
GMPにおけるシステム査察とプロセス査察の違い
システム査察とプロセス査察の基本的違い
システム査察
システム査察は、1990年代後半から2000年代初頭にかけてFDAが導入した革新的な査察手法である。品質システム全体を体系的に評価する包括的なアプローチであり、「GMP遵守状況の評価の焦点を特定の製品から工場全体にシフト」させた画期的な手法である。
主な特徴
- 工場全体の品質保証システムを統合的に評価
- 品質システムが適切に設計・実装・維持されているかを確認
- 定期的かつ継続的な査察の低減や承認前査察の効率化を目的
- 当該企業が経営者のガバナンス(統治)のもと「品質システム(Quality System)」を確立しているかを調査
プロセス査察
プロセス査察は、特定の製造工程や作業手順に焦点を当て、その工程が手順書通りに実行されているかを検証する従来型のアプローチである。
主な特徴:
- 個別の製造工程について「エラー(リスク)を発見する査察手法」が中心
- 特定の作業手順の遵守状況を確認
- 工程単位での問題発見に重点
GMPサブシステムを通じたシステム査察の考え方
システム査察では、FDAの「COMPLIANCE PROGRAM GUIDANCE MANUAL PROGRAM 7356.002」に記載された以下の6つのサブシステムを相互に関連するものとして評価する。この6システム構成は「グローバルに通用する考え方」として国際的に広く採用されている。
1. 品質システム(Quality System)
役割:他の5つのサブシステムを統括する中核的システム
主要評価項目:
- 品質方針および品質マニュアル
- 変更管理システム
- 逸脱管理システム
- CAPA(是正措置・予防措置)システム
- 品質保証の基盤となる仕組み全般
FDA定義:“This system assures overall compliance with cGMPs and internal procedures and specifications”
2. 施設・設備システム(Facilities and Equipment System)
役割: 製品品質に影響する物理的インフラの包括的管理
主要評価項目:
- 製造環境の管理
- 設備の適格性評価(設置および運転)
- 機器の校正と予防保全
- 清浄度管理
- 清浄化と清浄化のバリデーション(該当する場合)
- ライフサイクル全体での管理体制
3. 原材料システム(Materials System)
役割:原材料の調達から使用までの一連の管理
主要評価項目:
- サプライヤー管理
- 受入試験システム
- 在庫管理
- トレーサビリティ
- 原材料の保管管理
4. 製造システム(Production System)
役割:製造活動全体を支える仕組みの評価
主要評価項目:
- 製造指図書の作成・承認プロセス
- 工程管理システム
- 記録の完全性
- 作業者の教育訓練
- 製造システム全体の有効性
注意点:個別工程の確認ではなく、製造システム全体の統合性を評価
5. 包装・表示システム(Packaging and Labeling System)
役割:最終製品の品質と患者安全に直結する領域の管理
主要評価項目:
- 包装材料管理
- 包装作業の管理システム
- 表示の正確性確保
- 包装・表示プロセスの品質保証
6. 試験室管理システム(Laboratory Controls System)
役割:品質管理業務を支える基盤システム
主要評価項目:
- 分析法の妥当性
- 機器管理システム
- データインテグリティ
- 試験室の独立性
- 品質管理業務の信頼性確保
システム査察の実施方法
査察オプション
簡易オプション
- 適用条件:企業の遵守状態が良い場合
- 調査範囲:品質システムと他の最低1システム(計2システム以上)
- 目的:効率的な査察の実施
フルオプション
- 適用条件:遵守状態が好ましくない場合や企業情報が不十分な場合
- 調査範囲:品質システムと他の最低3システム(計4システム以上)
- 目的:包括的なシステム評価
Fatal Flawシナリオ(致命的な欠陥シナリオ)
重要な特徴:どれか一つのシステムにおいて重大な欠陥が観察された場合でも、工場の全行為が不適切であるとみなされる厳格なシナリオ。
影響:
- その場で査察が中止される可能性
- 従来の査察と異なる厳格性
- システム全体への影響を重視
日本における導入と実施状況
導入経緯
- 導入年: 平成17年(2005年)
- 根拠:厚生労働科学研究「GMP査察方針・手法の研究」
- 制度名:「規制管轄当局のGMP査察に関わる研究:システム査察制度の実施基準」
現在の実施状況
- 現在の行政のGMP適合性調査は、このシステム査察制度および実施基準に基づいて実施
- PMDAでの実施基準:
– 一調査において、品質サブシステムを含む2つ以上のサブシステムを調査対象
– 製造所全体を調査する場合は、少なくとも4つのサブシステムを調査
システム査察の特徴と効果
システム間連携の評価
システム査察では、6つのサブシステムが相互にどのように連携し、全体として一貫した品質保証システムを形成しているかを評価する。
評価例:
- 原材料システムでの変更が製造システムや試験室管理システムにどのように伝達されるか
- 各システム間の情報共有と連携の適切性
- 統合された品質保証システムとしての機能性
従来査察との違い
システム査察の利点:
- 従来のプロセス査察では見落とされがちなシステム間の連携不備を特定
- 品質システム全体の弱点を包括的に把握
- より効率的で効果的な査察の実現
- 継続的改善への指針提供
国際的な普及状況
グローバルスタンダードとしての地位
- 「グローバルに通用する考え方」として確立
- 米国系企業を中心に広く受け入れられている
- 海外企業によるGMP監査でも、6つのサブシステムに基づく監査計画書が多用
- ICH Q10の医薬品品質システム(PQS)概念との密接な関連
現代GMP査察における位置づけ
現代のGMP査察では、このシステムアプローチが主流となっており、以下の理由で重要視されている。
- 包括性:品質システム全体を統合的に評価
- 効率性:重複査察の削減と効果的な問題発見
- 予防性:システムレベルでの問題予防
- 国際整合性:グローバルスタンダードとの整合
- 継続改善:システム全体の継続的改善促進
まとめ
システム査察は、従来のプロセス査察を発展させた革新的なアプローチであり、現代のGMP査察における標準的手法となっている。6つのサブシステムを通じた包括的評価により、品質システム全体の有効性を確保し、患者への安全で高品質な医薬品の提供を支える重要な仕組みとして機能している。
