CSVの本質と役割
バリデーションの必要性について尋ねると、多くの人々は「それは当然のことである」と答える。患者の生命と健康を預かっているのだから、品質保証は重要であり、それは当然のことだと述べるのである。しかしながら、人の生命や健康に影響を及ぼす産業は、製薬企業や医療機器企業だけではないのである。
原子力産業や航空産業、そしてエレベーター産業などがその例である。これらの業界における製品の品質が僅かでも狂えば、莫大な健康被害を引き起こす可能性があるのである。ここで考えるべき点は、例えば航空機の品質保証を航空会社が行っているかという問題である。
具体例を挙げれば、ジャンボジェット機のコックピットに搭載されているソフトウェアのテストをJALやANAが実施しているかという点である。答えは否である。ジャンボジェット機の品質保証はボーイング社が担うのである。これは当然のことである。
自社製品の品質保証は自社で行うべきものである。ユーザー企業側である航空会社、JALやANAの役割は、機体の整備、パイロットと客室乗務員の訓練、安全運航に関するマニュアルの作成である。これらは品質が保証された機体を安全に運行する義務の一環なのである。
すなわち、サプライヤーがコンピュータシステムの品質保証の大部分を担う責任を持つという認識が重要である。この点に早期に気付く必要があるのである。サプライヤーの活用を推進し、例えばソフトウェアのテストなどは、製薬企業側で繰り返す必要はないのである。作業の二重化は避けるべきである。
これはコンプライアンスコストの無駄遣いであり、結果として患者負担の増加につながるのである。サプライヤーが作成したドキュメントを製薬企業側で再作成する必要もない。製薬企業側のテンプレートに合わせ直す作業などは無意味である。
サプライヤーは自社の適切な品質マネジメントシステム(QMS)を保持しているべきであり、彼らの活動は自社のQMSに従って実施されるべきである。つまり、サプライヤーのQMSを尊重する必要があるのである。
またサプライヤに対して、ユーザー企業のSOPやGAMP 5の方法論を強制してはならない。なぜなら、サプライヤーにとってそれらは未知のものであり、そのような方法で実施すれば、むしろ品質保証が劣化する可能性があるためである。ただし、そのQMSが不十分なものであってはならず、QMSを持たない企業は論外である。
このため、サプライヤーの選定が重要な鍵となるのである。サプライヤーアセスメントを実施し、サプライヤー監査を行う必要がある。また、Subject Matter Expert(SME)がサプライヤーをコントロールする必要がある。
これは、ベンダー企業が必ずしも製薬企業や医療機器企業の製品やプロセス、GAMPのような方法論の知識を持っていないためである。そのため、サプライヤー企業の理解が不足している部分を、仕様書のレビュ等を通じて修正する必要があるのである。
GAMP 5では、SMEがサプライヤーをコントロールすることが求められている。一方で、サプライヤーはCSVが実施できなければならない。これは極めて重要な点である。バリデーションの目的は、ユーザーの要求にシステムの機能性能を合わせることである。
この責任は誰にあるのか。それはサプライヤーである。多くの人々は、CSVやバリデーションは製薬企業や医療機器企業、すなわちユーザー企業が実施するものだと考えているかもしれないが、それは誤りである。
ジャンボジェット機の品質保証がボーイング社によって行われるように、医薬品企業で使用されるコンピュータ化システムのバリデーション、すなわちユーザーの要求に適合させる作業は、ベンダーが実施するべきなのである。これが極めて重要な考え方である。