コンピュータシステムの品質保証は製薬企業が行うべきか

コンピュータシステムの品質保証は製薬企業が行うべきか

医薬品製造におけるコンピュータシステムの導入は、現代の製造環境において不可欠な要素となっている。しかし、その品質保証の責任所在については、特に医薬品規制に不慣れな関係者にとって理解が難しい場合がある。
この課題を理解する上で重要となるのが、医薬品規制における「バリデーション」の概念である。

バリデーションとは、システムがユーザの要求を満たしていることを体系的に確認し、文書化するプロセスである。(妥当性の確認)
このプロセスは、製薬企業が業務上必要とする要件(ユーザ要求仕様:URS)を明確に定義することから始まる。
ベンダーは、このURSに基づいてシステムを設計・構築する。つまり、システムがユーザ要求を満たすような仕様を作成し、実現することは、一義的にはベンダーの責任となる。すなわちバリデーション(システムをユーザ要件に適合させる)の実施責任はベンダーにあるといえる。

しかしながら、製薬企業がシステムの品質保証をベンダーに全面的に委ねることは適切ではない。
その理由は、医薬品製造が厳格な規制下にあり、最終的に規制当局への説明責任を負うのは製薬企業自身だからである。
GMPや関連規制への適合性を示す責任は、製薬企業から委譲することはできない。
そのため、製薬企業はベンダーの作業内容を適切に監視・評価し、システムが規制要件を満たしていることを主体的に確認する必要がある。

具体的には、製薬企業には以下のような責任が求められる。

  1. 自社の業務要件とGMP要件を適切に反映したユーザ要求仕様を作成すること。
  2. ベンダーが作成した設計仕様がユーザ要求仕様を満たしていることを確認すること。
  3. システム開発の各段階で適切なレビューと承認を行い、最終的なシステムが意図した用途に適していることを検証すること

である。

このプロセスにおいて、製薬企業とベンダーの密接な協力関係が不可欠となる。製薬企業は医薬品製造とGMP要件に関する専門知識を持ち、ベンダーはコンピュータシステムの技術的側面に関する専門知識を持つ。両者がそれぞれの専門性を活かしながら、共通の目標に向かって協働することで、高品質なシステムの実現が可能となる。

バリデーションプロセスでは、特に以下の点に注意を払う必要がある。

  1. システムの重要度に応じた適切なバリデーションアプローチの選択
  2. 開発ライフサイクルの各段階における適切な文書化
  3. 変更管理の徹底
  4. 定期的なレビューと再バリデーションの実施

である。これらは全て、製薬企業が主導的に管理すべき要素となる。

このように、医薬品製造におけるコンピュータシステムの品質保証は、製薬企業が主体性を持って取り組むべき課題である。
製薬企業が自らの責任を認識し、適切なバリデーションプロセスを確立することが、規制要件への適合と業務効率化の両立につながる。
それは単なる規制対応ではなく、製品品質の確保と患者の安全性確保という本質的な目的を達成するための重要な取り組みなのである。

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