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なぜIEC 81001-5-1が必要か
なぜIEC 81001-5-1が必要か
医療機器ソフトウェアのサイバーセキュリティ対策において、IEC 81001-5-1は極めて重要な位置づけにある。従来、医療機器ソフトウェアの開発においては、IEC 62304(医療機器ソフトウェアライフサイクルプロセス)が基準となってきた。しかしながら、近年のサイバーセキュリティリスクの高まりを考慮すると、62304のプロセスだけでは包括的なサイバーセキュリティ対策を実現することは困難である。そのため、62304のプロセスにサイバーセキュリティに特化したアクティビティを追加し、体系的に組み込むことが不可欠となっている。
サイバーセキュリティ対策を効果的に実施するためには、セキュリティ関連の専門用語と、既存の医療機器開発における専門用語を適切に対応付ける必要がある。これは、サイバーセキュリティの専門家にとって、62304で使用される用語や医療機器特有の専門用語、さらにはリスクマネジメントで使用される用語が必ずしも日常的なものではないためである。そのため、彼らが親しんでいるセキュリティ関連の用語への置き換えを行うことで、部門間の円滑なコミュニケーションと効果的な対策の実施が可能となる。
IEC 81001-5-1は、このような用語の対応付けと統合的なセキュリティ管理の実現において中心的な役割を果たす。製造業者には、ヘルスソフトウェアに関連するセキュリティリスクを、製品リスクマネジメントの包括的なアプローチの一部として確立し、継続的に維持することが求められる。81001-5-1は、このプロセスを具体的に実施するための詳細な指針を提供する。
具体的な用語の対応関係を見ると、ISO 14971(医療機器へのリスクマネジメントの適用)における
- 「ハザード」は、81001-5-1では「セキュリティホール」あるいは「脆弱性」という用語に置き換えられる。
- 同様に、14971における「危険状態」は「脅威」として、
- 「被害」は「サイバーセキュリティインシデント」
として再定義される。このような用語の対応付けにより、セキュリティの専門家は医療機器におけるリスクをより直感的に理解し、適切な対策を立案することが可能となる。
実際のリスク分析の流れとしては、まず「脆弱性」の特定から始まる。この脆弱性に対して、悪意のある攻撃者が着目し、サイバーセキュリティインシデントを計画することで「脅威」が発生する。具体的な脅威としては、不正アクセス、分散型サービス妨害(DDoS)攻撃、マルウェアによる感染、ランサムウェアによる攻撃などが想定される。これらの脅威は、体系的な脅威モデリングを通じて文書化され、分析される必要がある。これらの脅威が現実のものとなった場合、診断や治療の遅延、不適切な治療の実施、さらには最悪の場合、患者の生命に関わる事態を引き起こす可能性がある。現時点では重大な被害事例は報告されていないものの、今後起こりうるリスクとして真摯に受け止める必要がある。
IEC 81001-5-1の重要性は、医療機器開発におけるサイバーセキュリティ専門家と医療機器開発者の間の共通言語を提供する点にある。この規格により、両者の効果的な協働が可能となり、結果として患者の安全性向上に寄与することができる。さらに、この規格は医療機器のライフサイクル全体を通じたセキュリティリスクの継続的な評価と管理を可能にする。このように、IEC 81001-5-1は現代の医療機器開発において不可欠な規格として位置づけられている。