子データは容易にコピーや改変が可能であるため、意図的に設計された仕組みがなければ、その信頼性は保証されない。

真正性:「本物である」ことを証明する
真正性とは何か
真正性とは、電子文書が「正当な権限を持つ者によって作成され、改ざんされていない」ことを保証する性質である。簡単に言えば、「この文書は本物である」と証明できる状態を指す。
紙の文書であれば、押印や署名、筆跡などによって作成者を特定し、改ざんの有無を判断できた。電子文書の場合、これらに相当する仕組みを技術的に実現する必要がある。
真正性を確保する具体的な方法
真正性を確保するための代表的な技術として、以下のものが挙げられる。
- 電子署名の活用
作成者の身元を証明し、文書が改ざんされていないことを保証する技術である。電子証明書を用いることで、誰が、いつ、その文書を作成・承認したのかを明確にできる。 - タイムスタンプの付与
文書が特定の時刻に存在していたことを証明する技術である。第三者機関が発行するタイムスタンプを付与することで、その時点以降に改ざんされていないことを証明できる。 - アクセス権限の管理
文書の作成、閲覧、編集、削除などの操作を、権限を持つ者だけに限定する。操作ログを記録することで、誰がいつ何をしたかを追跡可能にする。
真正性が欠如した場合のリスク
真正性が確保されていない電子文書は、法的紛争が生じた際に証拠として認められない可能性がある。例えば、契約書が改ざんされていないことを証明できなければ、取引先との紛争で不利な立場に立たされるかもしれない。また、税務調査において、電子帳簿の真正性が疑われれば、追徴課税のリスクも生じる。
見読性:「いつでも読める」状態を維持する
見読性とは何か
見読性とは、電子文書を「必要なときに、必要な形で、人間が読める状態で表示・出力できる」ことを保証する性質である。例えば、フロッピーディスクにデータを保存していたとしよう。現代ではもはやフロッピードライブは存在せず、データを読み出せない。
また、例えば、MS-Excel 97で作成したデータは、現在のMS-Excelのバージョンでは読みだすことが出来ない。
つまり、単にデータが存在するだけでなく、適切に閲覧できる状態を維持することが求められる。
見読性を確保する具体的な方法
- 標準的なファイル形式の採用
特定のソフトウェアでしか開けない独自形式ではなく、PDF/AやXMLなど、長期的に利用可能な標準形式で保存する。将来的にソフトウェアがサポート終了しても、データを読み取れる可能性が高まる。 - 検索機能の実装
大量の電子文書の中から、必要な情報を迅速に見つけられる検索機能を整備する。税務調査などで特定の取引記録を求められた際、速やかに提示できる体制が必要である。 - 画面表示と印刷出力の両方に対応
システム画面上で文書を確認できるだけでなく、必要に応じて紙に印刷して提出できる状態を維持する。監査や調査の際、相手方が紙での提出を求めることもあるためである。
見読性が欠如した場合のリスク
見読性が失われると、データは存在していても「読めない」状態になる。例えば、10年前に独自形式で保存した電子帳簿が、開発元の倒産により開けなくなるケースがある。法令で保存期間が定められている文書の場合、見読性が失われると法令違反となり、罰則の対象になる可能性もある。
保存性:「確実に残す」仕組みを作る
保存性とは何か
保存性とは、電子文書を「必要な期間、安全かつ確実に保管できる」ことを保証する性質である。データの消失や劣化を防ぎ、長期にわたって利用可能な状態を維持することが求められる。
保存性を確保する具体的な方法
- バックアップ体制の構築
定期的にデータをバックアップし、複数の場所に分散保管する。サーバーの障害やランサムウェア攻撃などでデータが失われても、復旧できる体制を整える。 - 媒体の定期的な移行
保存媒体(ハードディスク、SSD、光ディスクなど)には寿命がある。データを定期的に新しい媒体に移行することで、物理的な劣化によるデータ消失を防ぐ。 - 保存期間の管理
法令で定められた保存期間を正確に把握し、期間満了まで確実に保管する。同時に、保存期間が過ぎた文書を適切に廃棄するルールも整備する。
保存性が欠如した場合のリスク
保存性が確保されていないと、データの消失により法令違反となるだけでなく、企業の信用問題にも発展する。例えば、顧客との取引記録が失われれば、過去の契約内容を証明できず、訴訟リスクが高まる。また、災害やサイバー攻撃によるデータ消失は、事業継続そのものを脅かす可能性がある。
3要件の相互関係
真正性、見読性、保存性の3つは、それぞれ独立した要件ではなく、相互に関連している。真正性が確保されていても、見読性がなければ文書を確認できず、意味をなさない。保存性が欠如すれば、そもそもデータが存在しないため、真正性も見読性も問題にならない。
3つの要件をバランスよく満たすことで、初めて電子文書管理システムは信頼性の高いものとなる。どれか1つでも欠けていれば、法的リスクや業務リスクが生じる可能性がある。
実践的な導入アプローチ
- ステップ1:現状の文書管理体制を見直す
まず、自社でどのような文書を電子化しているか、法定保存期間がある文書は何かを整理する。現在の管理方法で3要件が満たされているかを評価し、課題を明確にする。 - ステップ2:優先順位をつけて対策を実施する
すべての文書を一度に完璧な状態にすることは困難である。法的リスクが高い文書や、業務上の重要度が高い文書から優先的に対策を講じる。例えば、契約書や請求書など、取引の証拠となる文書から着手する。 - ステップ3:継続的な改善体制を確立する
電子文書管理は一度構築すれば終わりではない。技術の進化や法令の改正に対応し、定期的に見直しを行う。また、従業員への教育を継続的に実施し、組織全体で適切な運用を維持することが重要である。
まとめ
真正性、見読性、保存性の3要件は、電子文書が紙文書と同等の信頼性を持つための基盤である。この3つを確保することで、電子化による効率化とコンプライアンスの両立が可能になる。
2025年現在、AIやクラウド技術の進化により、これらの要件を満たす技術的なハードルは低くなっている。しかし、技術だけでは不十分であり、組織全体で電子文書管理の重要性を理解し、適切な運用ルールを確立することが求められる。
電子化は手段であり、目的ではない。真正性・見読性・保存性という本質的な要件を満たすことで、電子文書は単なるデータではなく、企業の信頼を支える重要な資産となる。これからの時代、電子文書管理の質が、企業の競争力を左右する要素の1つになるであろう。
