アメリカ薬局方が創設された理由

アメリカ薬局方が創設された理由

19世紀初頭のアメリカは、産業革命の真っ只中にあり、都市部への人口集中が進んでいた。この急激な社会変化の中で、医療を取り巻く環境も大きく変わっていた。当時は、医薬品の製造や販売に関する法規制がほとんどなく、誰でも自由に医薬品を製造・販売することができた時代だった。
特に深刻だったのは、移動販売人による怪しげな薬の販売だった。彼らは「万能薬」や「秘薬」と称して、効果が証明されていない、時には有害な成分を含む薬を売り歩いていた。また、各地域の薬局では、それぞれが独自の方法で薬を調合しており、同じ薬でも場所によって効果や安全性が大きく異なることがあった。
この時期、ヨーロッパではすでにいくつかの国で薬局方が整備されており、特にイギリスやフランスの薬局方は高い評価を受けていた。これに影響を受けたニューヨークの医師であるライマン・スポールディングをはじめ11人のアメリカ人医師たちが、アメリカ薬局方を創設することを決意した。1820年1月にワシントンD.C.のアメリカ合衆国議事堂で会合を開き、アメリカ独自の薬局方が作成された。

アメリカ薬局方の主な目的

アメリカ薬局方(United States Pharmacopeia, USP)の主たる目的は医薬品の標準化にあった。具体的には、薬の成分や含有量を統一し、製造方法を標準化することで、安定した品質の医薬品を供給することを目指した。また、品質試験の方法を定めることで、製造された医薬品の安全性を確実に確保できる体制を整えた。
安全性の確保も重要な目的の一つであった。有害物質の混入を防ぎ、適切な投与量を設定することで、患者の安全を守ることができるようになった。南北戦争での悲劇的な経験は、こうした規制の重要性を改めて浮き彫りにし、その後の薬局方の改訂や遵守体制の強化につながっていった。
アメリカ薬局方の主な目的は以下の通りであった。

  1. 医薬品の品質基準を設定し、公衆衛生を保護すること。
  2. 最新の科学に基づいて、医薬品への信頼を構築すること。
  3. 医師、助産師、その他の医療専門家が一貫して医薬品を調製できるようにすること。
  4. 薬の成分や含有量を統一し、製造方法を標準化することで、安定した品質の医薬品を供給すること。

アメリカ薬局方の発展と重要性の認識

アメリカ薬局方の重要性は、時代とともにさらに認識されるようになった。
1848年の薬品輸入法で初めて公式に認められ、低品質な輸入医薬品の流入を防ぐ役割を果たした。
南北戦争(1861-1865)には、驚くべきことに、戦場での戦闘による死者数よりも、不良医薬品の使用により命を落とした兵士の数の方が多かったのである。戦傷病者の治療に使用された粗悪な医薬品や、効果のない偽薬により、本来であれば救えたはずの命が失われていった。この痛ましい事実は、医薬品の品質管理と規格統一の重要性を社会に強く印象づけることとなった。
1906年の純正食品医薬品法、1938年の食品・医薬品・化粧品法によって、その重要性がさらに強化された。

現代におけるアメリカ薬局方の役割

アメリカ薬局方は、現代においても医療の質を支える重要な基盤として機能している。医薬品の製造における必須の規範として、新薬開発時の品質基準としても広く参照されている。さらに、国際的な医薬品取引における基準としても活用され、グローバルな医療の発展に貢献している。
医療安全の観点からも、アメリカ薬局方の存在意義は大きい。医薬品の安全性を科学的に担保し、医療現場での適切な薬剤使用を支援することで、患者の健康と生命を守る重要な指針となっている。医師は安心して処方を行うことができ、薬剤師は適切な調剤を実施することができる。現在、アメリカ薬局方は以下のような重要な役割を果たしている。

1. 処方薬、非処方薬、調剤薬、添加剤、生物製剤、医療機器、栄養補助食品の品質基準を提供している。
2. アメリカ国内で販売される医薬品は、連邦法により、該当するUSP-NF公的基準を満たす必要がある。
3. 多くの国がUSP-NFを自国の薬局方の代わりに、または補足として使用している。
4. 新薬開発時の品質基準としても広く参照され、国際的な医薬品取引における基準としても活用されている。

このように、アメリカ薬局方は19世紀初頭の医薬品品質問題に対応するために作成され、南北戦争などの歴史的経験を経て、その重要性がさらに認識されるようになった。現在も医薬品の品質と安全性を確保する重要な役割を果たし続けており、安全で効果的な医療を実現するための礎として機能している。

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