
データインテグリティとは何か
1. はじめに―注目されるデータインテグリティ
近年、製薬業界をはじめとしたライフサイエンス分野では、「データインテグリティ(Data Integrity)」の重要性がかつてないほど高まっている。その背景には、米国食品医薬品局(FDA)などの規制当局による査察において、データインテグリティの確保が重点的な審査項目になっていることが挙げられる。本稿では、データインテグリティが担う役割や基本的な概念、そしてその確保がいかに申請資料の信頼性に直結するかを、専門的見地を維持しつつ、初心者にも分かりやすく解説する。
2. データインテグリティの基本概念
データインテグリティとは、文字通り「データの完全性」を意味する。すなわち、「生成されたデータが、正確かつ完全に保存・保持・利用されていること」をいう。国際的な規制の文書、たとえばFDAのガイダンスでは、データインテグリティは「確実に信頼でき、再現性があり、改ざん等がされていないこと」に主眼が置かれている。
これを具体化した原則の一つに「ALCOA原則」がある。これは、それぞれの頭文字が以下を示す。
- A(Attributable):誰が記録したか特定できる
- L(Legible):判読可能である
- C(Contemporaneous):同時的に記録されている
- O(Original):原本である
- A(Accurate):正確である
このALCOA原則を守ることが、現代のGxP(Good Practice)規制においてデータインテグリティ確保の大前提となっている。
3. FDA査察とデータインテグリティ
FDA査察においては、データインテグリティを欠く行為が厳しく指摘されている。例えば、データの遡及的な修正や削除、権限のない人物による記録の改変、監査証跡(Audit Trail)の欠如は、重大なコンプライアンス違反とみなされる。これらは最悪の場合、製品の市場回収や申請却下などの事態を招く。
査察官が特に注目しているのは、電子記録の管理である。紙媒体以上に、不正や誤操作の痕跡が目立ちにくいため、システム監査証跡の確認や、電子署名の運用実態、安全なアクセス制御の有無などが厳格に監視されている。
4. 申請資料の信頼性に及ぼす影響
データインテグリティが守られていなければ、そのデータをもとに作成された申請資料全体の信頼性が損なわれる。薬事申請におけるデータは、製品の品質・安全性・有効性の根拠である。したがって、データに改ざんや不備があれば、規制当局はその資料全体を疑問視し、場合によっては申請を不受理とすることもある。
申請資料の信頼性とは「裏付けとなるデータが真正かつ一貫している」ことであり、これは単なる書類上の体裁ではなく、根本的なビジネスリスクや患者安全と直結している。
5. 現場で求められる対策
では、データインテグリティを確保するためには、現場でどのような対策が必要であろうか。まず、業務手順書(SOP)の整備・徹底や、教育訓練による従業員の意識向上が欠かせない。また、電子記録システムの導入・維持については、アクセス制御や監査証跡の自動記録、定期的なレビュープロセスの設計等が重要である。
さらに、外部委託先を含むサプライチェーン全体でのデータインテグリティ管理も求められており、ベンダー評価や監査活動を通じて一貫した監視が不可欠である。
6. おわりに
データインテグリティの確保は、単なる規制対応のための手続きではない。医薬品の安全性と有効性を科学的に裏付け、社会の信頼を支える根幹の概念である。今後も規制当局の要求が高度化することを見越し、組織全体でデータ管理体制の強靭化を継続することが、持続的な事業運営のために不可欠である。
