なぜQuality Cultureか
品質文化(Quality Culture)は、医薬品を製造する製造所において非常に重要な考え方である。
医薬品の重要性
医薬品製造所において製造している医薬品は、人々の命と健康に直結する製品である。一つの製品が一人の患者の人生を大きく左右する可能性があることを、まず心に留めておく必要がある。
品質文化の定義
品質文化とは、単に製品を規格通りに作ることを目指すだけでなく、会社全体が「品質を最優先に考える」風土を作ることである。これは、手順やルールを守るだけでなく、社員全員が品質に対する責任を自覚し、常に最善を追求する姿勢を持って行動することを意味する。
いわゆるBlind Complianceでは困る訳だ。
小さな異常を見逃さない
例えば、製造ラインで機械の設定に少しズレがあることに気づいたとする。そのズレは、すぐに問題を引き起こすわけではないかもしれない。しかし、そのまま放っておくと、別の問題と組み合わさったときに重大な欠陥が生まれる可能性がある。このような小さな異常やリスクを見逃さず、早めに対応することが品質文化の重要な部分である。この対応は、短期的には生産効率を下げることがあっても、長期的には製品の信頼性を高め、患者の安全を守ることにつながる。
品質文化が根付いた企業の姿勢
品質文化が根付いた企業では、社員一人ひとりが「なぜこの手順が重要なのか」を理解し、単なる作業の繰り返しとしてではなく、その意味を深く考えながら仕事に取り組む。
例えば、清掃作業一つとっても、ただ指示された通りに行うのではなく、その清掃が製品の安全性にどう影響を与えるかを理解し、常に最善の結果を求めて行動する。このような姿勢が、最終的には製品の安全性と患者からの信頼につながるのである。
コミュニケーションの重要性
品質文化はまた、現場でのコミュニケーションにも深く関係している。問題を発見したときに、それを隠したり、自己判断で無視したりするのではなく、チームメンバーや上司に報告することが奨励される環境が求められる。問題を共有し、チームで解決することにより、社員が孤立せず、品質に対する責任感を持ちながらも互いに支え合うことができる。このように、品質文化が根付いた環境では、ミスを恐れるのではなく、ミスから学び、改善することが推奨される。
医薬品品質管理の重要性
医薬品の品質管理の重要性を考えると、1960年代に起こったサリドマイド事件が思い起こされる。この睡眠薬によって多くの新生児が先天性の障害を持って生まれたという悲劇は、医薬品の品質管理の重要性を世界に知らしめた出来事である。このような過去の教訓を忘れずに、品質文化を育てていくことが求められる。
医薬品の品質と患者の安全
さらに、例えば糖尿病患者がインスリン注射を毎日使っている場合、その製品の品質が患者の生命に直接影響を与える。製品の効果が安定していなければ、血糖値のコントロールが難しくなり、重大な健康被害につながる可能性がある。このように、医薬品の品質は妥協できないものである。
日々の行動で築く品質文化
品質文化は日々の小さな行動から築かれていく。製造記録を記入する際も、ただ数値を書き写すのではなく、その値が適切な範囲内にあるかを確認する意識を持つことが重要である。これは、ただのデータ入力ではなく、製品の品質を確かめる重要な機会となる。また、清掃作業でも、決められた場所を決められた通りに掃除するだけでなく、普段と異なる汚れを見つけた際にはその原因を考え、報告することで潜在的な問題を早期に発見することができる。
品質文化の本質
品質文化は、規則や手順の遵守から始まるが、その先にある「なぜそれが必要か」を理解し、自ら考え行動することで真の品質文化が築かれていく。
品質文化の確立は、一朝一夕には達成されないものである。しかし、社員全員が一つ一つの行動に対して意識を高く持ち、品質を第一に考えることで、確かな品質文化を築いていくことができる。
今日から始める一歩一歩の積み重ねが、組織全体の文化を形作り、最終的には患者の安全と信頼につながる。