
品質リスクマネジメントに関するガイドライン改正の理由
令和5年8月31日、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長および監視指導・麻薬対策課長の連名通知として、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」の改正が発出された(薬生薬審発0831第1号・薬生監麻発0831第2号)。本改正は、医薬品の品質リスクマネジメントに関する理解を深め、その実践を促進することを目的としている。
ICH Q9(R1)改正の背景と必要性
初版のガイドライン発出から約15年が経過する中で、以下の状況が認識された。
- 初版のガイドラインは、ICH Q10(医薬品品質システム)の議論に先立って作成されたため、その後に策定されたICH Q10、Q12(医薬品のライフサイクルマネジメント)、Q14(分析法開発)などの考え方が十分に反映されていなかった。
- 初版で期待されていた品質リスクマネジメントの利点が、実務において十分に実現されていないことが明らかとなった。
これらの課題に対応するため、規制当局と製薬業界の間で品質リスクマネジメントの考え方に関する共通認識を構築する必要性が高まり、本改正が実施された。
新規追加された主要セクション
第5章「リスクマネジメントの方法論」において、以下の3つの重要な概念が新たに導入された。
- 品質リスクマネジメントの形式性(Formality):リスクの程度に応じた適切なアプローチの選択と文書化の水準に関する指針
- リスクベースの意思決定:科学的知見と品質リスクマネジメントの原則に基づいた意思決定プロセスの確立
- 主観性(Subjectivity)の管理と最小化:リスク評価における主観的判断の影響を制御し、客観性を高めるための方策
第6章「企業及び規制当局の業務への品質リスクマネジメントの統合」には、製品の安定供給に関する新しい節が追加された。これは、品質や製造上の問題が製品供給に与えるリスクを管理するための品質リスクマネジメントの役割を明確化するものである。
付属書の拡充
付属書IIには「サプライチェーン管理の一環としての品質リスクマネジメント」が新たに追加された。これは、グローバル化が進む医薬品サプライチェーンにおけるリスク管理の重要性を反映したものである。
用語の修正と記載整備
「リスク特定」という用語が「ハザード特定」に変更された。これは、潜在的な危害要因をより正確に特定し、評価するためのアプローチを明確化するものである。
その他、全体を通じて記載の整備が行われ、より明確で実践的なガイドラインとなるよう改善が図られた。
期待される効果
本改正により、以下の効果が期待される。
- 品質リスクマネジメントの実践における一貫性と効果性の向上
- リスクベースアプローチの適切な実装の促進
- サプライチェーンを含む包括的な品質管理体制の強化
- 製品の安定供給の確保
- 規制当局と業界間のコミュニケーションの円滑化
本ガイドラインの改正は、医薬品の品質確保と安定供給の両立を目指す重要な施策として位置づけられる。